放課後は退魔師   作:アフロダイB

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きさらぎ駅とタヌキの神

 

【挿絵表示】

 

太陽が沈み始め空が赤く染まった夕方。

真っ白なセーラー服を着た金色で長い髪のわたし

綿貫 タマキ(わたぬき たまき)は屈んでトラックのタイヤをジッと睨みつけていました。

 

『こりゃダメだなぁ。

車が完全に故障しちまった。』

 

『ふむむ、私も一生懸命見てましたがダメでした。

構造から察するに恐らくこの丸い輪っかが回ってくれれば走り出すと思うのですが。』

 

『ははっ、そりゃそうだ。』

 

私の見事な推理と回答を中年のトラック運転手さんは軽く受け流しました。

ここまでの数時間ですっかり私と言う存在を理解してくれてます。

 

私は山奥の集落で祖母に育てられました。

両親もいない、若者もいない、子供もいないので友達もいない。

そんな状況で集落にたった一人の子供として暮らしてきましたが、ある事情により私は祖母と離れて町で暮らす事になったのです。

 

運転手さんはたまたま集落の近くまでお仕事で来ていた方です。

町まで引き返すついでに私を乗せてくれていたのですが、不幸にもトラックが故障してしまったのです。

 

『おじさんはここで修理を待たなきゃいけないが、一緒に待ってたら夜になっちまう。

この道を真っ直ぐに行けば右手に駅が見えるからタマキちゃんは電車で向かうといいよ。』

 

なんということでしょう。

集落から始めて出たばかりの私にはあまりにも難易度の高いミッションなのです。

しかし他に方法はないのでわたしは覚悟を決めて人生初の鉄道利用を試みるのでした。

 

『わかりました、電車に乗ってみます!

ここまでわたくしめを運んでいただきありがとうございました。』

 

ここまで運んでくれた運転手さんには本当に感謝しているので不慣れながらも一生懸命に感謝の言葉を述べました。

 

『切符を買って、改札口を通って、今来た道の方から来る電車に乗ればいいんだ。

そのまま終点の吉野駅でローカル線に乗り換えれば太刀花駅までは20分くらいだよ。

わからなかったら駅員さんによく聞きな。』

 

乗り方がわかりませんなどとおじさんに伝えても困らせるだけなのです。

私は駅員さんが親切な人である事を祈りつつ、改めて運転手さんに頭を下げて礼を言うと駅へと向かうのでした。

 

駅へと向かう途中、スマホを眺めながら歩いている人を見かけました。

危ないのです。

ですが、通りすがりの人のおかげで私はやるべき事を思い出すことができました。

人のふり見て我がふり直せという言葉があるように私はちゃんと立ち止まってからスマホのロックを解除しました。

 

(下宿先近くのコンビニまでお迎えに来てくれている藍さんにLINEしないとです。)

 

藍さんは私の下宿先に住む方で、私と同じ中学2年生の女の子だそうです。

当初の予定ではトラックに最寄りのコンビニまで送って頂き、そこで藍さんと合流して下宿先に向かう手はずでした。

急な変更で大変申し訳ないのですが、仕方ない事なのできっと許してくれるでしょう。

まだお会いした事はありませんがLINEでやり取り会話した藍さんはとても優しかったのです。

 

(車が故障したので電車に乗り換えて太刀花駅に向かっています。)

 

不慣れな手つきで一文字ずつゆっくりと文字を入力して送信したのでした。

 

 

綿貫タマキは強い霊感能力を生まれついて持っており、それ故に怪異に関わりやすい霊感体質である。

強い霊感能力は霊だけでなく妖怪にとっても高等なエサなのだ。

村の人々はタマキを守るためにタマキを神に昇神させることにした。

強い力を持つ怪異や動物を神と崇める者がいるように、強い霊力があれば人も神として奉る事が出来る。

もちろんそれは人として様々な物を諦める事でもあるため推奨されるべき事ではないが、命には代えられないと判断したのだ。

10年ほど村の人々に神として奉られたタマキは半神とも呼べる存在となっていた。

これまでは祖母や村の人々が民間霊法とタマキの能力を駆使してタマキを守ってきたが、

村の人々も高齢化が進み田舎ではタマキの人間としての教育にも限界を感じたため太刀花家に預けられる事になった。

新たな家族が増える事を藍は楽しみにしていた。

 

