DOG DAYS 土地神軍師奔走譚 ※凍結   作:天御柱

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EPISODE:16

「ここは……?」

 

 

――ゴロゴロ……

 

――ピシャァァァッ!

 

 

気が付くと、俺は見知らぬ荒野に独りで立っていた。

 

空は暗く、雷が鳴り続けている。

 

「そういえば、俺は確かレオを庇って……」

 

魔物の触手に腹部を貫かれたはず。

 

そう思って触ってみるも、そこには何の傷もない。

 

「……?」

 

疑問に思って首を傾げていると、

 

「もし、そこの方」

 

背後から誰かに話しかけられた。

 

俺は何事かと振り返る。

 

 

――シャラン……

 

 

澄んだ鈴のような音と共に現れたのは、1匹の狐だった。

 

「貴方を巻き込んでしまったこと、本当に申し訳ありません」

 

そして現れるなり、俺に向かって頭を下げてくる。

 

「すまない。事情がよくわからないんだが……」

 

対して、こちらはますます首を捻ることに。

 

「我が子が貴方達に酷いことをしてしまいました」

 

「我が子……ああ、もしかしてあの魔物のことか?」

 

「はい」

 

続く彼女の言葉で、ようやく俺は理解することができた。

 

どうやら、彼女はあの魔物の母親であるらしい。

 

とりあえず、彼女から話を聞くことにしよう。

 

俺はそう決めると、果ての見えない荒野を歩き出す。

 

少し歩いたところで振り返り、彼女に話しかける。

 

「話を聞かせてくれないか?ついでに、少しここを見て回りたい」

 

「わかりました」

 

頭を上げた彼女も俺の隣に並んで歩き出す。

 

歩き出してしばらく、まずはこちらから話を切り出す。

 

「貴女と息子さんは天狐だよな?」

 

「はい。そういえば、貴方も……?」

 

彼女は頷き、それから俺の身体を上から下まで眺めて呟く。

 

「ああ、そうだ。……やや特殊ではあるが、ね」

 

後半は彼女に聞こえない音量で付け足した。

 

「そうだったのですね。……少し、昔話をさせてください」

 

俺は無言で頷き、彼女に先を促す。

 

「もう数百年も前の話です。大陸のほとんどが、まだ人の分け入らぬ地であった時代」

 

彼女が語り始めると、回りの景色が変わった。

 

どうやら、彼女の記憶が再現されているらしい。

 

「私と我が子は、山間で静かに暮らす土地神でした」

 

ここはかつて彼女達親子の暮らした森のようだ。

 

そして、俺達の視線の先には当時の親子の姿があった。

 

ひらひらと舞う蝶と戯れる子狐は、飛び去るそれを追って森の中へ走っていく。

 

「ですが、あの日……」

 

しかし、そこで彼女の語り口が変わった。

 

それに呼応するように突如として暗雲が空を覆い、辺りには不穏な空気が流れ出す。

 

 

――ゴロゴロ……

 

 

――ピシャァァァンッ!!

 

 

森の一角に、黒い雷が落ちる。

 

その方角は、先程子狐が向かった方向だった。

 

記憶の中の彼女が走る。

 

その後を追うように、俺も森の中を駆けた。

 

 

――ザッ

 

 

とある地点まで来ると、彼女の足が止まる。

 

「クッ……」

 

「……落雷と共に降って来た刀が我が子の身体を貫き通していたのです」

 

そこには、禍々しい『気』を撒き散らす刀にその身を貫かれた子狐がいた。

 

地に伏した我が子に駆け寄る彼女。

 

彼女が鼻先で子狐の身体を揺すったその時、子狐の目が見開かれた。

 

暗く紅いその目はしかし、目の前の母を見てはいなかった。

 

「そしてあの子は、禍々しい魔物の姿へと変わってしまったのでした」

 

刀の邪気が子狐を包み、その身体を急激に成長させていく。

 

「グオオォォォッ!!」

 

恐ろしい魔物へと変貌してしまった子狐は空に向かって1つ吠えると、母親に襲い掛かった。

 

 

――ビチャッ

 

 

我が子の手でその命を散らした母親。

 

「ウオオォォォッ!!!」

 

土地神の命を奪い、力を奪った魔物は、その身体を更に大きく成長させる。

 

「私はあの子に取り込まれ、あの子は魔物として山の生き物を喰らい、大地を破壊していきました」

 

山から生命の息吹が失われ、荒れた大地へと場所が戻った。

 

