【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第83話 知性フラストレーション

 ジルニアス学術院における原作キャラは四人。

 その全員が生徒会であり、俺とトアちゃんは今からその生徒会に対して交渉をすることになっていた。

 

 御景学園としても協定は早く結びたいようで、ミロク先輩の要望はすんなりと受け入れられ俺達はその日の昼にはジルニアス学術院に到着したのである。

 

 さて、二分の一だな。

 

『何がだい?』

 

 原作キャラの美少女の確率だ。

 四人の内、二人が美少女。

 そして残り二人がナイスガイだ。

 

 いずれにせよ、崇め奉る原作キャラの方々ではあるが、出来れば美少女の方が良いというのが本音である。

 

 カモン! 美少女カモン!

 

『ふむ、確かに会うのであれば美少女の方が良いだろうね。君のスペックも何故か美少女に出会うと上昇するようだし』

 

 何故かって……普通はそうだろ。

 なに言ってんだ。

 

「ここっすよジルニアス学術院の本校舎は」

 

 ミユメちゃんに連れられた先のクソデカビルを、俺達は口を開けたまま見上げる。

 デカい……騎双学園が悪の組織ビルなら、こっちは正義の科学というか、今にもビルが割れてロボが出て来そうな感じだ。

 

 ここに来るまでにも沢山の巨大な建造物があり、それだけでジルニアス学術院の規模が理解できる。

 他の学園と比べてダイブギアの開発や魔法技術の応用、聖遺物の解析など、色々とダンジョン関連の研究を手広く行っているため、支援企業もそういった類のものが多い。

 

 他の学園では見なかったホログラム式の信号機や徹底管理され枝の一つすら規則的な街路樹など、全てにおいて人の手が加わっている。

 

 近未来都市という言葉が相応しい場所だ。

 

「おっきいね……」

「うん。なんか、学校ってかんじしない」

「ささ、入るっすよ。生徒会室はこっちこっち」

 

 ミユメちゃんはちょいちょいと手招きをして誘う。

 俺達はその後ろを従順についていくことしかできなかった。

 

 間違ってもはぐれたりしたら戻ってこれる気がしない。

 

「そういえば、ミユメちゃんは生徒会と知り合いなの? 随分と行くのに慣れているというか」

 

 俺の言葉に、ミユメちゃんは「そうっすね」と呆気ない返事をした。

 

「ルカさんにお世話になっているんす。私、高校生になってからこの都市に来たので。右も左もわからない私をあの人は気にかけてくれたっす」

「外から。へぇ、大変だったでしょ本島は。まだ復興も終わっていないだろうし」

「ははは。主要都市は復興も終わってますし、一応のインフラ整備はマシになったっすよ」

 

 この鏡界のルトラにおける日本、というか世界は一度終わりかけている。

 ヒノツチにダンジョンを集める前、日本各地にダンジョンが出現していた時代にはダンジョンから魔物やら何やらがあふれ出して大変だったようだ。

 俺は理事長の過去回想でしか知らないが、少なくとも壊滅に近い。

 

 そこで各地の推定Aランク以上のダンジョンを攻略していったのが那滝家の当主様であるらしい。

 

 設定は詳しく語られていないが、どうにもダンジョンの主の一体を使役していたとか。

 他にも牙塔家や、ダイブギアを作った三ヶ嶋家によって日本は平穏を取り戻した訳だ。

 

 探索者の本懐はダンジョンの攻略と、そのダンジョンから得たものや技術で日本を復興する事である。

 

「ここでの暮らしが良すぎて、今はもう殆ど本島の事を覚えていないっすけどね。遠い昔の様っすよ」

 

 そう言ってミユメちゃんは笑う。

 見てみて、美少女が笑っているよ! かわいいねぇ。

 

『かわいいねぇ^^』

 

「お二人はやっぱり幼い頃から?」

「私は、小学生6年生から……。ミロクちゃんとミズヒちゃんが中学からフェクトム総合学園に入るっていうから、付いてきたんだ。他に、友達いなかったし」

 

 トアちゃんが少し凹んだ様子でそう答える。

 自分で言っていて悲しくなったのだろうか。友達、増えてよかったね。

 

 で、那滝ケイはいつからなの?

 ねえ俺っていつから?

 

 ……うーん、那滝家の長男の設定に合わせておくか。

 

「俺は中学から。それまでは本家で探索者としての修行をしていた。お父様によく稽古をつけて貰っていたけど……うん、今の方が断然楽しいね。厳しい修行もないし」

「修行……やっぱり那滝家って凄いんだね……!」

 

 俺の茶化した言葉に、トアちゃんはどこか尊敬する眼差しを向けていた。

 やめてくれ……。俺、そんなの知らないわよ……。

 

「――っと、ついたっすよ。ここが生徒会っす」

 

 生徒会が自動ドアっぽいんだけど……!

 予算そんなにあるの? うちは勢い良く開けると外れる木製の扉なのに?

