『グラナ浮遊砦攻略・防衛戦に参加中の皆様にお知らせします』
戦場に響くアナウンスを聞きながら、俺は目的地の目と鼻の先まで迫っていた。
「……よかった。まだ何もないみたいだな」
とりあえず、最悪の事態にはなっていないようで安心する。
が、次の瞬間。
――ゴゴゴゴゴ……
大地が大きく揺れ始めた。
突然変化し出した状況に、俺は一旦足を止めて周囲の状況を確認する。
『お、おい!あれ見ろよ!』
『な、なんだ!?』
『た、大変だ!』
戦闘行為を中断し、避難を始めていた参加者の一団の声が聞こえた。
何事かと思い、俺もそちらを見て――
「なっ!?」
その光景に言葉を失った。
――ゴゴゴ……
グラナ浮遊砦の頂上、砦の名物でもある天空武闘台が空に浮いていたのだ。
更に状況は悪化の一途を辿っていく。
「出てきたか……」
上昇していく武闘台の先、黒雲の中から闇色の球体がゆっくりと高度を下げてきていた。
かなりの距離があるにもかかわらず、俺のいるところまでプレッシャーが届いている。
どうやらかなり強い力の持ち主であるらしい。
「……っと、呆けてる場合じゃない!」
ハッと気付くと同時に、俺は懐から護符を1枚取り出して、
「天空武闘台へ……『転移』っ!」
事態の最前線に向かった。
「2人とも、無事か!?」
転移を終え、目的地に到着した俺はそこにいるはずの人物に声を掛けた。
「「オウカ!?」」
返ってきた2人分の声から、間に合ったことに安堵する。
「よっ!」
俺の登場に驚いている2人に向かって片手を上げる。
「オウカ!貴方は本陣にいたはずじゃ……?」
先に復帰した姫ちゃんが問い掛けてくる。
「
「っ!?(ガクガク)」
「……?」
俺の返答に対して、2通りの反応が返ってくる。
約1名、急に震えだしたのがいるんだがどうしたんだか。
「さておき、アレは……」
と、ここまで意識の外に置いていたモノに改めて目を向ける。
その時、
「グガアァァァッ!」
俺達の眼前まで迫っていた闇色の球体―封印されていた魔物が吠えた。
――ゴオッ
――ドォン!ドォン!
雄叫びのプレッシャーが大地に広がり、地面から幾筋もの火柱が上がる。
――ドォン!
「きゃっ!?」
「「ミルヒ(姫ちゃん)っ!?」」
火柱のうちの1本が俺達のいる武闘台を直撃した。
姫ちゃんの短い悲鳴が聞こえたが、どうやら大事はない様子。
「オウカ、レオ様!あれを!」
「「っ!」」
姫ちゃんが指差した方を見ると、魔物が今にも封印を破ろうとしていた。
そして――
「グオォォォッ!!」
その身を縛る戒めを振り払って自由を取り戻した魔物は、まるで歓喜するかの如くに吠える。
――ボゥ
――ボゥ
魔物の周囲に、眷属と思しき狐霊が多数出現する。
全身から禍々しい気を発してこちらを睨んでいる魔物。
――チャキ
「グオォォォッ!!」
俺達が戦闘態勢に入ると、それに合わせたかのように魔物も動く。
――ボコッ
――ボコッ
目の前の地面から先端に剣や斧を模した触手が生えてきた。
それらは大きく空に伸びると、標的をこちらに定めて降ってくる。
「ハアァァァッ!」
その動きにいち早く反応したレオが手に持つグランヴェールを翳して障壁を張る。
――バチィッ
障壁によって触手が弾かれる。
「ァッ!」
――ズバッ
俺は携行していた剣で弾かれた触手を斬り伏せていく。
「流石じゃな、オウカ!」
「お前もな、レオ!」
息の合ったコンビネーションに、互いに賞賛を送り合う。
そんな時だった。
「お2人とも、危ないっ!」
「「っ!?」」
姫ちゃんの注意に振り返ると、復活した触手が2本こちらに迫ってきていた。
スピードをつけて振るわれたそれを避けるにはギリギリのタイミング。
触手の狙いは……レオ!?
