放課後は退魔師   作:アフロダイB

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アフロウサギ召喚

 

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空は青く陽射しは高く、されど周囲にまとう風は程よく冷たくて暑さは感じない。

小さな山の上に聳え立つ太刀花家の中庭にて心地よい陽射しに照らされながら太刀花藍は緊張をほぐすように大きく息を吐く。

 

『ねぇ、どんな子が欲しい?』

 

姉の凜が妹の藍の顔を横から覗き込むようにして尋ねる。

 

先日、藍は中学生ながらも依頼を果たし退魔師としてデビューした。

だが人手不足とは言え中学生の女の子に深夜仕事をさせるのは不安がある。

何よりも藍はまだ幼い。

難しい決断を迫られ判断を誤るような事態は十分に起こりうるだろう。

そこで太刀花家は藍のお目付け役として式神を与える事にした。

もちろん気軽に与えられる物でもないのだが、それ以上に娘を案じての事だった。

 

『そうですね。

可愛くて、フワフワしていて、お喋りが出来たら最高です♪』

 

いつもは大人しい藍が嬉しそうに語る。

藍が幼い頃からずっとペットを飼いたがっていたのを凜は知っている。

喜びを隠しきれない妹の姿を見て凜も嬉しくなってしまう。

 

『藍の式神だもん。絶対可愛い子が来るよ!

小さな美人猫さんとか。

あっ、小鳥も似合いそう!』

 

そんな他愛もない会話で2人が時間を潰していると祖父と叔父が儀式用の荷物を持って現れる。

 

『お手伝いします。』

 

すぐに藍が駆け寄り祖父の荷物を支える。

 

(気の利く出来た妹よね。)

 

凛は妹を誇らしげに見守る。

一方で姉の凛はというと3人が儀式台を組み立てるのを黙って見ている。

面倒だからだ。

 

儀式台が組みあがると藍がもう一度深呼吸をする。

藍は酷く緊張しているらしく、藍の緊張が周囲にも伝染して辺りがピリピリした空気に包まれる。

 

『…では、参ります』

 

藍が静かに礼をして祭壇をゆっくりと登るのを私達は緊張した面持ちで見守っていた。

 

私達の世界の式神とは、簡単に言ってしまえばこっちの世界に強制的に喚び寄せた異世界の生物を仲間にする事だ。

基本的には術者と相性の良い異世界の生き物が選ばれるので大体が上手く収まる。

だがそれも絶対ではなく争いに発展する事はある。

余計な災いを呼び寄せてしまう事もあり、式神の召喚は滅多な事では行われないのだ。

そう言った問題があってもなお必要があった場合にだけ式神を呼ぶ。

藍を守ると言う事は太刀花家にとっても、それだけの切迫した事態なのだ。

 

『我と心通わせられし異界の優しきお方よ。

我が呼びかけに応え其の姿を示し、どうか我が願いをお聞きくださいませ。』

 

特に呪文は決まってないが、願いを込めて藍がオリジナル呪文を唱える。

この呪文で第一印象が決まるので、それなりに大切な事ではある。

ほとんどの場合が主として上から目線の強気な呪文を唱えるが藍は随分とへりくだっている。

 

(そんな態度で逆にいいように扱われなきゃいいけど。)

 

凛が妹を心配するのをよそに、藍の召喚の儀式に応えて周囲が眩い光に包まれる。

目を開けていられないほど眩しい光の柱が天に登り、祭壇を中心に強烈な風が吹き荒れる。

スカートと目を抑えてその場に立ち続けていると、やがて祭壇の中心に生物の影が現れたのが視界に映る。

徐々に光が消え去り、ついに式神はその姿を現すのだが…

 

『…し、死んでる!!』

 

彼らの目の前に現れたのは直径150センチほどの巨大なピンク色のアフロヘアーに身を包みウサギのような耳が生えた珍妙な生物だった。

その生物は目を開き仰向けになったまま微動だにしなかった。

 

 

