暗がり好きの日陰者、英雄女騎士の奴隷になる   作:warabimonn

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第1話 英雄の奴隷

「———んん、何だ?」

 

窓を閉めた暗い部屋の中で寝ていた俺、リルタ=アルグラインは騒音のせいで目を覚ました。普段なら決して起きることのない真っ昼間だというのに、今日に限っては起きてしまった。

なにせ、外が騒がし過ぎるのだ。昨日は夜遅くまで仕事をしていたからもっと寝ていたかったのに…。

 

「まったく、人が寝てるってのに起こしやがって。何の騒ぎだ?」

 

変に目が覚めてしまったせいか、もう一度寝つこうにも中々寝付けない。だから俺は仕方なく起きて家の外を確認することにした。俺の家は大きな街道に面しているから外の様子がすぐに分かる。

そして、やはり窓を開けると外で何が起きているのかすぐに分かった。

 

「おい!早くしろ!!もうすぐこの先を通るらしいぞ!!」

「ちっ、人が多すぎて進めねぇ」

「早く早く〜!」

 

こんな声が聞こえてきた。

 

なるほど、()()()()()

話し声から察するに、この王国が誇る最強の騎士が1人、紅石(ルビー)のアルベリット様が帰ってきたのだろう。近年様々な国に侵略戦争を仕掛けている魔王軍の幹部を討伐しに行ったという話は聞いていたが、今日がその帰りの日のようだ。

つまるところ、英雄の凱旋だ。

そりゃあみんなも沸き立つよね。滅多にお目にかかれない大英雄が、しかも戦果をあげて凱旋する姿を見れるっていうんだから。

 

「んー、流石に六騎士の1人くらいは直接見てみたいよな。…よし、たまには日光を浴びるか!」

 

俺は訳あってほとんど夜にしか活動しない。それに加えて、俺は人混みが好きじゃない。あのワチャワチャ賑わった感じが疲れるし、根本的に明るい雰囲気の場所は好きじゃないのだ。

だけど、英雄の中の英雄を直接見れる機会なんて滅多にないから今日だけは思い切って外に出てみよう。

やっぱり男子たるもの、本物の英雄の姿はこの目で見てみたいしね。

 

というわけで、俺は憧れの存在を目にするべく素早く身支度をし、フード付きの黒いローブを一枚纏ってから外に出た。

 

「——っ、眩しいな」

 

数ヶ月ぶりに浴びる日光がとても眩しい。だからこそフードは必須だ。体の中のナニカが浄化される前に体を守らねば…!

 

「おっと、俺も行かないと見れなくなっちゃうな。急ごう急ごう」

 

いくら日光が鬱陶しいとはいえ、立ち止まっている余裕もない。俺は人の流れに身を任せ、みんなと一緒に大通りの方に向かって走っていく。

 

このローレン王国王都は円状の城壁に囲まれていて、その東西南北に大門がある。その中でも1番大きいのが南門だ。

その南門から王都の中心にある王城までは大きな一本道で繋がっていて、アルベリット様が通るのはその道らしい。南門はその豪華さから『凱旋門』だなんて呼ばれているが、こうして実際に英雄が帰還してくるのを見ると実際その通りだなと思う。

そして俺の家の前を通っているこの道はその大通りに横から直結している。つまり、この道を真っ直ぐ進めば南門から続く大通りに出ることが出来るということだ。

 

そんな道を人混みの中進んで行くと、しばらくしてから何とか大通りに辿り着くことが出来た。

所謂(いわゆる)『凱旋ロード』に。

 

「…しかしまあ、すっげえ人数だな」

 

分かっていたことだが、凱旋ロードには信じられないくらいの人間が集まっていた。王都に住んでいる人間が全員集合してるんじゃないか?

右を見ても人。左を見ても人。前も後ろも人、人、人だ。なんなら魔法を使って空を飛んでいる奴すらいる。まったく羨ましいぜ。

出遅れたせいもあるが、俺なんて全力で前に詰めても凱旋ロードから10メートルくらい離れた所で見物するのが限界だっていうのに。

最前列にいる人は一体何時間くらい前からそこに居たんだ?