タマキが駅に向かっていた頃、太刀花家の屋敷では藍が自室でタマキを出迎えに行く準備をしていた。

 

『おーい、お兄様が送ってやろうか?』

 

ノックと共に気だるげな声が届く。

ドアを開けると髪を赤く染めた男が車のキーを指で回しながら待っていた。

趣味でロックバンドを演奏しているためか少々ガラの悪そうな出で立ちだが身体付きは細く全体的に清潔感がある。

太刀花奏(たちばな かなで)、7人いる藍の兄のうちの1人である。

 

『新しい家族を迎えるのに2人で歩いて帰宅ってのはねえだろ。』

 

『その通りですね。

奏お兄様、お願いできますか?』

 

新しい家族を迎える日ではあるが、あいにくと今日はそれぞれの都合が悪く藍が一人で迎えに行く手筈になっていた。

車の運転が出来る奏が偶然家に戻ってきてくれたのは僥倖だったと言える。

 

『えへへ、ラッキーでした。』

 

『ラッキーじゃねぇよ。

お前らのためにちょっと無理して仕事を終わらせたんだ。』

 

奏は21歳の大学生だが、藍と同じように退魔師の仕事も引き受けている。

学業と趣味に支障が出ない範囲で引き受けているらしいが、藍以上の件数をこなしている。

一昨日から依頼で遠出をしていたが先ほど戻ってきた。

見た目と言葉使いから少し圧を感じるが、基本的には面倒見がよく困ってる人を見捨てられないタイプだ。

そんな奏の性格を藍は尊敬している。

 

大きな武家屋敷のような家を出て、広い庭を抜け大きな門を潜ると石造りの階段が続く。

階段を降りると20台ほど停められる従業員兼家族用の駐車場があり、奏の自慢の真っ赤なスポーツカーもそこにある。

2人が車に乗り込むと藍のスマホが通知音を鳴らした。

 

『行き先はコンビニだっけ?』

 

『あ、いえ。

たった今ですが行き先が変わったみたいです。』

 

『あ?』

 

藍はタマキから届いたLINEの内容を伝える。

 

『車でコンビニまで来るはずでしたが、電車に乗り換えて太刀花駅に向かっているそうです。』

 

『じゃあ太刀花駅まで来てもらう必要はねぇな。

吉野駅に着いたら乗り換えずにそのまま待てって伝えてくれ。』

 

タマキは電車にも不慣れだろうからその方がいいだろう。

藍は言われた通りにLINEを送った。

 

 

 

藍さん達が車で吉野駅へ向かっていたその頃。

無事に駅に着いたわたしは親切な駅員さんに教えられて電車に乗り込みました。

荷台の存在を知らない私は身体に不釣り合いな大きなバッグを膝に乗せて不慣れなスマホを一生懸命に操作していました。

 

【了解なのです!】

 

藍さんにお気に入りのタヌキスタンプで返信し、ふと周囲を見渡すと気付けば乗客が乗客は一人もいなくなっていました。

 

(…はて?スタンプを入力してる間にどこかの駅を通り過ぎていたのでしょうか?)

