【12/12 1巻発売!】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
ルシエラが彼女を見間違える事など無い。
その体に宿した博愛の輝きは、彼女が憧れたものなのだから。
「今度は、星斬りのような銘のコピーではないようだね」
博愛のソルシエラは一言も発さない。
その場に立つ彼女は、会話ではなく見届けるために来たのだ。
ルシエラにはそれがよくわかった。
彼女は既に語るべき言葉を語り、別れを終えている。
過去の英雄は、過去に残るべきだと博愛のソルシエラは考えているのだろう。
「博愛を持つ貴女なら、まさか喋る事が出来ないなんて言わないだろう。貴女は本当に意地悪だ。……ならここからは、独り言だと思ってくれればいい」
ルシエラは棺に手を添える。
それは今、この停止した世界では開くことが無い。
この中に残された物も、世界と共に時を止めたのだ。
「私は貴女を理解したかった。理解して、少しでも救いたかったんだ」
棺を指先で撫でる。
停止した世界では、温度など感じない筈なのに指先には金属の冷たさが伝わってくる気がした。
「報われないだろう、このままじゃ。貴女には生きる権利と義務がある。英雄じゃなくて、一人の人間として」
ルシエラはそれから、学者へと通信を繋ぐ。
「学者、待たせたね。合図を送るからそれに合わせて認証システムを破壊してくれ」
『わかったよぉー!』
間延びした元気な声にルシエラはにやっとして、博愛のソルシエラを改めて見た。
「聞いたかい? これは学者の声だ。他にも、講師や指揮者、求道者……銀の黄昏の全員が生きている。あの日間違った愚か者だが、ようやく正しい道を歩けている気がするんだ」
ルシエラは合図を送るために、仮想ウィンドウを傍に展開する。
後は彼女がそれで信号を送れば、学者の手によってこのこの世界は再び動き出すのだ。
だが、それだけでは足りないとルシエラは笑う。
そして博愛のソルシエラを指さして、告げた。
「私は、貴女にも明日があると信じているよ」
今まで優しく微笑んでいただけの博愛のソルシエラが、初めて驚いたような表情をする。
それだけで今は十分だった。
「ただ世界を救うなんて私達、銀の黄昏には簡単すぎる。最高の英雄を7人も集めてやることがそれだけか? 違うだろう」
仮想ウィンドウに手が伸び、信号が発信される。
その一秒後、どこからか聞こえる破壊音と共に世界は再び動き出した。
「私達は必ず貴女も救う。誰がなんと言おうが関係ない。貴女と共に歩む明日を信じたいんだ」
背後にあった棺がルシエラの魔力を感知して開く。
銘を保存するための特殊な魔力気体が棺から白い煙となって流れ出ていき、最後にはガラス玉のような何かが残された。
「博愛のソルシエラ、少しの間これを預かるよ」
ルシエラはそれを手に取る。
見た目以上にずしりと重く、そして熱を帯びたそれはこの世で最も偉大な銘の欠片であった。
――博愛の銘は、まだこの世界に残存している。
戦う為ではなく、彼女を蘇らせるための座標として使う目的で厳重に保管されていたそれをルシエラは手に取った。
天上の意思に抗う為に、彼女はその力で戦う道を選ぶ。
「それじゃあ次は、救われた世界で再会するとしよう、博愛のソルシエラ」
ルシエラは優雅に笑い、礼をする。
そして顔を上げた時、彼女の姿はもうどこにもなかった。
「学者、このまま合流しようか」
『その様子だと、博愛の欠片は回収できたんだねぇ』
「ああ。ここからだよ、学者。天上の意思に銀の黄昏の強さを見せてあげよう」
『わかったよぉ!』
ルシエラは空になった棺を一瞥して、背を向ける。
もう、この部屋には用はない。
■
戦いの最中、唐突に世界が切り替わった事は、全員に伝わった。
辺りを覆っていた妙な息苦しさが今はない。
風は吹き、魔力は流れ、陽は照っている。
そして、その地に生きる人々も。
「――っ、なんだあれは!」「天使だ。天使がいるぞ!」「さっきまで戦っていた第六の天使はどこだ!?」「まだ間に合う! 早く避難しろ!」
にわかに騒がしくなり始めたアトラスティアは、もはや彼女達だけの世界ではない。
「『世界が動き出した』」
「そうね。足を引っ張るような愚か者がいないと良いのだけれど」
天使と戦い続けながら、ケイを筆頭として別位相から来た者達は守るべき存在を自覚する。
今までのように好き勝手に戦うのではなく、守りながらの立ち回りが必要だ。
