【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
犬も歩けば棒に当たる、という言葉がある。
なら、ダンジョンで美少女を拾っても何も問題あるまい。
ダンジョンって不思議がいっぱいだし、そういうこともあるよね。
『ないよ』
あるって言え!
『あるよ』
よォし!
「――というわけで、空無ミユメを拾ってきた」
生徒会室。ミズヒ先輩はそう言ってミロク先輩達の前にミユメちゃんを差し出した。
そんな捨て猫みたいなノリで言うんだ……。
「えっと、つまり……ダンジョン攻略中にパーティーを追放された少女からの救援要請を受けて、助けた。それで、事情がありそうなのでウチに連れて来た……と」
「ああ」
「ミズヒ、次からもっとわかりやすく言ってくださいね……」
「どうしてだ? わかりやすかっただろう」
ミズヒ先輩は首を傾げる。
その横で俺も首を傾げた。
美少女が来るって事だけわかれば良くないっすかミロク先輩。
ほら、フェクトム総合学園には居なかった新しいタイプの美少女っすよ!
一年生グループで見たらミステリアス美少女と気弱美少女と元気美少女で、凄くおさまりが良いっすよー!
『一人偽物がいるねぇ』
誰だろうなぁ。
「あ、あの、どうもっす。説明していただいた通り、ジルニアス学術院の整備科、空無ミユメっす」
「はい、こんにちは。そう緊張せずにくつろいで下さいね。まあ、こんなボロボロの学園で良ければですが」
「いえ! そんなことは……! 私のラボに比べたらすっごく綺麗っす! 床に横になれるスペースがあるだけで極楽浄土っすよ!」
どうなってんだよ、君のラボ。
「それにしても丁度良かったですね。数日後、ジルニアス学術院に行くことになるみたいなんです。さっき、リンカちゃんに教えてもらいました」
「ああ、今日は姉妹校の手続きしてたんでしたね」
俺は原作キャラと顔を合わせないように救援についていったけどな!
見たところ、もう御景学園の生徒は帰ったようだ。
うーん、セーフ!
スピンオフ主人公様と原作キャラが接触したら流石にどうなるかわからない。
今回は、より慎重に動く必要があるだろう。
「ミユメちゃんさえ良ければ、数日の間はここにいませんか? 今戻って下手に騒ぎを起こすよりは、ジルニアスの生徒会に直接言ったほうが良いと思いますし」
「私もそう思う。どうだ、ミユメ。何もない所だが、少なくとも魔物は出ないぞ。壁も天井もあるし、今ならモヤシ料理も出す。ここで休んでいかないか」
最年長二人が、ミユメちゃんにそう提案する。
素晴らしい……見てくれ星詠みの杖君。
これが、美少女の持つ無償の愛だよ。
やはり美少女同士の絡みはいつ見ても輝き眩い物だ。
『いや、あれ何とかしてフェクトム総合学園に入れようとしてないかい? 隙あらば転入させようとしてる気がするんだが』
おいおい、あんまり滅多なこと言うもんじゃないぞ。
二人は普通に優しいだけなんだから!
「あ、ちなみにフェクトム総合学園はいつでも生徒を募集してますよ」
「今は寮も使い放題。そもそも学費も掛からないぞ!」
「? へぇ、そうなんすねー」
ミユメちゃんは首を傾げながら、明らかに二人の行動の意図を察していない様子だった。
……フェクトム総合学園の事を何時でも考えている素敵な先輩方だな、ヨシ!
『君、美少女の行動になると途端に肯定するよね』
当たり前だろ。
『……ふと思ったんだが、美少女が悪事を働いていたらどうするんだい?』
え?
『君の言う所の美少女がやむにやまれぬ事情で悪事を働いたら、君はどうするんだ。その行動を肯定するのか。それとも、止めるのか』
……そんな事、知るかァ!
その時になってから考えれば良いんだよ!
そもそも美少女が悪事を働くなら、その要因を叩き潰すのが正解だろうが!
