【12/12 1巻発売!】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第556話 天使最多討伐者1-9

「――第三の天使の撃破を確認した」

 

 博士は自身のデータロイドから得た情報を三人に告げる。

 防戦を強いられていた彼女達にとって、その言葉は士気を高めるには十分だった。

 

「マジ!? 講師か? やっぱ講師がやったのか!?」

 

 砲撃を避け、逸話の槍を受け止めながらラッカは嬉しそうに博士に近づく。

 しかしその分だけ博士はラッカから離れた。

 その後すぐに博士の居た場所を槍と砲撃が貫く。

 

「やめろ。お前がこっちに来ると狙われるだろ。僕はサポーターだ」

「いいじゃんかぁ。教えてよ……あ」

 

 ラッカは振り返り、槍を投擲する。

 投擲された槍は虚空へと向かい、丁度その瞬間に現れた収束砲撃の魔法陣に直撃し破壊した。

 

「――曰く、桜庭ラッカに不意打ちは通用しないってね! ねーねーミズヒ、今の見た? あれくらいやれなきゃ駄目よ?」

「流石先生だ……! では、私も」

 

 ミズヒは素直にその挑戦を受け取り目を閉じた。

 彼女の持つ銃の先端と周囲に灯っていた赤い焔が消え、転じて雨と霧が立ち込める。

 

「――そこか」

 

 ミズヒは真横に銃弾を放つ。

 放たれた水の弾丸は次の瞬間、それは虚空より現れた逸話の槍を打ち砕いた。

 

「どうだ先生! 私も出来たぞ!」

「いいねェミズヒィ! ここに天使が居なかったらすぐにでもお前に決闘を挑んでいたところだァ!」

「おぉ! 私は今でも構わんぞ!」

「そォかァ! じゃあ、是非とも手合せ『前提規則。仲間同士で勝手に決闘してはならない』おぅふ、もう……」

「規則違反です」

 

 二人の距離が強制的に離される。

 天使二体を挟んでいては、流石に決闘する気にはなれないようだ。

 

「二人共、やる気があるのは良いですけれど時と場所をわきまえてください。なんで味方に規則を使わなきゃいけないんですか?」

「……すまん」

「ごめんね、ミロク。うーんでも、競いたいなァ」

 

 本来ラッカは一つの場所に縛られることを嫌う。

 故に、銀の黄昏でも星木の学園でも彼女は気まぐれに消えた。

 そして、自分の欲求を解消するついでに、どこかで誰かを救って帰ってくるのだ。

 しかし、厄災と銀の黄昏の構成員の復活という大切な局面を前にすると、流石のラッカでも真面目にならざるを得ない。

 端的に言って、ラッカはもう暴れたくて暴れたくてしょうがなかったのだ。

 

 それを長年共にいた博士が予想出来ていない筈がない。

 

「はぁ、……出来たぞ」

「ん、なにこれ」

 

 二人の前に仮想ウィンドウが展開される。

 そこにはそれぞれの顔と、横に数字が表示されていた。

 両者とも0である。

 

「これはこの天使と戦った際の貢献度を数値にしたものだ。直接戦うのが駄目なら、天使を相手にすれば良い。もう第三の天使もいないんだ。そいつら相手にもう遠慮する必要はないぞ」

 

 博士がコード開発の片手間で用意した解決策。

 それは、天使を相手にした戦闘スコアの競い合いであった。

 

「お! 博士、やるじゃーん!」

「感謝するぞ、博士」

「いいからさっさと始めろ。じゃないと、後からこの空間に入って来た援軍共に先を越されるぞ」

「それは駄目だ。じゃあ、さっさと始めよう!」

 

 二人は目の前の天使に視線を向ける。

 ラッカは自身の太もも、ミズヒは後輩の太ももだ。

 

 姿こそ奇妙だが、侮ってはいけない。

 それらは間違いなく第四の天使であり、ソルシエラとラッカの力を存分に使えるのである。

 

「……来い」

 