それがわかった瞬間、俺は横に立っていたレオを弾き飛ばしていた。
「オウカ!?」
レオは突然の行動に驚いて俺を見たが、俺はそれに応える事ができなかった。
――ザクザクッ
「ガハッ!?」
レオを狙った触手が勢いそのままに俺の身体を貫く。
腹部を衝撃が襲い、全身に激痛が走る。
「いやぁぁぁっ!!」
「オウカぁぁぁっ!!」
姫ちゃんとレオの悲鳴が辺りに響く。
「(ユキ……)」
薄れゆく意識の中で俺が最後に思い浮かべたのは、最愛の女性のことだった。
―Side Out
―Side ユキカゼ
「……お兄ちゃん?」
お館様やオンミツ衆と共にグラナ浮遊砦へ急いでいた道中、不意にお兄ちゃんの気配を感じた。
「ユキカゼ、どうしたでござるか?」
私の呟きが聞こえたのか、お館様が声を掛けてきた。
「あ、はい。今、お兄ちゃんの気配を感じました」
「オウカの?……拙者にはわからぬでござるなぁ」
私の返答に、周囲の気配を探ってみたらしいお館様は首を傾げる。
その時、
――チカッ
「お館様、今胸元で何か光りましたよ?」
一瞬だけど、小さな光が確かに見えた。
「胸元?どれ……お?」
お館様が胸元を探っていた手を外に出すと、出て来たのは1枚の護符だった。
「オウカが隊長達に配った通信用の護符でござるな」
「お館様、見てください。護符に紋章が……あれ?」
私は護符に書かれていた紋章を見て、既視感を覚えた。
「おお、確かに。うーむ……これは何でござるかな?」
「………………」
「ユキカゼ?」
急に黙ってしまった私をお館様が呼ぶ。
それにも気付かない程、私は思考の海深くに潜っていた。
「…………そうだっ!」
と、私は唐突に正解と思しき答えに思い至った。
「何かわかったでござるか?」
「はい、この紋章は『転移術式』です。以前お兄ちゃんに見せてもらったので、間違いないと思います」
「なるほど。緊急時に備えて仕込んであったのでござろう」
私の答えに納得したように、お館様が大きく頷く。
「ただ、これは1人用ですね……如何しましょう?」
私はお館様に指示を仰いだ。
「では、ユキカゼ。お主が先に行くでござるよ」
お館様からは意外な答えが。
「……へっ!?」
思わず変な声を出してしまう私。
「……よろしいのですか?」
落ち着き直してもう一度聞き返す。
「うむ。先程の気配とやら、やはり気になるでござろう?」
お見通し、といった調子で返されてはこちらもお手上げだ。
「……わかりました。それでは使わせていただきます。……『転移』っ!」
お館様から護符を受け取り、私は最前線へと跳んだ。
「…………え?」
グラナ砦に着いた私は、目の前の光景に自分の目を疑った。
「オウカ……」
「何故、お主が……」
そこには涙を流しながら呆然と立ち尽くす2人の姫と、
「オウカ!起きてよ、オウカっ!!」
「目を開けろ、このバカっ!」
必死に声を上げて呼び掛けるシンクとエクレ、
「――――――」
そして血溜まりの中に横たわって動かないお兄ちゃんがいた。
「ウソ……、ウソでしょ……?」
私の目から、知れず涙が流れる。
――この戦が終わったら、昨日のデートの仕切り直しをしよう
――うん!
今朝、そう決めて一緒に家を出たのに。
デートでは、きっとお兄ちゃんに告白しようと思ってたのに。
……本当に、楽しみにしていたのに。
「グガアァァァッ!!!」
私の前には、最愛の人を奪ったモノが天に向かって雄叫びを上げていた。
「お前が……」
沸々と、心の奥からどす黒い
「お前がお兄ちゃんを……っ」
それは瞬く間に私の心を塗り潰していく。
「許さない……ゆるさない……ユルサナイッ!」
暗い闇に染まった私の思考は、目の前の敵を殺せと命令してくる。
「アアアアァァァァァッ!!」
湧き上がる衝動のままに、私は魔物に挑みかかった。
―Side Out