DOG DAYS 土地神軍師奔走譚 ※凍結   作:天御柱

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EPISODE:01

動物の耳と尻尾を持つ人々が、概ね平和に日々の生活を送っているフロニャルド。

 

そのフロニャルドでここ最近、とある人物の噂がまことしやかに囁かれていた。

 

 

曰く、

 

『白いローブに身を包んだ流浪の軍師がいる』

 

曰く、

 

『軍師が助言を施した国は必ず戦に勝利できる』

 

曰く、

 

『軍師が戦場に現れた時は、敵はもちろん味方も全員“だま化”を覚悟しておかなければならない』

 

曰く、

 

『あちこちの戦場に出て来るのに、その素性を知る者は誰もいない』

 

 

とまぁ、これらはあくまで噂の一部に過ぎず、挙げれば枚挙に暇がない程である。

 

それ故、各国の首脳陣は軍師が現れれば国を挙げて自国に留めようとするが、そもそも戦場にしか姿を見せない上、戦が終われば姿を消してしまうので、その努力が実を結んだことはない。

 

ちなみに件の軍師、戦の褒賞だけはキッチリ請求してくるので、一部からは『守銭奴』『金の亡者』などと揶揄されていたりする。

 

 

 

 

 

「まったく、正当な額の褒賞しか請求してないってのに酷い連中だよな」

 

どうも、巷で噂の軍師だ。

 

現在地はえっと……ビスコッティ共和国内のガレット獅子団領との国境に近い宿場町、だな。

 

……って、俺は誰に向かって喋ってるんだか。

 

「ふぅ……またつまらぬ電波を拾ってしまったようだ」キリッ

 

うむ、キまった。

 

「おう、アンちゃん。さっきから独りで何をやってんだい?」

 

「あ、すんません。なんでもないっす」

 

うわぁ、ヤベ。そういえば今は乗り合い馬(?)車の中だったぜ。

 

「そうか。ところでアンちゃん、この町に来た目的は『アレ』かい?」

 

「ええ、まぁ。『ソレ』っす」

 

「やっぱりな。俺も目当ては『ソレ』なんだ。もしまた会うことがあったら、その時はよろしく頼むぜ」

 

「こちらこそ」

 

おっちゃんと握手を交わしたところで車が止まった。どうやら着いたらしい。

 

俺は御者に運賃を渡して町に降り立った。

 

「それに今回はちょいと確かめたいこともあるしな」

 

そして誰にともなく呟くと、町の雑踏の中へと歩みを進めた。

 

 

 

 

 

数日後――

 

『さぁさぁやってまいりました!本日も天気は快晴、絶好の戦日和です!』

 

今日もまた絶好調にハイテンションな実況に合わせて、ドンッドンッと花火が上がる。

 

『本日の対戦カードは、ビスコッティVSガレット!実況はお馴染み、ガレット国営放送のフランボワーズ・シャルレー、解説にはガレット騎士団団長のバナード将軍とレオンミシェリ姫のお側役ビオレさんにお越しいただいております!』

 

『どうも』

 

『こんにちは』

 

トークが続き、戦場に集まった両国の参加者のボルテージが高まっていく。

 

『本日の戦は野戦でのポイント争奪戦となっております!皆さん、ガンガンポイントを稼いで下さい!』

 

『『『うおおおぉぉぉっ!!』』』

 

さて、そろそろスタートだな。

 

『それでは……スタートです!』

 

いっちょ、暴れてやりますか。

 

 

 

しばらく一般参加者に紛れて適当にポイントを稼いでから、俺は戦場を離脱して近くにあった森の中へ入った。

 

「それじゃあ、本日のサプライズといきますかね」

 

あらかじめ隠しておいた荷物から、いつものローブを取り出して身に纏う。

 

それ以外にも必要な準備を全て済ませて、俺は戦場へと再び飛び出していく。

 

目当ての人物は――

 

「いた。……ってか、あそこビスコッティ側のド真ん中じゃん!」

 

ビスコッティの諸君、先に謝っておく。すまんな。

 

心の中でそう呟いてから、俺は懐にしまっておいた紙束を取り出すと、

 

「炎符『炎凰爆熱翔』!」

 

 

――ズドォォォンッ!!