 

私のスマホ操作が非常に遅い事を考慮しても時間はそれほど経っていないと思うのです。

その間に電車が停止した覚えがありませんが、いつの間にか乗客がいないのだから降りたとしか考えられないのです。

わずかな違和感を感じつつも窓の外に目を向けると、空はすっかり暗くなっていました。

 

(乗り込んだ時はまだ明るかったのに、いつの間にかこんなに暗くなってるのです。)

 

外の景色は夜というよりは薄暗い紫色の世界。

通り過ぎる対抗列車の乗客は全員が異様な顔色の悪さを見せていました。

 

『次は、やみ。やみ駅です。

未練などのお忘れなきようお願いします。』

 

なんだか様子がおかしいのです。

電車に乗るのは初めてですが、こんな落ち着かない乗り物だとは到底思えないのです。

いっそやみ駅のホームに降りてみようかと考えましたが、なんとも嫌な予感がしたので降りる事はできませんでした。

こういう時の私の勘は当たるのです。

躊躇している間にドアは無情にも閉まり、電車は再び走り始めました。

 

やがて電車は伊佐貫というトンネルに差し掛かりました。

そしてトンネルを抜けると終点の駅に到着したのでした。

 

『本線はここで終点となります。』

 

プシューッと音を立てて、不気味なホームへの扉が開きました。

なんとも嫌な予感がするのですが、きっと電車に残っていても何も進展しないのでしょう。

私は覚悟を決めて駅に降り立つ事にしました。

 

ホームに降り立つと辺りは不思議なほどの静けさに包まれていました。

先ほどまで私を運んでいた電車は音もなく消え去っており、もう一度乗れば帰れるのではという甘い期待はあっさりと打ち砕かれました。

ハイテク&ハイスピードにもほどがある電車なのです。

 

(ともかく待ち合わせの吉野駅に向かうのです。)

 

まずは駅を間違えた事を藍さんにLINEで伝えました。

その後に周囲を見渡すと40代くらいの男性がいたので声を掛ける事にしました。

 

『こんばんは。

私は綿貫タマキと申します。』

 

私は深々と頭を下げて男性に挨拶しました。

 

『えっ、ああ、こんばんは。

えーっとタマキちゃん、どうかしたのかい?』

 

親切そうなおじさんでホッとしました。

 

『実は私は遠くの家に居候するために電車に乗って移動していたのです。

なのに予想もしなかった駅に辿り着いてしまったのです。

吉野駅に行きたいのですがどうしたら行けますか?』

 

『居候か…若いのにそりゃ大変だねぇ。』

 

おじさんは何かを少し躊躇したようでしたが、すぐに笑顔を浮かべました。

 

『それよりお嬢ちゃんの名前は綿貫タマキちゃんで間違いないんだね?』

 

質問に質問で返されてしまったのです。

 

『はい、私の名前は綿貫タマキなのです。

村のみなさんにはタマキちゃんと呼ばれていたのです。』

 

私の返事を聞いておじさんはニヤリと笑うと私の袖を掴みました。

おじさんの謎行動を不思議に思いつつ、ふと周りを見渡すと視線の先にホームで泣いている女の子を見つけました。

 

『泣いてる女の子がいるのです!』

 

私が女の子を指差すとおじさんの手が緩んだので、私はおじさんの手を振りほどいて女の子に話しかけました。

 

『どうして泣いてるのですか?

私でよろしければお手伝いするですよ。』

 

私が女の子に話しかけると女の子は線路を指差しました。

 

『ふむむ、キラキラした丸い物が落ちているのです。』

 

『お金だねぇ。』

 

おじさんがやってきて教えてくれました。

 

『ふむむ、あれがお金ですか。

あれが拾えなくて困ってるのですね。』

 

女の子が悲しそうにお金を見つめていました。

路線まではちょっと高低差があるから小さい子には怖いのでしょう。

 

『ヒョイなのです!』

 

私は線路に飛び降りてお金を拾いました。

 

『ダメだタマキちゃん危ない!』

 

急に叫んだおじさんに驚いて視線をあげると、すぐ近くまで大きな乗り物が迫ってきていました。

恐らくこれが電車なのでしょう。

 

『タマキちゃん登ってきて!!』

 

おじさんが手を伸ばしました。

きっと電車にぶつかったらとっても痛いからでしょう。

 

『わかりました!』

 

私はジャンプすると空中でクルリと身体を上下反転させてホームに足から着地。

いわゆる伸身宙返りでホームに戻ると、おじさんがビックリして私を見ていました。

 

