ビスコッティ・ガレット両国の国境付近で行われた戦からしばらく後。
「おいおい姫ちゃん、流石にこれはマズ過ぎるだろう」
レオの指揮の下、侵攻を続けたガレット軍は、ビスコッティ共和国フィリアンノ領の総本山であるフィリアンノ城の目前、フィリアンノレイクフィールドを攻めていた。
「レオもレオだ。アイツ、一体どこまでやる気なんだ」
リアルタイムで状況が推移している戦場の中、ガレットの本陣で堂々とした立ち姿を見せるレオを見ながら呟く。
これまでは戦場には出ずにいたが、今回は状況次第では出なければならないだろう。
「(まさか領地を奪って姫ちゃんに領主を辞めさせる、なんてことはしないよな?)」
『最悪』を想像して、しかしそれを打ち消すように頭を振る。
その時、
――ピカッ
戦場から離れた浮島の方角に一筋の光が見えた。
「何だ、今の光……待てよ?あの方角は確か……」
そうだ、あそこにあるのは。
「召喚台……ってことは来たのか、『勇者』が」
あちら―地球―から来た『勇者』か。……長らくぶりだな。
「どれ程のヤツが来たか知らないが、せめて戦況をイーブンにするくらいには活躍してほしいもんだ」
さて、俺も“もしも”に備えて戦場近くに移動しておくか。
『ビスコッティの皆さん、ガレット獅子団の皆さん、お待たせしました!近頃敗戦続きな我らがビスコッティですが、そんな残念展開は今日を限りにお終いです!』
「おおっ、姫ちゃん気合入ってるな」
城に戻ってきた姫ちゃんがバルコニーで喋っている。
モニターに映るその姿と戦場に響く声に、あちこちから絶え間なく聞こえていた戦の音がいつの間にか止んでいた。
『ビスコッティに希望と勝利をもたらしてくれる、素敵な勇者様が来てくださいましたから!』
カメラを通して、ビスコッティ側最終防衛ライン近くに建つ物見櫓の上にいる『勇者』がモニターキューブに映る。
『華麗に、鮮烈に、
姫ちゃんの台詞に続くように打ち上がった花火を背に、『勇者』が手に持っていた棒を放り投げると同時に櫓から飛び降りた。
そこから空中で一回転を決めると力強く着地。更に遅れて落ちてきた棒を難なくキャッチ、からの見事な棒捌きで決めポーズ。
「ふむ」
『『『おおっ!?』』』
そんな『勇者』のパフォーマンスに、戦場から感嘆の声が沸く。
その中で『勇者』は棒を構えなおすと、戦場一帯に響く声で名乗りをあげた。
『姫様からのお呼びに与り、勇者シンク、ただ今見参っ!!』
そこからの『勇者』の進軍は凄まじかった。
難攻不落と名高いビスコッティ屈指のアスレチックであるレイクフィールドを縦横無尽に駆け回って、ねこだまの山を築く。
親衛隊長のエクレール嬢と合流したかと思えば、見様見真似で紋章砲をぶっ放す。
「姫ちゃん、とんでもない勇者を呼んだな」
うん、断言しよう。これ、間違いなく彼女が出てくるね。
――ドォォン!
『……ほんのチビッと期待をして来てはみたが、所詮は犬姫の手下か』
ほら、やっぱり。
勇者と親衛隊長を矢の一本で吹き飛ばしつつ戦場に現れたのは、ガレットの領主レオンミシェリその人だった。
『我が名はレオンミシェリ・ガレット・デ・ロワ。ガレット獅子団領国の王にして、百獣王の騎士!』
彼女の名乗りに合わせるように、黒い
そして彼女は背後に紋章を展開すると、爆炎と共に煌々と輝かせて、
『閣下と呼ばんか、この無礼者がッ!!』
勇者と親衛隊長に向かって一喝。
それにしても、このレオ様、ノリノリである。
久しぶりに遊べそうな相手が出てきたからなぁ。流石は
『それでは、ワシは先に進ませてもらうぞ』
あれ、ここでバトルしないの?
遮蔽物も何もない荒野フィールドだから、やりたい放題できるのに?
「……ああ、今回の戦は勝利条件が拠点攻略だから、そっちを優先するってか」
ドーマに跨ったまま、レオは颯爽とその場を後にした。
『この……スットコ勇者がぁぁぁっ!!』
『のわぁぁぁっ!?』
『おおっと、仲間割れか?そしてこの勇者、意外とアホかーっ?』
……ところで、あっちで勇者が宙を舞ってるんだが、何があったんだ?
進撃を阻止しようと奮闘するビスコッティ側の兵士達を鮮やかに吹き飛ばしつつ、レオが往く。
そのまま最終防衛ライン手前の《すべすべ床のすり鉢エリア》まで来てしまう。
「……やむなし、か」
今回はガレットに勝ってもらっちゃ困るからな。
溜息を吐いて、俺は戦場に出て行こうと――
『『させるかぁーっ!!』』
「……おろ?」
どうやら勇者と親衛隊長が間に合ったらしい。
俺は浮かせていた腰を再び下ろして観戦に戻る。
「あー、失敗か……」
2人ですり鉢エリアをドーマで飛び越えようとしたレオを撃ち落とそうと跳んだところまではよかった。
だが、避けられた上に空中で激突→すり鉢の底に落下→レオの紋章砲でダウンとか、カッコ悪過ぎる。
復活した2人が何やら言い合いをしている間に、レオの背中で再び紋章が輝きを放った。
『獅子王、炎陣……』
「……おおぅ。レオのヤツ、容赦ねぇな。」
ほれほれ、そこのお2人さん。ケンカなんてしてないで、さっさと逃げないとゲームセットだぞ?
『大爆破ッ!』
――チュドォォンッ!!
敵も味方も盛大に巻き込んでの大爆発。レオの極大威力の紋章砲『獅子王炎陣大爆破』は、相変わらずえげつなかった。
「さて、勇者と親衛隊長は……お、発見」
2人は空に逃げたようで、絶賛自由落下の最中だった。
「あ、勇者が蹴り飛ばされた」
加速のついた勇者が猛烈な勢いで落ちてくる。
――ガキィン!
そのまま下で待ち受けていたレオと激突。(正確には武器同士が、だが)
鍔迫り合いをしている隙に親衛隊長が着地。同時にレオを挟んで対角線上に勇者も離脱。
今度こそ、と2人でレオに打ってかかり……あ、剣と盾が砕けた。
続く一撃でレオの鎧まで破壊。
あのー、レオ様?貴女、どうしてそこでセクシーポーズなどしてやがりますか?
何々?これ以上はサービスが過ぎるから降参する……って、
「え、ウソ!?マジで!?」
笑いながら帰ってったよ、あの人。
……俺も帰ろうかな。うん、そうしよう。
余談だが、本日の中継で親衛隊長がオイシイ映像を提供していたらしい。……後でチェック、と。