『うーん、これはもう無理だなぁ…。』
兄の旬が小さく唸る。
旬の悩みの種はカラカラ様の事件にまで遡ることになる。
カラカラ様の除霊は依頼者が動画を盗撮していた事が原因で失敗したが、その衝撃的な結末と恐ろしい存在に立ち向かう少女達の姿がSNSで話題になったのだ。
危険な部分がカットされた動画が瞬く間に拡散され、藍達はたちまち話題となった。
しかし話題になればトラブルも付きまとうもので、藍達の素性を探ろうとネット上では様々な憶測が飛び交った。
また藍は1年ほど前に中学剣道の全国大会を1年生にして制覇した際に、剣道の天才美少女としてニュースに取り上げられた事がある。
話題の退魔師の少女は1年前の剣道少女ではないかと噂が広まると、太刀花町には藍達を探す余所者がうろつくようになり住民とトラブルが起きた。
『帰り道に声を掛けられた。
無視したけど。』
『アタシは一緒に写真撮った!』
『何をやっとるんだお前は!』
叔父は左手で杏樹の頭を撫で右手で凛の頭を叩いた。
事態を重く見た祖父が頭を悩ませていると、三男の賢が思い切ったように提案した。
『いっそこちらから正体を現し、一過性のブームを起こした後にメディアに映るのを辞めて廃れていきましょう。』
このまま隠し続けていればトラブルは続くだろう。
下手をすれば退魔師の活動中に迷惑な輩が乱入してくる可能性もある。
『それってつまりアタシらが芸能人になるって事!?』
目を輝かせて凛が身を乗り出す。
凛は田舎に辟易していて華やかな都会暮らしに憧れている。
芸能人になれると聞いてテンションが上がらないわけがなかった。
『一時的にメディア進出するってだけだよ。
そのままずっと活動するわけじゃない。』
『ヤダー!
一過性で終わるなんて絶対ヤダー!
そのままずっと芸能活動していこうよー!!』
凛がダダを捏ねるが、凛を除く3人は芸能活動に興味がないらしく歯切れが悪い。
『やめといたほうがいいよ。
キラキラした生活が幸せとは限らない。』
思考がとっくに枯れている那由多が説得するが凛は大きく首を横に振る。
『イーヤーダー!
私は芸能界入りして港区に住んでイケメンに囲まれて暮らすー!』
那由多の説得に耳を貸さず騒ぎ続けるので、嫌気が挿した杏樹は残酷な一言を告げることにした。
『話題になったのは私と藍の顔がよかっただけだから私達が降りた時点でもう終わりなの。
続けてもいいけど凛だけじゃ悲しい結果に終わるだけだと思う。』
自分では役不足だという現実を思いっきり突きつけられて凛が本気で凹む。
凛も明るい性格でクラスの人気者なのだが、芸能界でやっていけるかと言われたら厳しいだろう。
『こうなったらTVに映ってるうちに芸能人とLINE交換して合コンして付き合って結婚するぅー!』
『ずっと既読スルーのまま、いざって時の退魔師って感じで便利屋扱いされるのがオチだと思うよ。』
それでも凛は連絡が来ればワンチャンに賭けて便利屋業務に励むのだろう。
良い様に扱われる未来が目に浮かぶので那由多が先に警告する。
『太刀花家は国から様々な支援を受けているのですから、私達は退魔師として人々を守る義務があります。
本懐を忘れないでください。』
『うぅ、何が本懐だよぉ…。
アタシが夢を見ちゃ悪いのかよぉ…。』
藍の説得で凛は力無く肩を落とす。
太刀花家は退魔師の名家として国宝指定されている。
それは言い換えれば太刀花家は退魔師として常に一流である事が求められているという事だ。
広い屋敷も日々の暮らしも自分達の稼ぎだけで賄っているとは言い切れない。
不自由のない暮らしは生き方を選択する自由との引き換えと言えるだろう。
ともかく凛の心は完全に折れ、4人ともほんの少しだけと割り切ってメディア進出する事になる。
メディア映えするような芸は持ち合わせていないので盛り上がらないかと思われたが、霊と戦う少女というヒロイックな存在がウケたのかメディア進出は思いのほか成功する事になる。
イメージソングも出したし、MVも作った。
トークの得意な凛がツッコミ役の杏樹を連れて配信を始めたり、藍はTV番組内で心霊映像や心霊写真の鑑定をしたり実際にお祓いもしてみせた。
また那由多の古いアニメの知識が妙にウケて中年オタク芸人に混ざれる少女として重宝されたりもした。
そんな多忙な日々を送る中、4人はとある大人物に呼ばれ特番に出演する事になる。
早朝から指定された場所でロケバスに拾われると、4人と付き添いの兄、鉄(てつ)は番組スタッフと車内で顔合わせをしていく。
『事前に連絡がいってると思いますが、今回は心霊スポットに向かいみなさんに除霊の演技をしてもらいます。』
『ふーむ、やらせというやつですかな?
退魔師のアイツらに「やらせ」をさせるんですか?
