放課後は退魔師   作:アフロダイB

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蛇と那由多とアフロウサギ

 

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時刻は午後20時。

ポツポツと100メートルほどの間隔で並ぶ民家に明かりはなく、街灯だけが辺りを照らす人気のない村に2人の少女が立っている。

 

柔らかな顔立ちの少女の名は太刀花 那由多(たちばな なゆた)。

この村の住人から依頼を受けた藍に付き添って事態の解決にやってきた15歳の女子高生兼退魔師であるが、今は中年男の魂が彼女の身体を動かしている。

学生服と巫女衣装を混ぜた服に派手な桃色の羽織、ふわふわしたショートヘアーにリボンを2つ結び、華やかながら優しげ見た目をしている。

 

那由多と共に真剣な表情で儀式の準備を進めているのは太刀花 藍(たちばな らん)。

退魔師名家の末娘、13歳の女子中学生兼駆け出し退魔師である。

セーラー服と振袖を合わせたセーラー巫女と呼ばれるような装いに、透き通るような藍色の髪を横で2つのリボンで縛った清楚ながら華やかな見た目をしている。

 

退魔師である彼女達がいるという事は当然ながらこの村では妖魔による事件が起きているという事である。

 

先日、この村にいきなり妖魔が現れて次々と住民を襲った。

幸いにして人的被害はなかったが次はどうなるかわからない。

と、人間側の言い分だけを聞けばこのようになる。

 

どんな存在であっても理由もなしに人を襲う事はないだろう。

そう考えて藍は妖魔との対話の場を設けようとしていた。

 

『これで準備万全です。

那由多お姉さまはここから出ないようにしてください。』

 

少し匂う酒を地面に撒いて描いた円を指差して藍が警告する。

那由多の身体は退魔師としての訓練を受けているが、那由多の身体を動かしている中年男は退魔師の訓練を受けていないためサポートに徹する方針となっている。

藍が描いた円は結界であり、この中にいれば妖魔に攻撃されても夜が明けるまで安全だと藍は補足する。

 

『それは妖魔が暴れる可能性があるって事かな?』

 

那由多の問いに藍は感情を隠すように背を向けたまま答える。

 

『それは相手の事情次第ですね。

人間側に非がある可能性もありますから、まずは事情を伺ってみませんと…。』

 

藍も那由多も人間ではあるが人間だけの味方をしていれば他の妖怪達から敵視される事になる。

金を稼ぐことだけが目的の退魔師ならば人間の都合を最優先とするが、その場合は妖魔や様々な生き物から敵視され、彼らの協力が得られないのはもちろんのこと最悪の場合は命を狙われる事もある。

退魔師家業を長く続けるには中立的な立場を維持するのがコツである。

そして太刀花家は古くから退魔師家業を続け国宝指定されている退魔師の名家なのだ。

 

『では、始めましょうか。』

 

藍は手に持った神楽鈴を鳴らし始める。

 

『退魔師の太刀花藍と申します。

私にお話しを聞かせていただけませんか。』

 

ピシッ!!

 

藍が語り掛けると即座に地面にヒビが入る。

これは妖魔からの『話すことなどない』という意思表示と『関わればタダでは帰さない』という警告だろう。

 

『…これは相当怒ってますね。

恐らく相応に正当な理由がありそうです。』

 

緊張感を保ちながらも冷静に分析し、藍は2つのお椀を取り出すと酒と水を入れてもう一度神楽鈴を鳴らした。

 

『私にも依頼された立場というものがございます。

どうかお話だけでも聞かせていただけませんか?』

 

藍は妖魔の奇襲をあえて受け入れるかのように我が身を差し出して穏やかに話しかける。

藍の健気な仕草と酒と水の誘惑が妖魔達を対話の場へと誘った。

 

『皆様が理由もなく村を襲うはずがないと信じております。

よろしければ理由をお聞かせください。』

 

神楽鈴を鳴らして音を奏でることで、言葉以上に正確な気持ちを伝える事が出来る。

言葉が通じたとしても異種間では正しく伝わりにくいため音で心を表現するのだ。

藍の奏でるリズムはとても優しく献身的だ。

 

やがて妖魔側からの思考が返ってくる。

藍は妖魔の思考を姉の那由多にも伝えるため、あえて言葉を使い声色で伝える。

 