 二体の天使は、ミズヒとラッカに向けてそれぞれが攻撃を放つ。

 今まではその攻撃を防ぐか、発動する魔法式そのものを破壊していた二人だったが、それは吸収を想定しての事だった。

 その前提がなくなった今、二人を縛るものは何もない。

 

「曰く、桜庭(さくらにわ)ラッカの槍は凄く強い」

「銃弾は一発で良い」

 

 半透明の槍同士がぶつかり、拮抗する間もなく天使を貫く。

 もう一方の天使もまた、銃弾により収束砲撃そのものを破壊され、雨と共に霧散させられた。

 

「お前なんざ、吸収がなけりゃ怖くねェんだよォ! 今度はこっちの番だなァ!」

「ケイはお前を見て恥ずかしがっていた。可哀そうに、消し炭にしてやる」

 

 二人は同時に距離を詰める。

 対して天使もまた、対抗するために動き出す。

 一方が転移を繰り返しその場から離脱し上空へと移動、また一方が逸話の槍を空から大量に降らせた。それも、銀の鎖と無数の砲撃陣のおまけつきである。

 それは、目の前から消えた天使に僅かに二人の動きが留まった瞬間の出来事であった。

 

 逸話と干渉能力の完璧な組み合わせが、ラッカとミズヒを襲う。

 

「ハッ舐めんな。先行くぞ」

「む! 私の方が速い!」

 

 ラッカは速度に関する逸話で、ミズヒは焔に異能を変化させて足から噴出し空へと向かう。

 

 互いに競い合うように空へと昇っていく桜色と赤色の光は、時々絡み合い、また弾かれるようにして速度を増していった。

 

「おいおいまだ目で攻撃を追ってんのかよ!」

「先生こそ、随分と回避がギリギリじゃないか」

「スリル楽しんでんだよォ!」

 

 砲撃を撃ち落とし、鎖を破壊し、槍を燃やし、二人は瞬く間に天使との距離を詰める。その間も仮想ウィンドウの中でスコアは加算され続けていた。

 

 天使も負けじと転移を繰り返し、攻撃をしながら距離を離そうとする。

 が、その度に被弾し、次第に押され始めていた。

 

「やっぱりどっちが天使を殺すかで、勝ちが決まりそうだねェ!」

「ケイの太ももの後は、先生の太ももも私がいただく」

 

 真面目な顔でミズヒは呟きながら、距離を焼却し天使の傍へと現れた。

 そして銃口を天使にぴたりとつけて引き金を引く。

 

 放たれた焔の弾丸は、勢いよく天使を燃やしていった。

 

「あ、ずるい!」

 

 ラッカはそれを見て空気を蹴ると、無理やり距離を詰める。

 そして燃やされてた方の天使へと槍を投擲した。

 

「あ、私の獲物だぞ!」

「へっへーん。どっちがどっちを殺すなんてルールはありませーん!」

 

 槍で貫かれた天使がビル群の中へと勢いよく落下する。

 その間にも牽制のつもりか、大量の砲撃と鎖が二人を襲うが、既に二人は動き出していた。

 

「トドメは私だ!」

「いいや私だね!」

 

 ラッカは空気を蹴り、ミズヒは距離を燃やす。

 天使は、それを見て再び転移をしようとして――。

 

『前提規則。桜庭ラッカと照上ミズヒから5メートル以上離れてはならない』

「規則違反です」

 

 体が不自然に二人へと近づいた。

 

「感謝する!」

「いい教え子を持って私は嬉しいよ!」

 

 二人は同時に得物を構え、そして障壁を力づくで破壊して一撃を放つ。

 その攻撃に耐えられる筈もない。

 焔と槍は、一体の天使を跡形もなく消し去った。

 二人の競い合いが始まって五分も経っていない間の出来事である。

 

「……ふっ、先生。どうやら私の方が一手速かったようだな」

「あっ、そっちにしかスコア加算されてない! くっそォ、ならあっちだー!」

「逆転させるわけにはいかない! ここで先生に初勝利をするぞ!」

 