『…君は…本当に人間かい?』

 

『はい、人間なのです。

それより女の子がいなくなっているのです。』

 

気が付いたら女の子がいなくなってました。

 

『お金はそこに置いておいたらいいよ。

きっと取りに来るから。』

 

おじさんは自動販売機の足元に置いてある瓶詰めのお花を指差しました。

確かにいい目印になりそうなのです。

私がお金を置くとおじさんが手を合わせていたので、私も手を合わせておきました。

 

(あの子が元気でありますように。)

 

しばらく沈黙が続くと今度は遠くの方で太鼓を叩く音と鈴を鳴らす音が聞こえました。

恐怖感を煽られる独特なリズムなのでホームにいる人達が顔をこわばらせています。

 

『ふむむ、お祭りの音でしょうか?』

 

恐怖で震えていたはずの誰かが私の言葉で吹き出しました。

 

『ああ、そうだよ。

もうすぐお祭りがここにやってくるんだ。』

 

おじさんが教えてくださいました。

なんと言う事でしょう。

お祭りがあるのならば相応の出迎えをしなければなりません。

 

『みなさん!

お祭りが来るのならば相応の準備をしなければなりますまい!』

 

周囲の視線が一斉に私に集まりました。

 

 

 

それからどれだけの時間が流れたでしょう。

太鼓と鈴を持った3メートルはあろうかと言う鬼の集団がホームに辿り着くと、そこには盆踊りを踊る私達の姿がありました。

 

『なっ、なにぃ!?』

 

『ずん!ずんずん!ずんどこタ・マ・キ!!』

 

鬼達は全力で踊る私を見て戸惑っていました。

まさかこんな世界で呑気に踊る人がいるとは思わなかったのでしょう。

 

『これはどういう状況だ?』

 

『あ、いや。

あの子がお祭りをしようって言いだして…。』

 

『ま、まぁ今まで試したことがない選択だし、

やるだけやってみてもいいかなって…。』

 

新聞紙をゴミ箱に詰めてライターで火を点け、その周りで踊る私達。

想像もしなかった展開に鬼も反応に困っているようでした。

 

その時、私のスマホから着信音が鳴り響きました。

 

『タマキさんですか?

始めまして、私は太刀花藍です。』

 

通話先は合流予定の藍さんでした。

透き通るような声は藍さんがキレイな人である事を期待させてくれます。

 

『おう、ガキんちょ。

駅の名前わかるか?

そっちまで迎えに行ってやるよ。』

 

ハンズフリーなのでしょう。

少し遠い位置から怖そうなお兄さんの声がするのです。

私は辺りを見渡して看板を見つけました。

 

『看板にきさらぎと書いてあります。』

 

『えぇぇっ!?』

 

『ほぉ、きさらぎ駅か。

面白い事になってるな。』

 

面白い女と言われたのです。

少女マンガで読んだ事がありますが、これは愛の告白なのです。

 

『私は面白い女なのです。

結婚しましょう。』

 

『テメェみたいなガキは秒で離婚だ。』

 

秒でフラれてしまいました。

よくわかりませんが、恐らくエモくて切ないのです。

 

『お兄様、タマキさんは半神ですよ。』

 

『ただの頭の悪いガキだろ。

おいガキンチョ、ちょっと状況が知りたい。

事情に詳しそうな近くの大人に代わってもらえ。』

 

グッドアイデアなのです。

こういうのは詳しい人に代わってもらうべきです。

 

『も、もしもし?

青鬼だが…。』

 

私は青鬼さんにスマホを渡しました。

通話先で藍さんがずっこけたような音がしました。

青鬼さんも予想外の出来事に戸惑いながらも対応してくれました。

 

『ここはきさらぎ駅。

関わると貴様もタダではすまんぞ。』

 

深い溜め息が聞こえた後、怖そうなお兄さんの声が響きました。

 

『お前がスマホを受け取ったガキは俺の妹になる予定のガキだ。

今から迎えに行くから丁重に扱っとけ。

手を出したら俺が直々にてめえらを消滅させてやる。』

 

青鬼さんに堂々と啖呵を切るのですから、相当お強い方なのでしょう。

青鬼さん達にも動揺が走ります。

 

その時でした、

私を連れてきたおじさんはみんなと一緒に踊ってましたが、急に何かを振り切るように首を振ると鬼に話しかけました。

 

『そ、そうだ!

