【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

572 / 572
第560話 天より墜ちた罪人1-4

 天上の意思と厄災に対抗しようとした組織は銀の黄昏が初めてではない。

 アトラスティアを作った学者を率いる組織や、サクラバ部隊、雲零の方が歴史は古いだろう。

 そして、超越倫理会(メタエティカ)もまた、古くから存在する対天上の意思派閥だ。

 ――超越倫理会、それは博士にとっては聞くに堪えない愚者の組織名であり、同時に己を生んだ母の名前でもあった。

 

 白く無機質な部屋には何もない。

 彼らの言う倫理に背くものは、全てが不要であるからだ。

 博士に許されたことは、与えられた命題を解き、倫理の元に論理を組み上げ、必要以上の思考をしない事である。

 超越倫理会に全てを管理されて生きていく。

 そんな彼の元に彼女が訪れたのは、偶然であった。

 

「――ここかな?」

 

 白い壁に罅が入ったかと思えば、次の瞬間には破壊された。

 あっけにとられる博士を前に、砂煙の中から極彩色の髪色の女が姿を現わす。

 それは博士が初めて目にする人間であり、絶世の美女であった。

 

「……お前は、誰だ」

「私を知らない!? ……うーん、サプライズ登場でびっくりハッピー大作戦が失敗してしまったか」

「いや、驚いてはいる。ただ、僕はお前の情報を取得するクリアランスに達していないんだろう」

「うーん、そうかそうか」

 

 女は屈み、博士と同じ目線に立つ。

 

「ふむ……確かに、君からは天使と人間二つの気配を感じるねぇ。やっぱりこの組織は潰して正解だった」

「?」

 

 博士は事態が掴めず首をかしげる。

 先ほどからこの女は何を言っているのだろうか。

 彼はそう疑問に思おうとして、止めた。

 それは彼には許可されていない思考であるからだ。

 

「どうでもいいな」

「おいおい、無視かい? ここは、組織を潰した!? と驚くところではないのかな? うーん、これなら雲零の剣の方がずっとわかりやすい。おい講師、どうやら作戦は失敗みたいだ」

 

 女が自らが入って来た大穴にそう呼びかけると、大男がひょっこりと顔を出す。

 正確には、紙袋を被っていたので顔はまったくわからなかったのだが。

 講師は無言で近づくと、紙を女に差し出した。

 

【人前でその呼び方はやめてくれ。恥ずかしい】

「おや、なら名前で呼ぶかい? 確か君の名前は私ほどではないが知れ渡っていたような気がするけどねえ。それを嫌っていたから、こうしてカッコいいコードネームをあげたんじゃないかぁ。大丈夫、銀の黄昏の人間は皆こうしてコードネームを付けてあげる予定だから」

【反発もありそうだが】

「そうかい? なあ、博士はどう思う」

「……」

「おーい、無視か? 無視なのかー?」

「……もしかして、僕の事か」

「そう!」

 

 女は指を鳴らす。

 そして、立ち上がると得意げに胸を張って博士を見た。

 

「カッコいいだろう? 君は今日から博士だ」

「は?」

 

 生まれて初めて博士の思考に空白が生まれる。

 その隙をつくように、女は名乗りを上げた。

 

「そして今日からこの博愛のソルシエラが君の上司であり頼れる先輩だ。……あ、そうだ、君が望むのなら母にだってなってあげようねぇ。愛とは自在に形を変えるものなのだから」

 

 博愛のソルシエラがつらつらと語る姿に博士はあっけにとられている。

 二人だけでは会話がまともに成立しないと察した講師は、博士に無言で紙を差し出す。

 

【混乱させてすまない。要約すると、君を助けに来たんだ】

「助けに……? 僕を?」

「おいおい、講師それは違うよ」

 

 博愛のソルシエラは博士に手を差し出す。

 

「私はこの子を、スカウトしに来たんだ」

 

 それは、博士が生まれて初めて現れた愛であった。

 

 

 

■

 

 

 

 アトラスティア上空で停止している天使は、時間経過と共にその威圧感を増していた。

 肌を刺すような感覚は、勘違いではない。

 辺りのエネルギーが、天使に反応しているのだ。

 未だに停止システムにより体を自由に動かすことは叶わないが、それは確かにこちら側へと急速に侵食していた。

 