 

 フェクトム総合学園には一個もない自販機とかも滅茶苦茶あったし、なんか都会に来た田舎者の気分だ。

 

 感激する俺を他所に、ミユメちゃんはダイブギアを扉横の機械にかざす。

 すると、扉が音もなく静かに開いた。

 

「失礼しまーす! ルカさん、いるっすかー!」

 

 入ってすぐに、ミユメちゃんはクソデカ声で、そう叫んだ。

 御景学園の生徒会室がだだっ広い部屋なら、こっちは物がありすぎる引っ越し失敗部屋みたいだ。

 

 書類の山に、散乱する謎の機械群。

 綺麗な筈の白い床は、無数に這うパイプやコードのせいでほとんど見えなくなっていた。

 

 生徒会……室?

 

「ここであってるんだよね」

 

 トアちゃんの言葉に、俺は自信を持って頷くことができなかった。

 たぶんそうだよ。

 

 そういえば、ミユメちゃんも自分のラボだと横になれるスペースがないって言っていたな。

 もしかしてジルニアス学術院ってこれがデフォルトなのか。

 

「あれ、誰もいないんすかね。生徒会長ー? レオンさーん? ニコさーん? いないっすかー!」

 

 ミユメちゃんはずかずかと足を踏み入れて、奥へと進んでいく。

 俺はトアちゃんが転ばない様に咄嗟にスーパーミステリアス美少女となり、動体視力をガンガンに上げた。

 

 ぜってえ転ばせねえ!

 

『うおおおおおお! 躓くことすらさせない!』

 

 今日も俺達は美少女に貢献中である。

 そうしてゆっくり進んでいたその時だった。

 

 突然、紙と基盤の山が激しく揺れて崩れ落ちる。

 そしてその中から一人の美少女が飛び出してきた。

 

「そっ、ソルシエラ反応!?!?!?!? えっ、どこです!? ソルシエラいるんですか!?」

 

 ぼさぼさの金髪をサイドで一つに纏めた麗しき乙女は、俺達目がけて書類や機械をなぎ倒しながら進んでくる。

 

『あ、やべっ。なんか引っ掛かっちゃった』

 

 おい!

 

「あ、ルカさんいるじゃないっすかー!」

「うるさい静かに。それよりも、ソルシエラの反応があった!!!!」

 

 端末を片手に俺達の前まで来た美少女は、俺達をじろじろと見つめて言った。

 

「ソルシエラですか? 採血はOKですか? あ、ダイブギアってこっちで一度預かっても? 後、魔法式について私の解釈があっているか一度答え合わせを――」

「ルカさーん! 離れて! 離れてくださいっす! その人たち、ソルシエラじゃないっすから!」

 

 ミユメちゃんが美少女の白衣を引っ張ってぐいぐいと後ろに下げる。

 美少女がめっちゃ近くまで来て、三度の気絶と目覚めを繰り返した俺は冷静に首を横に振った。

 

「そうですよ。俺達は違います」

「う、うん」

 

 トアちゃんなんか怯えて俺の後ろに隠れちゃったよ。

 

 ……これマズいな。

 

『え?』

 

 ここでスーパーミステリアス美少女になれば、どうやらソルシエラ反応とかいう馬鹿みてえな名前の反応が出ちゃう。かといってスーパーミステリアス美少女にならなければ俺は、男としてトアちゃんに触れてしまう事になる。

 

 つまり、男なのに美少女に裾を掴まれちゃってる!!!!

 

『判決!』

 

 待って!

 

『死』

 

 過程がない!?

 俺、終わっちゃったんだけど!

 

「――え、君たちソルシエラじゃないんですか」

 

 暴走する俺の脳内美少女裁判所を他所に、その美少女は突然やる気をなくしたように言った。

 よく見たら目の下の隈も凄いし、ふらふらして重心が安定していない。

 

「すみませんでした。急に全ての願いが叶ってソルシエラが実験に身を差し出しに来たのかと」

「なに言ってんすか」

 

 流石にヤバいこと言っていると思う。

 

『ふむ……だがこういった美少女に実験と称してあんな事やこんな事をされるソルシエラもまた良いのではないかな?』

 

 星詠みの杖君、賢いねぇ!

 確かにそうだわ。

 

 でもせっかくなら俺が攻めたいなぁ。

 

『でも私のネットサーフィン叡智によると、ソルシエラみたいなタイプの子ってそういう受けの同人誌ばっかりだよ』

 

 偏ったネットサーフィンしてんじゃねえよ!

 フィルター掛けて健全なサイトしか見れなくするぞ!

 

「えー、改めてこの人が生徒会副会長のルカさんっす。ルカさん、この人たちは私の恩人。フェクトム総合学園のトアちゃんとケイっす」

 

 俺とトアちゃんはペコリと頭を下げる。

 

 ふむ……これがかの原作キャラの一人である内海ルカちゃんか。

 かわいいというよりは美人よりだな。

 

 美少女見習いとして学ばせてもらおう。

 

「あー、どうも。私、内海ルカです。……あ、はいこれ協定に同意したサインです」

「「えっ」」

 

 ルカちゃんはウィンドウを展開し、一つをスッと俺達へとスライドする。

 すると、俺のダイブギアになにやらファイルが転送されてきた。

 

 ………………協定、ヨシ!