か、彼女の名は綿貫タマキです!

これで私は帰れるんですよね!?』

 

何故かおじさんが私の事を紹介しました。

自己紹介が省けて助かるのです。

 

『…しばし待て。』

 

我に返った鬼が巻物のような物を広げて何かの確認を始めました。

 

『…否、それは娘の真名ではないようだ。』

 

鬼からの返答を聞いておじさんが膝から崩れ落ちました。

 

『そ、そんな…!』

 

おじさんは涙を浮かべながら私を見上げて怒鳴り始めました。

 

『君は名前を教えてはいけない事を知っていたのか!?

告発する名を間違えた私がどうなるか知っていながら保身のために騙したのか!?』

 

私はおじさんの言ってる意味がさっぱりわからなかったので首を傾げました。

その様子を見ておじさんは私が嘘を言ってるわけではないと気付いたようです。

 

『な、何かの間違えではありませんか?

それとも誰かの名前を伝えればその者を贄として私達は解放されるというのは嘘だったのですか?』

 

『嘘ではない。

名を告げて贄を一人差し出せば、それ以外の者は解放される。

だが、その者の名が真名がわからぬので贄には出来ぬ。』

 

ニエとは何の事でしょう?

よくわかりませんがそれでも一つだけわかる事があります。

なんと、この人達は私の名前が綿貫タマキではないと仰っているのです。

なんたる侮辱。

 

『いい加減になさい!

私は綿貫タマキなのです!

人の名を間違えるとはなんと失礼な鬼さんですかっ!』

 

怒られるとは思ってなかったのでしょう。

鬼達は戸惑いました。

 

『私は綿貫タマキなのです!

私がそう思ってますし、村のみんなもそう呼んでいたのです!

真名だか何だかわかりませぬが、本人の認識と日頃どう名乗っているかが大事なのではありませんかっ!?』

 

『そうだよね。

本人がそう名乗ってるし、ずっとそれで通して来たんでしょ?』

 

『死者の世界でもお役所仕事みたいにやってるんですか?』

 

『別に自称が真名と違っててもいいじゃないですか。』

 

なんと周囲の人々が私を援護してくれたのです。

あったかいのです。

 

『改めなさい!

その態度を改めなさい!

チョップ、チョップ、チョップの嵐であります!』

 

『やめっ、なんでこんな子供の攻撃が痛いのだ!』

 

周囲に押され私のチョップの嵐で鬼が困っていたその時でした。

新たな人物が私達の前に現れたのです。

 

『あのぅ、ちょっとよろしいですか?』

 

『はわわわ美少女なのです!!

ありがたやありがたや。』

 

少し青みがかった銀色でツーサイドアップにまとめた長い髪。

とっても顔の良い美少女なのです!

美少女は宝。

お婆ちゃんの教え通り、美少女を敬う私なのです。

 

『あ、ありがとうございます。

それで…その、私は私と同じくらいの年齢の子を迎えに来たのですが

そちらの方がそうではありませんか?』

 

美少女さんが私を見たのでピーンと来ました。

 

『ふむむ、もしや貴女は私を迎えに来た太刀花アイさんでは!?』

 

『え、はい、迎えに来たものですが…』

 

私の言葉を聞いておじさんがまたお話に割り込んできました。

 

『彼女の名前は太刀花アイだ!!

これでいいだろう!?

もうここから帰してくれ!!