しかし、銀の黄昏は違った。
「聞けェ!」
都市中に響く声で、ラッカが叫ぶ。
その声に、民たちは自然と耳を傾けていた。
「こいつは求道者と同じタイプだ! この天使の相手は私達がする! お前らは援護に回れェ!」
【怪我をしているものは基地内に! 戦える者は、天使の群れに備えて外壁を中心に固めろ! 降臨するのがこいつだけだと思うな!】
詳細を説明する必要はない。
先生と講師が言った。それが何よりも最上の説得力を持つのだから。
それが人類最後の都市の持つ熱気だろうか。
滅びの一歩手前であろうとも、彼らは雄たけびで返事をして、各々の最適な行動に移っている。
後押しされるように、ラッカの攻撃速度が再び上昇を始めた。
「っぱ、逸話は最新が最強だね」
憧れは彼女に敗北を許さない。
地上から彼女を見上げる多くの瞳が、そのまま彼女の力に転換されていく。
離されつつあった距離が縮み、その槍が天使の翼を貫いた。
空を飛ぶ軌跡が僅かにぶれたその隙を逃さず、二つの規則が天使を縛り上げる。
『前提規則、攻撃を回避してはならない』
「天使って実は警戒心が無いらしいですよ」
嘘とルールが天使に適応される。
回避行動を行おうとしたペナルティで動きは停止し、それをまずいと思う思考回路すら無かった事にされた。
四肢は既に焔が焼却を始め、前後から斬撃と銀の閃光が飛来する。
一見して圧倒する彼女達の姿を、博士はただ観察していた。
「……そうだ、もっと超越の銘のデータをくれ。必ず僕が完成させてやる」
その視線は一度も天使から外れる事はなく、指はひたすらに超越の銘を殺すための魔法式を打ち込み続けている。
何度も再生をして、その度に強くなる天使に英雄たちは食らいつき、凌駕し、何度も殺す。
その全ての過程を完全に記憶、分析し、天使を6回殺したその時――それは完成した。
「出来た」
博士は即座にそのシステムをトアの持つ重砲へと転送する。
兵装が組み合わさり巨大になった重砲は、更に辺りのエネルギーを収束している最中だ。
トアは必死にその操作レバーを握って天使のいる方へと重砲を向けようとしているが、足元に展開された漆黒の魔法陣に涙を浮かべた。
「今度はなにぃ……!?」
「ビビるな、月宮トア。銘殺しが完成しただけだ」
博士は近寄り、傍で天使を見上げる。
「さて、後は収束を終えてこれを直撃させるだけだが……」
7回目。
講師の牙がかみ砕き、身体をバラバラにする。
その一部に超越が宿り、天使はすぐさま白亜の体を復活させた。
「奴の超越が僕達を上回るのが先か、こちらの収束が終わるのが先か」
「怖い事言わな――っ、こっち来たぁ!」
目覚めた天使の中で、再び警戒心が再定義される。
憧憬の銘や、天使を使った融合昇華体、天上の意思の力を扱う戦士、他にも多くの警戒対象がいる。
しかし、最優先で潰すべきは、自身の核といえる銘を唯一殺せるその兵器とそれを操る少女であった。
「ひえええええ!?」
涙目で叫びながらも、しっかりとグリップを握るその姿はやはり警戒しなければならないだろう。
天使は先ほどよりも進化した速度で音を置き去りにして進む。
「トア! 曰く、桜庭ラッカの槍は誰より速い!」
ラッカが初めに飛び出し、天使に攻撃を仕掛ける。
速度だけなら届いた攻撃は何度目かの進化により作られた強力な障壁で弾かれる。
そして斬撃で腕を切られ、蛇腹鎌で翼をもがれようとも、天使は弾丸のように突き進んだ。
命は天使にとって投げ捨てても構わない価値の無いものだ。
すぐに復活できるのならば、死んだところで問題はない。
生き物とは根本から違う価値観で、天使は初めに銘を殺す砲撃を破壊しに迫る。
「っ、そうだな。死ねるならそれが一番効率が良いだろう。僕もそうして戦ってきたからな!」
手を銃の形にして博士は天使に照準を合わせる。
「コード999:崩壊――バン」
指先から放たれたエネルギー弾が天使を捉え、爆発四散させる。
が、その四散した肉は映像の逆再生のように集まっていき再びその肉体を一つにした。
「コード999:崩壊――バン」
すぐさま博士は二射目を放つが、それは天使の体に食い込みこそすれど命を奪うには至らなかった。
その攻撃は既に超越している。
「っ、僕達を狙うのは道理だが……!」
講師達が止めようとするが、徐々に天使は近づいている。
が、逃げられない理由があった。
(転移を繰り返しながら収束するには、エネルギーが大きすぎる。きっと月宮トアの体がもたない!)
