【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
第三の天使は依然として都市の外に直立していた。
その姿は相変わらず奇妙の一言に尽きる。
「あれ、本当に倒せんの?」
「わ、わかんない……」
「頑張るよぉ! お着替えターイム!」
学者は高位転写紙機を取り出すと、30cmほどでそれを破り取る。
複数の言語が彼女の体を包み込み、戦いに最も適したラバースーツへと変化した。
学者は馴れているのかそもそも気にしていないのか、表情を変える事はない。
しかし、相変わらずその強烈なインパクトにトアはほんのり赤面し、ネームレスは誰かが着ている想像をして満足そうにうなずいた。
「時に学者、その服を別の子が着たりもできるのかな? 似合いそうな子がいるんだよね」
その脳内では、ラバースーツを着たソルシエラの疑似鑑賞会が行われていた。
今まで数多くの衣装を実際に着せてきたネームレスであったが、まだこの手の服は着せていなかったのか、興奮気味である。
「出来るよぉ。欲しいなら後であげるねー!」
「本当!? 学者って銀の黄昏で一番の構成員だよ!」
「えへへ……そんなに嬉しいなら、二人にも着せてあげるよ!」
「えぇっ!?」
「いや別に私は――」
巻き込まれたトアとネームレスの拒否も空しく、二人の前で高位転写紙機が破りすてられ言語が二人を包む。
やがてそこには、黄色を基調としたラバースーツに身を包んだトアと、黒と紫のラバースーツに身を包んだネームレスがいた。
「……はっ、恥ずかしいよぉ!」
「これは、なんというか……凄いな……」
即座にうずくまるトアとは対照的に、意外にもその性能を即座に理解したネームレスは、まじまじと自身のスーツを見つめる。
「魔力だけじゃなく、未知の力を肌で感じれるようになった気がする」
「教授は二人に収束砲撃を試して欲しいって言っていたでしょー? なら、魔力以外のエネルギーにも適性があるこのスーツが一番だよぉ!」
「なら仕方ないか」
ネームレスは真面目な顔で頷く。
(ケイに着せる前に着心地を試せてよかった。それに、私も一緒に着て楽しむのもアリだな……!)
脳内は既に真面目から逸脱していたようだ。
「う、うぅ~!」
トアは相変わらず顔を真っ赤にして蹲っている。
それを見て、学者は申し訳なさそうに白衣を拡張領域から取り出すとトアに着せた。
「ごめんねぇ。褒められてつい嬉しくなっちゃったー」
「ありがとうございます……その、着たことのないジャンルの服で慣れていないだけなので、学者さんは悪くないです……」
「そうそう。それにこれでようやく自覚できたんじゃない?」
「え?」
「この服ってボディラインがはっきり出るからさぁ、見えるんだよね。贅肉がよぉ!」
「あぁっ!!!」
トアは自分のお腹に手をやる。
ぴっちりとしたスーツはむっちりともしていた。
「なんだよこれはよ! お前、私と同じ見た目なのに全然シルエット違うじゃん! 最近、食べ過ぎだっての!」
「美味しいんだもん! 今はお仕事でお金もあるから、いっぱい食べられるんだもん!」
「なんの言い訳だお前!」
ぷにっとネームレスが横腹を摘まむ。
「ひゃぁっ!?」
トアは飛びあがると、学者の後ろへとパタパタ駆けていった。
それから学者の後ろに隠れネームレスを涙目で見つめる。白衣で全身を隠して、もうわがまま暴食ボディは見せないつもりのようだ。
「やめてよ……!」
「うーん、もしかして痩せたいのぉ? なら私が後で簡単に痩せるやつを送るねぇ」
「!」
トアはパァッとした表情で学者を見上げる。
期待の眼差しを受け、学者はサムズアップをした。
「前に博士と一緒に作ったダイエットプログラムがあるんだぁ。被験者が何度が気絶したけど、効果は絶大だったからぁ。それを少し改良したのをあげるよぉ」
「ひぇ」
口調では隠しきれない、言葉選びの端々から漏れ出す博士と同類である証にトアは後ずさる。
しかし、学者は返事が無い事を感動と捉えたようだ。
「よし、私も準備しようかなぁ」
高位転写紙機をさらに引き出し、学者は破り捨てる。
「うーん、取り敢えずは三つでいいかなぁ」
高位転写紙機が作り出した簡易的な世界の理が、別次元より新たな力をもたらす。
それは今回、霊力、理力、王力という形を取った。
「なんか威圧感増したな。それで勝てんの?」
「どうだろうねぇ。あの天使って、すごく大きいからー。私一人じゃたぶん無理だねぇ」
学者はニコニコしながら、高位転写紙機から剣を取り出す。
