【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第549話 天使最多討伐者1-2

「――クソっ、あの太ももなんなんだよ! 強すぎだろ!」

 

 アトラスティアは今、崩壊の危機に陥っていた。

 この世界は事実上、八度の厄災を乗り越えている。

 遥か昔、この世界が停止する前に六度。そして今一度世界を取り戻そうと帰還して二度。

 一度でも気を抜けば世界が滅ぶ大天使の侵攻を彼女達は食い止めてきたのだ。

 だからこそ、彼女達がいてもなお崩壊の危機が迫っているというこの現状が絶望的だった。

 

 例え、相手の見た目が腹が立つほどにふざけていたとしてもだ。

 

「下手に攻撃を仕掛けるな。脚を増やされたらたまらん」

「わかってるよ博士! さっさとあいつを殺すコードを作って!」

 

 激しい爆発が巻き起こり、無数の等分された死が空を舞う。

 廃(・)都(・)市(・)は隠れる場所には事欠かないが、相手の規模があれだけ大きければ大した効果をもたなかった。

 

「くっそ、まさか自分の素敵な美脚が敵に回るなんてよォ! 結構自信あったんだぞ!」

「知るか」

 

 対するは見慣れた自分の健康的な脚。

 そしてその隣で毎秒数千の収束砲撃を辺り一帯にまき散らしながら銀の鎖を放つ知り合いの脚だった。

 

「おいおいおい! 本当に残るの私達だけで良かったのか? これ普通に死なないか!?」

「先生、よそ見をするな!」

「あ? あっ、やば――」

 

 一瞬の隙を突いて、ラッカの周囲に大量の転移魔法陣が展開される。

 その向こうから来るものなど決まっている。逸話の槍と星の収束砲撃だ。

 

「耐えてやらぁ!」

 

 ラッカが全てを受け止める覚悟をしたその時、魔法陣の半分が焼却され、もう半分が粉々に砕け散る。

 

『前提規則。桜庭ラッカに攻撃してはならない』

「規則違反です」

 

 聞こえてきた声に、ラッカは嬉しそうに名を呼んだ。

 

「ミロク!」

「先生、遅れてごめんなさい! 世界の構築が完全に完了しました」

『二体の天使を覆う規模のダンジョン空間の構築は流石に骨が折れました故。来月の課金上限撤廃で手を打ちます故』

「それは後でたっぷりと話し合いましょう」

「先生、大丈夫か」

 

 屋上に焔が舞い、ミズヒが姿を現わす。

 こうして四人はダンジョン空間で無事に合流することが出来た。

 

「しゃあ! 後は講師が目覚めるまで時間を稼げばいいんだね! ……実質、全力の私とネオ求道者を相手に!」

「聞けば聞くほど絶望的だが、鍛えるには申し分ないな」

「僕と蒼星ミロクはサポートに回る。前衛はお前達二人だから頼んだぞ」

「先生、ミズヒ、お願いしますね」

「「任された」」

 

 ラッカとミズヒは廃ビル群を超えてそびえる二本の太ももを前に、得物を構える。

 こうして偽りの世界で、ふざけた厄災との戦争は始まった。

 

 干渉と憧憬に対して、同じ憧憬と焼却が立ち向かう。

 

「初めての共闘だねェ! 足引っ張んなよォ!」

「先生こそ!」

 

 二人は心底嬉しそうに、口元を吊り上げる。

 彼女たちであれば、しばらくは大丈夫そうだ。

 

「……それにしても、本当にこの状況を打開できるんですか? その、講師さんという方は」

 

 天使と戦う二人を見ながら、ミロクは問う。

 博士は背後から現れた透明な槍を崩壊させながら、辺りに自分達を守る等分された死をさらに召喚して首肯した。

 

「ああ。今回の天使は魔力由来の攻撃を全て吸収する。だからこそ、この天使に真正面から対抗できるのは学者と、そして講師だけなんだ――」

 