その場を動けない理由、それは特殊な砲撃システムを追加した事による収束の複雑化にあった。辺りの魔力を集める収束は、当然その場所を変えれば再び自身の体に取り入れる流れを作る所から始まる。
普通の収束砲撃ならまだしも、銘を殺せるだけのエネルギーともなればそれは難しい。
「こ、こわいよぉ!」
「気張れよ私! 負担、半分こしてるだろ!」
戻ったネームレスが、トアと共に重砲を持つ。
収束の速度が大幅に増したが、逃げる事は相変わらず出来ない。
(あと一手、教授か学者がいてくれたら……)
多重提唱空間では天使にここを攻撃されないための議論がされている。
が、やはりあと一手足りないという結論しか出ない。
やがて、講師との力比べに勝利した天使が斬撃と砲撃の雨を潜り抜けて博士達の目前に迫る。
翼を槍のように丸め、トアとネームレスをそれぞれ突き殺そうという算段だ。
「ひえ」
「act6」
一人は怯え、一人は無敵によりダメもとでの防御を開始、そして博士は当然のように自分の体を盾にしてやり過ごそうとしていた。
(僕なら何度死んでも問題ない)
そうして、勝利の礎として自身の体を捧げようとしたその時、基地のどこかで声が響いた。
――求道者は目覚めると信じているよ。
「ッ!」
最後の認証システムが破壊され、その銘エネルギーが残りの空白を満たす。
記憶の再構築は銘の後押しにより急速に完了され、それは唐突に成った。
「――安い攻撃ですね」
跳ね起きた小さな体が転移し、トア達と天使の間に割り込む。
そして突き出された翼を、素手で掴んで両方とも受け止めた。
「……お前」
「おはようございます、博士」
空色の髪を揺らし、彼女は手のひらから魔力を天使へと流し込む。
僅かに抵抗して見せた天使だったが、すぐに体内からはじけ飛んだ。
天使だった残骸が舞い散る中で、彼女は振り返る。
「求道者、ここに完全復活ですよ!」
「……起きれるなら、最初からやれ」
「なぁっ!?」
安堵のため息をつきながら、博士は確信する。
ここに銀の黄昏の最後のピースは揃った。
「ま、まあいいですよ。勝ちますよ!」
無限の進化に唯一対抗できる理想の銘が、今ようやく最前線に立つ。
『おいテム子、どういうことだ! ラッカと求道者の淫の黄昏エピソードが流れる予定だろ!』
『そんな予定はありません! どっかの太もも狂いが再構築から抜けたので、こっちも大変だったんですから!』
『余が抜けたせいか……すまないシステム先輩』
『貴女は貴女のコンテンツをしただけですから、構いません。問題はこっちのコンテンツ狂い2名ですよ』
『ぐちゃトロ確定だねぇ』
『じゃあ示談の話はどうなるんだテム子! 俺はもう、ラッカちゃんと求道者のコンテンツの為にコンディションを『ちょっとお邪魔するよ。この体は返すよありがとう。それじゃあ』……なんだ今の!?』
『一瞬凄く眩しかったねぇ』
『こ、これってまたコンテンツ怪談話では……!?』
『『『ゾッ……』』』
『いや、たぶん博愛の銘だぞ先輩方』