もしやアイツらの事をインチキだと思われてますかな?』
顎に手を当てて鉄が唸ると、老人スタッフが現れて説明を加える。
『いやいや、そうじゃなくて。
本当の除霊なんてやらせて女の子達を危険な目に遭わせるわけにはいかないからね。
ちゃんと安全が確認されてる場所で撮影するのさ。』
老人が鉄に説明を終えると、鉄の横にいた那由多が目を輝かせる。
『わぁー!
本物の田見野さんだー!
わたし大ファンなんです!』
那由多が老人の前で両手を合わせて喜ぶ。
このような男に喜ばれそうな仕草も自然に出るようになってきた。
田見野(たみの)と呼ばれた老人は頭をかき、那由多に優しく微笑んで答える。
『ありがとう。
若い娘さんが俺の作品が好きだなんて嬉しいねぇ。
俺の作品のどんな所が好きなのかな?』
田見野はマスクドライバーシリーズと呼ばれる特撮番組のシナリオライターである。
那由多のような中年男性には特に名が売れており、それこそ神のように崇められているカリスマライターである。
ただし田見野は番組の監督業務も務めており、今回はシナリオライターとしてではなく監督として参加するようだ。
田見野の人を試すような言葉に怯むことなく、那由多は限界オタクっぷりを全力で回していく。
『一番好きって言われたら決められませんがまず好きなのがVドライバーの老人達が突撃するところです。
立場の違いで何かと意見が衝突してた老人達なのに、若い世代を守るって事だけは一致していて最後の瞬間だけは急に団結する辺りが本当に良くて戦友ってこういうのを言うんだろうなって感じで泣けます。
それからターンドライバーの、僕は戦います戦いを望む人とは地球も月も関係なく戦いますって興奮しながら涙交じりに言う場面が良くて…』
那由多の早口長文に驚き、古い作品を持ち出した事にも驚き、その発言が若い娘とは思えぬ領域である事にも驚かされて田見野は口を開いて感心してしまう。
が、それはそれとしてキリがなさそうなので会話の途中で言葉を挟む事にした。
『ほ、ほぉー…そんな古い作品をこんな若い女の子に熱く語られるとは思わなかったよ。
長生きしてみるもんだねぇ。』
田見野は嬉しそうに笑うと、少し意地の悪い顔をして那由多に尋ねる。
『じゃあ最新作のジークドライバーはどうかな?』
『うっ…』
田見野の質問に那由多は言葉を失ってしまう。
ハッキリ言ってしまえばジークドライバーは田見野作品らしからぬストーリーであり、那由多を含む旧作のファンには受け入れにくい内容だったからだ。
『あ、新しい試みを取り入れてますよね。
若い子向けって言うか…どちらかというと役者のカッコイイ部分を見せるための番組で…』
『無理に褒めんでいいよ。
あれは大人のために作ったからヒーローものとしては駄作だよ。』
本人に駄作と言われたとはいえ簡単に同意するわけにもいかない。
那由多は慌てて取り繕ったフォローを入れる。
『でもSNSじゃ毎週話題になってましたよ。
駄作だと仰いましたが人気がありましたし番組としては成功なのでは。』
そんな那由多の気持ちがよく理解できるからこそ田見野はつまらなそうに答える。
『SNSを利用するような世代にウケるように作ったからね。』
田見野は少し遠くを見つめるように空を見上げる。
それでも那由多はジークドライバーにも価値を見出していたので素直な気持ちでフォローを入れる。
『それでもジークドライバーは悪と戦いました。
彼は今の子供たちにとってもヒーローだったと思います。』
那由多の言葉を聞いて田見野は頭を掻きながら答える。
『ヒーローが人の数だけ正義があるなんて敵の言葉に狼狽えてさ。
子供達には悪いことをしたよ。
ジークはただ敵の落ち度を見つけてぶん殴っただけだ。』
那由多も旧作のファンだから理解はできる。
ここ数年のドライバーシリーズは敵にも事情があり、主人公はそれらの現実的な問題を解決することなく平和のために敵を打ち倒す。
主人公たちに譲れない信念があれば旧作ファンも納得できたのだろうが、ここ最近は納得しないまま惰性で視聴している状態が続いている。
ジークドライバーが作品として劣るわけでもないが、とにかく田見野監督の作品らしくない。
『いくら売れても子供たちに正義の魂が伝えられないんじゃ映像の意味がない。
しかも次は夢見がちなアイドルの女の子達を主人公にしてドライバーシリーズを撮れと来たもんだ。
そんなに金が稼ぎたいなら映像なんて撮らなくてもいくらでも方法はあるだろうに。』
正直、幼い頃から尊敬している田見野にそう言われては返す言葉がない。
それでも那由多は静かに目を瞑って一言だけ反論する。
『女の子にだって正義の心はありますし本気で戦う事もありますよ。』
那由多の言葉を聞くと、田見野は納得したというよりは我に返ったような反応を見せた。
『ああ、そりゃそうだね。
ごめんね、君があんまりにも古参ファンみたいだからついつい仕事の愚痴を言っちゃったよ。』
田見野は急に穏やかな笑顔になった。
この笑顔は若い自分に気を使った大人の笑顔であり、悪く言い換えればこの話題を自分に振っても意味がないという事だ。
正直な所、自分では田見野を納得させられるような言葉は出せないだろう。
ただ、かつて疲れ切っていた自分に活を入れてくれた少女が傍にいる。
彼女ならば田見野にも活を入れてくれるのではないかと那由多は淡い期待を抱いてしまうのだった。
ロケバスが2時間ほどかけて到着した場所は、焼け落ちた建物が残る廃校だった。
全員がロケバスから降りるとADが大声でスタッフに説明を始める。
『事前に台本は渡しておきましたが改めて説明させていただきます。
ここは谷津神(やつがみ)学園という女子校の旧校舎跡地です。
過去に原因不明の火災が発生して使い物にならなくなったので校舎の移転と共に廃棄された土地です。
体育館にいた剣道部の少女達が犠牲となったので、彼女達の霊が出るという噂が絶えない心霊スポットと化しています。』
ADの声が途切れると辺りに不気味な静けさが訪れる。
田見野や番組スタッフが落ち着いているのは対照的に、心霊現象のプロフェッショナルである藍達は緊張感に包まれる。
『あの…お兄様、ここは…』
怯えるように鉄に尋ねる藍をスタッフが明るく笑い飛ばす。
『大丈夫!