「……凄まじい威圧感だな」

「何? ミズヒったらビビってんの」

「まさか」

 

 ミズヒは笑い、戦う意思を示すように銃口を天使へと向ける。

 

「思えば、あれだけ大きな天使を私は殺した事が無い。この戦いは、成長する良い機会だろう」

「おー、頼もしいねえ。ねえ見て、これ私の教え子。私に似て最強で美人なの。マジ、私ったら教える才能ありすぎね(笑)」

「ええ、とても良い子ですね。ちなみにミズヒさんは知っていますか? 実は先生って、男なんですよ」

「そうだったのか!? ……わ、わかった、教えてくれてありがとう指揮者」

「本人の目の前でなんて嘘ついてんだお前。ミズヒ、私は女! どう見ても女でしょ!?」

 

 素直な玩具で遊べる指揮者は更に嘘を付けたそうとしたが、すぐ隣に気配を感じて背筋を伸ばす。

 この場にはもう、嘘つきを正す者がいるのだ。

 

【おい( ゚д゚)】

「では私も準備を始めましょうかね。いやぁ、調和調和」

 

 そそくさと歩き出そうとした指揮者の頭を講師がしっかりと掴む。

 指揮者は相変わらず美しい笑顔だが、青い顔であった。

 

【お前は反対側で俺と一緒に天使を挟み撃ちだ】

「(心を打たれるすすり泣き)」

【それからもう一人、来てくれないだろうか。天使を四方向から同時に攻撃したい】

「僕が行きます。一緒に戦わせてください」

【おお、そうか! ありがとう、感謝するぞトウラク( ´∀`)人(´∀` )】

 

 白い刀を腰にぶら下げ、トウラクは準備を完了していた。

 天使と幾度となく戦い、天上の意思を殺した彼は、事実上の最高戦力の一人である。

 そしてもう一人、天上の意思を殺した少女はというと――。

 

「ケイ、私と一緒に行こうよぉ~! ねえ、ダブルミステリアス美少女コンビで行こうよぉ~!」

「自分のことをミステリアスという人間はミステリアスではないわよ、ネームレス」

 

 厄介な人間に絡まれていた。

 ケイに近づき頬ずりをしようとするネームレスだったが、間に大鎌を挟まれて防がれている。

 しかし、ネームレスは構わずその大鎌にも頬ずりをしていた。

 

「えー! でも絶対にケイもミステリアス美少女意識してたじゃーん!」

「……やめて、大声で言わないで。なんだか無性に恥ずかしくなってくるから」

「やろうよぉ、ダブルミステリアス美少女!」

「わかったから黙りなさい。……じゃあ、私はこの馬鹿とあちら側から攻めるから」

「ッシャオラァッ! じゃあねミロクちゃん!」

 

 ガッツポーズをしてネームレスは、したり顔でミロクを見る。

 彼女はその光景を微笑ましそうに見つめていた。

 しかし、その手に握られた翡翠色の銃はカタカタと震えている。

 

 と、そこに予想だにしていない方向から声がかかった。

 

「駄目だ。お前は月宮トアと収束砲撃の準備をしておけ。学者に複数エネルギータイプの収束砲撃を習っただろう? 僕の合図で撃つんだ」

「えっ」

「代わりに蒼星ミロクが行ってくれ。前衛と後衛で相性も良いだろう」

「そう言われては仕方ないですね、では行きましょうかケイちゃんほらこっちです」

「えっ、ミロク先輩、そんな手を掴んで引っ張らなくても――」

 

 ミロクに手を引かれてケイはそのまま遠ざかっていく。

 その光景を見てネームレスは博士に恨めしい視線を送った。

 

「私がケイの相棒なんだけど」

「それは知らん。これが一番効率が良いんだ。先生はそのまま照上ミズヒと共に左方向から頼む。ここは僕と月宮トア、そしてネームレスが受け持とう」

「……あ、あの、じゃあここで寝ている求道者は」

 

 トアが指をさす方向では、気持ちよさそうに求道者が寝ていた。

 博士は少し考える仕草をしてから、その周りを等分された死で覆う。

 

「これで守れる」

「すやぁ」

 

 これで準備は整ったと言わんばかりに博士は天使を見上げる。

 無数の兵装と配置された戦士たち。

 多くの殺意と敵意の前に、今それは完全に世界に降り立った。

 