「もうすぐアルベリット様が帰ってくるらしいぞ」みたいな情報を聞いた瞬間から待機していた説を俺は提唱したい。

 

そんなことを思いながら数分待機していた時だ。

俺の前方から「おおっ!」と沸き立つ声が聞こえてきた。アルベリット様の姿が見えたのだろう。

一気に周囲の人々の熱気が増したのがメラメラ伝わってくる。

 

いいなー、最前列の人は。みんなが憧れる英雄の姿を目の前で堪能できるんだから。俺なんて少し遠くから通り過ぎるのをチラッと見れるだけなのに!

…まあ、俺はそれでも十分だけどね。もともとアルベリット様が今日帰ってくるって話も知らなかったわけだし。

 

そう思いながらアルベリット様たちを待つこと数分。

ついに俺の視界にも凱旋隊の姿が入ってきた。その先頭には、馬に乗った1人の騎士の姿がある。

英雄。紅石(ルビー)の騎士。アルベリット=ターナーその人だ。

 

「キャ〜!アルベリット様かっこいい〜!!」

「アルベリットさん結婚してくれー!!」

「ありがとうございます!!」

「アルベリット様万歳!!万歳!!」

 

彼女の姿を目にした人々は口々に声援を投げかける。声援なのか怪しいものもある気がするが……まあそれは置いておこう。

 

しかしまあ、あれが英雄と言われる人間の姿か。

 

「…すごい風格(オーラ)だな」

 

その姿には俺も「おぉ」と感嘆の息を漏らさずにはいられなかった。

 

アルベリット=ターナー。王国最高位の騎士である『六騎士』が1人。六騎士はそれぞれ宝石の名称を与えられていて、彼女が冠する宝石は紅石(ルビー)である。その名の通り、彼女は全身を真紅の立派な鎧に包んでいる。

羽の飾りが付いた兜を被ったその顔は非常に整っていて、高い鼻筋やキリッとした目つきには“可愛い”よりも“カッコいい”という印象を受ける。

一目見ただけで惚れそうになるのも頷けるな。

そして鎧の胸の辺りの造りを見るに、きっと胸も相当大きいのだろう。胸の部分が大きな曲線を描いているのだ。彼女には失礼だが、俺も男である以上少しだけ考えてしまう。エロいな、と。

 

そんなエロかっこいい英雄様は、笑顔で手を振りながら俺たちの前を堂々と通り過ぎていった。

その時間は数十秒しかなかっただろう。だけど、俺を含め、人々の目にはしっかりその光景が焼き付けられた。

 

「よし、もう十分だな。帰ろっと」

 

街の人はアルベリット様の背中を最後まで見届けようとこの場に残っているが、俺はもう満足だ。こんな人混みの中、まして太陽の下で長居はしたくないし、そろそろ家に帰ろう。

 

そう決めた俺は観衆の塊から何とか抜け出し、自宅を目指して歩き始める。その道中、アルベリット様のことを考えながら。

やはり英雄を目にした直後だからか、その興奮はすぐには冷めないのだ。

 

「アルベリット様ねぇ…」

 

彼女が英雄と謳われる大きな理由は、やはりその強さにある。

人々が生まれながらにして1つ持つ“天賦(てんぷ)”と呼ばれる力。神の恩寵とされるその能力は人それぞれ異なるが、彼女の天賦がズバ抜けて強いということは有名な話だ。

その名を、臨界超越(オーバーブレイク)。戦闘中に時間が経てば経つほど全身の運動能力が向上するという、あまりにも戦闘特化の天賦だ。

そして彼女はこの天賦の力で様々な敵を打ち滅ぼしてきた。だからこそ人々は彼女を英雄と慕い、国王は彼女を六騎士の地位に置いたのだ。

 

とは言え、彼女が英雄と謳われる理由はそれだけではない。先ほど人々に笑顔で手を振っていた様子からも分かるが、彼女は非常に性格がいいのだ。

もっとも彼女が人前に姿を現すことは数少ないが、彼女と出会った人は口を揃えて「アルベリット様は素晴らしい人だ」と彼女を讃える。それだけ人当たりが良く、人望厚い人なのだろう。

 

「肩を並べて戦ってみたいけど…ははっ、無理な話だな」

 

アルベリット様のような騎士になり、いつか六騎士と肩を並べて戦ってみたいと思ったことがないわけではない。

俺も戦いを生業としている身だ。強者と共闘するというのは心が躍る。

だけど、俺みたいな人間にはとても無理な話だ。寝言にしても度が過ぎている。

 

だって俺は————

 

「…ん、もう家か。案外早かったな」

 

考え事をしながら歩いていたからだろうか?