それは奇妙な出で立ちの剣であった。
木の枝の様に細く捩じれ、戦いには決して向かない脆くて細い芸術品のようである。
「この剣ね、すっごく強いんだぁ。別の世界で世界最強の剣士が使ってたのー」
「ふーん。ま、何でもいいや。こっちもそろそろ始めようか。……あっちも待っているだけじゃないみたいだし」
ネームレスはエクスギアを召喚し、剣先を天使へと向ける。
天使は今まさにその太ももを波打たせ、こちらに砲撃を撃ってくるところだった。
「魔力というよりは鏡界のエネルギーその物だねー。気を付けてよぉ!」
「わかってるっての。act1」
例え鏡界由来であろうとも、その漆黒の焔は全てを燃やし尽くす。
天使の砲撃は僅かでもこちらに届くことはなく、あっけなく灰になった。
「へっ、ざまあねえな」
「凄いよ私!」
「お前と一緒にすんなよ
そうは言いつつも、ネームレスは余裕そうにピースサインを作って笑う。
と、その隙をつくように再び砲撃が放たれた。
今度はより細く、鋭い砲撃である。
「っ、この野郎――」
ネームレスは少し遅れて反応し、すぐに黒い焔で燃やそうとするがそれは砲撃の表層を焼き払っただけであった。
砲撃の中から新たな砲撃が現れ、押し出されるようにしてネームレスへと突き進む。
「やばっ」
「大丈夫だよー」
声と共に学者は前へと飛び出した。
防壁の縁を蹴って空中へと身を投げ出した彼女は、向かってくる砲撃に対して剣を振るう。
剣先が砲撃に当たった瞬間、剣は枝の様に分かれて行き、その先端に青白い半透明の葉を付けた。
それらが一体となり、枝から剣のシルエットへと昇華されていくその光景は神話の一節を目撃したような神々しさすらある。
「何その剣。私ほどではないけど、強そうだね」
「いいでしょぉ。エネルギーを吸収して、そのエネルギーの葉を生むんだぁ」
剣をわさわさと振って、学者は楽しそうだ。
「さて、これで私の力は四種類だねぇ。つまり、四倍強いよー!」
「そうなの?」
「そうだよー!」
学者は胸を張ってそう言った。
天使の放った鏡界エネルギーを含めた四つの力が絶妙に混ざり合い、学者に超人的な力をもたらす。
「それじゃあ突撃ー!」
「えっ、私も!?」
「私達は後方でサポートに決まってんでしょ。……いや、私だけでいいからアンタは腹筋とかスクワットでもしてたら?」
「~っ!」
頬を膨らませて顔を真っ赤にトアはポカポカとネームレスを殴る。
しかしその脚に黒い硝子が纏わりついた今のネームレスにはまったく効かなかった。
「はっはっは! あー面白!」
「痩せるもん! 明日……いや、この戦いが終わってから……うーん……一週間後からダイエットの計画を立て始めるもん!」
「うおおお! 学者斬りぃ!」
塀の上で他愛もないやり取りをする二人と、天使へと剣を振り下ろす学者。
ラッカ達とは違う形で、こちらもようやく戦闘が始まったようであった。
■
同時刻、認証システムの部屋にルシエラ達は到着していた。
「さて、それじゃあさっさと壊して講師を蘇らせようか」
「一考の余地はないでしょうか? ……あ、そう言えば先生たちが心配なので私はそっちに合流しますね」
「指揮者はその場で動けないと信じているよ」
「ふふふ、最悪です(儚く消え入りそうな笑顔)」
銘で拘束された問題児を放ってルシエラは大鎌をシステムのコアに向ける。
「今回は私が壊す。博士は講師の復活を、ケイは求道者の記憶の再構築を頼む」
「今度こそ寝ませ――ふにゃ」
言い終わる前に、三人は既に行動を終えていた。
講師が足元から作られていく中で、ケイはあきれ顔で求道者の記憶を再構築している。
「おっと」
トウラクは慌てて求道者を受け止めると、その場に寝かせた。
「これで良し」
「……ねえトウラク」
「なにかな?」
ケイは少し前から気になっていたことを、口にする。
「妙に静かじゃないかしら? 口数が少ないというか」
「それは、その……はは」
笑い誤魔化そうとするトウラクを見て、ケイはすぐにターゲットをその腰にぶら下がった白亜の太刀に切り替えた。
「ルトラ、理由を話しなさい。後で、フェクトムの美味しい玉子焼きを沢山あげるわ」
『知り合いの太ももが出てきてビビっていた。男の自分がこの場で何を言っても誤解されそうだから、空気になる事でやり過ごそうとしていた』
「……そ、そう」
「…………ごめん」
「いえ……」
「すやぁ」
眠る求道者を挟んで、ケイとトウラクの間には何とも言えない空気が流れていた。
『来た! トウケイ来た!』
『来ないぞ。来させないぞ』