『この村の住人が山の一部を売り、人間達が山を切り崩した。』

 

声色演技を終えると、再び神楽鈴を鳴らして妖魔に語り掛ける。

 

『それで皆様の住処が追われたとしても、それは生き物としての営みの結果に過ぎません。

それが理由で皆様が村を襲ったならば、人間である私は人として村を守るために皆様と戦わねばなりません。』

 

藍が問い詰めると妖魔達が反論する。

 

『崩された土地の中には我らが神を奉る社があった。

土地を崩すときは儀式を行ってそこに住む生き物に警告するのが習わしだ。

警告さえあれば我らとて崩される前に社を移せていたのだ。

警告もなしに神のおわす社を破壊するのは神への冒涜だ。

この件は儀式を怠り神を侮った人間が悪い。』

 

そう言うと妖魔が姿を現す。

現れたのはヘビであった。

その傍らには無残に引き裂かれた幼体もあった。

 

『…これは我が子だ。

警告にも関わらず逃げ遅れたのならば我が子が悪い。

食事のために我が子を狩ったのならば我らも恨む道理はない。

だが、我が子は意味もなく殺された。

これらの仕打ちには我らが神も怒っている。』

 

ただの蛇が怒った所で妖魔と化す事はなかなかない。

彼らが妖魔と化したのは彼らの信仰する神の力があっての事だろう。

 

『理解したなら引け、退魔師の娘よ。

これは神の代行であるぞ!』

 

蛇の背後から何か大きな存在が姿を現す。

その威圧的な空気に藍は恐怖を感じて自らの身体を抱きしめる。

 

そんな藍の緊張をほぐすように那由多が笑顔で藍に語り掛ける。

 

『弱ったねー。

かといって人として村の人達を見殺しにするわけにもいかないし、藍ちゃんどうする?』

 

那由多の笑顔で落ち着きを取り戻した藍は静かに目を閉じて考える。

 

『この度の件、落ち度は人側にあります。

その報復として蛇側が仕掛けたとしても、それは正当な抗議であり私達の出る幕ではありません。』

 

そこまで言うと藍は静かに、決意を秘めた言葉を続ける。

 

『ですが私は村の人達が殺されるのを黙って見ているわけにはいきません。

…残念ですが、彼らと戦う事になります。』

 

『うーん…。』

 

那由多は唸りながら目を瞑って考えをまとめる。

まだ短い付き合いではあるが、こういう時の那由多は自分には出せない意見をくれるので藍は黙って待つ。

 

『私は反対。

戦えば君が危険な目に遭うもの。

村の人達には悪いけど、藍ちゃんがそこまでする必要はないと思う。』

 

那由多の意見を聞いて藍は首を横に振る。

 

『村の人達は昔からここに住んでいて思い出も生活の基盤もここにあるんです。

私の命を賭けるだけの価値はあります。』

 

『価値はあるかもしれないけど、それが君の命である必要はない。

他人の村のために無関係な藍ちゃんが命を賭けるなんておかしいよ。

村人に正当性がないというならなおさらだ。』

 

那由多の話を無理やりに拒むように藍は那由多の瞳を見つめて答える。

 

『退魔師である以上は覚悟の上です。

私は戦えない人々のために尽くす義務があります。』

 

『うーん…どうしたらいいかなぁ…』

 

那由多は頭を掻きながら悩んでいる。

そのうち何か名案が思い付いたようで、握りしめた右手で左の掌をポンと打って鳴らす。

なんというか、仕草がいちいちおじさんなのが今の那由多だ。

 

『そうだ、アフロ君を呼ぼう。

私に名案があるんだ。

ここは私とアフロ君に任せて欲しいよ。』

 

『えっ、アフロですか?