気づいたら俺は家の扉の前に着いていた。

 

よし、今日は久々に昼間に外に出て疲れたから、この後は沢山寝ることにしよう。睡眠万歳!

 

そんな決意を胸に扉を開け、家に入る。そのままそこら辺にローブを投げ捨て、俺は自分の部屋に直行した。

少し湿った匂いのする自室の匂いに安心感を抱きつつ、俺はベッドに大の字にダイブする。

 

「今日はこのまま明日になるまでスヤスヤしようかな。明日は何をしようか…。いや、明日になったら考えよう。おやすみ〜」

 

俺は今日という日に別れを告げ、明日に向かって睡眠の海へと堕ちていく。

 

 

 

 

 

—————はずだった。

 

「…………ん、んん」

 

ベッドに入ってから数時間後、俺は目が覚めてしまった。たぶん普段から夜の11時くらいに起きていたせいだろう。今日はその時間は寝ていようと思っても、体内時計のせいで逆に眠れないという…。

しかもぼんやり目覚めた程度ならまだマシだが、完全に目が覚めてしまった。お目目パッチリだ。

 

「…仕方ない。森にでも行くか」

 

今日は特に夜の間にやるべきこともないので、俺は仕方なく森に向かうことにした。

王都の東門を抜けて少し歩いた所に『アコブの大森林』と呼ばれる森があって、俺は定期的にそこでトレーニングをしている。()()でミスをしないために。

トレーニングと言っても弱い魔物と戦って戦闘訓練をするだけだが、何もしないよりは確実に経験になるだろう。それに体を動かせば眠くなって寝れるはずだ。

 

そーゆーわけで俺はベッドから降り、愛用の短剣を携えて部屋を出た。服装は薄汚れた普段着のままだが、夜だし人に見られてもそこまで問題ないだろう。

 

「うし、準備完了〜。行くとしますか」

 

家の外は昼間とは打って変わって静かになっていた。昼間の喧騒はどこへ行ったのやら。街道を見回しても外を歩いている人は両手で数えられるくらいだ。

まあ、俺としては静かな方が心地よいので人気(ひとけ)がないに越したことはないのだが。

 

そんな静かな夜の街道を、東門を目指して進んでいく。

そして警備の巡回をしている騎士に不審がられて声をかけられたりすることもなく、俺は無事に東門に到着した。

 

「南ほどじゃないけどコッチも十分デカいよな」

 

東門だって10メートルを超える大きさをしている立派な門だ。みんなは南門ばっかり話題に出すけど、俺は君のことも好きだぜ、東門君♩

 

そんな東門君を抜けて、俺はアコブの大森林へと向かった。

 

当たり前だが、こんな夜にわざわざ森に足を運ぶ人間なんていない。魔物とかが出て普通に危険だし。だけど、俺は大丈夫だ。

 

俺の天賦は“隠密”。息を止めている間だけ姿を消すことができるという能力のおかげで、魔物からは割と簡単に逃げ切ることができる。

だから夜でも問題なく森に入れるってわけだ。

それにアコブの大森林は奥深くまで行かなければ手強い魔物に出会うこともない。俺みたいに、入り口近くでトレーニングしていれば比較的安全だ。

 

 

そんなアコブの大森林へと向かうこと10分。

俺は短剣を右手に握りしめ、森へと足を踏み入れた。

 

様子は普段と変わらない、静かな夜の森。時々ガサガサっと草木が震え、そこから小動物や弱い魔物がヒョッコリと顔を出す。

だが、俺の目当ては黒猪(ブラックボア)という猪に似た魔物。高速で突進してくるアイツと戦いたいところだ。まだ素早い攻撃を繰り出してくる相手との戦闘に慣れていないから、アイツでトレーニングしたい。

 

そう思っていると。

 

「…ん? これは…振動?」

 

俺はふと足を止める。腹の奥に響くような「ズーン」という地響きが俺の全身を襲ったのだ。大きな魔物の足音のようにも聞こえるが、魔物の足音にしてはリズムが不規則だ。

 

「なんだ?一体どこから?」

 

俺はその音、そして振動の発生源がどこなのか気になった。レアな魔物だったら姿を見てみたいし、最悪襲われそうになっても逃げればいい。

 

よし、探してみるか。

 

「……………」

 

俺は発生源を探るために目を瞑る。全神経を集中させて方向を特定するのだ。

 

「……こっちか。…………もう少し右か」

 

木に手を当てて振動の強さを測ったり、耳を頼りにしたりして森の中を慎重に進んでいく。

 

そうしていると、やがて視界の開けた場所を見つけた。

より正確に言えば、()()()()()()()()視界が良くなった場所に。

 

「——!?」

 

何で木がこんなに倒れてるの?それに根本の方からバッサリと!

