【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
求道者と講師の二人が揃えば、大抵の任務は危なげなく達成することができる。
一人で天使の軍勢を凌駕する最強の戦士。
銀の黄昏を背負う二人に、敗北や失敗は許されない。
故に都市を囲む天使の群れが10分と経たず殲滅されたのも、当然であった。
「――余裕ですね!」
【良い身のこなしだ。まるで浮雲の様に軽々とした足さばきは見事という他ない( ´∀`)bグッ】
「講師も、中々にやるじゃないですか。私の次くらいには強いと認めましょう」
【光栄なことだ。☆-(ノ´∀`)八(´∀`*)ノ】
まずは一つ、都市を救った。
情報によればまだ3万人もの人々がここで天使に怯えながら日々を暮らしていたらしい。
何度も補修された形跡のある外壁の向こうから出てきた者の顔は、どれも安堵と希望で涙に溢れていた。
「あ、ありがとうございますぅ!」
「博愛のソルシエラ様が約束を守ってくださったのだ!」
「本当に助けが来るなんて……!」
「あっちなんて、まだ子供だろう? それなのにあれだけの天使を!?」
「ありがとー!」
人々からの歓声に求道者は胸を張り、講師は照れくさそうに顔を背ける。
そして顔を背けた先で、講師は一人の少女に気が付いた。
「……?」
救われたというのに、その表情は暗く、しかし視線はまっすぐに講師達を見つめている。
その目にはよく見覚えがあった。
助けを求める者、未だに暗闇でもがく者の目だ。
「講師、どうしたのですか?」
【先に求道者には、都市の方々へ避難ルートの共有を頼みたい。俺は少し気になる事があってな|д゚)カンサツ】
「ふーん、まあいいでしょう! ではみなさーん! 私に注目してくださーい!」
小さな体で懸命に注目を集めようとする求道者に、都市の人々は久しぶりに穏やかな気持ちになった。
それを確認してから、講師はのっそのっそと少女の元へ向かう。
外壁の傍に立ったままの少女は、講師が近づいてきても逃げる事はなく、その大きな体を見上げていた。
「……」
講師は膝をつき身をかがめると、紙を差し出す。
【私は講師。君を救いに来た(`・ω・´)キリッ】
少女はそれを受取ろうとはしない。
その紙へ目を通すと、やがて彼女は講師を見て言った。
「けほっ……わたしはいいです。それより、おとうさんとおかあさんをたすけてください!」
「……」
講師はゆっくりと頷く。
その瞬間、僅かだが少女の目に希望が灯ったのを彼は見逃さなかった。
【君のおとうさんとおかあさんはどこにいる? 教えてくれφ(・ω・`)メモメモ】
「きのうね、おとうさんとおかあさん、わたしのおくすりをもらいに、べつの町にいったの。おやまのむこうの川をこえて、ずっと先……うっ、けほっけほっ」
「……」
講師は脳内で正確な地図を思い浮かべる。
確かに、都市から離れた場所に小さな町がある。
しかしそこは一週間前に避難が終了して無人の筈だ。
「……」
講師は背後の人々を見る。
自分の任務は、彼らをアトラスティアに送り届ける事。
決して、生きているかどうかもわからない人間を二人探す事ではない。
すぐに天使が再びここを包囲するだろう。
その前には、出発しなければならないのだ。
講師はそれを理解し、少女の願いと任務の責任を天秤にかけた上で、一枚の紙を差し出した。
【わかった。( ゚д゚)db(゚д゚ )ユビキリ】
「っ! ほんとうですかっ!」
講師は頷く。
そして、涙ながらに礼を言う少女の頭を優しく撫でて、求道者の元へと戻った。
「あれ、もういいんですか?」
【すまない、追加の任務だ】
「……助けは?」
【一人で十分だ。代わりに五分ほど、この場を任せても良いだろうか。それでも俺が戻らなかったら、出発して欲しい。求道者なら、彼らを守りきれるだろう?】
その走り書きに、求道者は得意げに胸を張る。
「余裕ですね。5分どころか、5年でも余裕です!」