それは構いませんが…』

 

アフロとは藍が召喚したアフロウサギのアフロダイBの事である。

アフロダイBが自分の事をアフロと呼称するので自然と呼び名として定着した。

 

『うん、アフロ君はあぁ見えて立派な大人だからね。

それに人間じゃない。

彼の話なら蛇も聞いてくれて円滑に事態をまとめられると思うんだ。』

 

『わかりました。

争わずに済むならばそれが一番ですから。

ここはアフロとお姉さまにお任せいたします。』

 

藍が札を取り出し地面に貼り付けると、モコモコした巨大な毛の塊が召喚される。

 

 

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どうもアフロはケーキを食べてる最中だったらしく、口をパクパクさせながらフォークを握りしめて目の前の虚空を見つめている。

 

『…きゅ、急に呼び出しちゃってごめんね。』

 

『…いいよ。

藍ちゃんのお手伝いが出来てアフロは光栄だよ。』

 

確かにアフロは大人だ。

ケーキの消失という大きな心の闇を飲み込み、見事に大人の対応をしてみせた。

 

『アフロ君、ちょっと相談があるんだ。

ちょっとこっちで話そう。』

 

那由多はアフロを連れて暗がりで相談を始める。

藍は那由多とアフロを信じ、自らが張った結界に座りこんだ。

しばらくすると暗がりから戻ってきた那由多に見送られてアフロが蛇に近寄っていく。

見た事のない巨大生物の接近に蛇達はギョッとするが、アフロはお構いなく近づいて話しかける。

 

『やぁやぁ、僕はアフロウサギのアフロダイB。

夜空に光る星々からやってきたんだ。』

 

アフロの紹介で目の前の巨大生物が宇宙からやってきた生命体だと知り、蛇達はますます困惑する。

マニュアル外にも程がある状況だ。

 

『話は聞かせてもらったよ。

君達の無念と正しき怒りはごもっともだ。』

 

蛇達の怒りを肯定すると、アフロは茶碗を取り出し水を淹れる。

先ほど藍がやったように、交渉のための儀式だ。

人間である藍は拒否されたが、珍妙な宇宙生命体からの提案となると蛇達もどうしたものかわからず拒否しづらい。

何よりもアフロダイBは蛇の怒りを肯定したので、蛇達はひとまず様子を見ようと水を飲んでアフロとの交渉を受け入れた。

水の量が減ったのを確認すると、アフロはゆっくりと語り出した。

 

『まずは君達の子が亡くなってしまったことを悔やませてもらうよ。

君達に大きな幸福をもたらすはずの命だったのに残念だ。』

 

アフロのやり方を監督するかのように那由多は腕を組んで見つめている。

どうやら交渉は那由多が方針を決め、細かい調整はアフロがアドリブで対応しているらしい。

 

『だが、その報復で人間を殺したとしても君達に益はない。

失われた子は君達に幸福をもたらすはずだったのだから、失われた命の代償は益で求めるべきだ。』

 

蛇達はアフロの言葉に集中している。

自分達とは明らかに異なる宇宙生命体の語りは、妙にミステリアスな雰囲気を醸し出していた。

 

『君達が先ほど飲んだ水は【北アルプスのおいしい水】なんだ。

とっても美味しかっただろう?

君達では到底たどり着けない高山の湧き水さ。』

 

アフロが仕掛けていく。

【北アルプスのおいしい水】はスーパーやコンビニで売られている天然水だ。

確かに蛇達にとっては希少かつ高級な水ではあるが、人間にとっては容易く買えるものである。

詐欺まがいの言い回しをするアフロを止めようと藍が立ち上がろうとするが那由多がそれを引き留める。

 

『人間達に君達と神を奉る祠を建てさせて【北アルプスのおいしい水】をお供えさせ続けるんだ。

そうすれば神の面目も立つし君達はいつでも美味しい水を飲める。

健康的で美味しい水は君達をますます繁栄させるだろう。

失われた子は死してなお君達に益をもたらすんだよ。』

 

アフロの言葉を聞いて親蛇が首を縦に振る。

我が子は争いの種ではなく益をもたらす存在なのだと仲間達に説得を始めた。

 

『人間達はいつか疲弊して【北アルプスのおいしい水】を供えられなくなるかもしれない。

その時に改めて報復すればいい。

利用するだけ利用して最後に殺すんだ。』

 

アフロは表情の読めない顔のまま無感情な声で語る。

アフロの言葉に蛇達は動揺するが、しばしの相談の後に全員が納得した。

 

『アフロダイB殿、我らは貴殿の提案を受け入れる。

知恵を恵んでくれたことに感謝する。』

 

蛇達はアフロに頭を下げた。

 