 

 

■

 

 

 

 ラッカ達がダンジョン空間で戦う15分前。

 全員はただ目の前の光景に唖然として時間を消費していた。

 

「取り敢えず記念撮影すっか。指揮者、私を撮ってー!」

「はーい!」

「いえーい! ダブル美脚いぇーい!」

「やめて頂戴! 撮らないで!」

 

 ケイの制止も空しく、指揮者により天使とラッカの記念撮影は完了された。

 最初こそ恥ずかしがっていたラッカだったが、既にこの状況を面白いと理解してしまったようである。

 

「私の脚ってこうしてみると美脚だなぁ……。それにネオ求道者も中々だ。ねえねえ、太もものほくろ探ししてもいい? 太ももお宝発見伝って感じで」

「…………ルシエラ、貴女の所の馬鹿でしょう。手綱を握って頂戴」

「本当に申し訳ない。先生と指揮者は正座をして大人しくしていると信じているよ」

 

 二人はすぐにその場で正座を強制させられた。

 

「あっ」

「私まで……。そんな、私はわかりやすくしてあげただけじゃないですかぁ。同じ見た目の太ももから先生とネオ求道者の攻撃どちらが飛んでくるかわからないとかあまりにも最悪でしょう?」

「それはそう……だけれど! 別に私の脚と同じにする必要はなかったじゃない」

「私もあそこまでそっくりになるとは思わなかったんですよぉ。それにしてもすらっと伸びて綺麗な脚ですねぇ」

 

 正座をしても指揮者の減らず口は見事にケイを揶揄っていた。

 遂に彼女は指揮者を無視することに決めたようで、ミロク達のグループを見る。

 彼女達なら、まともに受け入れてくれると思ったのだ。

 

「ミロクせんぱ――」

「ネムトアちゃん、どう見ますか」

「本物に限りなく近い見事な贋作だ。いや、むしろこれ程の大きさで再現しているのなら、称賛に値するね」

「圧巻ですね」

「そうだねぇ」

 

 ミロクとネームレスも駄目だった。

 

 ケイは目にうっすらと涙を浮かべながら、ミズヒの傍に寄る。

 そして控えめに彼女の服の裾を掴んで、消え入りそうな声で言った。

 

「すっごくはずかしい、です……」

「すぐに何とかしてやるから、待ってろ」

「……! ミズヒ先輩っ!」

 

 まともなミズヒにケイは感激し、打ち震える。

 このメンバーにもまともな者は居たのだ。

 

「……成程、大体やつらの事が分かったぞ」

「解析完了だよー!」

 

 博士と学者は、この間にも天使についての解析を終えていた。

 彼らは仮想ウィンドウに、白い脚と、二人によく似た脚のそれぞれを映し出す。

 

「最初に現れたのは、第三の天使で間違いないだろう。ここは僕達の予想通りで間違いない」

「力を吸収して、複製する。だったかな?」

 

 ルシエラの言葉に博士は頷く。

 そして説明を引き継ぐように学者が言った。

 

「厳密にはあの第三の天使は魔力由来の攻撃を全て吸収するだけ。あれは解析特化だよー。そして、あの二本の脚だけど、あれはねー第四の天使だねー」

「第四の天使!? それも脚なの!? 天上の意思、どうかしてんじゃない!?」

「脚ばかりモチーフにする理由はまだわかっていない。多重提唱空間でも議論が行われているが、まともな答えはまだ出ていない。今わかっているのは、第四の天使に上限はないという事だ。つまり、第三の天使が攻撃を吸収すればするだけ、第四の天使が増える」

「…………それ、やばくね?」

 

 絞り出すように、ラッカは言った。

 その隣で求道者はピンと手を上げる。

 

