【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第70話 強奪と敗北感

 御景学園での交渉の翌日。

 俺がこっそりと抜け出して、ユキヒラさん相手に神技的交渉をしたのは気付かれてないようである。

 

『終始、手玉だったように感じるけどねぇ』

 

 うるさいやい!

 ミステリアス美少女は常に相手を手玉にとるんだい!

 

 というわけで、ミステリアス美少女としてクソにも劣る掃き溜めの擬人化をしばきます。

 

『フーッ! フーッ!』

 

 はっはっは、落ち着きたまえよ星詠みの杖君。

 血気盛んなのは良い事だが、ミステリアス美少女はクールに、だ。

 そう、例え相手が何人もの美少女の体を乗っ取り、使い捨ててきた畜生だとしても。

 

 ……思い出したらムカついてきたなぁ!?

 殺す、絶対に殺す!

 フーッ! フーッ!

 

『君も大概じゃないか。よく、昼間は我慢できたねぇ』

 

 今は深夜一時。

 草木と良い子は寝ている時間だ。

 

 ちなみにフェクトム総合学園は、今は昼夜問わず全力でおやすみタイムである。

 救援など行う訳もなく、三人+ナナちゃんはそれはそれは美しく麗しく可愛らしく百合の花を咲かせていた。

 あの光景を眼球から摂取した俺は、既にスーパーミステリアス美少女としての力がバチバチに高まっている。

 いつでも殺せるぞぉ!

 

「――この辺りにプロフェッサーがいるんですね?」

「ええ、そうよ」

 

 俺は髪をわざとらしく押さえながら言った。

 やっぱり高い所は良い風が吹くねー!

 

「ここに、奴は来る」

 

 騎双学園の自治区の一つに、俺はいた。

 裏路地を眺めながら、屋上の良い感じの場所でずっとスタンバっている状態だ。

 

 そして当然、隣には浄化ちゃんがいる。

 この人、テロリストになる前に一度ガス抜きしないと……。

 やたらプロフェッサー嫌いみたいだし、コイツ殺したら後は止めなね? 御景学園にでも転校しなね?

 

「それにしても、きちんと私を呼んでくれたんですね」

「約束だったから」

「本当にプロフェッサーは来るんですよね」

「当然よ」

「ならいいです」

 

 敬語ではあるが、いつものような陽気な感じとはほど遠い。

 なんか、冷たいんだけど……君ってそれが素?

 本当は舌打ちとか頻繁にするタイプのキャラじゃない?

 

 まあ、それはそれで良い美少女だが。

 

『既にあの畜生の位置はマーキングしてある。私から逃げ切れると思わないで欲しいねぇ』

 

 頼もしい限りである。

 星詠みの杖君にプロフェッサーの魔力を覚えさせておいて良かった。

 アイツ逃がしたらまた誰か被害に遭うからな……。

 

「ようやく……アイツをこの手で……」

 

 浄化ちゃんがゲキ重感情をマシマシで拳を握りしめている。

 怖い……。美少女の怒り顔……怖いぃ。

 

『うーん、そろそろここを通る頃合いだねぇ』

 

 星詠みの杖の言葉で、俺は路地裏の向こうを見る。

 見れば、少女――プロフェッサーが必死に逃げているのが見えた。

 

 ボロボロの肌に、荒れた髪……くそ、あれが美少女の姿かよ。

 美少女ってのはなぁ、もっとなぁ―― 

 

「……ヒカリ」

 

 そうだよ、美少女は光であるべきだよ。

 浄化ちゃんも話がわかるねぇ!

 

 俺達の眼下を通過したプロフェッサーを追うように二つの影が姿を現す。

 それは俺がよく見知った原作主人公と原作メインヒロインの姿であった。

 

 んん?????

 なんで???

 

 一瞬動揺したが、すぐに思い出した。

 御景学園から捕縛命令でも出ているのだろう。

 原作でもそうだったし。

 

 だが、ここで捕まえられては困るのだ。コイツは殺さないと、ねぇ?

 

「行きましょう」

「はい」

 

 というわけで、俺達は今からトウラク君達と戦ってプロフェッサーを奪う所存である。

 

 というか、最近の御景学園の生徒とやたら関わるよね。

 これは良くない。

 

 フェクトム総合学園と御景学園は姉妹校になるのだが、俺は放っておいて欲しい。

 ミステリアス美少女は何ものにも囚われないのだ。

 なので、ちょっと冷たい態度と共に引き離すことにした。

 

 ついでに、いくつか省略されたであろうトウラク君の敗北イベントをここで消化しよう。

 原作主人公君に本気で手を上げる事はもちろんしないが。

 

 冷たい態度でサクッとプロフェッサーを奪って、ザクザクッと殺しちゃおうねぇ。

 

『殺すー^^』

 

 俺達は、プロフェッサーとトウラク君達の間に割って入るように飛び降りた。

 

 

 ■

 

 

 違法実験の首謀者であるプロフェッサーの捕獲は、トウラクとミハヤに与えられた任務だった。

 