『それはそう』
でも、もしも美少女相手なら俺は本気で戦えないだろうね。
そういう時は、幻覚見せて全力撤退も視野に入れていこう。
俺と星詠みの杖君がわくわく談義をしていると、どうやら向こうは話が纏まったようで少しの間ここに滞在することになったみたいだ。
「……ねえ、あの人は大丈夫なんだよね」
「え? ああ、うん。悪い人じゃないよ、トアちゃん」
俺の言葉に、トアちゃんはホッとして胸をなでおろす。
知らない人が入ってきて不安だったんだね。
でもね、俺の後ろにピッタリとくっつくのは止めてね。
その度に俺は罪を背負うかスーパーミステリアス美少女になるかの二択を迫られるんだから。
ちなみに今は緊急スーパーミステリアス美少女(男装)状態です。
『めっちゃ頑張って演算してます』
いつもありがとう星詠みの杖君……!
という訳で、今この部屋には美少女しかいません。
理想郷かな?
「あの、ちなみに……ケイの後ろにいる人は誰っすか?」
「ひえっ、あの、月宮トアって、いいます……よっ、よろしくね?」
トアちゃんの言葉で、ミユメちゃんは勢いよく頭を下げる。
「空無ミユメっす! 一年っす!」
「わ、私も一年生なんだ」
「おおー! 一緒っすねー!」
「う、うん」
まだ怖がりながらも、トアちゃんは差し出された手を握る。
ミユメちゃんはその手を握ると、嬉しそうにブンブンと振った。
「じゃあ改めて、短い間だけどよろしくっす!」
うっす!
自分もミユメちゃんから美少女を学ぶっすよー!
「それじゃあ、早速なんすけど――」
ミユメちゃんはウズウズした様子で躊躇う様子を見せつつミズヒ先輩を指さした。
「あの、ダイブギアの整備させて貰えないっすかね。一宿一飯の恩と言うと少し変なんですが」
「そんな、気にしなくてもいいんだぞ」
「いえ、気になるっす! というかこっちがお金払って直したいレベルでぐちゃぐちゃというか、見るからに整備不足というか……」
ミユメちゃんの言葉に、全員の視線がミズヒ先輩のダイブギアへと集まる。
それを察したミズヒ先輩は、ダイブギアをつけた腕をそっと隠した。
「……ミズヒ、私がいない間整備は誰が?」
「……………………ケイ、救援を必要としている人がいるかもしれない。すぐに特区に行こう」
出ていこうとしたミズヒ先輩の肩をミロク先輩ががっしり掴む。
「もしかして、一度も整備をしていないんですか?」
「あ、えっとそれは……」
「……私があんな事をしたから、整備する時間がなかった……とか?」
目を伏せて、ミロク先輩は悲し気に呟く。
ミロク先輩の言葉に、ミズヒ先輩は弾かれたように顔を上げた。
そして、向かい合うと強い意志で否定する。
「それは違う! 単に、面倒臭かっただけだ!」
「やっぱりそうですか」
「あっ」
だよね。
だって、ミズヒ先輩はフェクトム総合学園の借金が減るってウキウキで救援してたもんね。
積み重なる書類とか、整備とか見ないふりして生き生きとしてたもん。
そもそも俺が整備出来れば良かった話じゃんね。
じゃあこれも俺の罪だわ。背負わせてくれー^^
『罪を奪いに来るとか、見たことないタイプの当たり屋だなぁ』
ミロク先輩は慣れた様子でミズヒ先輩のダイブギアを取り外すと、ミユメちゃんに差し出す。
ミユメちゃんはまるで宝物を受け取るかのようにニコニコしていた。
「ありがとうっす! ずっと気になってたんすよー! じゃあ、パパっと終わらせるっすから!」
ミユメちゃんは、そう言って自分のダイブギアの拡張領域からいくつもの機具を取り出すと、ミズヒ先輩のダイブギアをいじり始めた。
いいねぇ、俺もやってもらおうかしら。
『君のは私が24時間整備しているようなものだ。安心したまえ』
わぁ便利。
■
ミユメちゃんの腕が良いのか、それともこれがデフォルトなのか。
五分も経たずに整備は終わった。
満足げな顔で頷くミユメちゃんは、ミズヒ先輩へとダイブギアを返してサムズアップをする。
「はい、これでお終いっす!」
「早いな。見ていて気持ちが良いものだった」
「いえいえ、こっちこそありがとうっす! 碌にアップデートもされてないし、内部パーツもガタが来てるし、なんか一部融解してるし、今までで一番整備のしがいがありました! よくこんなあってないようなダイブギアで戦えてたっすね!」
「…………ああ、そうだろう!」
ギリギリ誉められてないっす、ミズヒ先輩。
「ミズヒ、今度から整備は定期的に確認しますから。面倒なら、また私が代わりにやってあげましょうか」
「いや、今度からは私がやる。……いや、本当に。疑うな。おい、何故全員こちらを見ようとしない」
「ミズヒ先輩、整備の時間あったら救援に行くじゃないですか」
「け、ケイまで……!」
整備はしてほしいです。
じゃないと危ないので。
「あ、それと一つ気になったんですけど」
ミユメちゃん、どうしたんだい?
