【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
求道者と講師に与えられた任務は、アトラスティア外の生き残りの救出である。
そのためにはこの大陸に跋扈する大量の天使を相手にする必要があった。
下級天使ですら、一般兵には辛い。
上級ともなればそれは小規模ながらも作戦の立案が必要だ。
そして、それ以上の智天使級や熾天使級ともなれば、逃げる事が出来れば幸運だった。
世界はそんな破滅と絶望に満ちている。
仮にそんな大陸間を我が物顔で爆走できるとすれば、それは英雄にほかならないだろう。
「速ーい! わーい!」
【そろそろ作戦開始地点だ。⊂二二二( ^ω^)二⊃ブーン】
講師から差し出された紙を見て、求道者はハッとする。
自分はアトラクションで楽しんでいるわけではない。これではまるで子供ではないか。
「いけないいけない。銀の黄昏で一番の常識人がこんな事では笑われてしまいます」
「……」
「なんですか?」
講師は静かに首を横に振る。
そして求道者をそっとその場に降ろした。
瞬間、世界は彼女達に牙を剥く。
求道者が地に降り立った瞬間、正確には講師が停止したその時点で辺りにいた天使全てが一斉に狙いを二人に定めたのだ。
「おや、狙われていますね」
「……」
講師は拳を構える。
その足元で、求道者はつま先をトントンと鳴らした。
「では、お手並み拝見です」
それを合図に蹂躙は始まった。
音から死を伝染する牡鹿型の天使が、一斉にその角を震わせる。
が、それは求道者には効かなかった。
たかが死をもたらす程度では雲零の剣は止まらない。
「他愛もないですね」
心臓は確かに止まり、脳が機能を停止する。
しかし次の瞬間には魔力が再び彼女を蘇らせるのだ。
刹那の間に行われる生と死の往復は、魔力を自身の一部として操る雲零の民だからこその特殊な技能である。
一匹、また一匹と天使の首が宙に浮き、物言わぬ死骸へと変わっていく。
が、依然として求道者の靴は白く、脚も美しさを保ったままだった。
智天使程度では、彼女の純白を汚す事すら叶わない。
(ふふん、私ったら凄いですね。これだけの天使を相手にしても余裕だなんて。これは講師も私を尊敬しているに違いありません!)
求道者は講師の戦っている方角を見る。
あの図体だ。随分と良い的になっているだろう。
さっさとこちらを終わらせて救出に向かおうと思ったのである。
しかし、彼は求道者の想像を凌駕していた。
「……え?」
荒野に立つのは、講師ただ一人。
今まで彼を囲んでいた数多の天使がどこにもいないのだ。
「あれぇ!? えっ、なんでぇ!?」
求道者は驚き動きを止める。
その隙をついて、一体の天使が襲い掛かるが彼女はそれを見る事もなくカウンターキックで仕留めると、そのまま講師へと駆けて行った。
「ど、どういうことですか!? 天使は!? 私がかっこよく助ける筈だったのに」
「……」
講師は辺りを見渡し、それから遠くに見える街を指さす。
先を急ぐらしい。
「むっ、わかっていますとも! じゃあ先に行きますからね!」
求道者は走り出す。
その速度は相当なものではあるのだが、講師は平然とその隣を並走し始めた。
「なっ……! 私はもっと速く走れますけど!?」
「……?」
「負けませんけど!?」
「……」
走りながら、講師は困惑した様子で懐から一枚の紙を取り出し求道者へと向ける。
【(;´・ω・)】
「なんですかその顔はぁ!」
求道者はさらに速度を上げる。
しかし講師は汗一つかかずにその隣をどっしどっしと走り続けた。
■
【成程、魔力を吸収する天使か。事態は理解した( ・`ー・´)】
道中での説明は、ルシエラにより過不足なく完璧に行われた。
講師が素直に話を聞いていたと言う事もあるのだろう。
彼は、今まで目覚めさせた者の中で一番冷静に事実の確認をして、行動を開始している。
「わかっているとは思うが……」
【ああ、実物を見て理解した。俺が出るのは最後で良いだろう。
「流石だね。よくわかっている」
間もなく、講師を先頭にして彼らは外壁へと戻って来た。
すぐ目の前では天使と学者たちが戦争を繰り広げている。