 騎双学園と御景学園は敵同士。

 故に大規模での捜索は不可能であり、単一で充分な活躍が見込める二人が選ばれたのは当然のことだった。

 昨日の騎双学園風紀委員会との戦いを通して、相手の癖を多少理解しているというのも選出理由の一つだろう。

 

 事実、トウラクとミハヤはリンカの集めたデータを元に、確実にプロフェッサーを追いつめていた。

 筈だった。

 

「それは私達の獲物よ」

 

 逃げ出したプロフェッサーを追いかけた先で、それは二人の前に舞い降りる。

 退廃的な裏路地には似つかわしくない黒と白のドレスが、ふわりと舞った。

 

「……ケイ君」

「今はソルシエラでしょ、あの感じだと。んでもって、たぶん私達の邪魔をしようとしている」

 

 トウラクは悲し気に、ミハヤは決意の眼でソルシエラを見た。

 彼女の隣には、見慣れない少女の姿。

 

「初めましてー、私は浄化ちゃんっていうんですよ。名前を覚えて帰ってください。あ、フォローと高評価もよろしくお願いしますね」

 

 跳ねるように陽気な声。

 まるで陰険さを感じさせないその声色とは裏腹に、その右手はプロフェッサーの首を押さえて壁に押し付けていた。

 

「は、離せ! 私はプロフェッサーだぞ! 誰に手を上げているか分かっているのか!」

「あー、はいはい。その姿で喋るんじゃないですよ。今すぐに爆殺したくなるので」

 

 プロフェッサーの口の中へと、機械仕掛けの蛙が飛び込む。

 プロフェッサーは息苦しさからもがくが、その程度で拘束が解かれるわけもなかった。

 

「フェクトム総合学園の件は感謝しているわ」

 

 それは彼女にしてみれば珍しい感謝の言葉だった。

 それ程に、彼女にとってフェクトム総合学園という物が大切なのだろう。

 ソルシエラはそのまま「けれど」と言葉を続けた。

 

「私一人でも充分だった。助ける必要なんてなかったの」

「……アレは騎双学園との戦争の口実を作るために必要な事だったんだ。だから、助けた訳じゃない、って言えば満足するかな?」

 

 詭弁だ。

 ソルシエラの、ひいてはフェクトム総合学園の助けになるために、トウラク達は動いていたし、その行動に打算は無かった。

 あったのは、力を持つ者が動くための後付けの理由である。

 

 しかし、それを指摘してもトウラク達が認める筈もない。

 それを知ってか、ソルシエラはつまらなそうに「そう」とだけ返事をした。

 

「ちなみに、その人はどうするつもりかしら」

 

 ミハヤはこの間も、銃口をソルシエラに向けたままだ。

 それはこの後の答えを知っている故の行動だった。

 

「――殺すわ」

 

 それは詠うように。

 まるで明日の天気でも話すように、ソルシエラはその言葉を一切の重みもなく言った。

 それに一人は笑顔になり、一人は悲し気に目を伏せて、一人は引金に指を掛ける。

 

 三者三様の反応の中、真っ先にトウラクが声を上げた。

 

「その人は、御景学園で捕縛命令が出ている。だから、渡してほしい」

「渡してどうなるのかしら」

「法の下で裁かれる。そうするべきだ」

 

 ソルシエラは失望と共にため息を吐き出した。

 

「ダメね。これを裁くには法では足りないわ。どれだけの悲劇の上に、コレが生きているのか」

 

 ソルシエラは大鎌の切っ先をプロフェッサーの首元へと当てる。

 

「私が殺し、私が裁く」

「そうですよー! こんなゴミ屑の為に司法を使うとか、無駄ですよ無駄」

 

 ニッコリと笑顔で付け足された言葉に、トウラクは自分とソルシエラ達の生きる世界の違いを理解した。

 

 彼女達にとって、殺しは手段の一つなのだ。

 禁忌ではなく、すぐ目の前にある選択肢。

 

 いったい、どれ程の地獄を見ればそこまで堕ちるのだろうか。

 人を殺したことが無いトウラクにはわからない。

 が、同じ目をした人間たちを知っていた。

 

(父さんたちと同じ目だ)

 

 牙塔家は違法な探索者や、人類に仇なす者を殺す為の対人特化型の探索者の家系である。

 故に、一人前とされる牙塔家の人間は全員が誰かの命を奪った経験があった。

 そしてそういった者は、例外なく水底の鉛のような冷たい光を眼に宿しているのである。

 

 ソルシエラ達の眼は、まさにその底冷えするような光を放っていた。

 

「あら、ルトラを構えてどうするの?」

「止める」

 

 トウラクはそう言った。

 しかし言葉だけで、まるで脳は止める事が出来た景色を見る事は出来ていない。

 それでも、ここでただ見逃がしたらその瞬間から二度とソルシエラを本当に救う事はできないのだろうと、確信している。

 

「相方にそう言われちゃ、私も引き下がる訳にはいかないわね」

 

 ミハヤもまた、狙いをソルシエラへと定めた。

 この少女の実力は知っている。

 油断などできるわけもない。

 

