【12/12 1巻発売!】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
それは当然の結果とも言えるだろう。
魔法が発展すれば、対魔法装甲を持った天使が。
異能が発展すれば、異能を自在に扱える天使が。
霊力なら、エーテルなら、科学なら――。
天使は、人類に限られた一つの光明を許さない。
生存の道を複数用意しなければ、真の意味で発展しているとは言えない。
ならば、S-17521と呼ばれるこの世界で最も発展した人類の武器とは何だろうか。
それは魔法でも剣技でもない。
ただ一人の英雄が残した希望の残り火を分割し、研磨し、その身に宿した――銘。
天使は今、銘を以て銘に対し裁定を行う。
それは全位相世界で、初めての事だった。
「博士、それマジで言ってる? 天使が銘を持ってるって事!?」
「恐らくはそうだ。銘を持っている者と同じ力を計測できてしまったからな。それに、あの異常な不死。どう考えても銘だ」
【そんな天使は聞いたことが無い。これも俺達に適応したという事なのか?】
「恐らくは」
天使は自ら攻撃を放つことはない。
まるでリングの上で挑戦者を待つ様に、中心に佇んでいるだけだった。
「ほとんどの人類が停止した事で、僕達が人類の標準個体として認識された可能性がある。ここにいる全員が、どんな形にしろ銘を持っているからな」
【むう、銘同士の殺し合いは不毛だぞ】
「良く知ってる。だから、今対抗策を考えているところだ」
博士は武装から意識を切断し、思考能力を更に上昇させる。
銘を持つとなれば、作戦は大きく変わるだろう。
「もう、博士は頭でっかちだなぁ」
ラッカは槍を生み出し、天使を見る。
「こんだけ最強がいるんだから、誰かしら殺せるでしょ!」
【またそんな適当な事を…… ┐(´-`)┌】
「取り敢えずボコボコにしてから、考えればいいんだよ!」
ラッカは叫び、天使に攻撃を仕掛けていた。
様子見などしない。
彼女は、天使にめがけて必殺の槍を放つ。
しかし、もう天使は回避も防御もしなかった。
その胸が透明な槍に貫かれるが、天使は平気そうにラッカを一瞥し、興味を無くす。
一瞬の沈黙。
ラッカにとってその対応は、何よりも許し難いものだった。
「……おい、今私を雑魚と判断したか?」
天使は答えない。
代わりに、ケイの方を見た。
そちらの方が脅威であると、天使の行動が伝えている。
「この私を取るに足らない存在だから無視していいって、判断したのか?」
ラッカの心臓部に魔法陣が展開される。
それは彼女が第六の天使、そして天上の意思との決戦の為に用意していたとっておきだったのだが――。
「命題焼却ゥ!!」
戦闘狂の彼女にとって、戦場での無視は何よりも許し難いものだった。
「怒ってますね、先生」
「……この感覚はあの時の」
「また繋がってるよぉ!」
「うわ、私まで繋がってるし」
教え子四人の中に残された銘がラッカと共鳴する。
そして、憧憬の銘の出力を爆発的に増大させた。
「ブッ殺す!」
【まて、先生――ああっ、もう駄目だ。頭に血が上ってる(ノ∀`)アチャー】
「(虚空からサイリウムを取り出し、優雅な笑顔で振る)」
桜色の閃光が天使に突撃をする。
それをきっかけに、ケイ達も戦いを再開した。
全員が切り札を切ったこの戦いには、もはや撤退すら許されない。
「……どうする」
「ねえねえ、私達っていつまで収束砲撃の準備していればいいの? まだー?」
「今撃っても無駄だ。少し待て」
「チッ、これじゃあ愛しのケイを守れないじゃん。どうすんのさ、あの子のあんな白い太ももに傷がつい――もごっ」
「もう、変な事を言ってケイちゃんを困らせるのやめようよ……」
鎖で再び話せなくなったネームレスを見てトアは呆れる。
激しい爆発に、彼女はすぐに視線を上空に移した。
そこでは、ケイとラッカを筆頭として、天使との空中戦が行われている。
銘の共鳴によって、ラッカの攻撃は苛烈を極め、天使を再び圧倒していた。
「次は私の事を一番警戒させてやるよォ!」
「はあ……」
二人は入れ替わるように次々と天使に連撃を仕掛ける。
槍が放たれれば確実に当たるように四肢を銀の鎖が縛り、大鎌を振るえば天使の5秒先で直撃が確定させられた。
一人、頭に血が上ってはいるもののそれは連携としては成立している。
現に天使は迎撃をする前に、事前行動すらも潰されていた。
「もっかい消し炭になれェ!」
ラッカが足にガラスの靴を纏い、高く蹴り上げる。
それを見てケイは今まで静観をしていた自身の半身を呼ぶ。
「0号」
「ああ」