家族が待っているんだ!!』

 

鬼さんが再び巻物のような物を広げて何かの確認を始めました。

 

『…否、それは娘の真名ではないようだ。』

 

『そ、そんな…』

 

おじさんはまたも膝から崩れ落ちました。

おじさんはおじさんでなんだか背負っている物があるようです。

 

その時、カオス極まる状況の中で妙に落ち着いた声が響きました。

 

『悪ぃ、駐車するのに手間取った。』

 

先ほど青鬼さんに啖呵を切ってた声の人がタバコを吸いながら歩いてきました。

 

『お、ちゃんと煙出してるじゃねーか。

状況は悪くねーな。』

 

『偽名も使われてるようです。

タマキさんはきさらぎ駅の対策を知ってるみたいですね。』

 

『対策?』

 

私が首を傾げると、藍さんは少し考えてから信じられない物を見たかのようにこちらを見ました。

 

『…え、では私の名前を間違えてるのは偶然ですか?』

 

『私には何がなんだかわからないのです。』

 

『…これも半神故の幸運なのかもな。』

 

怖そうなお兄さんがタバコを火の中に放り込むと、静かに刀を抜きました。

 

『じゃあな鬼ども。

さぞかし美味そうに見えたんだろうが、このガキは俺が連れて帰る。力づくでな。』

 

『寄らば斬ります。』

 

アイさんも刀を抜き、お兄さんと一緒に私を挟み込むような位置で構えました。

 

『ま、待ってくれ。

私も連れてってくれ!』

 

先ほどのおじさんがまたまた話に割り込んできました。

 

『もうずっと家に帰れてないんだ!

頼むよ!!』

 

アイさんも縋るようにお兄さんを見つめますが、お兄さんは頭を掻きながら突き放すように答えました。

 

『おっさんには悪ぃけどガキを守るだけで精いっぱいなんだわ。

名前の事とかも知ってるみたいだし自力で帰ってくれ。』

 

『もう2回も名前を間違えてしまった!

君がいなくなったら私は殺されるに違いないんだ!!

 

おじさんにも譲れないものがあるようで、必死に縋りつくのです。

 

『家で娘が待っているんだ!』

 

それを言われてしまうとおじさんが必死なのもわかるのです。

これを見捨てるのは…果たして正しいのでしょうか。

 

『ここは時間軸もぐちゃぐちゃなんだ。

俺達は令和〇年〇月〇日に戻るんだが、おっさんはいつの時代の人だよ。』

 

『れ、令和…?

そんな年号は知らない…。』

 

『俺達についてきてもおっさんがいた時間軸には戻れねえ、諦めな。』

 

怖そうなお兄さんがセリフを言い終えると同時に青鬼達が攻撃を仕掛けてきたので、お兄さんはおじさんを突き飛ばすと素早く踏み込みました。

1匹目の頭を斬るとすぐに2匹目の首筋に打ち込み、流れるように裏に回り3匹目を背後から頭を斬りつけました。

3連撃をまるで一連の流れのように鮮やかに打ち込んだので、青鬼達は踏み込んでこなくなりました。

 

『お見事です、奏お兄様。』

 

気付けばアイさんも1体の鬼の腕に打ち込んで武器を持てなくしていました。

こちらも早業なのです。

 

『よし、改札まで走れお前ら!』

 

『ですがまだ他の方々が…!』

 

『半人前の分際でワガママ言うな。

お前もそのガキも死ぬぞ。』

 

アイさんが引き下がりますが、怖いお兄さんが一喝するとアイさんは目を伏せて指示に従いました。

アイさんも苦渋の決断なのでしょう。

美人が困っているなら助けなければなりません。

ここは半神である私が何とかせねばなりますまい。

 

『じゃすとあもーめんっ!』

 

人差し指を天に掲げて私が叫ぶとみんなが私に注目しました。

 

『そもそもっ!

このきさらぎ駅は何を目的とした駅なのでしょうかっ!