君が気になったことは万物全て、この全知であるミステリアス美少女が教えてあげようねぇ。
『全知……君が全知?』
なんか文句あんのかよ。
「ミズヒさんのダイブギア、本当に自分のっすか? 体に合ってないような気がするんすけど」
「む、そうなのか? 今まで使ってきて特に違和感は無いのだが」
そう言って、ミズヒ先輩は手から焔を出して軽く手の上で渦を作ってみせた。
すげぇ。
ねぇねぇ、俺もあれやりたい!
紫色の焔でミステリアス美少女演出したい!
『えー、もうしょうがないねぇ。作ってあげよう』
サンキュー!
「ほら、特に問題なく動かせているだろう――あ」
整備が終わったダイブギアから短い警告音が出た。
それを見てミユメちゃんが口をあんぐりと開ける。
「こ、壊れたっす」
「え!? ……す、すまない。そんなつもりじゃなかったんだ」
「いえ、これは別にミズヒさんのせいという訳じゃないっす。もう一度貸して貰っていいっすか」
ミユメちゃんはダイブギアを受け取ると、再び中身をばらしながらいくつものウィンドウを浮かべて首を傾げる。
「うーん、演算が間に合ってない。能力に対して、殆ど補助の意味がないっす。武装は無理でも、今のままでも焔って出せたりします?」
「ああ」
ミズヒ先輩は、焔を指先に灯す。
うわー! 指先に焔灯すのかっけー!
「……うん、別次元深層領域に対する打ち消しは機能してる。という事はやっぱり、ミズヒさんの能力にこのダイブギアが追いついていないっす。これじゃあ、何度やっても同じっすよ」
「ほら、整備しなくても良いらしいぞ!」
「ミズヒ」
「はい、すみませんでした」
どや顔からの謝罪が速い。
でも確かに、整備しなくても良いは、流石に言い過ぎわよ。
安全第一わよ!
「新しいダイブギアを買う事をお勧めするっす。安物じゃなくて、ランクに見合ったきちんとしたやつっすよ?」
「「「「ランクに……」」」」
俺達の声が重なる。
お互いに目を合わせて、全員が全く同じ事を思った。
――Sランクのダイブギアって、バチクソ高くね?
安物でも百万とか平気でするのに、Sランクのダイブギアって。
『そんなに高いのかい?』
高いわよ!
例えば、同じSランクの六波羅さんのダイブギア。
あれね、8億します。理事会が作った8億円のダイブギアです。
『えっ』
ダイブギアはダンジョンコアを使用する。
使用者のランクが高ければ、必要になるダンジョンコアのランクも上がるのだ。
つまり、ミズヒ先輩の場合は最低でもAランク。
なんならSランクダンジョンでも見合うくらいだ。
『……お金、無いよねぇ』
そもそもあれって理事会から配られるんじゃないのかよ。
もしかしてSランクの人たち、ダイブギアのお金を自分で用意したの?
……いや、あの人たちなら簡単か。
「え、どっ、どうしたんすか」
俺達の反応に戸惑ったミユメちゃんに対して、申し訳なさそうにミズヒ先輩は言った。
「Sランクなんだ」
「え?」
「私、Sランクなんだ」
「……えぇ!? う、嘘っすよね!?」
「本当だ。ちなみにこれが理事会から発表された私の公式プロフィールだ」
ミユメちゃんはその情報を見て、何度もミズヒ先輩と見比べる。
やがて「本当だ……」と呟いた。
「私がラボに籠ったり、ダンジョンで追放されたりしている間にまたSランクが追加されたんすね」
「……ああ。だから、その……今はSランク用のダイブギアは買えない。お金が……」
場に、なんとも言えない空気が流れる。
うーん、これはいたたまれない。
『……彼女なら作れるんじゃないのか? ジルニアスの整備科なんだろう? 中々に優秀なようだし』
いやいや、無理でしょ。
君、Sランクって何か知ってる?
この学園都市の頂点よ?
