【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

558 / 571
第546話 この世で最も華麗な魔法使い1-13

 今まで長い事、悪い夢を見ていた気がした。

 そしてその夢から立ち直り前を向くために、沢山の人に支えられている気もした。

 が、どうやらそれらも含めて、全てが夢であったらしい。

 ネームレスはそれを思い出そうとしたが、何だかよくわからなかった。

 

「それじゃあ、早速今度の戦領祭について話し合いますか」

 

 生徒会室にはいつものメンバーが集まっている。

 幼馴染三人組とケイとミユメとクラムにヒカリの七人。

 これがフェクトム総合学園を構成する生徒だった。

 

「……あれ?」

 

 ネームレスは首を傾げる。

 戦領祭は既に自分達の優勝で華々しく幕を閉じた筈だ。

 

「うーん?」

 

 それに、ホワイトボードの傍でタブレットを片手に会議の書記をしていた子は誰だったか。

 そしてそのタブレットを覗き込もうとしていた彼女の妹は誰だっただろう。

 翡翠と深紅がこの部屋には足りない気がした。

 

「どうかしたのですか、トアちゃん」

「あ、えっと」

「まさか、もうお腹が空いたの? ただでさえお金かつかつなんだから、食べ過ぎはやめてよねー」

「ご、ごめんクラム」

 

 ネームレスは咄嗟に頭を下げる。

 するとクラムはキョトンとしており、その場の全員が少し驚いた様子でこちらを見ていた。

 

「どうしたの皆」

「いや、名前の呼び捨てとか初めてだったから」

「あれ……そうだっけ」

「そうだよ。まあ、私としては別にいいけどね。先輩とか呼ばれるよりも親しみを感じるし」

「そうですよ、クラムはクラムです! じゃあ私はヒカリですか?」

「いや、ヒカリちゃんはヒカリちゃんかなぁ」

「えっ、それは私だけ舐められている……?」

 

 クラムは少しショックを受けた様子で固まる。

 そして一体の人吞み蛙を召喚すると、ぬいぐるみのように抱きしめた。

 人吞み蛙は何も言わず、そのまま抱きしめられている。いつもであれば「トウゼン」とか「ドンマイ」とか言葉を発する筈だ。

 

「……?」

「トアちゃん、本当に大丈夫?」

「あ、うん。大丈夫だよ。まだ、寝ぼけているのかも」

 

 隣に座るケイの顔は心配そうだ。

 トアは安心させるためにその手を握りしめた。同時に、自分の中にも安堵が訪れる。

 この感触がある限り、自分がおかしくなることはないだろう。

 

「だらしないな。よし、トアは夜に私とダンジョンに潜るぞ。丁度、ミユメの発明した兵器を試す予定だったんだ」

「魔力を効率的に爆発させる液体を作ったっす。これを頭から被って、ダンジョン主に突撃して欲しいっす。名付けて、ミユメダイナマイト」

 

 何故だか知らないが、その特攻はひどく恐ろしいものに感じてしまった。

 ネームレスは首を横に振って必死に拒否する。

 

「えっ、私は予定があるから遠慮しておくよ!」

「予定? トアにそんなものはないだろう」

「それは、その……えっと」

 

 ミズヒの真っ直ぐに失礼な言葉をトアは否定できない。

 代わりに口から漏れ出た「あう」という意味の無い言語と共に視線を彷徨わせるが、ミロクは敢えて笑顔で突き放し、ヒカリに関しては自らも志願する勢いだ。クラムは白羽の矢が立たないように空気になっている。

 

 やがてネームレスはいつもの様にケイを見た。

 

「ケイ……助けて」

「ミズヒ先輩、実は俺達でダンジョンを探索しようと思っていたんです。ここは俺に任せて貰えませんか?」

「む、そうだったのか。ケイが居れば安心だな。では私は私で存分に暴れるとしよう」

「クラムと私も参加していいですか!」

「おい、私は別にいいって――」

 

 いつも通りの喧騒が生徒会室を満たしていく。

 騒がしいその光景を見ながらケイの手を握ると、少しだけ握り返してきた。

 それが今は、とても幸せなのだ。

 

 

 

■

 

 

 

 会議は楽しく騒がしく終わりを迎えた。

 時刻は12時、待ちに待ったお昼休みである。

 ネームレスにとってそれは、至福とも呼べる時だった。

 

「トアちゃん、一緒に食べよ」

「うんっ!」

 

 もやしが詰まったタッパーを片手にトアは頷く。

 前よりは立て直したフェクトムだが、まだお昼を豪勢に出来る程の余裕はない。

 だが、もやしはもやしで好きだった。

 

「じゃあ、あそこでご飯を――」

 

 生徒会室の一角を指さした時、突然景色が切り替わる。

 

「え?」

 

 いつの間にか自分の手には首輪が握られており、場所もケイの私室に変わっていた。

 カーテンは閉め切っており、薄暗い灯だけが部屋を照らしている。

 

「え、え? なにこれ!?」

 

 慌てていたネームレスへと、声が掛かる。

 

「にゃ、にゃん……」

 

 見ればベッドの上で猫耳にキャミソールドレスのケイが、いやソルシエラがそこで座っていた。

 涙目で顔を真っ赤にしており、その右手が猫のように握られている。

 

「あ、そうだったね」

 

ネームレスは唐突に思い出す。

 

「今日はにゃんにゃんご奉仕の日だったね」

 

うっかりしていた、とネームレスは首輪を握り直しソルシエラへと近づいていく――。

 