「200年余り前、人里に下りようとしたところを聖剣の主の手によって封印されたのですが、封印が弱まったのが原因なのか、新たな聖剣の主の存在を感じ取ったのか、あの子は目覚めてしまいました」

 

かつての聖剣の主ってことは、姫ちゃんのご先祖様だな。

 

200年前の封印なら、恐らくかなり弱まっていたはず。

 

そこにタイミング悪く現在の聖剣の主(ひめちゃん)が来てしまったものだから、覚醒してしまったと。

 

「我が子はもはや破壊の魔物です。……ですが魔物の姿に変わってからずっと、あの子は泣いているのです」

 

母親は胸の苦しさを言葉に乗せて俺に訴える。

 

「……たいよぅ……」

 

その時、微かだが誰かの声が聞こえた。

 

俺は声のした方へ向かって走る。

 

「苦しいよぅ……」

 

そこには、刀に身を貫かれたままの子狐がいた。

 

「お願い……誰か……誰か……」

 

子狐は涙を流しながら切実にただ1つのことを願っていた。

 

「僕を死なせて……」

 

それは、あまりにも残酷な願い。

 

「僕を、殺して……!」

 

小さな子狐は、ただひたすらに自らの(おわり)だけを望んでいたのだ。

 

「こんな……」

 

知れず、俺は涙を流していた。

 

「こんなことが許されていいのか……?」

 

 

――否。断じて否。

 

 

どこからか、声が聞こえる。

 

「そうだ……許されるはずがない……っ!!」

 

 

――汝は何を望む?

 

 

声が問い掛けてくる。

 

「悲しき運命に終止符を」

 

 

――汝は何を望む?

 

 

重ねて問われる。

 

「闇を振り払う力を」

 

 

――ならば呼べ、我が名を

 

 

俺の手には、いつ握られたのかわからない1枚の護符。

 

俺はそれを天に掲げると、声に促されるままに『その名』を叫んだ。

 

「顕現せよ、霊刀『霞桜(かすみざくら)』っ!」

 

 

――カッ!!!

 

 

護符が強烈な光を放ち、視界を白く染める。

 

 

――シュウゥゥ……

 

 

やがて光が収まると、回復した視界の中、俺の手には一振りの刀が握られていた。

 

「貴方……いえ、貴方様はもしや……」

 

隣にいた母親が目を見開いて何事か呟いているが、俺の耳には届かない。

 

「それじゃ、貴女の息子さんを助けてきます」

 

俺はそれだけ告げると刀を大上段に構え、

 

「ハアァァァッ!!」

 

一気に振り下ろした。

 

 

――キィンッ!

 

 

甲高い音が一瞬だけ響く。

 

 

――ピシ……ピシピシ……

 

 

何かにひびが入り、それが広がっていく。

 

そして、

 

 

――パキィィィンッ!!

 

 

世界が砕けた。

 

 

 

 

 

―Side ???

 

 

 

魔物は恐怖を感じていた。

 

先程から自分に向かってくる黒い影の、その奥に感じる大きな闇に。

 

「グルゥゥ……」

 

低い唸りが漏れ、足が1歩後ろへ下がる。

 

自分が気圧されている。

 

その感覚は、魔物にとって未知のものだった。

 

「アアアァァァァッ!!!」

 

 

――ズドンッ!

 

 

「グガァァァッ!?」

 

重い一撃が身体に刺さる。

 

そうしてまた1歩後退しようとしたその時、

 

 

――カッ!!!

 

 

視界の奥、高い塔の頂から光の柱が空へと伸びた。

 

「ぐ、グルゥ……」

 

光の眩しさに思わず目を瞑る魔物。

 

 

――シュウゥゥ……

 

 

光が薄れ、魔物が再び目を開けると、光の柱が立った辺りに小さな光が浮かんでいた。

 

それは、銀色の光だった。

 

更によく見ると、その光は人の形をしていた。

 

「グルゥ……?」

 

その光を見た時、魔物はどこか懐かしい雰囲気を感じ取っていた。

 

しかし、その感覚の正体を理解することはできなかった。

 

それから、魔物は先程までの苛烈な攻撃がいつの間にか止んでいることに気付いた。

 

今も自分の視界の先に映る黒い影を見る。

 

「ァ、アァ……ッ!」

 

影は自分ではなく、光の方を見ていた。

 

 

――タッ!

 

 

そして自分に背を向け、光へと向かっていった。

 

その無防備な背中に一撃を加えることは簡単だったはずだが、何故か魔物は動かずに影を見送ったのだった。

 

 

 

―Side Out

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