今日の撮影のために事前に僕らが視察したけど霊なんて出なかったから!』
『そうそう、幽霊なんかいないいない!』
スタッフ達は笑いながら機材を中へと持ち運んでいく。
藍達の動画は大勢の人々に再生されたが、それでもまだ藍達のような退魔師は完全に世間に認められたわけではない。
スタッフ達も霊という物をいまいち信じていないのだろう。
『まぁー…あれだな。
出てくるには条件があるタイプかもしれん。
現れたらそん時はそん時だ。』
『そうそう。
アタシらプロなんだから気にせず行きましょ。』
凛も鉄も堂々と中へ入っていくので、3人は後ろをついていく。
嫌な気配が漂う校舎の横を抜けていくと、焼け落ちた体育館にたどり着く。
『火災の日、谷津神学園剣道部の生徒達は部活の最中に炎に囲まれて逃げ遅れたんだ。
まずはお嬢ちゃん達にそれっぽく霊の存在を語ってもらうシーンを撮影しよう。
その後に4人で除霊の儀式をしてもらって犠牲者の霊を慰めてもらう。』
『ちゃんと視聴者が泣けるように撮って行こう。』
田見野の大まかな指示を受け、スタッフ達がそれぞれに己のすべきことを確認していく。
スタッフ達が慌ただしく動き回る中、藍達は静かに現場の調査を始める。
『…うわ、間違いなくいる…。』
『スタッフさんが前に入ったときは何も出なかったらしいけど今回は出るかもね。』
杏樹がげんなりした顔でつぶやき、凛が退魔師モードへと移行する。
4人はそれぞれに調査を開始し、冷静に状況判断しているだけだが番組スタッフ達は演技だと思い込み撮影していく。
『じゃあ那由多ちゃんと杏樹ちゃんが喋ってる後ろで、いきなり藍ちゃんが何もない所を攻撃してもらえるかな。』
田見野から指示が飛ぶ。
カメラには映っていないがいきなり霊が現れたというインパクトのある場面を撮りたいらしい。
スタッフの合図と共に那由多と杏樹が適当な会話を交わすと、藍はまるでそこに敵がいるかのように走り出して全力で虚空を斬る。
だが、刀を振り終えた直後から急に辺りが騒がしくなり悪寒が全身を襲う。
妙に活気づいた声が周囲に響いているが、それとは逆に身体は震えるほどに冷たさを感じる。
作業中のスタッフ達も異変に気付き、それぞれが周囲を見渡す。
気が付けば周りには剣道の防具を付けた少女達の霊が竹刀を打ち合っていた。
『みなさん、霊の邪魔をしないようにこちらまで戻ってきてください!』
鉄の大きな声が響き渡る。
訳も分からないまま呆然としていたスタッフ達は鉄の声で我に返り、慌てて機材を担いだまま霊に触れないように鉄の元へと集まっていく。
『な、なぁ。
これが心霊現象ってやつなのかい?』
『そうですよ。
まぁー今日は素人さんもおりますし帰るべきなんですが。』
恐る恐る尋ねる田見野に答えると、鉄は藍達に振り向いて大声を挙げる。
『お前ら!どうしたいんだ!?