 二人の目にはもはや第四の天使はただの獲物にしか映っていなかった。

 逸話も、槍も、彼女達にとってはこの競い合いを盛り上げる要素でしかない。

 干渉能力という重要なサポートを失った今の天使が二人の接近を許すのは、当然の事であった。

 

 天使の前で火の粉が舞う。

 

「獲った」

 

 背後には、槍を構えたラッカがいた。

 

「いいや、私だね!」

 

 天使は両者に挟まれ回避が不可能な事を悟り、すぐに逸話による防御と再生の準備を始める。

 そして二人が今まさに攻撃を――。

 

「講師の一撃は当たると信じているよ」

【大丈夫か皆!c=(c=(c=(゚ロ゚ c=アチャチャ-!!】 

 

 上空に紫色の転移魔法が生まれ、その中から声と共に巨大な腕が現れる。

 それはラッカやミズヒよりも早く、まるで予定調和の様に天使を真上から殴りつけた。

 

「あっ」

「ああっ!?」

 

【よく持ちこたえた! 後は俺に任せてくれ ( ・`ω・´)】

 

 巨大な翼で勢いを付けた講師は、そのまま天使に肉薄し更に天使の落下速度を速める。

 

【貴様を殺すなら、この大地で十分だ!】

 

 高度からのマッハ速度の落下は、それだけで即死の必殺技となる。

 逃げようとした天使だったが、既にその肉体に拳が深くめり込んでおり移動は不可能であった。

 そして、巨大な太ももの流れ星は空より墜ちて、大地を大きく震わせた。

 周りのビル群を巻き込み木端微塵にし、砂煙が上がる。

 

 やがてその中から姿を現わしたのは、その手で第四の天使を吸収し終えた講師であった。

 

【( ・`ω・´)キリッ】

「キリッ、じゃねえんだよォ!」

【えっ】

 

 すぐに背後から現れたラッカに蹴られ、講師は困惑する。

 全然微動だにしていなかったが、蹴られたショックはあった。

 

【だ、駄目だったのか? ヽ(´Д`;)ノ】

「駄目に決まってんだろォ! 私のスコアはどうなるんだよぉ!」

【……スコア? 先生、何を言っているんだ?】

「先生、私の方がスコアが高いから、私の勝ちだな」

 

 火の粉を散らして現れたミズヒの顔は、それはそれはドヤ顔であった。

 どうやら、勝ちは勝ちのスタイルを貫くようだ。

 

「ノーカンに決まってんだろォ! 講師が来なかったら私の方が攻撃が速かったしぃ?」

「むっ、それは違うぞ」

「んだァ? じゃあ試すか? 早撃ち勝負するか?」

【待て、どうしてそうなるんだ。第四の天使は倒せたじゃないか】

「それが駄目だって言ってんだよォ!」

【えぇ……(´・ω・`)】

「もうお前が代わりに第四の天使やれ! ほら、早くムキムキの太ももになれよ!」

【お前は何を言っているんだ】

 

 わいわいと騒ぐ彼女達を、後から入って来たケイ達は遠巻きに眺めていた。

 

「……手を貸さない方が良かったかな?」

「別にいいでしょ。あんなバトルジャンキーに付き合う必要なんて無いわ。それより……先輩、怪我はありませんか?」

「大丈夫ですよ。ふふっ、なんだかんだ言って、私達の事が心配だったから来てくれたんですよね?」

「……それは、まあ」

 

 ケイはミロクから視線を逸らして小さく頷く。

 しかし、ミロクがニコニコと微笑んでいる事に気が付いて、すぐに話を逸らす様にルシエラに言った。

 

「それより、早くあそこの馬鹿達を連れていった方が良いんじゃないかしら。このままだと、第二ラウンドが始まるわよ? それも、講師を交えて」

「はは、大丈夫さ。講師はこういう時はきちんと断れるし、なんなら先生に説教もできる」

 