 

「それじゃさよなら。私は今から96時間ぶりの仮眠をとるので」

「「えっ!?」」

 

 もさもさと動いて、時々躓きながら再び奥へと消えていこうとしたその背に、俺は慌てて声を掛ける。

 

「あ、あの!」

「なんですか、他にもまだありますか? ……すみません、今は雑談をする余裕が無くて。あのカス野郎が他のメンバー引き連れて現地調査に行きやがって、それで碌に休息も取れずに……てかなんで私だけで理論の構築から実施までやらなきゃいけないんだよニコとか寄越せやこっちに。本当に意味わかんねぇ。いや出不精を理由に断ったのは私だけど四度目誘われたら行こうと思ってたし本当に人の心が理解できていない。私だって収束砲撃とかデモンズギアの開発とかやりたいのになんでこんな――」

 

 ブツブツと呟くルカちゃんを前に言葉を遮ったのは、意外にもトアちゃんだった。

 

「ミユメちゃんが、ダンジョン奥で殺されかけました。パーティーが追放して、置き去りにしたんです」

「……それは本当ですか?」

 

 ピタリとルカちゃんの動きが止まる。

 そして、ミユメちゃんの前に来ると少し身をかがめて目線を合わせた。

 

「ミユメ、彼女の言葉は正しいのですね」

「……はい」

「そうですか」

 

 そう言うと、ルカちゃんは頭を優しく撫でながら先程とは打って変わって笑顔を向けた。

 

「貴女は優秀ですからね。そういったトラブルもあるでしょう。この人たちに助けられたんですか?」

「はい。後は、ミズヒさんやミロクさんにもお世話になりました」

「ミズヒ……ああ、最近Sランクになったあの生徒ですか。そういえばフェクトム総合学園でしたね」

 

 ルカちゃんは少しだけSランクに対する興味を持ったようだが、それよりも優先するようにミユメちゃんに言う。

 

「お礼は言いましたか?」

「はいっす!」

「復讐は考えていませんね?」

「勿論っす。ルカさんの教えは守るっすよ!」

 

 ルカちゃんは満足げに頷いた。

 

「そうです。私たちは理性の獣でなくてはなりません。理性によってのみ行動し、知性によって物事を測る。よく覚えていましたね」

「はいっす!」

 

 ルカちゃんはミユメちゃんの頭を愛おしそうに撫でる。

 撫でられているミユメちゃんも、まるで子犬のように擦り寄って機嫌の良さが傍から見てもわかるほどだ。

 

 ルカ姉様……。

 

『攻める側発言はどこにいってしまったんだい?』

 

 そうだったわ。

 あぶねえあぶねえ。

 

 ソルシエラは頭を撫でられたりしないわよ!

 孤高わよ!

 

「ミユメを助けてくれたのなら、多少なりとも礼はしなければならないですね」

「でしたら、ネームレスについて何か知らないか教えて欲しいんですが」

 

 俺の言葉にルカちゃんは首を傾げた。

 

「ネームレス? なんですかそれ。知りませんね」

「昨日、私はネームレスに襲われたっす。いや、それよりも前からネームレスは私に何か知識を与えて居たっすよ!」

 

 俺達とミユメちゃんを交互に見ながら、ルカちゃんはため息をついた。

 長くなることを察したのだろうか。

 

 美少女はきちんと休んでもらわないと。

 

「……あの、おやすみを優先していただいても構いませんよ。これは完全に興味からの問いですので」

「そうですか。ではお言葉に甘えて」

 

 そう言ってルカちゃんが休もうとしたその時だった。

 ミユメちゃんが、「あ、そうそう」と言って手描きのメモを差し出す。

 

「これは?」

「そのネームレスとソルシエラの戦闘時に使った魔法式とその運用方法っす。計測機がなかったので、魔力効率とか深度までは調べられなかったすけど。忘れないうちに渡しておくっす」

 

 え、それ今渡していいの?

 だってこの人――。

 

「……ミユメ、ソルシエラを見たのですか」

「はい。凄かったっすよー! あ、そう言えば未だに不明だった魔法式っすけど、たぶん魔力による仮想物質を用いた拘束魔法っすね。それと、驚いたのがネームレスがソルシエラとまったく同じ魔法を――って、すみません。仮眠が先っすね。反省っす」

 

 わざとやってない?

 ミユメちゃん、わざとじゃないの?

 

 ルカちゃんは、首をコキリと鳴らして完全にスイッチを入れた様子だった。

 

「仮眠はしないです。というか、今まで寝てた気がしてきました」

「え、でも」

「ミユメ、教えなさい」

 

 ルカちゃんがミユメちゃんの肩を掴んだ。

 今更俺とトアちゃんにどうこうできるわけもなく、ミユメちゃんからの視線に静かに首を横に振る。

 

「私が、理性の獣である内に……! 早く……!」

 

 その眼は、完全にキマっていた。

 

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