 

そう疑問に思った次の瞬間、俺はソレを目にした。

大剣を握りしめた1人の人間が、「んぁぁ!」と叫びながら木を切り倒していく姿を。

 

「!?!?!?!?」

 

何?何が起きてるの??

人間が大木を一撃で切り倒すとかいう理解に苦しい光景もそうだけど、あれはどう見ても女性じゃないか。女性なのに何であんな力が?

 

……待て。待て待て待て。あの女性って——

 

「——アルベリット、様?」

 

俺の十数メートル先で森林伐採に勤しむ彼女の姿が、昼間見た英雄の姿と重なる。

その背丈が。その顔立ちが。その風格が。

それら全てに既視感を覚えるのだ。

 

「…近づいてみるか。すぅ〜〜〜っ!」

 

俺は迷わず近づくことに決め、大きく息を吸って呼吸を止めた。“隠密”を発動させ、全身を透明化させたのだ。これならバレずに近づける。

持って1分ちょっとだが、それだけあれば正体を確認することくらいは出来るだろう。

 

そうして“隠密”を発動させた俺は地面に倒れた木々を跨いでいきながら素早く彼女の方に近づいていく。

すると、彼女は大剣を振り下ろしながらブツブツ喋っているのが分かった。

 

「——ったく、どいつもこいつも私のことをイヤらしい目で見やがって。何が『戦うには邪魔なものを身につけていらっしゃる』だ、あのクソキモジジイめ!テメェの股間のソレを切り落としてやろうか?あぁ!?これだから大貴族のクソジジイ共は嫌いなんだ」

 

……えーっと、どうしましょう?

近づいた結果分かったことが2つある。

1つは、やはり環境破壊者の正体が私服姿のアルベリット=ターナーであったということ。

その時点で俺の心臓はバックバクだが、それ以上に2つ目の事実の方が心臓バックバク案件である。

それは、俺は今、彼女の裏の顔を目撃しているのかもしれないということ。いや、真の顔と言った方が適切だろうか。

 

その事実に俺が震えている中、アルベリット様の悪態は止まらない。木を倒すごとに語気が強まっていく。

 

「ベリルだってそうだ。『幹部を1人倒したくらいで』だぁ!?お前は1人も倒してねえだろうが!!何で上から目線で評価されないといけないんだよ!」

 

ベリル…って、あのベリル!?

六騎士の中で最も王様と仲がいいと言われているあの人か!?

勿論会ったことはないし噂に聞く程度だったけど、そーゆー人だったんだ…。

 

まあアルベリット様も偉いなりに大変なんだな。

こうやってストレスを発散しないとやっていけないのだろう。…だからって森を破壊する必要はないと思うけど。

だけど、それでも俺たちには優しく接してくれるんだからこの人はやっぱり素晴らしい人だな。

日頃のストレスを民衆の前では感じさせない態度は、まさに尊敬に値するね。

 

「…しっかし、昼間のアイツらは気持ち悪かった。私が少し愛想良くしただけで『結婚して〜』とかバカじゃないのか?社交辞令に決まってるだろ気色悪い。感謝されること自体は構わないが、勝手に好意を抱いてくるんじゃない!あんな何処の馬の骨とも分からん奴等から好意など向けられてたまるか!あの時はあと少しでアイツらの首を刎ねてる所だったぞ…。ああ、危ない所だった。私のブランディングが崩れ去る所だったな…」

 

…………あれ、これって結構ヤバいか?

これ以上聞かない方がいいヤツかな?

うん、聞かない方がいいね。

 

よし、そろそろ息も限界だしさっさと逃げよう。知ってはいけないものを知ってしまったのだ。

知ってはいけないものを知ってしまったことを知られる前に逃げないと!