 ルシエラの言葉を証明するように、クレーターの真ん中でちょこんと座ったラッカとその前に腕を組んで立つ講師が見えた。

 傍ではミズヒが気まずそうにしている。

 

「ああ見えて、彼は先生や求道者と違って好戦的ではないからね」

「意外ね。銀の黄昏って、常識人がいないと思っていたわ」

「ん?」

「どうかしたのかしら」

「……いいや、なんでもないよ」

 

 遠回しに自分も変人扱いされた気がしたルシエラだったが、すぐに講師の説明に戻る。

 

「彼は平和を誰よりも望んでいる。それでも見知らぬ誰かの為に、誰よりも多くの天使を殺したんだ。彼は徹底して、護る者なんだよ」

「そう。甘すぎるのね」

「だから彼は強いんだ」

 

 ルシエラは誇らし気にそう話を締めくくる。

 第四の天使が撃破された後の空には、講師の説教が響いていた。

 

 

 

■

 

 

 

「――時間ですね」

 

 求道者は空を見て呟く。

 彼女の体内時計は、正確に五分を計測していた。

 講師との約束の五分が、たった今過ぎたのだ。

 姿を消した彼は未だ戻らない。

 

「仕方ないですね」

 

 これ以上、避難民をこの場に留まらせておくわけにはいかない。

 たった五分で、既に遠くに天使の軍勢が見えていた。

 アレに滅亡という概念はない。あと30分もすればここはもう一度天使に支配されるだろう。

 自分の実力なら余裕であると判断した上で、求道者は背後にいる者達に向けて声を上げた。

 

「この中で腕に覚えのある者は前に出てください! 守る様に、円形の陣を組むのです! 自分の大切な人を守る気概くらいは残っているでしょう!」

 

 声に奮い立たせられた兵士たちが、我先にと巨大な円形を組む。

 それを見て、求道者は満足そうに頷き、つま先で地面を数回小突いた。

 

「まあ、貴方達が戦うのは限りなく低いもしも話ですけれどね。あの天使は、私が殺しますから」

 

 一対万を超える軍。

 求道者はそれでも嬉しそうに笑みを浮かべて天使に走り出そうとして――目の前に何か巨大な物が墜ちてきた。

 

「うわっ、何ですか!?」

「……」

 

 砂煙の中から講師が姿を現わす。

 その肩には、一組の男女が乗せられていた。

 

「あっ、おとうさん! おかあさん!」

 

 人々の中から聞こえた声に、講師の肩に乗っていた男女はハッとする。

 それを悟った講師は二人をそっと下ろすと、人の群れの中に消える彼らに興味が無いように背を向けた。

 求道者はその姿を見ながら、自分の頭に掛かった砂を払う。

 

「遅刻ですよ」

【すまない(´・ω・`)】

「まあいいです。……為すべき事を為したのでしょう?」

 

 講師は頷く。

 そして、求道者へと一枚の紙を差し出した。

 

【では、彼らを無事にアトラスティアに送り届けよう( •̀ω•́ )✧】

「当然です」

 

 改めて、講師は求道者の前に立つ。

 そして二人は同時に天使へと向けて駆け出した。

 

 

 

 

 これは、銀の黄昏にとってはなんてことの無い任務の一つだ。

 特に講師にとって、孤立都市の救援は日常と言ってもいい。

 

 強さの証明や快楽の為ではなく、自身の正義に従い彼は戦った。

 無辜の命を救う為。力なき者の代わりになる為。 

 

 やがて、彼は護り手でありながら一つの偉大な世界記録を打ち立てる。

 それは人類が初めて公式に博愛のソルシエラを越えたという事実に他ならない。

 

  ――天使最多討伐者。

 

 博愛のソルシエラよりも、世界一の特殊部隊よりも、武の女王よりも多く。

 彼は天使を殺した。

 護り手であるが故に。

 

 

 

 

 

 




※10/9に書籍化情報が色々と解禁されるらしいです! やったね!
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