 

 

戦場に大爆発を巻き起こした。

 

『おおっと、ビスコッティ側陣地内で突如爆発が発生!大量のけものだまが宙を舞っております!』

 

『おや、あの辺りは……』

 

『はい、ちょうど姫様がいらっしゃったところですね』

 

『なんとーっ!?我らがレオンミシェリ閣下はご無事かーっ!?』

 

実況席の方が何やら騒がしいが、そっちは脇に置いといて、と。

 

「少々お話に付き合っていただけますかな、領主閣下殿?」

 

「ほう。誰かと思えば、噂の軍師か。戦場でこうして相見えるのは初めてじゃな」

 

「そうですね。いやしかし、先程から見ておりましたが、実に目覚しいご活躍ぶりでした」

 

「ふん、世辞はいらん。それより要件を済ませたらどうだ。話があるのであろう?」

 

閣下殿は不機嫌を隠さずに先を促してくる。

 

「はい。では、遠慮なく。閣下殿は近頃、ビスコッティを相手に盛んに戦興行を行っているご様子。……果たして、何を急いていらっしゃるのやら」

 

「っ!?貴様、何を知っている!」

 

こちらの言葉に対して、過剰な反応を示す閣下殿。

 

「ふむ。何やら思い当たるフシがおあり、と」

 

「くっ、担ぎおったな!」

 

「担ぐ、だなんてそんな。閣下殿が不自然に反応し過ぎなだけでしょう」

 

「ええい、黙れ黙れ!」

 

そうこうしているうちに、爆発で生じた煙幕が晴れる。

 

『ようやく視界が開けてまいりました!果たして閣下は……いました!レオンミシェリ閣下、ご健在です!』

 

『姫様の他にも誰かいますね』

 

『そのようです。……ん?あれは……』

 

『な、な、な、なんとーっ!?閣下と共に煙の中から現れたのは、巷で噂の白ローブの軍師様だーっ!』

 

『どうやら先程の爆発はあの軍師殿の仕業のようです』

 

『噂に違わぬ登場ですね』

 

『『『うおおぉぉっ!!』』』

 

うんうん。実況席はもちろん、参加している両国の選手もフィーバーしてるねぇ。

 

「さて、せっかくの戦場です。一手、お付き合い願えますかな?」

 

「望むところじゃ。かくなる上は、衆目の前で貴様を負かして正体を暴いてやらねばワシの気が治まらん」

 

「ありがとうございます。では……」

 

閣下殿に一礼してから、懐から紙を一枚取り出して口元に翳し、

 

『あー、あー。実況席及び戦場にいる諸君、聞こえているか?』

 

『は、はいっ!?聞こえていますが……軍師様?マイクもなしにどうやってそのような芸当を?』

 

『企業秘密だ』

 

『なるほど。聞くな、ということですね?』

 

『うむ。話が早くて助かる』

 

『わかりました。それで、ご用件は何でしょうか?』

 

『これから私と閣下殿とで一騎討ちを行う。ルールは紋章不使用の初撃決着だ』

 

『初撃決着、ですか?』

 

『先に相手に対して有効打を入れた方が勝ち、というものですね』

 

『バナード将軍、解説ありがとうございます。さぁ皆さん、思ってもないところでとんでもないカードが成立しました!我らがレオンミシェリ閣下VS巷で噂の軍師様です!これは私も目が離せません!』

 

伝えるべきことを伝え終えると、ローブの中から折り畳まれた武器を取り出して組み上げる。

 

「ほう。槍か」

 

「一番使い慣れているのがコレですので」

 

「ふむ。相手にとって不足はなさそうじゃな」

 

俺の返答に感じるものがあったのだろう。閣下殿が不敵に笑った。

 

「開始の合図は、そうですね……」

 

俺は足元に転がっていた石を1つ手に取って閣下殿に見せ、

 

「投げたこの石が地面に落ちたら、でいいですか?」

 

「よかろう」

 

簡単に確認を済ませると、互いに構えを取った。

 

「それでは」

 

「いざ」

 

俺の手から小石が宙へと放られる。

 

状況を見守る全ての人が固唾を飲んで注目している中、その瞬間がやって来る。

 

 

――コトンッ

 

 

「はああぁぁぁっ!」

 

「せっ!」

 

互いに一息で相手の間合いに踏み込む。

 

 

――ガキンッ

 

 

――ギィンッ

 

 

――ヂッ

 

 

互いの得物がぶつかり合う度に甲高い金属音と共に激しい火花が散る。

 

静まり返った周囲に、俺達の打ち合う音だけが響くことしばし、

 

 

――ガチンッ

 

 

鍔迫り合い、という形で場に完全な静寂が訪れた。

 

「流石は武の誉れ高きガレットの領主閣下殿でいらっしゃる」

 

「痴れ言を。その口、今に黙らせてやろうぞ」

 

さて、そろそろ今回の『本題』に入っておこうか。

 

「しかし、貴女も本当に変わらない。いや、今も昔も大事だというのはわかるがね」

 

「っ!?貴様、まさか……」

 

「おっと、口が滑りました。今の、オフレコでお願いしますね?」

 

なんて、わざとやったに決まってるんだが。

 

「何故今まで便りの1つも寄越さなかった!」

 

「この身は元より流れの身なれば。必要性を感じなかったからね」

 

うん、もう取り繕う必要ないよな。というわけで、いつもの口調に戻そう。

 

「突然消えたお前をどれ程探し――あ、いや、なんでもない」

 

「んん~?もしかして俺を探してくれてたのか?」

 

「くっ……おい、そのニヤけた顔を止めろ!」

 

「いやぁ、こんな身近に俺を心配してくれてた人がいたなんてな」

 