 

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一方その頃、とある宇宙の片隅で1匹のウサギが今まさに最後の時を迎えつつあった。

 

ウサギ科のアフロウサギ、個人名はアフロダイBで一人称はアフロ。。

元はアフロ星という星で高度な文明を築いていた種族だったがアフロ星がいきなり爆発して彼と何匹かを除いて全滅。

個人がそれぞれ所有する宇宙船で星の爆発から散り散りに逃げ出したアフロウサギ達だったが、それぞれ燃料が尽きてしまい合流する事も出来ず近くの星に不時着するしかなかった。

そこから2000年間は不時着した惑星でサバイバル生活を送っていたが、とある猿型の宇宙人(人型の宇宙人)にアフロは危険な生物として捕獲される。

以降は保護観察対象として彼を発見した少女に飼われていたのだが…

 

『はい、今日はラーメンだよ!美味しい物を食べると元気になるよね!』

 

彼女はアフロに自分と同じ食事を与えてきた。

彼女の食事は主にラーメン、カレー、お好み焼き、牛丼、ファーストフードなどの油っこいものばかりであり、偏った栄養を摂取し続けたアフロの身体は確実に蝕まれ続けていた。

 

『はい、ここが君のハウスだよ。

なんとベッドとお風呂が一体化してるよ!

水に浮かんで眠れば、寝ながら綺麗になれるし最高だね!』

 

アフロに与えられたのは高さ1mほどの水が張られた2㎡の空間。

当然だがアフロウサギは水棲生物ではない。

常に水に浸かった生活は確実にアフロの熱を奪っていく。

眠ると高確率で水が鼻に入って目を覚まし眠りが深いとそのまま溺死しそうになる。

アフロはまともに眠れぬ日々を送る。

 

『よし、今日は洗濯して綺麗にしてあげる!』

 

そう言うとぽちこちゃんはアフロを巨大な洗濯機に突っ込んでスイッチを入れる。

回転する水流に翻弄されながら横回転を30分。

続いて巨大な乾燥機に突っ込まれ、熱風を浴びせられながら縦回転を30分。

見た目は綺麗でふわふわになるのだが、アフロの身体はボロボロになる。

 

これらの全てはぽちこなりの善意なのだが、惜しむらくは彼女は非常に雑な性格をしていた事だろう。

ペットを飼ってはいけないタイプの少女なのだ。

 

まるで理解してくれない飼い主。

偏った栄養を摂取し続ける食生活。

全く合わない生活空間。

拷問に等しい洗濯機と乾燥機。

高度な文明に囲まれた平和な環境にありながら、アフロは考え得る限りの過酷な環境で暮らしていた。

 

(アフロはこのままでは…死ぬ!

ぽちこちゃんの善意で殺されてしまう…!)

 

何度も脱走を試みるがその度にぽちこちゃんに捕獲されてしまう。

困ったことにぽちこちゃんは宇宙に存在する外敵と戦うハンターと呼ばれる存在であり、ハンターの中でも最強クラスの実力者なのだ。

 

『緊急警報発令!Sランクのハンターは直ちに出撃せよ!』

 

強敵の討伐任務の放送が響き渡る。

 

『大変!行くよアフロ!

今度の敵は惑星を一発でぶっ壊した超巨大生物らしいけど、私とアフロのコンビなら楽勝だよね!』

 

額に汗を流し真顔で見つめるアフロに、ぽちこは屈託のない笑顔を向ける。

 

(…ぽちこちゃんに殺されるのが先か、敵に殺されるのが先か…)

 

そんなアフロの気も知らぬままぽちこは任務に赴いていく。

現れたのは全長40kmもの巨大な生物。

一歩も引けを取らず戦う彼女はどうかしているがアフロはどうかしていない。

 

『アフロ危ない!』

 

巨大生物の一撃がアフロに直撃する。

 

(あ、死んだ…。

仲間と連絡が取れなくなって2000年。

ここまで頑張ってきたけどアフロウサギは恐らくこれで絶滅だ。)

