【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
天上の意思と厄災に対抗しようとした組織は銀の黄昏が初めてではない。
アトラスティアを作った学者を率いる組織や、サクラバ部隊、雲零の方が歴史は古いだろう。
そして、
――超越倫理会、それは博士にとっては聞くに堪えない愚者の組織名であり、同時に己を生んだ母の名前でもあった。
白く無機質な部屋には何もない。
彼らの言う倫理に背くものは、全てが不要であるからだ。
博士に許されたことは、与えられた命題を解き、倫理の元に論理を組み上げ、必要以上の思考をしない事である。
超越倫理会に全てを管理されて生きていく。
そんな彼の元に彼女が訪れたのは、偶然であった。
「――ここかな?」
白い壁に罅が入ったかと思えば、次の瞬間には破壊された。
あっけにとられる博士を前に、砂煙の中から極彩色の髪色の女が姿を現わす。
それは博士が初めて目にする人間であり、絶世の美女であった。
「……お前は、誰だ」
「私を知らない!? ……うーん、サプライズ登場でびっくりハッピー大作戦が失敗してしまったか」
「いや、驚いてはいる。ただ、僕はお前の情報を取得するクリアランスに達していないんだろう」
「うーん、そうかそうか」
女は屈み、博士と同じ目線に立つ。
「ふむ……確かに、君からは天使と人間二つの気配を感じるねぇ。やっぱりこの組織は潰して正解だった」
「?」
博士は事態が掴めず首をかしげる。
先ほどからこの女は何を言っているのだろうか。
彼はそう疑問に思おうとして、止めた。
それは彼には許可されていない思考であるからだ。
「どうでもいいな」
「おいおい、無視かい? ここは、組織を潰した!? と驚くところではないのかな? うーん、これなら雲零の剣の方がずっとわかりやすい。おい講師、どうやら作戦は失敗みたいだ」
女が自らが入って来た大穴にそう呼びかけると、大男がひょっこりと顔を出す。
正確には、紙袋を被っていたので顔はまったくわからなかったのだが。
講師は無言で近づくと、紙を女に差し出した。
【人前でその呼び方はやめてくれ。恥ずかしい】
「おや、なら名前で呼ぶかい? 確か君の名前は私ほどではないが知れ渡っていたような気がするけどねえ。それを嫌っていたから、こうしてカッコいいコードネームをあげたんじゃないかぁ。大丈夫、銀の黄昏の人間は皆こうしてコードネームを付けてあげる予定だから」
【反発もありそうだが】
「そうかい? なあ、博士はどう思う」
「……」
「おーい、無視か? 無視なのかー?」
「……もしかして、僕の事か」
「そう!」
女は指を鳴らす。
そして、立ち上がると得意げに胸を張って博士を見た。
「カッコいいだろう? 君は今日から博士だ」
「は?」
生まれて初めて博士の思考に空白が生まれる。
その隙をつくように、女は名乗りを上げた。
「そして今日からこの博愛のソルシエラが君の上司であり頼れる先輩だ。……あ、そうだ、君が望むのなら母にだってなってあげようねぇ。愛とは自在に形を変えるものなのだから」
博愛のソルシエラがつらつらと語る姿に博士はあっけにとられている。
二人だけでは会話がまともに成立しないと察した講師は、博士に無言で紙を差し出す。
【混乱させてすまない。要約すると、君を助けに来たんだ】
「助けに……? 僕を?」
「おいおい、講師それは違うよ」
博愛のソルシエラは博士に手を差し出す。
「私はこの子を、スカウトしに来たんだ」
それは、博士が生まれて初めて現れた愛であった。
■
アトラスティア上空で停止している天使は、時間経過と共にその威圧感を増していた。
肌を刺すような感覚は、勘違いではない。
辺りのエネルギーが、天使に反応しているのだ。
未だに停止システムにより体を自由に動かすことは叶わないが、それは確かにこちら側へと急速に侵食していた。
「……凄まじい威圧感だな」
「何? ミズヒったらビビってんの」
「まさか」
ミズヒは笑い、戦う意思を示すように銃口を天使へと向ける。
「思えば、あれだけ大きな天使を私は殺した事が無い。この戦いは、成長する良い機会だろう」
「おー、頼もしいねえ。ねえ見て、これ私の教え子。私に似て最強で美人なの。マジ、私ったら教える才能ありすぎね(笑)」
「ええ、とても良い子ですね。ちなみにミズヒさんは知っていますか? 実は先生って、男なんですよ」
