【12/12 1巻発売!】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
アトラスティアは24時間、喧騒に溢れていた。
世界最後にして最強の防衛基地は眠る事を許されない。
この都市が機能を停止する時は、人類が敗北した時だろう。
いつ見下ろしても、人々はせわしなく動き回っている。
その光景にも、そろそろ慣れてきたところだ。
「やあ、博士」
博士は振り返らない。
代わりに、構うのは時間の無駄だとでも言いたげに仮想ウィンドウをもう一つ展開した。
その中には、解析途中の天使の情報が表示されていた。
地球上のどの生物とも合致しない特殊な存在――天使。
しかしそれも博士にとっては自身の体を調べる程度の事でしかない。
「ふむふむ、天使の解析は順調のようだねぇ」
「冷やかしなら帰ってくれ。忙しい」
「わかっているとも。だから仕事を依頼しに来たんだ」
「言葉が通じていないのか?」
忙しいと言った相手に、博愛のソルシエラは笑顔で仕事を差し入れに来たようだ。
彼女は博士のデスクに腰を下ろすと、仮想ウィンドウを凝視した。
「ここまで解析できるとは、スカウトした甲斐があったというものだ」
「僕にとっては簡単な事だ。天使のデータが必要になったなら、自分の血を採取すれば良いだけだからな」
博士は自分の白い腕を見て無感情に答える。
その光景を、博愛のソルシエラは少しだけ悲しそうにしながらも笑った。
「クレバーだねぇ。そう言えば、銀の黄昏の居心地はどうだい? 悪くないだろう」
「うるさい奴が多い。特にあのチビと嘘つきはなんだ」
「良い子達だよ」
「僕にはそうは思えないね」
「ならあの子はどうだい? 素直な良い子で、勤勉だ」
「……教授は素直過ぎるな。あれはいつか折れる」
「君達が支えてくれるだろう。私はそう信じているよ」
博愛のソルシエラはそう言って一枚の紙を博士の前に差し出し、視界を遮る。
この時代にアナログな紙でいつも依頼をしてくるというのも、博士からすればストレスだった。
「今度はなんだ!」
「いくつかの魔法式を完成させてほしい。私はその辺が疎くてねぇ。少し作ったところで諦めてしまった」
「お断りだ。僕は忙しい。もうすぐ、第一の天使が降臨するんだろう? 一つでも多く、武装を作らなければならない」
「そうだ、もうすぐだ。だから必要なんだよ」
彼女にしては珍しくその声は落ち着いていた。
いつもはまるで舞台の上にいるように大げさで楽し気な彼女が、平坦に告げている。
「それにこの魔法式が完成すれば、君の望むことだって叶うだろう」
「僕の望みを知らないくせに」
「肉体からの脱却だろう」
「……っ、正解だよ」
「ははは、博愛のソルシエラはなんでもお見通しさ」
博愛のソルシエラは博士の肩を叩き、部屋を後にする。
断る間もなく一人残された博士は、ため息をつきながら作りかけの魔法式とらやに目を通した。
彼は敏い。
故にそれがなにを目的とした魔法式であるかをすぐに理解してしまった。
執念とも言えるほどに何重にも付け足された死のトリガーと丹念で用意周到な殺意を、魔法として破綻しないギリギリまで詰め込んでいる。
それはたった一人を殺すために作られた魔法であった。
即ち。
「……博愛の銘を殺す魔法」
銀の黄昏に選択の時が迫っている。
■
今、銀の黄昏には選択の時が迫っていた。
「おい、講師! 勿体ぶってる場合じゃねえよこれ! ストック吐き出せ!」
【だが、これが第五であるならば――ぬっ!?】
僅かにラッカに意識を向けた講師の目の前に巨大な鳥のかぎ爪が現れる。
彼は咄嗟に腕を交差させてそれを受け止めようとするが、衝撃を殺しきれず、そのまま天使に押しつぶされるようにして地面を引き摺られた。
【(#゚Д゚)】
講師の背中が盛り上がり、白い蜘蛛のような足が八本生える。
そして地面にそれらを突き立てながら、なんとか動きを止めようとするが彼一人では足らない。
「重力って、実は無いんですよ」
と、その時天使と講師の体がふわりと浮き上がり、彼は焔に包まれてその場から消えた。
「大丈夫か」
【助かった! (´Д`;)】
ミズヒの傍に姿を現わした講師はすぐに立ち上がろうとしたが、片膝をつく。
彼はこの戦いが始まってから常に前線に立ち続けていた。
その負担は、着実に蓄積している。
【このままでは、あの時と同じだ】
今、ここで選択しなければならない。
過去の再現を無様に行うか。
それともこの場を凌ぎ、次を無策で挑むか。
銀の黄昏は、この天使を殺せるだろう。
しかしそれは、全力を出すことが条件であった。
【くっ、ここで切り札を使ってしまっては第六の天使と天上の意思が……】
「――問題ないわ」
天使の体を銀の鎖が縛り上げる。
そして周囲に大量の砲撃陣が浮かび上がった。
閃光が煌めき、大量の砲撃が地を満たす。
しかしそれも、彼女にとっては余興に過ぎないのだ。
「はははっ、久しぶりの外の世界だが中々どうして良いじゃないか」
ソルシエラは依然として、外壁の上にいる。
