【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
「やれやれ、いつから銀の黄昏は暴力が支配するようになったのでしょうか」
「うるさいですよ指揮者!」
部屋の中心で宙吊りになった指揮者を囲む形で、求道者とルシエラとケイが睨みつけている。
彼女達は特にひどい目に遭ったようだ。
「私は貴女達を助けてあげたのに、どうして縛られているのでしょう。ほら、あそこのグループなんて、何と美しい光景か」
顎で指揮者は部屋の端を示す。
そこにはミロクとミズヒを抱きしめたまま固まったネームレスの姿があった。
「どうしたんだネームレス」
「ネムトアちゃんも怖い夢を見たんですか? 私も思い出すだけでも恐ろしい夢を見ました」
「……もう少しだけ、このままがいい」
ミロクとミズヒは顔を見合わせ、優しい顔で頷く。
そして二人で一緒にネームレスを抱きしめ返した。
「ほら、あんなに絆が深まったのは私のおかげでしょう? それなのにどうして私が悪いことをした風に言われるのですか? 」
「っ、貴女は本当にお説教ですよっ!」
指をびしっと突き付けた求道者だが、その姿は指揮者の心をほんわかさせただけであった。
「ふふ、顔が真っ赤で可愛いですね」
「~っ! 二人も一緒にお説教してください!」
縛られ一時的に嘘も封印されている指揮者に煽られただけで負けた求道者は、プルプルと震えながら二人を見る。
二人は穏やかな笑顔で頷くと、それぞれが大鎌と蒼銀の剣を取り出す。
「講師に引き渡す前に私達でお仕置きするのも悪くないね」
「そうね、殺してしまいましょう」
「わー、二人が怖いです。誰か助けてー(棒)」
指揮者はゆらゆらと揺れながら適当に助けを求める。
その声に真っ先に反応する者がいた。
「姫っ! 今助けるよ!」
「その声は……!」
どこからともなく現れたラッカが指揮者を守る様に立ちはだかる。
その手に不可視の槍を構え、そして指揮者へとゆっくり振り返った。
「お待たせしました、麗しの我が姫」
「ラッカ様……!」
二人は暫し見つめ合う。
それから同時に噴き出した。
「ぷっ、あっはははははは! 縛られてるー! 指揮者めっちゃ縛られてるー! あっはははははは!」
「ちょっと、もー。笑わないで下さいよぉ。ふふっ、ふふふふ(慈愛の爆笑)」
縛られているというのに笑っている指揮者と、助けに来た割には何故か馬鹿にしているだけのラッカ。
それを見て、ルシエラとケイは同時に収束砲撃を放った。
「アッ! 指揮者っ、調和でこの砲撃を無力化して!」
「ふふふ、無・理」
「そっかぁ! じゃあまたね!」
哀れ、指揮者はすぐに見捨てられた。
ラッカは砲撃に挟み撃ちになる直前に脱出し、背後で起きた激しい爆発に振り返り叫んだ。
「姫ー!」
「いや貴女普通に見殺しにしましたよね?」
「クッソぉ、許さないぞ二人共! そもそもどうしてこんなに指揮者をいじめるんだ!」
「あの女はこうして然るべきよ」
「私も同意見だね」
「そんなに怒る事? だって、夢から助け出すために少しだけ悪夢に変えたってだけでしょ? 子供じゃないんだから、そんな事で怒らないでよ。それとも、余程いい夢を悪夢に変えられたの?」
「「……」」
今まで笑顔で重圧を放っていたケイとルシエラがその言葉を機に唐突にしどろもどろになる。
普段の彼女達からはあり得ない焦り方であった。
「そ、それは君には関係ないよ先生。うん、そろそろ指揮者も反省しただろうし私達からはこれくらいで終わりにしようかな」
「そうね、ええ。それがいいわ。この話は終わりにしましょう。ほら、私達は次の天使を倒さないといけないでしょう?」
「――いいえ、まだですよ」
黒煙の中から美しい声が聞こえた。
次の瞬間に黒煙は端から紫色の煌めく粒子となって、ただ一人を美しく飾り立てた。
「それはどういう事かな、指揮者」
「質問しながら剣先を向けないでください。乙女の柔肌が傷ついてしまいます」
「収束砲撃を二発同時に受けた筈なのに……」
ケイはその耐久性に驚き目を剥く。
収束砲撃の中でも最強と呼べる二つのそれを受けてもなお、彼女は傷一つなかったのだ。