【それは流石に出発して欲しい(´・ω・`)】
「物の例えですよ! いいから、さっさと行ってください!」
【ああ(`・ω・´)】
講師は求道者に一礼をし、それから都市の人々に一礼をし、最後に少女に手を振ると一気に足に力を込めた。
その瞬間、彼は砂煙と轟音を残してその場から消え去る。
「速……い、いいえ、私だってそれくらいできますけどねー!」
求道者の精一杯のアピールも、今の講師には聞こえていなかった。
■
学者の霊力砲が第三の天使へと放たれる。
そして空からは王力を操る鳥が、地面からは理力を糸として操る蜘蛛が、他にもいくつも生成された生き物が波状攻撃を続けていた。
「いけー! 押し込めぇ! いいよぉ、皆がんばってー!」
学者自身も剣で何度も第三の天使に切りかかる。
しかし、それでもその巨体をすぐに倒すことは叶わなかった。
「うぅ、アトラスティアが動かせたらまた違ったんだろうけどー。こういう大きいの相手は、私の役割だったのにー」
学者はややしょんぼりしながらも、反射して返ってきた砲撃を避ける。
紙一重で避けたそれは、今しがた放たれた霊力砲であった。
「ふんふん、解析はすぐには出来ないけどそのまま跳ね返すだけならできるんだねー。魔力以外にも適応しているという事かなー」
学者は第三の天使の変化を敏感に読み取っていた。
第三の天使の主な権能は情報の解析と、それを第四の天使の権能として出力する事である。
つまり、戦いが長引けば長引く程に今後の第四の天使の力が増していくのだ。
「うーんうーん、どうしようかなぁ。二人の方も、収束砲撃には手間取っているみたいだしー」
視線を向けた方には、慣れない力に四苦八苦しているトアとネームレスの姿があった。
「――下手くそだな、オイ! 私を見習えよ!」
「そっちだって、収束に魔力含んでるから駄目でしょ……?」
収束砲撃を常日頃から撃っているからこそ、彼女達は無意識に魔力の方を集めてしまう。
他世界由来のエネルギーを集める事にすぐに順応できる程、彼女達は怪物ではなかった。
「うぅーん、もう少しなんだけどなぁ……そもそも魔法式から見直すか? こんな事ならトリムを連れてくればよかったよ。アイツに魔力を不干渉にさせて、私が他を全部収束すれば簡単なのに」
「……そ、それだよ私!」
「は?」
トアは興奮気味にネームレスに駆け寄る。
「貴女が魔力を全部燃やす。そして私が他のエネルギー全部を収束する。一人で駄目なら、二人で役割分担しようよ!」
「……お前、いつの間に賢くなったんだ?」
「えへへ」
褒められて照れ臭そうに笑うトアに、ネームレスは久しぶりに感心していた。
ご飯が関わるときだけ頭脳がまともに働くと思っていたのだが、どうやらそういう訳でもなさそうだ。
「面白い。提案したからには、きちんとやってよね?」
「勿論だよ、私! 実は博士にパワーアップして貰ったんだよね」
「あ、ズルい!」
ネームレスは収束を止め、トアの背後に回る。
そして周囲に大量の黒焔を召喚し、辺りの魔力を燃やし始めた。
同時にトアは新たに改良された収束砲撃の魔法陣を展開し、重砲を構え直す。
「エネルギーの充填始めるよ!」
「おうよ」
今までのやり取りからは考えられない程に二人の呼吸は合っていた。
トアはネームレスの全てを信じてエネルギーの収束に集中する。
対するネームレスもまた、自分の役割を完全に魔力の焼却と割り切っていた。
「……うん、これなら集められる。いけるよ!」
「はしゃぐなよ、
それは天使に備わった第六感だったのだろうか。
トアとネームレスが二人での収束を可能としたその瞬間、より正確に言うならば脅威とみなされた瞬間、天使は今まで受け続けてきた全ての攻撃を反射した。
「っ、危ないよー! 私はいいから逃げてー!」
戦う事に慣れていない学者は、剣を使って自分の身を守る事で精一杯のようだ。
辺りに大量のエネルギーが雨の様に降り注ぐ。
それを見て、ネームレスとトアは収束を止めなかった。
「――チャンスだね」