お答えなさい!』

 

ビシィッ!と青鬼さんを指を差すと、青鬼さんは突然の展開についていけず狼狽えました。

 

『さ、さっきからこの娘は何なんだ。

チョップもやたら痛かったし。』

 

よっぽど痛かったのでしょう。

 

『半神らしいぞ。

美味そうなエサに見えたんだろうがお前らの天敵だな。』

 

『こ、こんなのが神なのか…!』

 

八百万の神と言うだけあって、神もピンキリですが私は神様の一種なのです。

神なので人も怪異も導かねばなりますまい。

 

『えっと…ここは地獄におられるやんごとなきお方のために労働力を確保するためです。』

 

1匹の青鬼が正直に答えたので、私は青鬼の頭をペチンペチンと叩きました。

 

『アホちんなのです!

いちいち色々な時間軸の人を誘拐するよりも、向こうから来たくなるような場所にすべきです!

無理やり連れてきて過酷な労働で弱って生産力の落ちた人を使うより、環境を変えるべきだと知りなさい!』

 

『ぎゃぁあああ痛い!

半神に触れられるとこんなに痛いのか!!』

 

青鬼さんが悶絶する中で私が指をパチンと鳴らすと、白と水色のツートンカラーの筐体が現れました。

 

『こ、これは?』

 

『ネオジオなのです。』

 

青鬼さん達はネオジオを知らないみたいなので説明しました。

 

『ネオジオとは1台で4つのゲームが選択できる素晴らしいゲーム機なのです。

これが遊びたくてきさらぎ駅を訪れる者が現れるはずです。』

 

『えぇぇ…』

 

私の素晴らしいアイデアに青鬼達も感激しているとお見受けしました。

 

『…このデタラメな能力は…?』

 

『固有結界って奴だな。

チンケな神でも、神ってのは世界を創造するモンだからな。

この空間を自分の世界にしてるようだな。』

 

チンケ呼ばわりされた気がしますが、気にせず私は駅を次々に改造していきます。

 

『電車を機関車トーマスに変えるのです。

色々な食べ物の屋台を並べるのです。

遊具を設置するのです。

マクドナルドを開店させるのです。

プロレスリングを作ってレスラーを戦わせるのです。』

 

トーマスが喋り出し、香ばしい匂いが駅を充満し、子供達が遊具で遊び、マックにJKが現れ、レスラーが熱い死闘を繰り広げる。

素晴らしい駅なのです。

 

『やりたい放題じゃねぇか、もっとやれ。』

 

『もっとやれじゃねぇよ!

アンタ、あの子を止めてくれ!

このままじゃきさらぎ駅がむちゃくちゃにされちまう!』

 

『とんでもねぇ邪神だよあの子!』

 

青鬼達が泣きついてくるのを見て、アイさんはとっさに機転を利かせました。

 

『では捕らわれてる人々を解放してください。

そうすれば彼女は私達と出ていくはずです。』

 

『いっ!?

いや…それは…!』

 

青鬼達は悩みながら私の方を見ました。

 

『アニメイトを作るのです。

フリーWi-fiを設置するのです。

スポッチャを置くのです。

吉野家を置くのです。』

 

『わ、わかった。

背に腹は替えられん。』

 

そんなに嫌ですか?

 

青鬼達が魂を解放すると改札が現れ、駅に捕まっていた人々は大喜びで改札に向かいました。

アイさんは作業に夢中になっている私の手を引きました。

 

『コーラの出る蛇口を置いて、メイドさんを並べて、アニソンを流して…』

 

『タマキ様、みんな外に出ちゃいますよ。

私達も帰りましょう。』

 

『なんと、まだ作業中なのにもう外に出る段階まで話が進んでいたのですか。

きっと私が頑張ってる間に、様々な長い交渉がなされたのでしょう。』

 

『え、ええ。

そんなところです。』

 

『おら、行くぞ。』

 

怖そうなお兄さんが、返答に困っているアイさんと私の肩を抱きかかえるように押して、改札へと向かいました。

 

『君達、ありがとう!