この娘もイジるとなかなか面白いんだよな。

 

「うがぁぁっ!二言前の自分を消してやりたいっ!」

 

おーおー、顔を真っ赤にして悶えちゃって。

 

「ま、何かあったら昔みたいに俺を頼れ。な?」

 

懐かしい反応を堪能したところで、本来の用件に話を戻した。

 

「な、バ、この、きゅ、急に真面目になられては困るではないか(ボソッ)」

 

「ん?何か言ったか?」

 

「な、なんでもないわ!……コホン。それより、そろそろ決着を着けようぞ」

 

「そうだな。皆さんお待ちかねのようだし、なっ!」

 

全く動かない俺達を中心に、戦場全体に息が詰まりそうな程の緊張感が漂っていた。

 

 

――ガッ

 

 

――ザッ

 

 

『『『おおっ!?』』』

 

得物同士を打ち付け合って距離を開けた俺達に、観客がどよめく。

 

「次で決めます」

 

「これで終いじゃ」

 

『両者共にフィニッシュ宣言!果たして、勝利の女神はどちらに微笑むのでしょうか!』

 

決着に向けて、再び場の空気が引き締まる。

 

 

――ジリ、ジリ

 

 

互いに互いを牽制しつつ、徐々に間合いを詰める。

 

 

――ザッ

 

 

「フッ!」

 

「ァッ!」

 

 

――キィィィン

 

 

澄んだ金属音が空気を震わせた時には全てが終わっていた。

 

 

――パキンッ

 

 

俺の持っていた槍は真っ二つに切断され、

 

 

――ピシピシッ、パキィィンッ

 

 

レオンミシェリの身体を覆っていた服と鎧、手に持つ剣が粉々に砕け散った。

 

「おっと、こりゃいかん」

 

 

――バサッ

 

 

カメラに領主様(レオンミシェリ)の裸が収められるより先に、脱いだローブでその身体を隠してやる。

 

「……ワシの負けじゃ」

 

「そして私の勝ち、ですね」

 

『け、決着っ!軍師様は武器を折られるもその他は無傷!対するレオ様は防具完全破壊により戦闘不能!よって、この一騎討ちの勝者は軍師様です!』

 

『『『うおおおぉぉぉっ!!』』』

 

実況の勝ち名乗りを受けて、戦場が揺れる程の大歓声が沸き起こる。

 

『といいますか、軍師様はローブの下にもローブを着てらっしゃるんですね』

 

『確かに。そんなに正体を知られたくないんでしょうか』

 

解説の2人、そこは普通スルーだろ。

 

まぁ、そんなわけで、ローブを脱いだ瞬間「お前、正体バレるだろ」と思った諸君、残念だったな。

 

『そしてこの瞬間、ガレット側の総大将であるレオンミシェリ閣下撃墜によるボーナスで、ビスコッティ側の勝利がほぼ確定しました!』

 

『『『わああぁぁっ!!』』』

 

久しぶりの勝利にビスコッティの皆が喝采を挙げている。

 

「さて、仕事も終わったことだし、さっさとトンズラしようかね」

 

「待て」

 

こちらへの注目が完全に消えた頃を見計らって、いつものように戦場を去ろうとしたところで呼び止められた。

 

「なんだよ。俺はここから逃げるのに忙しいんだぞ?」

 

「今度はどこへ行くつもりじゃ?」

 

「しばらくはビスコッティの領内にいるよ。そんで、姫さんが動いた“理由”でも見てようかな、と」

 

「本当かっ!?」

 

おおう、喰いつきがハンパねぇな。

 

「あ、ああ。俺、こう見えて隠密行動とか得意だからな。それで最近の姫さんの様子も見てたんだし」

 

「なっ!?そ、そうなのか……?」

 

あ、ヤベ、口が滑った。一発あるか……?

 

「そ、そうか……。気にはしてくれておったのじゃな……(ボソッ)」

 

……あれ?来ないの?……ま、いっか。

 

「そういえば、いい加減その『姫さん』は止めんか」

 

「えぇ~、なんで?」

 

「以前から言っておるが、ワシは『姫』などと呼ばれるようなガラではない」

 

「じゃあなんて呼べば?」

 

「普通に名前で呼べばよかろう」

 

「じゃあ、レオンミシェリ?」

 

「もっと親しげに」

 

注文の多い人だね、まったく。

 

「じゃあ、レオで」

 

「う、うむ。これからはそう呼べ」

 

「りょーかい。それじゃレオ、またな。……っと、忘れてた。何かあったらコレを使ってくれ」

 

やり残したことがあったのを思い出し、懐から1枚の紙を出してレオに手渡した。

 

「コレは何じゃ?」

 

「通信術式を編み込んだ符だよ。輝力を流せば使えるから」

 

「わかった。預かっておく」

 

「それじゃ今度こそ、またな」

 

「ああ、また会おう」

 

最後にレオと握手を交わして、俺は戦場を後にした。

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