そのダイブギアをいくらスピンオフ主人公と言えども。
最終回後ならまだしも、まだ明らかに第一話みてえな美少女主人公には荷が重いよ。
「……ジルニアス学術院はダイブギアの制作を請け負ってましたよね」
ミロク先輩がそう言った。
あ、この人ジルニアスの生徒会と話す時に一緒に交渉するつもりだ。
「はい、そうっすね。Sランクのダイブギアとなると……ジルニアス学術院で作ったのは渡雷リュウコのダイブギアっすかね。上級生全員で作ったらしいっす」
「あー、そう、ですか」
規模がデカすぎて、ミロク先輩はそっと諦めたようだった。
「……もしかしなくても、お金がないんすね」
「はい……少し前まで経営が破綻していまして。まあ今もしていると言われればそうなんですけど」
どうしよう。
こうなったら『ミズヒ先輩、ソルシエラ捕獲おめでとう』作戦でもするか?
美少女に捕まるなら、ギリギリ耐えられるぞ。
『照上ミズヒ相手に格上演出をしておいて今更負けて捕まるとか解釈違いにも程がある。私は認めないぞ』
なんだコイツ。
でもわかる……!
じゃあどうやってお金稼ぐんだよ!
ダンジョン救援か? それともダンジョンを攻略するのか?
「あ、あのー」
ミユメちゃんがおずおずと手を上げる。
それからミズヒ先輩の顔色を窺うように言った。
「良ければなんすけどー、私作ってみてもいいっすか」
「作れるのか!?」
「無責任に作れるとは言い切れないっす。けど、渡雷リュウコのダイブギアの設計図を見た時に思ったんすよね。……私ならもっと上手く、早く、低コストで作れるって」
うーん、この子やっぱりなろう系の主人公だわ。
言っていることがトンデモねえもん。
頭脳チートって事だろ? ヤバくね?
「……ちなみに、いくらで請負いますか」
「え? お金がいるんすか? こっちの実験みたいな物なんで、別にいいっすよ。本当に完成するかもわからないし」
ミユメちゃんはそう言って首を横に振った。
謙遜というよりは、自分に対する評価が低いのかな。
持っている頭脳と自己肯定の差がありすぎてどこかちぐはぐに感じる。
「ならば、是非試してほしい。もしもそれでダイブギアが作れるなら願ってもない事だ」
「こっちも進級の為の実績として充分な題材なので喜んでお願いするっす」
ミズヒ先輩とミユメちゃんが固く握手を交わす。
なんかヌルッと決まったけど、これ上手くいけば数億の代物がタダになるって事?
『そのようだねぇ。見ろ、私の提案した通りじゃないか』
そうなんだけど……。
これって理事会的にオッケーなの?
どうするよ、これで理事会も作ってたら。
夕飯があるのに外で食べてきちゃったみたいな空気になるんじゃない?
『例えが庶民だねぇ』
嬉しい事ではある。
あるのだが……。
後で、何かお礼をしたいわね。
「それじゃあ、ダンジョンコアを預けてくれませんか? Aランクでいいっすよ」
ねえよ!
「すまない、ダンジョンコアは殆ど持っていないんだ」
「あ、そうなんすね。えっと……じゃあ、今から獲ってこれたりします? 急ぎでないなら後日でも問題ないっすけど。今からプログラムだけ組んじゃうんで」
「大丈夫だ、獲ってくる。決闘してでも奪い取る」
「……ミズヒちゃん、私たち決闘用のダンジョン持ってないよ」
フェクトム総合学園、改めてなんもねえな!
逆になにならあるんだよ。
美少女がいるか! じゃあ、それだけで良いな! ヨシ!
ミユメちゃんは、俺達を見て何か思い出したように一つの小型タブレット端末を差し出してきた。
「じゃあ、この『ナカヨシ!ダンジョン君6号』を……」
「なんだこれは」
ふざけた名前だな。
「別次元深層領域がこの世界に浸食を始めた時に生じる僅かな揺らぎを感知できるっす」
「ん? つまりどういう事だ」
ミユメちゃんは「えーっと」と、考えてからどや顔で腰に手を当てて言った。
「ダンジョンがどこに出現するのか、位置が事前にわかるようになるっす!」
「「は?」」
俺とミズヒ先輩の声が重なる。
……おい、なんかトンデモねえモン渡されちまったんじゃねえかこれ。