「ルトラ、一振りだ」

『わかった』

 

 長期戦は、そのままソルシエラの魔力の収束を助ける結果につながってしまう。

 六波羅との戦いの一部始終を映像データで見たトウラクはソルシエラに対して自身がとれる有効打をすぐに選択した。

 刀を鞘に収めて、腰だめに構える。

 

 一撃、超短期決戦型。

 

(この一刀だ。それ以上は、僕はあの子に勝ちの目がない)

 

 切るという概念がルトラの中に蓄積され、埒外の力として磨き上げられる。

 この一刀は、間違いなく世界そのものに届きうる刃だ。

 

「手伝いましょうかー?」

「別にいらないわ。こんなの、お遊びだもの」

 

 そう言って、ソルシエラは大鎌を消失させる。

 そしてトウラクもよく知る短刀を召喚した。

 

「あれは……」

『トウラク、気をつけて――』

 

 愛刀からの警告。

 が、彼がそれに答える事はなかった。

 

 トウラクが答えるよりも早く。

 ミハヤが引金を引くよりも速く。

 何よりも疾く、銀色の風が一度だけ吹いた。

 

「……なっ」

「っ!?」

 

 防御など不可能。

 目で追うことすら出来ずに、トウラクはミハヤと共にその場に崩れ落ちた。

 

 僅かに斬られた腕が、何が起きたのかを物語っている。

 

「遅い。何もかも」

 

 崩れ落ちた二人を受け止めて、ソルシエラは端的にそう評価した。

 そして、壁に二人の背中を預けると転移の魔法陣をプロフェッサーの前に起動する。

 

「ま、て」

「駄目よ、貴方は負けたんだから。お人好しじゃ救えない世界もあるという事、理解しなさい」

「……っ」

 

 痺れた体では、手を伸ばす事すら出来ない。

 トウラクはそのまま、彼女がプロフェッサーを連れて魔法陣の中へと消えていく光景を見る事しか出来なかった。

 

(僕は、結局あの頃と何も変わっていないじゃないか……!)

 

 それは、まだルトラと会う前の無価値な自分。

 力はなく、理想だけが胸の奥で燻ぶっていたちっぽけな自分だった。

 

「…………会長、すみません。プロフェッサーを、横取り、されま、した」

 

 その声に、トウラクの意思は無力感から浮上した。

 見れば自身の相棒が痺れる体を無理矢理動かしてダイブギアによる通信を行っている。

 彼女もまた、自分の力のなさに堪えたようだったがそれは行動を止める理由にはならなかったようだ。

 

『ああそう。ソルシエラか』

 

 通話の相手――ユキヒラは、ミハヤの言葉を未来視して先んじてソルシエラの名を上げた。

 体が痺れている今、こうして言葉を先読みしてくれるのは随分とありがたい。

 

『彼女がエゴで裁くか。ふむ、中々に感情的にも動くようだね。うーん、思考が読めなくて面倒臭い。あ、二人は帰ってきていいから』

「……いいんですか」

 

 随分とあっさりとした反応に、二人は驚く。

 

『いいよ。別にプロフェッサーの実験記録は手元にあるし。それに、ソルシエラ相手じゃ分が悪い。ここは彼女に譲ってあげたと考えよう。うん』

「で、ですが」

『トウラク君、僕は必要ないと言っているんだ。わかるね?』

 

 子を諭す親のような優しい声だった。

 まるで我儘を言う子供を納得させているように、ハッキリとした言い聞かせる言葉。

 

『デモンズギア使いと、優秀なその相棒を失う訳にはいかない。ほら、帰ってきて。万が一にでも騎双学園のデモンズギア使いとか風紀委員会に見つかったら大変だ』

「……わかりました」

『うん、じゃあね』

 

 これ以上の会話が不要であると未来を視たユキヒラが一方的に通話を切る。

 辺りには静寂が訪れた。

 

「これが、今の私たちなんだね」

 

 ミハヤがポツリとそう言った。

 

 昨日、自分たちはソルシエラの助けになれたのだと思っていた。

 が、それはどうやらただの思い上がりだったらしい。

 

「うん、ソルシエラと戦いにすらならなかった」

『姉さん、前より強くなってた。今の私達じゃ、絶対に勝てない』

 

 ルトラの言葉にトウラクは思わずため息をこぼしそうになる。

 が、それを堪えて夜空を見上げた。

 

「頑張らなくちゃな」

「……そうね」

 

 無力感を薪にして、心の奥底から熱が広がっていく。

 それは今、トウラクの中で巨大な炎となり音を立てて燃え盛っていた。

 

(強くないと、あの子は僕を見ない。だから、無視できないくらいに強くなってやる)

 

 それは、半ば意固地な自分本位の願い。

 悲劇によって作られた少女の価値観を壊す為の、一方的で独善的な覚悟。

 どうしようもない程に独りよがりで、常人であれば他愛もないと切り捨てる意志である。 

 

「強くなろう、もっと。あの子が、これ以上の罪を背負わなくてもいいように」

 

 そしてそれこそが、ヒーローとしての資質だった。

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