【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
大地が揺れ、空が唸り、太ももが揺れる。
それはつまり、超巨大で馬鹿げた光景であった。
「……博士、学者、アレは何かな? ちなみに私はアレが次の天使ではないと信じているよ」
「あれが次の天使だよー。たぶん、第三の天使だよ……」
「僕もそう思う。一万人の僕もそうだと言っている」
銀の黄昏の頭脳担当二人に太鼓判を押されたことで、ルシエラは天を仰ぐ。
仰いだ先に、巨大な脚があった。
「まだ悪夢の中なのかな?」
「大きな脚だなー。よーし、曰く桜庭ラッカの一撃は国を滅ぼす」
「あっ、ちょっと待ってください先生! まだ相手の性質が――」
求道者が止める間もなく、ラッカは遠くに見える巨大な脚に透明の槍を投擲した。空気を裂き、衝撃波をまき散らしながら進む槍は無抵抗の脚に深々と突き刺さる。
それはかつて一槍で国を滅ぼしたラッカの逸話を再現する破壊の槍。
故に突き刺さった瞬間にその逸話は天使へと適応され――。
むちぷるんっ。
「……あれ、何も起きないですね?」
「あっれー!? おっかしーなー。ネオ求道者、あれに収束砲撃を撃ってくれない?」
「誰がネオ求道者よ」
「もういい加減諦めなって」
馴れ馴れしく肩に置かれた手を払いのけて、ケイは収束砲撃の魔法陣を展開する。
今までの様に即席ではない。
辺りの魔力を集め、丁寧に再構築して放つ強力無比な一撃だ。
「様子見だとは言っていたけれど、倒してしまっても良いのでしょう?」
「フラグっぽいけど、いけぇ!」
ラッカの勢いに押され、ケイは収束砲撃を放つ。
それは普段の慎重かつ冷静な彼女からは考えられない行動だった。
これまでのイレギュラーな事態で思考能力が低下し、そこに単純に気持ち悪い天使が現れたことで、彼女に短絡的な思考を与えている。
しかし、その場にいる誰もがその砲撃による勝利を確信していた。
銀の光が空を貫き、天使へと迫る。
やがてそれは天使の肌色の肌を焼き焦がし――。
むちぷるんっ。
「……ネオ求道者、弱くなった?」
「貴女の槍だって効かなかったでしょう?」
依然として、天使は健在。
その脚は見事に一本だけその場に直立していた。
「なんだあの天使……」
「天使でいいの? 鏡界から来た気持ち悪いシンプルバケモンだったりしない?」
ラッカの言葉に残念そうに博士と学者が首を横に振る。
とその時である。
大地が大きく揺れた。
「今度はなんだー!?」
「……ハッ――きゃっ、バランス崩しちゃった。ケイ♥ 上手く立てないよぉ♥」
「離しなさいネームレス。揺れはもう収まっているわ」
ここぞとばかりにくっついてきたネームレスを大鎌でグイグイと離す。
そしてケイは揺れの中心へと視線を向けた。
「どうやら、反対側に何かが落ちてきたみたいね」
「また脚だったらどうする?」
「やめてよ気持ち悪い」
「でもケイの脚だったら大歓迎だよ」
「キモ……」
「その視線も良いよぉ!」
何を言っても栄養を与えてしまうと悟ったケイは、鎖でグルグル巻きにしてミズヒへと投げ渡す。
ミズヒは何も言わずにネームレスを受け取り、担ぎ上げた。
「博士、反対側を見れるかな?」
「ドローン映像を今出す。……よし、映った」
脚型の天使が出現した位置からアトラスティアを挟んで丁度真反対の映像が映し出される。
そこには、土煙を上げて大地に立つ脚があった。
「増えたぁ!?」
■
外を見渡す為に一度、壁の上に移動した一同が目にしたものはやはりもう一本の脚であった。
その光景にケイは軽蔑したように吐き捨てる。
「最悪……」
「ちょっと、脚増えちゃったじゃないですかぁ!」
「っクッソ、もう一回だオラァ! 曰く、桜庭ラッカは――」
ラッカが槍を放とうとしたその時、脚がぷるぷると震えだし、何か肌から射出した。
それは透明な槍であり、空気を切り裂き唸りを上げながら真っ直ぐにこちらへと向かってくる。
「えぇっ!?」
「その攻撃は届かないと信じているよ」
ルシエラの銘が発動され、槍が一時的に停止する。
その隙をついて、指揮者はタクトを槍に向けた。
「はいはい、お花に変えましょう」
ぽんっと、槍が色とりどりの花に変わりひらひらと落ちていく。
花の向こうには、脚が相変わらず存在していた。
「あいつ何!?」
「……おや?」
指揮者が何かに気が付いた様子でタクトを向ける。
そして、穏やかな顔で調和の銘を行使した。
「えいやっ」
ぽんっと音が鳴り、遥か向こうにそびえる脚にニーソックスと靴が履かされる。さらに先程よりも少しだけ筋肉質になったような気がした。