やるんならケツ持ちはワシがしてやるぞー!』
『スタッフさんに何かあったらどうすんのよ。
依頼も受けてないんだし帰るわよー。』
凛が横を向いて藍達に同意を求めるが藍だけは首を横に振る。
『いいえ、次の機会があるとは限りません。
私はここで祓うべきだと思います。』
凛の言う事は最もだが、再訪した時に霊がまた現れるとは限らない。
また自分達が遭遇する前に他の退魔師によって強制的に退治されてしまう事を藍は恐れていた。
藍は彷徨える少女達の霊を慰め、ここで正しく成仏させるべきだと考えた。
『わかったわ。
じゃあ藍はそうしなさいな。』
そう言うと凛はゆっくりと近づいて藍を優しく抱きしめる。
その行為の意味をスタッフ達はこの時点で理解する事は出来なかった。
『ねぇ、スタッフさん達はどうするの?』
杏樹の問いかけに田見野は意地悪い笑みを浮かべる。
『いいじゃないのいいじゃないの。
このままカメラ回そう。』
笑みを浮かべる田見野の決断にスタッフ達は動揺するが、田見野がそれを一括する。
『撮影中の危険なアクシデントなんて昔はよくあった事もんだよ。
まして今回はプロが大丈夫って言ってるんだから危険なんてないも同然だ。
そうなんだろう?』
田見野は鉄を見上げる。
TV局にもコンプライアンスは存在し、田見野も時代に合わせて生き抜いてきた。
スタッフに危険が伴う撮影は基本的にはNGであるし、田見野も愛する後輩スタッフ達に危険な真似はさせない。
しかしコンプライアンスの中に霊に関する記述はなく、横にいる退魔師がスタッフの安全を保障するならば田見野としては引く理由がない。
何よりも田見野は今までにない体験と、それに立ち向かう少女達が本物かどうか、そしてどのような結末を迎えるのかが知りたかった。
『ええ、みなさんの身はワシが保証しますよ。
藍がしくじった時はワシがアイツらを強制的に祓ってやりますわ。
それにしても監督は肝が座っとりますな。』
鉄の答えを聞いて田見野は悪だくみをする少年のような笑みを浮かべる。
スタッフ達もなんとか落ち着きを取り戻して撮影を再開する。
藍達も話がまとまったらしく、藍だけが体育館の中央に残り3人はスタッフ達の元へと戻ってくる。
『おや、藍ちゃんだけでやるのかい?』
『力尽くで祓うだけなら4人でやるんだけど、藍はあの霊達を成仏させたいみたい。
祓うには藍が一人じゃないとダメなんだって。』
凛の報告を聞いてスタッフ達からどよめきが起こる。
『成仏ってあの霊達の心残りを解消するって事か?』
『何の為にそんな事をするんだい?』
スタッフ達のどよめきを優しく諭すように、椅子に座った杏樹が小包装のお菓子を食べながら観戦モードで答える。
『あの子は死んだ他人も救おうとするのよ。
よく言えば優しいし、悪く言えば退魔師として危うい。』
杏樹の解説にスタッフ達は納得する。
思えばここまで関わっただけでも優しさと人の好さが垣間見える子だった。
そうなると今度はスタッフ達に別の感情が浮かび上がる。
『藍ちゃんは大丈夫なのかい?』
不安そうに質問するスタッフに鉄は腕を組んで答える。
『ワシにはあの娘っ子の霊達が何を心残りにしとるかなんてわかりませんからなぁ。
藍にはアテがあるようですが、しくじればおしまいかもしれませんな。』
『は?おしまい?』
田見野は間抜けな声を挙げ、スタッフ達も再び動揺するが鉄は当たり前のように答え続ける。
『そらもう霊と相まみえるってのはそういう事ですわ。
人間はどんだけ鍛えても深く刺されたら死ぬように、無防備なところを霊に一撃やられたらおしまいですわな。』
鉄が話し終えると田見野は勢いよく鉄に掴みかかる。
『それが本当なら撮影は中止でいい!
やめさせろ!!
身内のあんたがなんでそんなに落ち着いとるんだ!!』
田見野の当然の怒りを鉄は気にもしないように答える。
『アンタらの撮影は関係ありません。
退魔師として生きると決めた藍が、自分で決断してあの霊を救うと決めたんです。
であればワシらに藍の生き方を止める権利はない。
ワシらはそういう世界で生きとるんです。』
一同は先ほどから鉄がほとんど瞬きせず藍を見つめている事に気付く。
田見野を含めたスタッフ達は鉄の覚悟と、先ほどの凛の抱擁の意味にようやく気付いた。
今生の別れになるかもしれないからだ。
『おじさん。
藍の姿、ちゃんと撮ってあげてね。
これが最後の姿になるかもしれないから。』
杏樹がカメラマンの袖を引っ張ってお願いすると、カメラマンはごくりと喉を鳴らして撮影に集中し始めた。
若いスタッフ達は場の空気に呑まれてしまうが、田見野監督は変わらず藍を引き留めようとする。
『藍ちゃん戻ってきなさい!!
怪我でもしたらどうするんだ!!』
田見野は必死に声を掛けるが、藍は一瞥だけすると端に置いてあった竹刀を1本抜き取って中央に向かっていく。
なおも藍を引き留めようとする田見野を、那由多が背後からゆっくりと腕を掴む。
『まぁまぁ監督。
大人として子供を守る義務もあるんでしょうけど、ここは退魔師の領域ですよ。
プロの仕事に素人は手出し口出し無用です。』
『それはわかるがあの子は未成年だろう!