ならば、今まさに天使の頭上に浮かび砲撃を放っている瓜二つのそれは一体。
答えをトウラク達は知っていた。
「0号」
誰かの声に、0号は嬉しそうに顔を歪ませて頷く。
双星形態。
主人とデモンズギアが共鳴状態に移行し、魔力を爆発的に増加させる形態だ。
「ああ、私だ。なにやら面白そうなことをしているじゃないか。それに……ここは妙に懐かしい気がしてねぇ、居ても立っても居られなかったよ」
【……あの話し方、いや、気のせいか】
講師は何かを感じたが、それは与太話だとして否定する。
そんな彼の事など知らず、0号はケイの傍に降り立った。
「さあ相棒、久しぶりに踊ろう。ここは私の為の舞台のようだから、エスコートはするさ」
「そう」
ケイは素っ気なく返すと、講師へと視線を送る。
「見てられないから、少しだけお膳立てしてあげる事にするわ」
【ありがとう、心優しき戦士! 君は本当に優しいんだな!】
「……調子狂うわね」
ケイは一瞬、面白くなさそうに表情を歪ませる。
が、すぐにいつもの余裕そうな笑みに戻ると、トウラクと0号に告げた。
「1分だけでいいわ。私を守ってくれる?」
「『当然』」
「おいおいおいおい! 守護るのは私の務めだろう!? この男なんていらないさ!」
「『ご主人様の御指名なんだから、大人しく言う事を聞いたらどうだ?』」
「チッ、いつの間にこんなに面白くない奴になったんだい?」
悪態をつきながら、0号とトウラクはケイを守るように立つ。
間もなく、鎖を全て断ち切った天使の咆哮と共に戦いは再開された。
「――」
ケイの足元に白い魔法陣が展開される。
眩く澄んで美しい芸術品のようなそれは今まで誰も見たことが無い魔法陣であった。
様子見をしていた博士は少しの間それを観察し、吐き捨てる。
「相変わらず中身が無い魔法陣にしか見えないな。秘密主義は健在か」
独り言だったそれに、傍で収束砲撃の準備をしているネームレスが何故か自慢げに答える。
「それがソルシエラだもん。秘密に覆われた美しい夜の星……そして私の前では乱れ――もがっ!?」
口の周りに銀の鎖が現れ、グルグル巻きにされる。
どうやら星はしっかりと聞いていたらしい。
「はぁ、ネームレスには後でお説教ね」
この間も魔法陣の構築は進み、天使とトウラク達との戦いは激化している。
ケイの足元で、魔法陣はカチ、カチ、と音を鳴らす。
まるで、時を刻むように魔法陣は一定周期で回り続け、そして丁度一周した瞬間――何かが開いた。
「『――っ!?』」
「はははっ、マジかよ!」
【この気配は……!?】
トウラクは思わず振り返り、ラッカは笑い、講師は身構える。
視線はケイに集中していた。
いや、正確には彼女の足元から溢れだすその膨大なエネルギーか。
混沌として、不定形のそれは、構築される前の世界そのもの。
人間では知覚すら本来は不可能な筈のそれは、ケイの体に纏うようにして形を成していく。
誰もがその光景を本能的に否定した。
あり得ない。
何故ならそれは。
「――星詠みは、天に至る」
禁忌を咎めるように天使は、閃光の中へと飛翔する。
しかしそれは銀の鎖と斬撃により止められた。
「これ以上先は立ち見は入れないよ」
「『悪いが、ここから先は通せないな』」
天使はそれでも吠える。
それは、人間が侵してはならない領域に手をかけている。
ならば、天使として裁きを与えなければならない。
いたって忠実に天使は、裁きの為に前に進もうとして――遥か後ろに弾き飛ばされた。
「優秀なガードマンね」
果たして、それが天使が蹴り飛ばされたからだと誰がわかっただろう。
今まで天使が居た場所には、代わりに蹴り抜いた後の姿で彼女が立っていた。
足元に浮かぶ魔法陣の上に立つ彼女は、その手に細身の大鎌を持ち、腰につけた黒いマントを揺らしている。
「私も久しぶりに暴れてしまおうかしら」
白のショートパンツに、拘束具のように胸部を締め付ける数本の黒いベルト。
その上から白い軍服風のジャケットを羽織る姿はいつもの彼女とは違い、威圧的な印象を見る者に与えた。
それも当然の事だ。
何故なら今から振るう力は、人間の為のものではないのだから。
今のケイは、力だけを見るならば裁定者である。
言うなれば――
天上の力を纏いながら、天上の厄災に立ち向かうという矛盾。
それすらもあざ笑い、彼女は当然のように笑う。
「それじゃあ、ここからが本番よ」
天上は既に、ただ厄災をもたらすだけの存在ではない。
『出来ました。これが私の答え。拘束具と白軍服を組み合わせたショートパンツスタイルです。白い軍服の中は黒のノースリーブシャツです。これにより、軍服を脱げば、解放感のある軽装スタイル。軍服を纏っていれば威圧感を演出できます』
『これがシステム先輩の本気……!』
『しかも動けばおへそが見えるように丈を調節しました。下二つのボタンを留めていないのは仕様です』
『こいつやっぱ私と同じくらいどスケベだろ』
『テム子は軍服好きだね。前もぴっちり軍服作ってたもんね。よーしこれで頑張っちゃうぞ!』