講師はその光景を腕を組んで眺めたまま呟く。
【見事だな。魔力が駄目ならば他の力を扱えば良い。それも、天使がその力を学習しないように複数の力を使い分けているな。流石は学者だ。戦い方が丁寧で、見ていて安心できる。求道者や先生ならばこうはいかないだろう】
「ははは、二人はいつも力押しだからね」
学者の放った霊力砲が天使に直撃し、辺りの砂塵を巻き上げながら暴風が巻き起こる。
しかし講師はそれを受けても微動だにせず、ただその戦いを見つめていた。
【教授、一ついいか?】
「何かな?」
【そこの剣士達は誰だろうか? 相当な手練れのようだが(`・д´・ ;)ゴクリ】
ヘルメットに緊張を表す顔文字が浮かんでいるせいで、何ともその場の空気は締まらない。
少し離れた所では今まさに戦闘が続行しており、到底話している場合などではなかった。
が、講師はその場にどっかりと腰を下ろし、トウラクとケイを見る。
【俺が最初に名乗るのが礼儀だろう。俺は講師。銀の黄昏の構成員だ。主に天使との戦闘を担当している】
そこでトウラク達は気が付いた。
恐らくは出来るだけ自分達と目線を合わせようとしているのだろう。
【(`・ω・´)】
表示されている顔も非常に親近感が湧いた。
トウラクはケイに視線を送ると、一歩前に出て頭を下げる。
「僕は牙塔トウラクです。別の世界から来ました。この太刀は相棒のルトラと言います」
『よろしく。こっちの天使も私達が斬る』
【……まさか、厄災を乗り越えた者か!? なんて頼もしい援軍だ! よろしく頼む!】
トウラクは歩み寄ると、講師に手を伸ばす。
彼はすぐにその意図を察してその手を優しく握った。
【まさか別世界の人間とこうして握手を交わせる日が来るとはな! それに別世界の英雄とは!】
「そんな大それたものじゃあないですよ。それに僕達の世界が救われたのはルシエラのおかげでもありますから」
「……別に私はそんなつもりなかったさ」
【そうか……ああ、そうだったのか】
講師は万感の思いに空を仰ぐ。
固まった世界の空は何の風情もないが、しかし講師は暫し感傷に浸っていた。
【君達が、彼女を救ってくれたのだな(;´Д⊂)】
「勝手に救われただけよ。私達は何もしていないわ」
ケイはそっけなくそう言うと、天使を睨みつける。
彼女は今すぐにでも戦いに参加したいようで、学者達を見つめている。
「それよりも、こんな悠長にしていて良いのかしら? 随分と余裕そうだけれど」
【成程、心配しているのか】
「は? 」
【先ほどからずっと視線が天使の方を向いているな。学者たちに何か危機があればすぐに動き出すつもりなのだろう。君は心優しき戦士のようだ】
「……は!?」
真正面からの好意的な言葉にケイは面食らったように押し黙る。
それを見て、トウラクは代わりに彼女の自己紹介をした。
「彼女はケイ。僕と同じ、別の世界の戦士だ。講師の言う通り、誰よりも優しくて強くて、頼りになるんだ」
「黙りなさいトウラク」
【よろしく頼むぞ、ケイ!】
「……ええ、よろしく」
ケイは不服そうに頷く。
そして再び天使へと視線をやった。正確には、天使に相対してるトアとネームレスである。
「はぁ、別にここで雑談をするために貴方を蘇らせたわけじゃないのよ。貴方が戦わないなら、私が代わりに戦うけれど?」
【案ずるな、心優しき戦士】
講師は座ったまま学者を見ている。
ヘルメットで覆われており、その表情は窺い知ることができない。
が、今の彼からは父親のような温かで力強い雰囲気を感じた。
【銀の黄昏はこの程度では負けんさ。俺もその時が来たら動こう((⊂(`ω´∩)シュッシュッ 】
「……大丈夫かしら。そもそもその顔文字はなんなのよ貴方」
【癖だ】
「そう……」
簡潔な答えに、ケイはそれ以上問いかけるのを辞めた。
『これで銀の黄昏が全員揃ったね。こうしてみると、凄いメンツだなぁ』
『人類代表ですからね! これで厄災の勝ちも確約です。わはは!』
『確約も何も、最初から太もも神のマッチポンプだねぇ』
『マッチポンプなどしないぞ。余は剪定は真面目にする』
『じゃああのでっけえ太ももはなんなんだよ』