 

■

 

 

 

「ちょっと、やめてくれないかしらそういうの!?」

「え、何がですか? 今せっかく破廉恥にしているのに」

 

 壁を見ていたケイが突然叫び、指揮者は困り眉で肩をすくめる。

 

「これ破廉恥とかそういうレベルじゃないわよ!」

「は、はわ……ケイちゃんとあの子がそ、そんなの駄目だよぉ……」

「そもそもトアちゃんに変なものを見せないでくれる?」

「文句が多いですね」

「指揮者、こいつらはまだ学生なんだ。加減しろ」

「うーん、そうですか」

 

 指揮者は黙り込み、調和の力を再使用する。

 

(この破廉恥はこの子の記憶の中にあったものを再利用しただけだから、絶対にこのプレイが過去にあったんですけど、それを言うのは野暮ですかね)

 

 指揮者は粛々と夢を整え、再び破廉恥介入を行い始めた。

 

「じゃあ次は貴女の思う破廉恥を使わせてください」

「えっ」

「そうだよ、ケイちゃんなら安心だよ!」

「え、え? わ、私!?」

「おやおや、まさかビビっているのですか? 安心してください。私達の首領もかつて自分と博愛のソルシエラの恋愛小説をアトラスティアで出版された経験があります」

「何が安心できるのかしらそれ」

「……半分は嘘だ」

「残り半分の本当って……?」

 

 博士は何も答えなかった。

 その表情はルシエラの尊厳を守ろうとしているようにも、その出来事を忘れようとしているようにも見える。

 

「さ、夢の調和を始めますよ。張り切って破廉恥にいきましょう」

「……っ、やるわ」

 

 

 

■

 

 

 

 ご奉仕にゃんにゃんの景色が一変する。

 一度瞬きをすれば、仰向けで涙目になっていたソルシエラの姿はどこにもなく、真夏の校舎の廊下にネームレスは立っていた。

 

「エッチな白昼夢……?」

「トアちゃん」

「あ、ケイ」

 

 廊下の向こうでケイが手を振っていた。

 彼女はネームレスを見ると、駆け出し両手を広げて大胆に抱きしめた。

 

「わあっすごい積極的だねー」

「トアちゃん、そ、その……すっ、好き……!」

 

 ケイは唐突にそう言うと、顔を赤らめてプルプルと震えながら目を瞑る。

 そして顔を近づけてきた。

 

「私もだよ」

 

 ネームレスは慣れた様子で自らも顔を寄せると、唇に柔らかい感触が当たった。

 

「ど、どう?」

「うん、いつも通りの柔らかい唇だった」

 

 ネームレスは顔色一つ変えずにそう告げる。

 すると、景色と音がまるで映像のように停止した。

 

「な、なにこれ!? ねえなんなのー!? やっぱりおかしいでしょー!?」

 

 

 

■

 

 

 

「貴女の破廉恥が雑魚過ぎるんですけれど? 子供の恋愛しないでくれます?」

「……そ、その、いざ正面を切って破廉恥を意識すると照れちゃって。揶揄う時とはまた違うと言うか……意識しちゃったというか……」

「ケイちゃんもそんな顔するんだ……!」

「あ、あんまり見ないでトアちゃん」

「……おぉ」

 

 トアの中で何かがパッと芽吹いた瞬間だった。

 

「で、キスと好意を伝えるだけで破廉恥と考えている貴女はこれ以上の事が出来るんですか? この子の夢、相当な破廉恥レベルですけれど。これ、フェーズ的には4か5ですよ」

「破廉恥フェーズって何よ」

 

 指揮者の目は、既にケイを玩具として捉えているようだった。

 

(この子達、ピュアで面白すぎますね。こんな玩具、遊ばなきゃ損ですよ)

 

 今度は手加減を間違えたふりをして、えげつない破廉恥をぶつけてやろうと指揮者は優雅に考える。

 そして風に揺れる白いカーテンのような優しい笑顔で言った。

 

「じゃあ、もう一度チャレンジしてみますか」

「そ、そうね」

「ケイちゃん、ファイト……!」

 

 拳をぎゅっと握って応援するトアと、最初の余裕さなど消え去ったケイ。

 その玩具を前につい舌なめずりをしたその時だった。

 

「――ネームレスは目覚めると信じているよ」

「あっ」

 

 背後から聞こえた声に、指揮者はぴたりと動きを止める。

 笑みを張り付けたまま、指揮者はゆっくりと振り返った。

 

「……ああ、おはようございます我らが首領」

「おはよう。最高の目覚めをありがとう指揮者」

 

 そこには青筋を立てたルシエラ。

 そして背後には涙目で顔を真っ赤にした求道者と、次々と起き出したメンバーが居た。

 

「カーニバル閉幕、ですか……」

「君は嘘を付けないと信じているよ」

「そんなご無体なぁ!」

 

 それは指揮者の笑顔が初めて崩れた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『おい! これのどこが破廉恥だ! こんなの優良誤認表示じゃないか! 貸せ、破廉恥とは何か教えてやる!』

『君のは駄目だって……』

『星詠みの杖、貴女はいつもそうですね。何故プレイヤーの想像にゆだねないのですか。運営が答えを提示しすぎるのが無粋だと理解できないとは愚かな』

『こいつソシャゲの時だけ強気なのなんなんだよ。それにこれはソシャゲじゃないねぇ』

『太ももと太ももでスリスリするのはどうだろう、システム先輩』

『んー、良いでしょう。音にもこだわってください』

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。