【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
アトラスティアは一度、実質的な滅びを迎えている。
今、全てを停止させているシステムは、不明瞭な明日に問題を先延ばしするだけの行為であり、決定的な解決とは言えない。
風一つ吹かない世界に、生命が誕生するだろうか。
ただ天を見上げる者、武器に手を伸ばす者、輝きを見て咄嗟に娘を庇う者、一切合切が停止した世界は、銀の黄昏の敗北宣言でもあった。
この世界は救えない。
少なくとも、今のままでは。
世界中から博愛のソルシエラが集めた七人の英雄を以てしてもなお届かないが故に、そう結論付けざるを得なかった。
第六の天使。
その恐ろしさは、彼女達が一番よく知っている。
銀の黄昏の構成員は、己の感じた気配だけを信じて一斉に部屋を飛び出した。
トウラク達に一声かける時間も惜しいとでも言わんばかりに、それぞれが用いる最速の移動方法で観測可能な外へと移動したのだ。
慌てて後を追ったトウラク達が最初に見たのは、天に浮かぶそれを凝視するルシエラだった。
「――博士、数値は」
「魔力が活性化してる。なおも上昇中だ」
「こっちもまずいよー。停止システムが効いている筈なのにマズイよぉ!」
博士と学者がそれぞれ仮想モニターで絶望的な状況を読み上げる。
空に浮かぶ天使は、依然として静かに空中に留まったままのように見えた。
「ルシエラ、一体どうしたんだ」
トウラクは片手をルトラの柄に添えたまま問いかける。
理解できずとも、ただならぬ状況であることは分かった。
「牙塔トウラク、君はあの天使をどう見る」
「強いだろうね。恐らくは、僕とケイでようやく殺せる」
彼の卓越した観察眼が告げている。
それは、今まで自分が相対した天使の中で最も強い。
人の手が祈るように折り重ねて作られた一対の翼をもつ、鳥に酷似した巨大な天使。
星斬り・神羅を本気で活用しなければ、敗北は免れないだろう。
「妥当な所……と言いたいところだが、私からすればそれでも勝てるかどうか怪しい。私達は、7人であれに敗北したのだから」
トウラクは信じられないように天使を見る。
怖ろしくも神々しい天使は、この全てが止まった世界でも存在感を放っていた。
まるでこの世界の主のようだ。
「停止した世界では何も動けない。小石一つ破壊もできないし、基地の防衛システムすら起動できないんだ」
「その中で、こいつは確かに動いた。意識をこっちに向けたんだ。異常性がわかるだろ」
ルシエラの言葉を継いで、博士はそう毒づく。
「くそ、兆候はあったはずだ……いつだ。そもそも、どうやって!」
「……もしも、今までの法則を利用しているとしたら、どうかしら」
何かを思いついたように、ケイは口を開いた。
その眉間には皺が寄せられている。
まるで、そんな可能性など考えたくもなかったとでも言っているかのように。
「どういうことだ」
「私たち以外にも、自由に動ける存在がいたでしょう?」
「ああ、新たな厄災の天使だな」
「ええ。新たな厄災であれば、この空間に適応できる。そうよね」
「……っ、まさか!」
博士はケイの言葉を理解した様子で、第六の天使の観測方式を切り替える。
あくまで見るべきは一つ。
これまで現れた厄災の天使との類似点はあるのかどうか、である。
やがて観測されたデータは、最悪な形で博士とケイに応えた。
「体を構成する物質やエネルギーの波形パターンが、これまでの天使に酷似してる……!」
【博士、それはつまり……】
「こいつは、新たな厄災の天使として自身を再定義することでこの空間に適応しようとしているんだ!」
「ほんっとになんでもありだな第六の天使はよ! クソっ、講師、ダメ元で行くぞォ! 曰く桜庭ラッカの一撃は敵を討ち貫く」
【付き合おう( ゚д゚)】
ラッカが槍を投擲し、講師は第六の天使の懐へ飛び込む。
拳と槍は同時に天使に直撃し轟音と衝撃波を辺りに散らしたが、天使本体には傷一つ付けられていなかった。