あんな小さな子に何が出来るって言うんだ!
大人が大切に守ってやらなきゃならんだろう!!』
田見野の善意と責任感から来る主張に那由多は優しく微笑んで返す。
知名度ゆえに色々と悪く言われる監督でもあるが、幼い頃から追い続けている作品のライターが善性の人であると知れて嬉しかった。
そんな後ろ側のやり取りを気にする事もなく藍が竹刀を身構えると少女達の霊はゆっくりと整列し、1体の霊が藍の前で竹刀を構えて立ち塞がる。
互いに礼をした後、霊が竹刀を振り上げて藍に襲い掛かるが藍は最小の動きで横に避けると通り抜けざまに霊の手と後頭部に竹刀を打ち込む。
剣道で言うならば小手と面ありと言ったところだろう。
『速いっ!
強いな藍ちゃん。』
スタッフの一人が声を挙げると全員が彼に注目する。
『そういやお前は剣道やってたんだったな。
経験者のお前から見て彼女はどうだ?』
『剣道ってほぼ経験年数イコール実力って所があるんですけど藍ちゃんは小学校から20年近く続けてる4段の俺よりずっと強いですよ。
あの年齢で言えばあり得ない強さです。
あれだけ強ければ学生に負ける事はないと思います。』
『まぁうちは鍛え方が違いますからな。
TVじゃとても映せないような訓練を毎日やらせとります。』
鉄の明らかに非合理的な発言に、田見野が何か言いたげに目で訴えるが鉄は言葉を続ける。
『霊や妖怪に殺されるくらいなら特訓で大怪我してトラウマになったり退魔師として再起不能になって貰った方がいい。
敵に負けたら確実に死にますが、ワシらに負ければまだ普通の娘として暮らせますからな。』
スポーツ医学的観点、令和的価値観、人道的配慮。
鉄の言葉に色々と反論する事は出来るが、それらを振りかざして目の前の少女のような強さを持つ人間を育成できるかと言われたら不可能だろう。
大切に育てた娘ではあっさりと敵の餌食になってしまう。
日常を命懸けにしていれば、命懸けの戦いも日常に過ぎないという太刀花家の育成方針は子供を大切に確実に育て上げるという近代的思想とは真逆にある。
『言うなればうちは霊や妖怪と戦うためのバケモンを育てとるようなもんですわ、ワハハ!』
笑い飛ばす鉄とは対照的に、スタッフ達は凍り付いた表情で少女達を見つめる。
可憐な姿でメディアに現れたのですっかり忘れていたが、ここは禁忌の領域であり目の前の少女達はそこで戦い続けている人間なのだ。
『うっふん』
緊張を和らげようとした杏樹が真顔のまま謎のセクシーアピールをしたが、場の空気が和らぐことはなかった。
一方、藍達は互いに元の位置について頭を下げると、敗北した霊は列に戻っていき次の霊が藍の前に立ち塞がる。
『あれは霊が襲い掛かったんじゃなくて剣道の試合をしてるのか。』
田見野の疑問に鉄は頷いて答える。
『なんで剣道の試合をしてるのかまではわかりませんがね。』
『いやーアタシはわかるよ。』
2人の会話に凛が割って入ると話題の中心は凛へと移る。
スタッフ達から状況の説明を求められると、凛はカメラに向かってニッコリ笑って答える。
『答えちゃったら面白くないじゃん。
みんなで当ててみてよ。
あの年頃の女の子が地縛霊になるような心残りって何でしょうかっと。』
唐突に振られた凛のクイズをスタッフ達が恐る恐る答え始める。
『やっぱ彼氏がいたとかですかね?』
『部の全員にか?
大体ここ女子校だぞ?』
『推しの男性アイドルに会いたいとかじゃないか?