「はい、魔力由来と言う事は銘による攻撃も不可能だと言う事でしょうか!」

「その通りだよー。だから今のところ、第三の天使に有効打があるのは、私だけだねー」

「……成程、呪力に妖力、他にも君なら確かに何でもござれだ」

「皆の役に立つよー! でも、私一人じゃ流石にあれは倒せそうにないからー、講師も起こして欲しいなってー」

「いや、辞めよう」

「学者だけでいけますよ。というか、講師は先に目覚めて家に帰りました」

 

 ラッカは首を横に振り、指揮者は嘘をつく。

 そんな二人に呆れた求道者が口を開いたその時、それよりも早く第四の天使たちが動き出す。

 

「っ!? 攻撃は届かないと信じているよ」

 

 空を覆う程に展開された転移魔法陣から、雨の様に逸話の槍と収束砲撃が降り注ぐ。

 それは信奉の銘により直撃こそ免れたが、周囲に降り注ぎ轟音と衝撃をもたらした。

 

「うわっ、クソコンボじゃねえか!」

「教授、どうする」

 

 博士の問いに、ルシエラは一度息を吐く。

 そして、冷静に告げた。

 

「迷っている暇はないね。ここは三手に別れようか」

 

 その言葉に、全員の顔から動揺が消え、静かに次の言葉を待つ。

 

「先生と博士は第四の天使を足止めしてくれないか。フェクトムの生徒会長は、シエルによるダンジョン空間の生成が可能だったね? それで第四の天使を閉じ込めて、一時的に隔離してくれ。第三の天使と組まれると厄介だ」

  

 何よりも恐れるべきは第四の天使がこれ以上増える事であった。

 この場合、干渉の力と転移魔法は最悪の働きをする。

 第四の天使への攻撃が第三の天使へと転移されたらどうなるか――それをルシエラは危惧していたのだ

 

「学者、君は予定通り第三の天使の討伐を。月宮トアとネームレスは彼女の援護だ。だが、君達も収束砲撃が撃てるだろう。収束するものを魔力以外にすることが可能か試してくれ。他のメンバーは私と一緒に来てほしい。講師を目覚めさせる」

「えっ、私も講師チームですか? 出来れば先生と一緒に戦いたいんですが。実は、私は先生と一緒じゃないと心拍数が低下して死ぬ病気で「では、各自行動を開始してくれ」……あ、鎖で繋がれるんですね私。悲しい過去を思い出します」

 

 鎖で繋がれた指揮者を引っ張ったケイは、求道者やルシエラと共に講師を目覚めさせるために再び基地の中に戻っていく。

 

「それじゃあよろしくねー!」

「足引っ張んないでよ、私(ざこ)」

「が、頑張るよ!」

 

 エクスギアと重砲を構えて、二人は学者と共に第三の天使を見る。

 そして、その背後では丁度シエルが、翡翠色の銃へと変化したところであった。

 

「お願いしますね、ナナちゃん」

『星蝕み――形態移行完了。ダンジョン空間の構築を始めます故』

 

 第四の天使を囲むように偽りの世界がせり上がっていく。

 すかさず天使たちは妨害しよう砲撃陣と槍を形成するが、それは本物の逸話が地面に突き刺さった衝撃波により全て破壊された。

 

「曰く、桜庭ラッカは一槍で大陸を破壊できる」

 

 地面に突き刺さった透明なそれを抜き取り、ラッカは第四の天使に槍の穂先を向ける。

 

「っしゃオラァ! 逸話バトルじゃァ!」

 

 こうして、それぞれが重要な役割を背負った大規模な作戦が始まったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ねえコイツ強くね? 天上君、まーたバランス調整ミスった?』

『太ももが弱い方が失礼だろう(正論)』

『なら論破かぁ』

『いや論破されてないですって!』

『……ハッ、大きくなったソルシエラ本!? これはまだ未開拓なのでは!? すぐに絵を投稿してフォロワーの反応を見なければ。反応が良いようなら、コピ本として少し刷って次のソルケットに――』

『ああっ、またまともなのが私だけにっ』

 

 

 

 

 

 

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