しかしそれに指揮者本人は特に思う所が無いようで、当然のように歩き始める。
「私がしたことは、天使の夢から貴女達を助け出しただけですよ。つまり、天使本体は残っています」
「……そう言えばそうね。天使はどこにいるの?」
「そろそろ来ます」
指揮者は手を叩く。
その瞬間、部屋の壁が一つ一瞬にして肌色に覆われた。
肌色は時折砂嵐のようなノイズの映像を発生させるだけで、今までの様に何も映し出さない。
「あら、もう甘々妹も大解説も見れないんですね」
「「っ!?」」
唐突に爆弾を投下されケイとルシエラは体を強張らせる。
他の面々は頭にはてなを浮かべているようで気が付いていないが、トアと博士だけは疲れたようにため息をついていた。
「うーん、じゃあもういいです」
指揮者はタクトのような物を取り出すと、優雅に壁にそれを向ける。
間もなく調和の銘により天使そのものが指揮者に都合の良い何かに作り替えられようとしていた。
とその時、壁に何かの映像が映し出される。
「……?」
それは薄暗い牢獄のような場所で鎖に繋がれた幼い少女で――。
「あらあら」
映像が映し出されたその瞬間、壁は一瞬にして大量の花弁に変わった。
色とりどりの花弁が勢いよく舞い、辺りの何もかもを覆いつくしてしまう。
映像の事など塗りつぶすように、彼女は全員の視界を美しい花弁で染め上げていった。
「うわっ、なんですかこれ!?」
「天使を私好みに調和しました。これは勝利のお祝いです。綺麗でしょう? 意識の世界で私に勝とうだなんて、愚かな天使でしたね」
指揮者が指を鳴らすと、花弁は一斉に美しい蝶へと変わり統率のとれた動きで部屋から羽ばたき、外へと消えていく。
その後を追った指揮者は、空の向こうに消えていく蝶の群れを見て呟いた。
「元天使の外来種が野に放たれましたね」
「何をしているんですか貴女!? えっ、あれ原種じゃないんですか!?」
「せっかく天使を使ったので、新しい蝶が作りたかったんです。名前はそうですねぇ『ユメミ蝶モドキ』ですかね」
「蝶ですらない!? ちょっと、そんなの野生に帰したら駄目ですって! 戻ってきてくださーい!」
求道者は必死に呼びかけるが、ユメミ蝶モドキは既に塀を超え自分達の新天地を目指して消え去った。
指揮者は遠い目をして群れを見送っている。そして見えなくなった頃、彼女は力強く頷いた。それはこれからこの世界で生きるユメミ蝶モドキに対する信頼と敬意の表れでもあるのだろう。
■
「学者、アレは生き残ると思うか?」
「うーん、生き残りそうだねー。少し困るねー……」
博士と学者はそれを見ながら我関せずと、雑談の種にする。
こうして第二の天使は華麗に美しく討伐された。
故に第三の厄災は当然の如く、この世界に顕現する。
それは、蝶の後を追って見送った者達が最初に目撃した。
「おい、あれはなんだ?」
「わからないよー!」
「……学者は解析を頼んだ。僕は多重提唱空間に潜る」
博士と学者の視線の先には、全てが停止した空。
そして、その裂け目から落ちてきた数百メートルはあろうかという脚。
それは辺りに派手な土煙を立て、見事に着地を果たした。
「指揮者、また貴女何かやりましたね!?」
「これまで私が原因だった騒動がありますか? ないでしょう?」
厄災は絶え間なく襲い掛かる。
第三の天使、それは蝶と入れ替わるようにこの世界に降り立った。
『では、まずはこのでっかい白太ももがチャームポイントの第三の天使、ムチムーンがお相手しよう』
『遂に太もも単体で召喚した……』
『――だーかーら! そうやってエロありきで物事を進めようとするから貴女のコンテンツはいつもワンパターンなんですよ! ソシャゲ=エッチなゲームだという先入観が良くない!』
『お前だってすぐに売れるかどうか、大衆受けするかどうかで物事を見定めようとする。コンテンツは本来自由であるべきだろう? いつまで数字という愚かなものに縛られているんだ^^ 君こそ、パターンに囚われているのでは?』
『ちょっと、そこの二人。そろそろ議論を止めて戻ってきなって。なんか空からでっかい太もも降って来たから』