だから我々TVが来たから姿を現したんだよ。』
『そもそもなんで試合してるんだ?』
スタッフ達が口々に意見を挙げる中で、那由多は田見野に答えを問う。
『監督はどう思いますか?』
『若い女の子の心残りなんてわからないよ。
男の剣道部員だったらライバルとの決着とか日本一になりたかったとかだろうけどさ。
女の子だと…やっぱり結婚かなぁ?』
『ぶー、全員ハズレー。』
凛ではなく杏樹が横から口を挟む。
どうやら杏樹にも藍の行動に対する答えが見えているらしい。
杏樹のような女の子が共感できる心残りとなると、田見野を含むスタッフ達はいよいよ答えがわからなくなる。
『まぁ見てればわかりますよ。
時間がかかるでしょうからリラックスして見てましょう。』
那由多の締めに納得して、全員で藍の戦いを見守る事になる。
藍と少女達の試合は何度も繰り返し続き、気が付けば5時間以上の時間が流れていた。
『…なんて子だ。
もう5時間以上も続けてるぞ。
ずっと勝ち続けている。』
先ほどの剣道経験者のスタッフが驚きと恐怖の感情を込めて呟く。
ここまで一度も負ける事なく代わる代わるの霊と戦ってきた藍だったが、実力で圧倒しているとはいえ流石に息が上がり疲れが見える。
試合を撮影しているスタッフ達にも疲れが見えるのだから、実際に戦っている藍の疲労は肉体的にも精神的にも相当なものだろう。
『もうまともに動くのも出来ないだろうに…。』
呼吸は荒く、汗が滴り落ち、試合が終わった後の所作もフラついているが、それでも藍は竹刀を構えると衰える事のない動きを見せる。
それは霊達も同じで、少女達の霊はフラつきながらも竹刀を構えると全てを出し尽くすかのように振りかかり交代交代で藍と打ち合っていく。
疲労困憊し敗北してもなお、彼女達にはどこか満ち足りた雰囲気が伺える。
やがて主将と思われる選手が何度目かの敗北をすると、面を取り静かに藍に近づいていく。
その表情に敵意はなく敬意が感じられる。
『あなた、お名前は?』
その場にいた全員の心に響くように聞こえた不思議な声に藍は微笑んで答える。
『太刀花藍です。』
霊はどこか遠くを見つめると、藍に笑顔を向けて消えていく。
『ありがとう。
あなたと戦うの楽しかった。』
気が付けば辺りからは全ての霊達が消え、周囲はどことなく優しい月明かりに照らされていた。
『終わったのか…?』
『結局あの子たちは何がしたかったんだ?』
緊張から解き放たれたスタッフ達が口々に喋り始めると、それを遮るように凛が口を挟んだ。
『そりゃ剣道がしたかったのよ。』
凛の回答に納得できずスタッフ達が口々に言うが、それを那由多がフォローするように割って入る。
『さっき監督が言ってたでしょう。
男だったらライバルと決着つけたいとか日本一になりたいとかだろうって。
スタッフの皆さんにもそんな風に何かに全力の、それこそ命懸けの時期があったんじゃないですか?』
那由多の言葉にスタッフ達がそれぞれ思いを馳せる。
『そういえば野球やってた時、公立高校なのにみんな本気で甲子園を目指してたなぁ。
最後の試合に負けた時は悔しくてみんなで泣いたよ。』
『俺はサッカー漬けだったよ。
結局は今の全日本エースがいるチームに負けたんだけど、毎日色々なサッカー選手のプレイを見直して研究してたよ。
それこそ試合に勝つためなら死んでもいいと思って、ゴールポストに向かってダイビングヘッドした事もある。』
『今にして思えばそこまでするもんじゃないって思うけどな。』
スタッフ達の青春を懐かしむ言葉を聞いて、那由多も前世の事を思い出しながら静かに呟いた。
『女の子も同じなんです。
大切に守られて可愛いワガママを言うだけじゃありません。
それぞれに譲れない信念や夢がある。
女の子だって戦うんです。』
先ほどまでならば一笑した言葉だったが、今となっては理解できる。
彼らの目の前には汗だくになりフラつきながらも、天へと昇っていく霊達を優しく見送る少女の姿があるからだ。
『あの子達は力尽きるまで藍と全力で戦って満足したの。
せっかく毎日頑張って鍛えてきたんだもん。
強い同世代の剣士を相手に全力を尽くしてみたかったの。』
杏樹が答えを口にする。
少女達の霊は強い相手を求めてずっと残り続け、現れた藍は彼女達の気持ちに共感して応えた。
口にしてしまえば簡単なのだが、これは少女達の情熱と想いと藍の覚悟と積み重ねてきた強さがあっての結末だった。
だが、現実は美しいだけでは終わらない。
気が付くと辺りには炎が巻き起こりスタッフ達は完全に炎に取り囲まれていた。
何者かの怒りのように猛り狂う炎を見てスタッフ達は忘れていた謎を思い出す。
そもそもなぜ体育館が燃え、少女達が逃げ遅れたのか。
その答えは炎をまとった車輪のような怪異が目の前に現れた事で解答される。
『ほぉ、輪入道の仕業か。』
鉄が目を細めて値踏みするように見つめる。
輪入道(わにゅうどう)
炎に包まれた車輪の中央に顔が付いた姿をしており、見た者の魂を奪っていくと伝えられている。
その発生要因は様々だが、個体ごとに特徴があり必ずしも言い伝え通りとは限らない。
一般的な輪入道であれば無差別に魂を奪う妖怪の一種であるが、今回はそのケースには当てはまらないらしい。
輪入道は怒りの形相で藍を睨みつけると雄叫びのように言葉を発した。
『女が剣を握るなぁ!!