 

俺は全力で走り始めた。逃げなければならない。絶対聞いちゃダメなヤツだったから、俺がそれを聞いていたことがアルベリット様にバレてはならない!

だから速攻で、静かに、全力で逃げないといけない!

 

なのに!!!

 

「——あっ!」

 

俺は息が限界だったこともあって焦ったあまり、足元の木に足が絡まって倒れてしまった。

その瞬間に声を出して息を吸ってしまったことで、“隠密”の効果が切れて姿が(あらわ)になってしまう。

 

俺はすぐに呼吸を止め直した。

しかし、彼女からすれば遅すぎた。

 

「…おい、貴様」

 

地面に四つん這いになっていた俺が恐る恐る顔を上げると、目の前には大剣を肩に担いだアルベリット様が俺を見下ろして立っていた。

俺は再度“隠密”を発動させたから透明になっているのに、その目はピッタリ俺の視線と重なっている。

 

…俺、殺されるのかな。

 

「おい、いるんだろう、そこに。姿を現せ」

 

そう言うアルベリット様の表情がどんどん険しくなっていく。

…この状態から入れる保険はなさそうだ。

 

だから俺は大人しく“隠密”を解除する。

 

「よろしい。この期に及んで抵抗しようものなら即刻その首切り落としていたぞ」

「……申し訳ございません」

 

やばい。怖すぎる。昼間の笑顔は全て作り物だったのか!?

俺を睨んでくるその顔は冷酷そのもの。

俺はただ震えながら彼女の足元を見て謝ることしかできなかった。

圧倒的強者を前に、他に何ができると言うんだ!

 

「で、貴様は何者なんだ?先ほどまでの私を()()()()よな?」

「……はい。申し訳ございません。わ、悪気はなかったんです、本当に。たまたまだったんです!だからどうか許し———」

「ほう!たまたまだったのか!わざわざ姿を消してまで私の事を観察していた癖に偶然だったと言うのか!そうかそうか、余程貴様は死にたいらしいなぁ!?」

「……そ、そんなことはっ!!」

 

その瞬間、俺は顔を上げてアルベリット様の顔を強く見据えた。『本当に悪気はなかったんだ!許して!!』という念を込めて。

 

「ふん……」

 

睨み返してくるアルベリット様。

すると、彼女は俺の髪の毛を掴んで引っ張り上げ、俺のことをその場に立ち上がらせた。

そして俺より少し背が低いアルベリット様は、俺の顎をクイッと引いて俺のことを吟味するように睨んできた。

 

「………」

 

無言で俺のことを凝視してくるアルベリット様。

俺は状況を理解できず体を震わせることしかできない。 

 

やがて彼女は顎から手を離す。そして一歩下がり、俺の全身を上から下まで一瞥する。

 

捕食者に品定めされているエサの気分だ。心臓が高負荷で停止してしまいそうなほどバックバクに動いている。

 

そんな俺に、彼女は「ふん」と鼻を鳴らしてから信じられない言葉を投げかけてきた。

 

「…アレを見られてしまったんだ、普通なら即処刑している。しかし。しかしだ。貴様には妙に高度な隠密能力があるらしい。故に、命令だ。貴様、私の奴隷になれ」

「………?」

 

想像していなかったその言葉に反応が遅れる。理解が追いつかない。

それを察知したのだろう。

彼女は俺の首に剣を突きつけ、改めて言った。

 

「何度も言わせるな。貴様、私の奴隷になれ。私の手となり足となり、私のために人生を尽くせ。さもなくば殺す。奴隷となるかここで死ぬか、貴様にはこの2択しかない」

 

ここまでハッキリ言われれば流石の俺も理解できる。

ここで死ぬか、彼女の手駒となるか。

 

死とは終わりだ。全てが終わってしまう。

ならば、答えは1つしかない。

 

「——ります」

 

俺は喜んで受け入れよう。突然現れた、逃れられない運命の2択を選ばなければならないのなら、俺は終わりではなく未来を選ぼう。

その未来に何が待っていようと、今死ぬよりは価値があるはずだから。

 

「俺は奴隷になります!!」

 

そんな俺の言葉を聞き、彼女は言う。

 

「ふん、英断だな。今日の罪は今後の献身を以て許してやろう。死ぬ気で働けよ、()()()=()()()()()()()




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