「指揮者、二度と勝手な真似をしないと信じているよ(半ギレ)」
「すみません、確証が無かったので試してみました。ですが、これではっきりしましたね」
「何かわかったんですか?」
「はい。私は調和の銘でアレを正しくしました。結果、ただの脚は――先生の右脚に変わったのです!」
その言葉にその場の全員が沈黙する。
そしてラッカの脚を見て、それから向こうの脚を見た。
「……た、確かに先生の今の脚と見た目がそっくりだ」
「え、嘘……やだすっごい恥ずかしいかも!? 曰く、桜庭ラッカは一槍で海を蒸発させたことがある!」
ほんのり顔を赤らめながらラッカは自身の脚にそっくりなそれへ向けて槍を放つ。
とその時だった。
目標の脚の前の空間にひびが入り、もう一つの脚が現れる。
それは透明な槍を前にただ立ち尽くしていたにも関わらず、その一撃を無効化した。
ケイは真っ先にその力の正体を看破する。
「干渉の力……!?」
それはケイが良く知るものだった。
瞬間、彼女の頭脳が一つの答えを導き出す。
同時に指揮者は動き出していた。
「じゃああの脚も正しい姿にしましょうねぇ」
「っ!? まっ、待って! それは駄目――」
ケイの制止も虚しく、タクトが振るわれる。
その瞬間、それは黒タイツにブーツの脚に変化した。
「~~っ!」
ケイはそれを見て顔を真っ赤にしてその場にうずくまる。
彼女の脚を凝視することを日課にしているネームレスと、隙あらばケイを見るミロクはすぐに気が付いた。
「「ケイ(ちゃん)の脚だ!」」
「(一仕事終えた者の清清しい笑顔)」
奇妙な光景が、更に奇妙になる。
その場に現れた三本の脚。
そのうち二本が何故かラッカとケイのものなのだ。
「……成程、そうか」
「あら、もうわかってしまったのですか博士は」
「あんな露骨に見た目を変えられたら馬鹿でもわかる。つまり、最初に現れたあの天使に攻撃をすれば、それを参照して攻撃した者の能力を持った別の個体を生成するのだろう」
「それって、なんで脚なのー?」
「……それは、知らない」
学者の純粋な問いに答えられる者は、ここには誰もいなかった。
■
はい、一旦天上君こっち来てね。
『どうだ、先導者よ』
どうもこうもないね。
なにあれ? 取り敢えず赤面羞恥エラを演じる事が出来たから、誉れ高くはあるんだけどそれはそれとして困惑しているよ。
流石の俺もびっくりだよ。
何あの脚コレクションVol1みたいなやつ。
『ふふん、いいだろう。あの天使は魔力由来の攻撃を受け取るとそれを完全に吸収する。そして、第四の天使へとそれを適用するのだ。自身は決して害を与えない、静かに世界をムチ照らす月光……それこそが、ムチムーンだ』
『えっじゃああの二本の脚って第四の天使なんですか!?』
『おいコイツやばいねぇ……』
『そしてあの二本の太ももがムチサンだな。第三と第四は二つで一つ。マッチングならぬムッチングシステムを採用した業界最先端の太ももだ』
天上君……君は一体どこに向かっているんだ……!
その脚へのあくなき探求心、ドン引きを超えて深い感銘を受けたよ! 後で、俺に厄災のやり方を教えてくれないか?
『感心している場合ですか!?』
俺も別の世界でやってみたい!
六体の天使が全員美少女で、最終的には天使の百合ハーレムが築かれる世界を作りたい!
『マズイぞ、相棒が太ももに刺激されて勝手に輝き始めた。……太ももに刺激される相棒は語感がエッチだねぇ!?』
『くっ、まともなのは私だけですか!? 太ももに騙されていますけど、魔力由来の攻撃を全て無効化、自身に適用して数を増やす。これ殆んど完封されてるんですよ!?』
『大丈夫だ、システム先輩。余は常に攻略の余地を残している』
『そうなんですか?』
『ああそうだ。こういう時は、マジカルではなく、フィジカルだ。魔力なんて捨ててかかってきて欲しい』
『それ攻略の余地って言わないですよ。スキルと必殺技を無効化するので通常攻撃で倒してください。HPはこれまでのボスと同じくらいあります。相手はこちらの必殺技とスキルを使います。人はこれをクソギミックと呼ぶのです。タイトルによっては炎上ですよ』
『システム先輩はすぐにソシャゲに繋げるの良くない癖だと思うぞ』
『は? 太ももに繋げる奴がなにを言っているんですか?』
まあまあ、どっちもどっちだよ。
それにしても、今回はソルシエラの太もも鑑賞会羞恥プレイか。随分と遠くまで来たもんだなぁ。
『感慨に耽っていないで、さっさと倒してください。頭が痛くなってきました』