それは我ら侍への最大の侮辱だ!!』
輪入道が叫ぶと、その場にいた全員の脳内に映像が叩き込まれる。
侍の集団が戦で懸命に戦い、健闘むなしく全員が命を落とす。
彼らを弔う物はいなかった。
やがてその土地に学校が建設され少女達が剣道に青春を費やす。
その様子に怒った幾人かの侍達の怒りの炎が輪となって車輪の周りに集まり、輪入道と化し体育館を燃やし尽くす。
いきなり見せられた映像と、輪入道の恐ろしいまでの圧と炎の熱にスタッフ達は正気を失いかけるが、鉄が一括するとスタッフは金縛りにあったように動きを止める。
やがて那由多が言霊を宿した祝詞をあげるとスタッフ達はなんとか落ち着きを取り戻した。
鉄は那由多に片手で礼をすると藍に向かって叫んだ。
『藍!
スタッフさんに害が及ぶようならワシがやるぞ!』
鉄の呼びかけに藍は首を横に振る。
『申し訳ありません!
もう大丈夫です。
ここは私に任せてください。』
谷津神学園の剣道部は侍達の「女が剣を振るな」というこだわりによって殺された。
それは那由多の「女も戦う」という言葉への無理解から来るものであった。
ならばこそ彼女達と実際に刃を交えた自分が女の意地を見せつけてやらねばならないと藍は考えていたのだ。
『じゃあ好きにやれ!』
鉄の言葉と共に藍は先手を取って輪入道に切りかかる。
藍の愛刀である藍花は閃光となって輪入道の炎の1つを一振りで断ち切ったが、それでも炎はまだいくつもあり輪入道の勢いは止まらない。
輪入道は暴走車のように炎を撒き散らしながら走り回るが、藍は大きく動き回って輪入道の突撃を躱していく。
『危ない下がれっ!』
飛んできた炎を鉄が刀を抜いて切り落としたが、迂闊に前に出たスタッフの音声機材がドロリと地面に溶け落ちた。
『か、掠めただけなのに…。
あの子はこんなのを相手にしてるのか。』
スタッフ達は息を吞んで戦いを映し続ける。
藍の服は焦げて変色もみられるが、致命には至らずなんとか戦い続けている。
言うなれば火炎放射器を装備したトラックが火を放ちながら暴れまわっているようなものだが、藍は確実に隙を見つけては輪入道が纏う炎を斬り裂いていた。
だが藍は5時間以上の試合の後であり疲労は限界に達している。
人間離れしているとさえ言える身のこなしで攻撃を回避し続けていた藍だったが、ついに足に限界が来てしまい体勢を崩したところに撒き散らされた炎が降りかかった。
無惨な光景を想像してスタッフ達が目を背けるが、凛と鉄はニヤリと笑みを浮かべる。
『勝った!』
凛の声と共に炎の中から藍が姿を現す。
藍が着ている服は一見するとセーラー服と巫女服を合わせたコスプレ衣装のような服だが、素材はれっきとした退魔師の礼服であり魔を退ける効果がある。
藍は退魔師の礼服をとっさに脱ぎ捨て前面に出して魔の炎を振り払うと、キャミソール姿のまま突撃して輪入道を大きく斬り裂いた。
勝利を確信して油断していた輪入道は藍の一撃をまともに受ける事となった。
『女の剣で斬り裂かれる気分はどうですか!?
悔しければ二本の足で立って正々堂々と私を斬りに来てください!』
のたうち回って叫ぶ輪入道に藍は挑発する。
縦横無尽に暴れまわっていた輪入道だったが、顔部分を大きく斬り裂かれた事でついに代表格である本体が姿を現す。
現れたのは甲冑を纏った鎧武者だった。
その装備の豪華さからそれなりの地位であった事が伺える。
彼が輪入道と化した侍達のリーダーだろう。
『このような姿で失礼します。
太刀花藍と申します。』
藍は武人として敬意を払って侍に頭を下げたが、侍の霊は礼を返す事なく刀を抜く。
『女に礼儀などいらん!
これはただの躾だ!!』
かつて女が剣を握る事を男が嫌ったのは、戦場に女を立たせまいという信念からだろう。
だが、目の前の侍からはそのような情は感じられない。
彼らはただ女を見下し、自分たちの感情だけを振り撒いている。
剣の道を志す女の一人として、そのような者に負けるわけにはいかない。
藍は大きく息を吸うと敵の出方を伺う。
先手を打って侍が藍に襲い掛かると、藍は振り下ろされた刀を真っ向から受ける。
『アホゥ!