ケイはその場で蛇腹鎌を振るう。
転移魔法陣を通過し天使の元へと届いた刃が天使を囲った。
当然、そこには敢えて一つの逃げ道が残されている。
「裁キヲ」
その穴に誘導されるように飛翔した天使は、すぐにその翼を不可視の斬撃により切り落とされた。
制御を失い落下していく天使の視界に、刀を鞘に納めるトウラクと、収束砲撃陣を展開した0号の姿が映る。
「『余計だったかな?』」
「ああ、腹立たしい程に助かった。私とあの子だけで殺しきれたがね」
再び収束砲撃が放たれる。
対して地上に降り立ったラッカは、氷の槍を手にしていた。
「凍てつけ」
槍が放たれ、天使へと直撃した瞬間にその体を凍らせていく。
それは自然現象を超え、概念の凍結まで至った。
「実はその体、力が入らないらしいですよ」
天使の抵抗する力が抜けていく。
凍結し無防備になった天使へと再び収束砲撃が降り注ぎ、辺りを銀の光と衝撃が満たしていった。
一度、天使を消滅させた収束砲撃が再び放たれたのだ。
――しかし、天使は既にそれを超越している。
「裁キヲ」
収束砲撃の中から飛び出してきた天使は、浅い傷のみで先ほどのように体が消滅することすらなかった。
体表の傷も、既に治り始めている。
そんな天使の背後には既にケイが迫っており、大鎌と上下からの砲撃が準備を終えていた。
「そう、まだ満足しないのね」
振るわれた刃を天使は片手で受け止め、砲撃を翼で弾く。
その光景はケイですら予想していなかった、異常なものであった。
「っ、成程。そういう絡繰りね!」
まざまざと見せつけられたケイは、面倒そうにため息を吐きながら後方へと飛びのく――その目の前に既に天使は迫っていた。
「速っ――」
「規則違反です!」
天使の翼がケイを貫くその瞬間に、体が大きく弾かれる。
聞こえてきた声に、ケイは内心で胸をなでおろした。
「ありがとうございます、ミロク先輩」
「あまり無茶しないでくださいね」
『ミロク、こっちに来てます故』
天使はミロクの方を見ると、興味深そうにして動き出す。
歩き出したかと思えば、既に天使はミロクの前にいる。
その速度は、加速と無敵を相手にした時を遥かに超えていた。
『前提規則、蒼星ミロクに危害を加えてはならない』
「規則違反です」
ミロクの周囲に規則が適応され、彼女は絶対的な守りを得る。
しかし天使は既にそれを超えていた。
規則を超越し、その手がミロクの目の前に伸びる。
「ミロク先輩!」
「ミロク!」
その手がミロクの瞳に突き刺さる刹那の間、彼女の体は焔と共に消え、代わりにそこには脚に魔力を収束し終えたケイがいた。
「それは違うでしょ。相手は私」
低く冷たい声で呟いたケイの重く鋭い一撃が天使の腹部に突き刺さり、遥か後方へと飛ばす。
上半身が蹴りの威力で木端微塵になった天使だったが、破壊された肉体はすぐに再生を始める。
まるでケイの攻撃も、既に問題ないかのように。
「……やはり、僕達の攻撃に耐性を付けている」
一度は通用した収束砲撃も、互角だったはずの速度も、通用しない。
天使の全てが一段階の進化を遂げているのだ。
「効果は理解した。恐らくは、僕達を参照してさらに強くなるんだろう。言わば、超越の銘か」
「名付けてる場合!? どうすんのさそれ! 前みたいな学園都市の魔力を集めるとかも出来ないんだよ!」
「安心しろ。常に進化を続ける相手も、銀の黄昏は想定していた」
博士の言葉に、ネームレスとトアはホッとする。
このままでは、手が付けられない程に進化した天使に蹂躙される未来しか見えないからだ。
「じゃあ、さっさと対抗策出してよ!」
「ん」
「……寝てる求道者がどうしたの?」
「理論上、理想の銘が同じことを出来るからこいつが進化する相手担当だ」
「すやすや」
「寝てるじゃん!」
蝶々の守りの中で丸まって眠っている求道者に、ネームレスは悲鳴に近い形でそう叫んだ。
「そう騒ぐな。今、求道者おはようシステムを作ってる。指揮者の悪夢の応用だ」
「すやぁ」
「やれやれ。一人だけ心地の良い夢の中か……ん?」
と、その時博士の前に影が降り立つ。
それは、先ほどまではケイの傍にいたはずの0号だった。
彼は意図がわからず眉を顰め、彼女の言葉を待つ。
が、彼女は何も言わず見覚えのある笑顔を携えていた。
『天上君、ミロク先輩は駄目だよ』
『ほ、本当に攻撃を当てる気はなかったんだ! それよりも博愛の銘の事だ。やっぱり余は間違ってなかったぞ! やっぱりあれ、ちょっと何でもありすぎる!』
『な、なんだこれ……私の意志とは別に体が動く時があるぞ……!?』
『コンテンツ怪談話ですか?』