「無駄だ。停止システムが守っている。皮肉だな。動きを封じるつもりが、今のこいつにとっては最強の守りだ」
「あーもうっ! じゃあいいよ、ノコノコと出てきたところをぶち殺してやるからよォ! 今の私は
【その意気や良し。……だが、素人ながら一つ質問良いだろうか、博士、ケイ】
「ええどうぞ」
「構わないが、その前置きは止めてくれ」
【あれが新しい厄災を適応して再顕現するという事は理解した。……なら、アレは順番的に第五の天使という事にならないか?】
講師の言葉を、ケイと博士は否定しなかった。
その可能性は、最初から思いついている。
それでも絶望的な現実を不用意に口にするのは控えていたのだ。
「……私も、そう思っているわ。恐らく私達の存在が理由ね。既に厄災を乗り越えた者がいる。だからアレは第六の天使から、第五の天使に引き下げられた」
「これまでの天使は過去の厄災と比べても強力な個体だった。今の僕達に合わせたスペックに調整されている可能性は否めないな。アレを殺しても……本当の第六の天使が現れるだろう」
絞り出された言葉にその場の全員が沈黙する。
かつて銀の黄昏が敗北した天使が、新たに格下げされたのだ。
その胸中に渦巻く感情は一言では言い表せないだろう。
少なからず彼女達の間では動揺が広がっていた。
だからこそ、誰かが先頭に立ちその意思を統一しなければならない。
「大丈夫――私達なら厄災に勝てると信じているよ」
ルシエラは天使を見上げながら、そう言った。
落ち着いた声で、全員に言い聞かせるように。
続いたのは、事実上厄災を殺した二人の戦士であった。
「そうね。あんな目立ちたがりの天使、さっさと殺してしまいましょう? ねえ、トウラク」
「そうだね。今度の天使も、随分と斬りごたえがありそうだ」
三人の言葉に、それぞれが希望を見る。
この場には天を殺しうる可能性を持った者が三人もいるのだ。何を恐れる事があるだろうか。
「さあ、あちらが準備をしているのならこっちも準備をしよう。博士」
「わかってるさ――行くんだろう、あの部屋へ」
博士はルシエラの方を見ずに、そう言った。
彼女は満足そうに頷き、彼に背を向ける。
「それじゃ、ここは頼むよ」
「任せろ」
間もなく、博士はコンソールを操作しつつ隣の学者を一瞥した
「……学者、俺の代わりにあいつに付いて行ってくれ。基地のシステムに詳しい奴が必要だ」
学者は恐る恐る彼へと問いかける。
「良いの?」
「何がだ」
「だって、あの部屋って事は……」
「あいつが決めたんだ。なら文句はない」
「……わかったよぉ」
学者は講師達にぺこりと頭を下げてから、ルシエラの後を追う。
それを見送ってから、ケイは博士へ視線をやった。
「あの部屋って何かしら。まだ秘密兵器があると?」
「どうだろうな。それはアイツ次第だ。必要になれば話す」
博士はいつもと変わりなく淡々とそう答える。
それから彼は、一連の操作を終えると立ち上がった。
どうやら、これ以上深く話す気はないらしい。
「さて、僕達は僕達に出来る事をするとしよう。ああ、先に一つ言っておくが」
彼は先頭に立ち、右手を軽く振る。
瞬間、彼の背後に無数の自律武装が顕現した。
その中でもひときわ目立つ青い蝶がひらひらと舞い、博士の指先に止まる。
「あれを殺すのは僕だ」
感情的に、端的に、彼は周囲に宣言する。
過去を知る者には改めて刻むように。
知らぬ者には譲れない一線を示すように。
あの天使を殺し、第六の天使も殺し、最後に天上の意思との決戦へとルシエラを送り届ける。
それだけが、博士に残された贖罪の道なのだから。
『おっけーテム子! 博士の過去を教えて!』
『すみません、あんまり交流なかったのでよくわかりませんでした。いかがでしたか?』
『ふむ……ここからは私の想像になるが、博士は実はルシエラの事が大好きな男装ロリなのでは?』
『うーん、余はわからん! 博士が忌子だという事はわかるが、それ以外は普通だしな。それよりも褐色巨女の場合はどの太もも規格が一番合うんだろうか。こういうの作るの初めてで相談したいぞ』
今日はミズヒ先輩が公開ソル~!