剣道の試合じゃないんじゃぞ!!』
鉄の言葉と同時に侍が蹴りを繰り出す。
藍はかろうじて後ろに下がり威力を落としたが、甲冑で固められた鋼鉄の蹴りは予想以上であり呼吸を乱されて咳きこんでしまう。
その隙を逃さず侍が斬りかかるが、藍は体育館を走り回って呼吸が整うまでの時間を稼ぐ。
ただ祓うだけならば呪符を取り出して遠距離から攻撃するのだが今はそうはいかない。
藍は女の剣で敵を打ち倒し、谷津神学園の剣道部の無念を晴らす事が目的なのだ。
敵は蹴りも掴みもなんでもありだが、こちらは剣で勝たねばならない。
態勢を整えた藍は大きく息を吸うと、刀を納めて居合の構えをとって敵を迎え撃った。
戦地に於いてわざわざ刀を納めるのは通常であれば圧倒的な不利であり敵に対しては最大限の侮辱であると言える。
だが護身のために居合の型を徹底的に鍛えられた藍にとっては最強の構えと言える。
つまり藍にとっての最強の型が侍達にとってはハンデを与えられたに等しい侮辱であり、居合で勝つことは谷津神学園の剣道部員達にとって最大限の手向けとなるのだ。
『どこまで我らを愚弄する気だ小娘どもがぁー!!』
叫びながらも侍は冷静に、言い方を変えれば姑息にも遠距離からの小技で藍の手を斬ろうとするが藍は冷静に回避し続けると藍らしからぬ嘲りを含んだ笑みを浮かべる。
『お侍様とあろうお方が小娘相手に小技で牽制ですか?
恥知らずとはこの事ですね。』
藍は怒っていた。
女を貶す侍に。
不当な理由で少女達の命を奪った輪入道を心の底から軽蔑していた。
穏やかな藍らしからぬ態度は優しさからくる怒りだった。
侍は怒り狂いながらもひたすら小技で牽制する。
女ごときに絶対に負けるわけにはいかないというプライドのため侍はなかなか大胆な行動に出られない。
藍はそんな彼らのプライドを見切っており、くだらないとばかりに全力で居合を放って侍の刀を上へと弾き飛ばす。
侍が態勢を整える前に藍は思いっきり踏み込んで上段から藍花を振り下ろした。
頭からまっすぐに斬られた侍の霊は膝から崩れ落ちると急いで脇差を抜いて自決した。
すでに死んでいる霊なのだが、女の剣で消滅するよりは自決を選んだのだ。
輪入道は最後まで女が剣を振る事を認めなかったが、彼らのちっぽけなプライドなど藍にとってはどうでもいいことだった。
藍は谷津神学園の少女達への手向けを果たしたのだ。
周囲は先ほどの炎に囲まれていた時とは違い、優しく暖かい空気で満たされていた。
霊感のないスタッフ達でも意見は一致していた。
これはきっと谷津神学園の少女達の気持ちなのだろうと。
優しい月夜に照らされ白い素肌をさらけ出して立つ藍の姿は神々しくさえあり、その場にいた者はつい目を奪われてしまう。
その時、ふいに糸が切れた人形のように藍が力無く倒れた。
慌てて駆け寄った鉄がギリギリで藍を抱きとめると、大きく息を吐いて一息つく。
『限界だろうなとは思っとったが、歩いて戻って来ずにその場で倒れるとはな。』
鉄が呆れるようにぼやくと、凛が笑いながら歩み寄ってくる。
『鉄兄がいたから甘えたんでしょ。』
凛がフォローすると、鉄はだらしない顔をして笑う。
『そ、そうか。
あのマジメな藍がワシに甘えとるのかー。
じゃあ今日くらいはええかー。』
鉄は藍に上着を被せると嬉しそうに藍を抱きかかえて身体を横に揺らす。
身体の大きな鉄に抱きかかえられると改めて藍の小ささがわかる。
こんな小さな少女が燃え盛る炎と鉄の塊を退治してみせたのだ。
今すぐにでも座り込みたいスタッフ達だったが、藍のために急いで撤収の準備を始める。
小さなヒロインを早く安全な場所で休ませてやらねばならない。
それが自分たちに出来るせめてもの大人の責任だろう。
『あー…那由多ちゃん?』
撤収準備の最中に田見野が話しかける。
『…俺、次回作のマスクドライバーも書いてみるよ。
アイドルの女の子が主役なんて初めてだけどさ。
今ならなんだかイイモノが書ける気がするんだよ。』
田見野の言葉を大きく口を開いて聞いていた那由多はとびっきりの笑顔を田見野に向ける。
『はい、楽しみにしています!』
那由多が笑うと田見野は少年のように照れて笑ってみせた。
後日、今回の事件は編集されてTV放映された。
先のカラカラ様に続く衝撃的な映像で藍達の人気は上昇したが、それと同時に藍達は良くも悪くも軽々しく扱っていい存在ではないという認識が人々に生まれ、太刀花町から野次馬の姿は消えた。
そして次回作のドライバーシリーズは、アイドルの少女達がヒロインに変身して戦うアイドルマスクドライバーというタイトルで放映された。
作中の彼女達はただ可愛いだけでなく正義のために命懸けで戦うヒロインである。
撮影中の田見野はアイドル達を熱心に指導し、主演のアイドル達は時に涙を流し時に反発し合いながらも良い作品を作ろうと戦い続けた。
女だって戦っている。
田見野は那由多の言葉を心に刻みながら仲間達と共に番組を作り上げ、アイドルマスクドライバーはシリーズ作としては異色な存在ながら一般層だけでなく旧作ファンも含めて非常に高い評価を得る事となった。
番組のエンディングではスペシャルサンクスの項目に藍達の名前が刻まれていた。