『――これは、厄災である』

 

 初めに聞こえた声が、空に罅を入れた。

 それはやがて大きく四方に伸び、甲高い音と共に空そのものを割った。

 極彩色の世界を背にして、全てが停止された空間に鳥の形をした天使が舞い降りる。

 それこそが、かつて銀の黄昏が敗北した第六の天使――いや、今は第五の天使と呼ぶべきだろう。

 

 仰々しい翼と全てを見通す澄んだ眼が、世界を映し出す。

 慈悲ではなく、滅びをもたらすために。

 

『人類よ、抗って見せろ』

「行くぞ。戦闘開始だ」

 

 博士の号令で、各々が一斉に動き出す。

 この戦いに、敗北などあってはならない。

 その先に彼らは行く必要があるのだから。

 

「コード999:崩壊――バン」

 

 こうして、かつての世界の滅びとの再戦は幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ふふふ、誰もこの旧第六の天使の中から新生第五の太ももが現れるとは思うまい。お手並み拝見と行こうか人類よ』

『そりゃ誰も思わないでしょうって』

 

 

 

 

 




今日はトアちゃんの立ち絵が公開ネムねぇ……
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

【8/24 1巻発売!】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~(作者:不破ふわる)(オリジナル:現代/ホラー)

上位存在に日替わりで性別をコロコロされる生贄系転生者が、因習村を抜け出して怪異風味の現代ダンジョンに殴り込み(強制)を仕掛ける話。


総合評価:24167/評価:9.02/連載:204話/更新日時:2026年10月17日(土) 20:00 小説情報

転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない)(作者:ニテーロン)(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

2026/2/23「次にくるライトノベル大賞2025」文庫部門三位を獲得しました!▼2025/11/25「このライトノベルがすごい!2026」新作文庫部門第二位を獲得しました!▼電撃文庫様より1〜5巻発売中▼6巻、発売決定しました!▼2026/6コミカライズ連載開始しました。▼https://comic-walker.com/detail/KC_017970…


総合評価:42456/評価:9.33/連載:232話/更新日時:2026年10月09日(金) 18:04 小説情報

SF世界にTS転生した俺は治安維持部隊を全力で社畜する!(作者:宇宙のモナカ)(オリジナル:SF/冒険・バトル)

時は2155年。▼ブラック企業の治安維持部隊にTS転生した俺は、一介の労働者として今度こそ前向きに生きると決めた。▼与えられた任務をこなし、生き残るために体をサイボーグ化して効率を極める。▼ただそれだけなのに――▼冷徹に敵を蹂躙する姿から、敵対組織には「白い死神」と恐れられ、▼部下たちからは「過酷な運命を背負い、企業に酷使される悲劇の英雄」として崇拝されてし…


総合評価:8072/評価:8.47/連載:109話/更新日時:2026年10月15日(木) 07:00 小説情報

【書籍化】救いない怪異の世界をRPGの世界と勘違いしてるやつ(作者:流石ユユシタ)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

【9月12日発売。書籍発売】▼ 2032年、日本。
この国には異形の化け物――【怪異】が潜む。
だが、その事実を知る者は少ない。
表の世界は平穏を装い、裏でただひとつの集団――陰陽師が怪異を封じるために命を散らしてきた。▼ 倒すことは不可能。
祓うことも不可能。できるのは、ただ寿命を削って封印することだけ。▼ そんな理不尽な世界へ、ひとりの少年が転生した。▼…


総合評価:25433/評価:8.42/連載:110話/更新日時:2026年09月16日(水) 11:00 小説情報

壊れかけの聖女に俺がインストールされたらしい(作者:あまぐりムリーパー)(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

聖女ちゃんが、心を閉ざして動かなくなっちゃった、どうしよう!?▼せや、適当にそこら辺の魂突っ込んどけばええやろ!▼それで、俺が選ばれたってわけ▼んで、死なない体で化け物退治とかさせられてたんだけど、なんか聖女も狂信者も神官くんも、様子がおかしくない?▼※不定期更新▼カクヨム、小説家になろうにもマルチで投稿始めました


総合評価:4065/評価:8.23/完結:94話/更新日時:2026年08月11日(火) 20:15 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>