このお礼は必ず…!』

 

最後に一緒に改札を抜けていたおじさんの声が響きました。

改札を抜けると辺りが真っ白になり、気が付くと私は吉野駅の入り口にいました。

 

『ふむむ、知らない場所なのです。

次はなにらぎ駅でしょうか。

お2人とも警戒を怠らぬよう。』

 

『えっと、ここは吉野駅です。

もう安全ですよ。』

 

アイさんが優しく私の手を握ってくれたその時でした。

 

『あの、そちらのお嬢さんは綿貫タマキちゃんですか?』

 

知らないおばさんが遠慮がちに私達に話しかけてきました。

 

『はい、綿貫タマキはわたしなのです!』

 

まっすぐに手を伸ばして私が答えると、おばさんは少し腰を落として私に視線を合わせました。。

 

『えっと…私も信じられないんだけど…

父がこの世ではない場所でタマキちゃんに助けていただいたみたいで…

吉野駅に今日、タマキちゃんが現れるので代わりにお礼を伝えてくれって父に言われたんだけど…心当たりある?』

 

心当たりと言われると、あのおじさんしか思い当たらないのです。

 

『ふむむ、娘さんがいると仰ってたあのおじさんでしょうか。

ですが、おばさんはおじさんより年上に見えるのです。』

 

『時間軸が違うんだよ。

あのおっさんは昭和の人間だったんだろうな。』

 

どこか古い姿をしていると思いましたが、昭和の方だったと聞いて納得なのです。

 

『父は亡くなってしまいましたが、タマキちゃんの事をずっと気にかけていました。

裏切ってしまって申し訳ない事をしたと。』

 

私達にそう言うと、おばさんは両手で私の手を握りながらに紙袋を持たせました。

 

『お父さんから「お世話になるならお菓子くらい持っていきなさい」だって。

お父さんはもう亡くなっちゃったけど、タマキちゃんのおかげで最後は穏やかに逝く事が出来ました。

ありがとう。』

 

私の頭を撫でると、おばさんは立ち上がりました。

 

『おじさんが幸せだったなら何よりなのです。

お菓子ありがとうございました。

ちゃんと全部私が食べます。』

 

『なんでだよ、うちへの土産だろうが。』

 

『そうでした!

私は1つも食べられませんか。』

 

『いえ、みんなで食べましょう。

今日から家族ですから。』

 

私達の会話を聞き届けると、おばさんは優しく微笑みました。

 

『それともう一つ。

「タマキちゃんが良い子にしてたらきっと居候先でも優しくしてもらえるから頑張って」だって。

頑張ってね、タマキちゃん。』

 

そう言うとおばさんは手を振って立ち去っていきました。

おばさんを見送ると怖そうなお兄さんが車のキーを回しながら言いました。

 

『じゃ、帰るぞ。

タヌキ。』

 

『誰がタヌキですか!』

 

怖そうなお兄さんが私の肩を叩いて言いました。

いきなりタヌキ呼ばわりされて私が怒りましたが、怖そうなお兄さんはイジワルな笑みを浮かべるのでした。

 

『お前の本名、綿貫タヌキなんだよ。

戸籍抄本にそう書いてあるから間違いねぇ。』

 

ショッキングな事実を突きつけられたのです。

公的な書類にそう書かれているのなら流石の私も認めるしかないのです。

 

『な、なんで私がタヌキなのですか?』

 

『知らねーけど、お前の親の字が下手くそでタマキをタヌキと間違えられたんじゃねーか?』

 

なんという悲劇。

わたしは13年間ずっと名前を間違えていた事になります。

 

『ちなみに私の名前もアイじゃなくてランです。』

 

さらなる追い打ち。

失礼な事にわたしも名前を間違えていたのです!

 

『この度はお名前を間違え続けて大変な失礼をいたしました。

その上で申し訳ないのですが、わたしはずっとタマキと呼ばれてきたので市役所で改名の手続きをお願いしたいのです。』

 

『さて、どうしようかね。』

 

『奏お兄様、いじわるなさらないでください。

タマキ様、帰ったらお爺様に相談してみましょう。』

 

あのおじさんは無事に終わる事が出来たみたいですが、私は今から新しいスタートを切るのでした。

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