 

アフロは生きる事を諦めたが、そんなアフロを神は見放さなかった。

超大型生物の一撃で宙を舞ったアフロは突然の謎の光に包まれたのだった。

 

 

 

アフロが目を覚ますと見慣れぬ天井が見えた。

いつもの医務室ではなさそうだ。

とある惑星の建物に似ているが、わざわざそんな所に運ばれる理由がわからない。

 

『目が覚めましたか?』

 

聞きなれない声が耳に入る。

アフロがゴロリと横を向くと、そこにはやはり見慣れない疲れきった顔をした猿型宇宙人のメス(人間の女性)の姿があった。

 

『太刀花藍と申します。

アナタを式神として召喚した者です。』

 

少女から自分の状況について説明を受ける。

どうやら自分は異世界に召喚されたらしい。

自分達の世界にも似たような経験があったので驚きはしない。

ぼんやりと説明を聞いていると少女の声がだんだんと涙混じりになる。

ギョッとして見つめていると少女はアフロを優しく抱きしめて囁いた。

 

『安心してください。

この世界にはあなたを傷つける者はいません。

…私の戦いにも参加しなくて構いません。』

 

戦わせるために召喚したんじゃないの!?

アフロが驚いて少女の顔を見ると、藍はアフロのフカフカしたアフロが心地よかったのか眠りに付いていた。

 

『ありゃ限界か。

2日も寝ずの看病してたもんね。』

 

襖を開けて別の少女が姿を現す。

彼女は藍と名乗った少女の姉、太刀花凜だそうだ。

凛はアフロから藍を引きはがして床に寝かせるとアフロダイBの傍に座り込んだ。

 

『寝ずの看病?何で?

今度は健康な式神を呼べばいいじゃない。』

 

アフロが当然の疑問を吐くと凜は困ったように頭をかいて答える。

 

『何でって…そういう子なのよ。

仮死状態でアンタが召喚されて、あの子ったらそこからずっと看病してたの。

私が面倒を見ますって聞かなくてさ。』

 

見ず知らずのよくわからない生き物のためにそんな事が出来るなんて信じられない。

他文明との出会いなんて、その場で殺されてしまう事だってあるのに。

 

『アンタは寝てる間に何度もうなされてて、寝言で地獄みたいな事をずっと言ってたのよ。』

 

どうやらアフロは溜まりに溜まった愚痴を寝言で吐いていたらしい。

そうやってストレスを解消していたとは自分でも気づかなかった。

アフロの愚痴は彼の過酷な日々を物語っており、太刀花家の人々は大いに同情していたそうだ。

 

『そしたらもう止めらんないわけ。

この方が目を覚ましたらまずは自分が安心させてあげたい。

絶対に自分が最初の話し相手になるんだって聞かないの。』

 

それで2日も起き続けて看病をしていたのだと言う。

アフロにはちょっと信じられない。

猿型宇宙人はもっと自分勝手な生き物だと思っていた。

少なくともぽちこちゃんは自分中心の思想をぶつけて来るばかりだった。

アフロは彼女の事を友好的ではないゴリラと認識していたくらいだ。

 

『…あ、ごめんなさい。少しだけ寝ちゃってました。』

 

横で寝かされていた藍が意識を取り戻して起き上がってくる。

 

『気を失ったって言うのよ。もう寝ろ。』

 

凛が強い口調で諫めるが、藍は力なく立ち上がろうとする。

 

『お粥を用意して頂いてますから持ってきますね。』

 

『呼べばいいのよ!お手伝いさーん、お粥持ってきてー!!』

 

凜が叫ぶと廊下に足音が響き渡る。

 

『目を覚ましたのか!?』

 

『外も内もボロボロだったというのに…あの状態から生き返るとは信じられん…』

 