一部始終を見ていた藍は呆気に取られて那由多の顔を見続けている。

これでは退魔師というよりはペテン師だ。

 

『まぁまぁ、誰も損をしていないでしょ。

天然水はコンビニで買えるけど蛇達じゃ手に入れられないものだし、これが【北アルプスのおいしい水】なのも間違いない。

みんな得してるんだから、詫びは苦労しなきゃ不誠実みたいな考えはやめよう。』

 

那由多は藍を宥めるように笑う。

那由多の言う通り、今回の交渉は誰も損をしない結末を迎えている。

藍としては蛇達を騙すようでモヤモヤするが、誰も損をしてないのだからこれは強いて言うなら上手いやり方なのだろう。

大人である那由多とアフロは、実直な藍よりもこの手の発想に長けていた。

 

蛇達は納得して山へと戻っていった。

 

 

 

『というわけで祠を作って毎日水を捧げてください。』

 

翌朝、那由多が村人達にそう伝えると中年男性から不満の声が挙がる。

 

『太刀花様が退治してくれるんじゃねぇのか?』

 

『いやいや、我々は問題を解決するって依頼を受けましたよ。

これが平和的で私達なりの解決です。』

 

堂々と答える那由多をフォローするようにアフロが畳みかける。

 

『納得いかないならお金は返すから違う退魔師に頼めばいい。

でも相手は神様だから並みの退魔師ではまず勝負にならないと思うし、倒せたとしてもたくさんの犠牲と何百倍もの費用がかかると思うよ。

失敗したら村人だけでなく遠方にいる一族みんなが皆殺しだ。

それらのリスクとデメリットは毎朝天然水を茶碗に入れてお供えするだけで回避できるんだよ。』

 

アフロに捲し立てられ村人は押し黙る。

 

『そもそもですね。

大の大人がたくさん集まって、こんな可憐な女の子に恐ろしい蛇と戦えって押し付けるのは酷ってもんでしょう。

ここらが手打ちじゃありませんか?

藍ちゃんは十分に務めを果たしましたよ。』

 

那由多は村人の視線を誘導するように藍に顔を向ける。

申し訳なさそうに俯く藍の姿を見て村人達はため息をつく。

那由多とアフロの言う事は正論であり、藍と恐ろしい蛇を交渉させただけでも一般論で言えば十分すぎるほどに酷いことをしている。

交渉の結果は問題のない内容であり、他に手段もないと理解したのだ。

 

しばらくの沈黙の後、村長が前に出て静かに頭を下げた。

 

『村を救って頂きありがとうございます、太刀花様。

仰る通り村に祠を作り、私たちが責任をもって毎朝水を入れ替えるようにさせていただきます。』

 

こうして村を襲った事件は解決し、藍達は帰路につく事になる。

 

帰宅後、藍達は事件について祖父と叔父に報告する。

もしかすると家名を汚したと叱られるのではないかと心配したが、予想に反して祖父と叔父は那由多とアフロを褒めたたえた。

 

『悪くないやり方じゃな。

世代を跨げば村人が今日の出来事を忘れてお供えをしなくなる日が来るかもしれんが、まぁその時はその時の退魔師が何とかすべきじゃろう。

次のために祠に日誌を残しておいてやるといい。』

 

『那由多は歳の割に落ち着いてるとは思っていたが大したもんだ。

アフロ殿も藍にはない視点を持っているようで助かる。』

 

祖父と叔父の言葉を聞いて藍は素直に反省することにした。

退魔師業に関して言えば2人の言う事は絶対なのだ。

 

『今回の件、深く反省いたしました。

私達は妖魔を退治するのではなく、人と魔の調停者なのですね。』

 

藍の言葉に祖父が頷く。

 

『要は住み分けなんでしょうねぇ。

我々と妖魔は共存共栄なんでしょう。』

 

そう言って那由多は笑う。

カッコ良く刀を振り術を駆使して悪しき妖魔を討ち滅ぼす。

そんな美しい姿ではなかったが、双方を救った姉のやり方は想像以上に優しく幸せな結末を迎えた。

 

(人にも妖魔にも優しい退魔師になりましょう。)

 

会話の弾む3人と1匹の姿を眺めながら、藍は静かに決意を固めるのだった。

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