ビスコッティでの2日目の朝。
「~~♪」
「朝から上機嫌でござるなぁ」
近くの川で
「おう、ヒナか。おはよう」
「おはよう、オウカ」
竿を片手にやってきたのは、ヒナだった。
「で、誰が上機嫌だって?」
「お主以外に誰かいるでござるか?」
「ですよねー」
短いコントを済ませると、ヒナの顔がやや真剣なものに変わった。
それに倣って、俺も表情を引き締める。
「やはりユキカゼと再会できたから、でござろう?」
「ん」
ヒナの問いに、首肯で返す。
「お主もずっと気に病んでいたでござるからなぁ」
「否定はしないよ」
「拙者もユキカゼと出会って話を聞く中で、もしやと思ってはいたのでござるが……」
「わかってる。気を遣ってくれたんだろ?」
「人違いでぬか喜びさせるのは忍びなかった故、な」
「結果オーライじゃないか?『運命の再会』って感じだったし」
「そう言ってくれると、拙者も気が楽になるでござるよ」
そこで相好を崩し、笑顔を浮かべるヒナ。
俺も表情を緩めると、場の空気も穏やかなものになる。
「ところで、1つ聞いておきたいのでござるが……」
「おう、なんだ?」
「あまり
「あー、『それ』か……」
ま、一時とはいえそれなりの付き合いがあったからな。
『それ』を知られていたこと自体には、さして驚きはしなかった。
「やはりそうでござったか。ちなみに、ユキカゼのことは?」
「俺が気付かないとでも?」
「確かに。彼女のことを誰よりも見ていたのは、お主でござったな」
「昨日はちょいと先走ったが、早いうちに決着をつけるよ」
「昨日?」
「忘れろ」
「……ふむ、深くは聞かない方がよさそうでござるなぁ」
こういう時、雰囲気で悟ってくれる
――クイクイッ
「お?」
丁度話に区切りがついたところで、俺の竿にアタリの感触が。
――ググッ
「おおっ、結構デカイっぽい?……だがしかし!駄菓子菓子!」
「こんな時までボケはいらないでござるよ」
律儀にツッコミを入れてくれるヒナも大概だがな。
俺はかなりの強さで引かれる竿をしっかりと握りなおすと、その場で足を踏ん張り、
「どっ、せぇぇぇぇぇいっ!!」
丹田に力を込めて、竿を一気に振り上げた。
――ザッ、パァァァァァァンッ!!!
釣られてきたのは、川のどこにいたんだと言いたくなる程に巨大な魚だった。
――ヒュウゥゥ……
「おや、あれはこの川のヌシでござるな」
「あー、うん。納得だわ」
――ズシィィィン
――バサバサバサッ
巨大な質量が着地した衝撃に、周囲の森から鳥達が飛び去っていく。
「お兄ちゃーん!」
そんな中、ユキが俺を呼ぶ声が聞こえた。
「ユキ、こっちだ!川原に出て来い!」
「わかったー!」
「ユキカゼが来るのでござるか?」
「ああ。朝ご飯は釣果に期待、って書置きしてきたからな。ヒナも食べていくか?」
「せっかくのお誘い、是非ともご相伴に与るでござるよ」
「よしきた」
家を出る前に準備してきたご飯や味噌汁を、作っておいた簡易式かまどで温める。
「うわぁ!なんかおっきい魚がある!」
「来たか」
「お、お兄ちゃん……と、お館様?」
俺を見るときにやや顔を赤くしたが、隣にヒナがいることに気付いて首を傾げるユキ。
「おはよう、ユキカゼ」
「おはようございます、お館様」
「おはよう、ユキ。ヒナとはここで偶然会ったんだよ」
「おはよう、お兄ちゃん。……そ、そうなんだ(ホッ)」
あからさまに安堵の溜息を吐いていたが、そこは見て見ぬフリでスルー。
「来て早々悪いんだが、ちょっと手伝ってくれるか?」
「うん、いいよ。何をすればいいの?」
「火にかけてある鍋と釜を見ててくれ。俺は魚と格闘してくる」
「アハハ、了解!」
包丁を片手に腕まくりをする俺の姿が面白かったのか、ユキは笑いながら敬礼で送り出してくれた。
「全部は食べきれないから、一部はお城へ差し入れるとして……」
巨大魚の前に立った俺は包丁を構えると、
「輝力刃、展開!」
――ブンッ
「『桜華百烈』!」
――ズバババッ
――バラバラバラ
輝力で大型化した刃でもって、魚をブロックに解体した。
「「おおーっ!!」」
解体ショーの観客から拍手を送られる。
「ま、こんなもんだろ」
それを聞きながら、俺は使う分と差し入れ分とで魚を分ける。
「氷符『氷鮮麗凍』」
――パキパキパキ
差し入れ分を冷凍処理し、使う分を持って調理に戻った。
「「ごちそうさまでした」」
「お粗末さまでした、と。ほい、お茶」
川原での朝食を終え、3人で食後のお茶を楽しむ。
「いやぁ、実に美味でござったなぁ」
「はい……私もいつもより食べてしまいました」
「喜んでもらえたようで何よりだよ」
少し多めに用意していたのだが、それでも3人で食べ切ってしまっていた。
それからしばらくは、お互いの旅の土産話などで盛り上がっていたのだが、
「いやはや……うーむ」
「どうした?」
何やら突然、ヒナが納得顔で頷きだした。
「お館様、何かあるなら仰ってください」
「本当に言ってもよいのでござるか?」
俺達に対して確認を取るヒナの様子に、嫌な予感はした。
「……まぁいい。言ってみろよ」
が、それを飲み込んで、俺はヒナに発言を促した。
「では、遠慮なく。2人を見ていて思ったのでござるが……」
「「(……ゴクリ)」」
場を支配する奇妙な緊張感に、思わず喉を鳴らす俺とユキ。
そんな俺達を見て苦笑しながら、ヒナが続きを口にする。
「やはり『兄妹』よりも『
「ブフッ!?」
こ、このアホ侍、何てことを言いやがるんだ!
ちょっと前に、「コイツはちゃんと空気の読めるヤツ」とか言った俺がバカみたいじゃないか!
「め、夫婦……?お、お兄ちゃんとわ、私が……?…………はぅっ」
「ゆ、ユキぃぃっ!?」
真っ赤な顔で何を妄想したのか、ユキが幸せそうな顔のまま天に召された。
「バカーっ!お前、
「おや、拙者としては2人のことを思って――」
「今は
ヒナの言葉を遮って、俺の渾身の雄叫びが森に響き渡った。
この後、城への差し入れはヒナに託して、俺は気絶したユキを背負って家に帰ることになった。
ユキの意識自体は数時間で回復したものの、本当の問題はその先に待っていた。
この日から数日に渡って、俺と視線が合ったり、ふとした瞬間に指などが触れ合ったりする度に、ユキが顔を真っ赤にして逃げるという、何とも気まずい日々を送るハメになったのだ。
ヒナめ、この落とし前はいつかキッチリつけさせてもらうからな!