「うん。あっちから沢山エネルギーをくれるなんて」
受けた魔力砲撃を収束して返すのは、収束砲撃の使い手の十八番だ。
それはここでも変わらない。
故に彼女達は、防御も回避もせずにエネルギーの収束に努めた。
「ギリギリまで集めて。私の事はいいからっ!」
「こういう時は頑張れるのに、ダイエットはしないんだもんなぁ」
「もうっ、集中してよぉ! それにダイエットはいつでも出来るからしないんだもん!」
軽口を叩きながらも、二人はエネルギーの収束を続ける。
やがて傍に霊力砲が着弾し、頭上を理力の斬撃が通り過ぎてもなお、それすら全てエネルギーとして変換していく。
「あと少し……あと少しで……」
「良い調子だ、お前はそのまま収束していればいい。後は私が……」
自分達に真っ直ぐ向かってくるエネルギー砲が一つあった。
それはいくつもの力が乱雑に混ざり合った非常に粗末な砲撃である。
しかし学者の使用した力を自身の鏡界エネルギーで無理やりまとめたそれは、二人を殺すだけなら威力は十分だ。
「チッ、せっかく良い所だったってのに」
トアもネームレスも役割を果たすのに必死で動くことはできない。
仮にactを切り替えれば、いかようにもなるだろうが、それはトアの収束に魔力が混ざることを意味していた。
「月詠形態欲しー!」
叶わない願いを叫びながらネームレスはいくつかの焔を向かわせる。
それは確かに砲撃の表面を焼いたが、威力を殺しきるには至らなかった。
「ごめん、これ以上は無理だ! 一旦別の場所に行って仕切り直そう」
収束砲撃のチャンスはまだある。
そう考えて、いよいよ二人が動き出そうとしたその時、巨大な影が目の前に飛び込んできた。
【その意気や良し! 出しゃばって申し訳ないが、少しだけ手助けをさせて貰おう!( ・`ω・´)】
「誰ぇ!? 誰なのぉ!?」
「うおでっかぁ!?」
驚く二人を他所に、講師は肩甲骨から翼を生やすと真正面からそのエネルギー砲を殴り飛ばした。
【フンッ!】
上空で激しい爆発が起き、エネルギーが辺りに散らばる。
【収束を続けろ。守りは俺に任せるんだ(ヽ(+`・ω・´)ノバリァァァ)】
「えっと……その、貴方は?」
「うわあぁぁぁぁん! 講師いぃぃぃ!」
講師が答えるよりも早く、学者が真っ直ぐに飛び込んできて彼に抱き着く。
彼女も相当な高身長だが、講師の前では子供のように見えた。
【良い戦い方だったぞ、学者。基本が出来ている。後は、経験だな】
「う、うぅ……本当に講師だぁー!」
【泣くな。戦場で泣けば天使が付け入る】
「うん……!」
【その涙は勝利にとっておけ( ・`ω・´)】
講師は学者の頭を撫でるとそっと離れ、遥か後方にいるルシエラ達へと大声で言った。
【すまない教授! 俺はもう戦う! 無論、アレは最後まで使わないから許して欲しい! この世界の為に戦っている者達を前に、見物をする道理が俺には無い!】
教授達は何も言わない。
しかし長年の付き合いから、それが許しであることはすぐに分かった。
【感謝するぞ教授。……では学者、そして名も知らぬ勇敢な少女達よ】
拳を握り翼を大きく羽ばたかせ、彼は目覚めて初めて天使と相対する。
【共に戦おう└(┐卍(`・ω・)卍ドゥルルルルルルル】
「……え、何あのヘルメット」
「わかんない。……銀の黄昏の人なんだろうけど」
【ヘルメットの顔は気にするな! 行くぞ!⊂二二二( ^ω^)二⊃ブーン】
その独特のコミュニケーション方法にトアとネームレスは面食らう。
しかし、それでもすぐに共闘を意識できる程に彼の背中はあまりにも頼もしく見えた。
『背中から翼かぁ。光の翼ならまだしも、物理翼は付け根がミステリアスじゃないんだよなぁ……』
『いや別に生やさなくてもいいでしょう』
『なら尻尾はどうだい! 付け根を気にしない、挿入タイプなんだ!』
『ドン引きですよ』
『星詠みの杖君、良くないぞ』
『ふむ、では三人の意見の間を取って背中から太ももを生やすというのは?』
『一番無いだろ』