「そうだったのか!? ……わ、わかった、教えてくれてありがとう指揮者」
「本人の目の前でなんて嘘ついてんだお前。ミズヒ、私は女! どう見ても女でしょ!?」
素直な玩具で遊べる指揮者は更に嘘を付けたそうとしたが、すぐ隣に気配を感じて背筋を伸ばす。
この場にはもう、嘘つきを正す者がいるのだ。
【おい( ゚д゚)】
「では私も準備を始めましょうかね。いやぁ、調和調和」
そそくさと歩き出そうとした指揮者の頭を講師がしっかりと掴む。
指揮者は相変わらず美しい笑顔だが、青い顔であった。
【お前は反対側で俺と一緒に天使を挟み撃ちだ】
「(心を打たれるすすり泣き)」
【それからもう一人、来てくれないだろうか。天使を四方向から同時に攻撃したい】
「僕が行きます。一緒に戦わせてください」
【おお、そうか! ありがとう、感謝するぞトウラク( ´∀`)人(´∀` )】
白い刀を腰にぶら下げ、トウラクは準備を完了していた。
天使と幾度となく戦い、天上の意思を殺した彼は、事実上の最高戦力の一人である。
そしてもう一人、天上の意思を殺した少女はというと――。
「ケイ、私と一緒に行こうよぉ~! ねえ、ダブルミステリアス美少女コンビで行こうよぉ~!」
「自分のことをミステリアスという人間はミステリアスではないわよ、ネームレス」
厄介な人間に絡まれていた。
ケイに近づき頬ずりをしようとするネームレスだったが、間に大鎌を挟まれて防がれている。
しかし、ネームレスは構わずその大鎌にも頬ずりをしていた。
「えー! でも絶対にケイもミステリアス美少女意識してたじゃーん!」
「……やめて、大声で言わないで。なんだか無性に恥ずかしくなってくるから」
「やろうよぉ、ダブルミステリアス美少女!」
「わかったから黙りなさい。……じゃあ、私はこの馬鹿とあちら側から攻めるから」
「ッシャオラァッ! じゃあねミロクちゃん!」
ガッツポーズをしてネームレスは、したり顔でミロクを見る。
彼女はその光景を微笑ましそうに見つめていた。
しかし、その手に握られた翡翠色の銃はカタカタと震えている。
と、そこに予想だにしていない方向から声がかかった。
「駄目だ。お前は月宮トアと収束砲撃の準備をしておけ。学者に複数エネルギータイプの収束砲撃を習っただろう? 僕の合図で撃つんだ」
「えっ」
「代わりに蒼星ミロクが行ってくれ。前衛と後衛で相性も良いだろう」
「そう言われては仕方ないですね、では行きましょうかケイちゃんほらこっちです」
「えっ、ミロク先輩、そんな手を掴んで引っ張らなくても――」
ミロクに手を引かれてケイはそのまま遠ざかっていく。
その光景を見てネームレスは博士に恨めしい視線を送った。
「私がケイの相棒なんだけど」
「それは知らん。これが一番効率が良いんだ。先生はそのまま照上ミズヒと共に左方向から頼む。ここは僕と月宮トア、そしてネームレスが受け持とう」
「……あ、あの、じゃあここで寝ている求道者は」
トアが指をさす方向では、気持ちよさそうに求道者が寝ていた。
博士は少し考える仕草をしてから、その周りを等分された死で覆う。
「これで守れる」
「すやぁ」
これで準備は整ったと言わんばかりに博士は天使を見上げる。
無数の兵装と配置された戦士たち。
多くの殺意と敵意の前に、今それは完全に世界に降り立った。
『――これは、厄災である』
初めに聞こえた声が、空に罅を入れた。
それはやがて大きく四方に伸び、甲高い音と共に空そのものを割った。
極彩色の世界を背にして、全てが停止された空間に鳥の形をした天使が舞い降りる。
それこそが、かつて銀の黄昏が敗北した第六の天使――いや、今は第五の天使と呼ぶべきだろう。
仰々しい翼と全てを見通す澄んだ眼が、世界を映し出す。
慈悲ではなく、滅びをもたらすために。
『人類よ、抗って見せろ』
「行くぞ。戦闘開始だ」
博士の号令で、各々が一斉に動き出す。
この戦いに、敗北などあってはならない。
その先に彼らは行く必要があるのだから。
「コード999:崩壊――バン」
こうして、かつての世界の滅びとの再戦は幕を開けた。
『ふふふ、誰もこの旧第六の天使の中から新生第五の太ももが現れるとは思うまい。お手並み拝見と行こうか人類よ』
『そりゃ誰も思わないでしょうって』
今日はトアちゃんの立ち絵が公開ネムねぇ……