中年の男と老人の男性が慌てて部屋に入ってくる。

老人の言葉通りならばアフロは深刻な状態だったらしい。

まぁ、それはそうだろうと思う。

巨大生物にぶっ飛ばされたのだから外傷が酷いというのはわかるが、内側も同等に酷いというのが我ながら何とも物悲しい。

偏った食生活は巨大生物の一撃のように恐ろしいのだ。

 

『はいはい、お粥ですよー』

 

続いて中年の女性がお粥を持って現れる。

女性はレンゲでお粥を掬うとゆっくりとアフロの口に運ぶ。

少し塩味の効いた優しい味が口の中に広がる。

 

(久しぶりの…まともな食事だ。)

 

気が付くとアフロは涙を流していた。

そんなアフロの姿を見て太刀花家の人々は涙を流し、藍は優しく抱きしめてくれる。

太刀花家の優しさに釣られアフロは堰を切ったように語り始めた。

 

故郷の惑星が爆発したこと

一人で生きてきたこと

ぽちこちゃんに飼育されていたこと

宇宙の平和を守るため無理難題な敵と戦ってきたこと

 

糖尿病、脂質異常症、高脂血症を患っている事を…

 

アフロの切実な語りに太刀花家の人々の涙は止まらない。

 

(…ここは…暖かいなぁ…)

 

どこかのぽから始まって、真ん中がちで、こで終わるメスザルとは大違いだ。

あの子は人の苦労も知らんでニコニコ笑ってばっかりだったのに、この家の人達は一緒に涙を流してくれる。

 

『元よりあなたは我々に勝手に呼び出されたに過ぎません。

どうかこの家をあなたの物だと思って自由にお使いください。

もちろん我々の戦いをあなたに強要も致しません。』

 

家主と思われる老人が手を床について頭を下げる。

アフロにはよくわからないポーズだったが、恐らくは最高級の敬意を払った礼だろうと認識した。

こんなにも暖かい人々が自分を呼び敬意を払っているのだから呼び出したのには相当な事情があるのだろう。

 

『…今度は君達の事情を聞かせて欲しいよ。』

 

既に心は決まっていたが、決意を固めるためにアフロは質問をしたのだった。

 

 

 

 

アフロは太刀花家の事情を受け入れ、小さく頷く。

 

『では、太刀花藍の式神はアフロダイBで退魔師協会に届け出をしますがよろしいですか?』

 

叔父の最終確認にもアフロはしっかりと頷いた。

結局アフロは藍の戦いを手伝う事にした。

義理も恩義もあったが、それ以上に彼女をほっておけないと感じたからだ。

 

女の子だし

強敵に身柄を狙われてるし

無条件に人に優しくしちゃうような子が

法律の行き届いてない大人の世界で戦う

 

こんなの大人が付いてなきゃ上手くいかない。

 

『アフロは都会暮らし2000年、野生暮らし2000年の大人だからね。

この中の誰よりも生きる事に長けている自信があるよ。』

 

『まぁ、お爺様よりもご長寿ですよ。』

 

老人が複雑そうな顔で相槌を打つ。

こう見えてアフロは君より40倍以上のご長寿です。

 

この世界にはアフロンと呼ばれる大気中に含まれる成分が無いらしい。

以前は一撃で山さえも破壊できたアフロもアフロンがないここではただのウサギだ。

それでも藍ちゃんは再召喚を拒み、自分がいいと言ってくれたのだ。

この気持ちに応えなければオスじゃないさ。

 

アフロウサギのアフロダイB、4000歳。

流れ流され、自分達よりも遥かに文明の遅れた星で少女に飼育される。

普通ならば発狂しかねない状況だが、彼女の為ならアフロは耐えられる。

なんなら誇りにだって思えるさ。

 

『アフロ、不束者ですがどうかよろしくお願い致します。』

 

『もちろんだよ!アフロはいつだって全力で藍ちゃんを守って見せるよ!』

 

そんな妹とウサギを見守りながら凜は率直な感想を心の内に仕舞い込む。

 

(本当に何の役にも立たないただのペットだわ。)

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