俺は久しぶりの勝利に活気づく市場を1人で歩いていた。
「おっちゃん、串焼き1つ」
「まいど!」
――両手一杯にあちこちの出店で買った食べ物や飲み物を抱えながら。
ちなみに、ここはフィリアンノ城下に広がる町の中。
どうして俺がこんなところにいるかというと、事の発端は少し前に遡る。
《回想》
「……は?姫ちゃんの傍にいろ、だって?」
『うむ。今の時点では、それがワシに取れる最善の手じゃからな』
「いやいや、いきなり何を――」
『任せたぞ』
――プツッ
「お、おい!」
――ツー、ツー
「……マジで切りやがった」
レオのヤツ、いきなり通信入れてきたかと思えば、何の説明もなしに用件だけ伝えてハイ、さようなら、とかヒドくね?
「はぁ、まったく……」
俺は溜息を1つ吐くと、ガシガシと頭を掻いた。
「やってやろうじゃないの」
《回想・了》
そんなわけで、フィリアンノ城へ登城する為だったりする。
とは言っても、恐らく今は戦勝イベント(姫ちゃんのコンサート)の準備で忙しくしているだろうから、適当に時間を潰しているって寸法だ。
ちなみに、開始数分で売り切れた今日のコンサートのチケットは確保してある。もちろん、一番いい席だ。
「おい、広場で何かやってるらしいぞ」
「へぇ、なんだろうな」
「とにかく行ってみようぜ」
食料を消費しつつブラブラしていると、何やら周囲が騒がしくなってきていた。
人の波が市場を抜けた先にある広場の方向へと流れている。
「どうせまだしばらくは暇だし、行ってみるか」
――ざわ、ざわ
さて広場には着いたが、いったい何が――
『つまり大陸協定に基づいて、要人誘拐奪還戦を開催させていただきたく思います』
黒装束の猫耳が台本を棒読みしているかのような口調で宣言する。
そこで映像が切り替わり、どこかの砦の様子が中継される。
『こちらの兵力は200。ガウル様直下の精鋭部隊』
城内に整列した兵士と、青いマントの少年の後姿が映った。
『そしてガウル様は勇者様との一騎打ちをご所望です』
『勇者様が断ったら、姫様がどうなるか』
画面に先程の猫耳と共にウサギ耳と虎耳の少女が映る。
虎耳の少女の挑発的な台詞に併せるように動いたカメラの先には、赤い服を着た何者かが立っていた。
『受けてたつに決まってる!』
それは、短い金髪に青い瞳の少年だった。
『僕は姫様に呼んでもらった、ビスコッティの勇者シンクだ!』
彼は拳を握り締め、払い、力強く宣言した。
『どこの誰とだって、戦ってやる!』
堂々とした彼の姿は、まさに勇者と呼ぶに相応しいものだった。
『『『わああぁぁっ!!』』』
瞬間、広場に集まっていた人達が歓声をあげる。
あちこちから勇者を褒め称える声が聞こえてくるが、俺はそれどころじゃなかった。
広場に着いたときにチラッと時計を見たが、姫ちゃんのコンサートまではあと1刻半。
映像に出ていた砦は、恐らく今もガレット軍が占拠しているミオン砦で間違いないだろう。
そして、砦で待っているのはレオの弟でガレットの王子であるガウル殿下と配下の精鋭200人。
………………うん。まぁ、あれだ。
「あんの……アホ勇者ぁぁぁっ!!」
状況を整理して結論が出た瞬間、俺はあらん限りの声で叫んでいた。
あと1刻半でミオン砦まで往復の奪還戦だと!?バカだろ、アイツ!?
しかも先程のやりとりが宣戦受理ってことで、公式の『戦』として成立してしまっていた。
「ちぃっ!まったく、世話の焼ける!」
俺は舌打ちして毒づきながら、人波に逆らうようにして広場を後にした。
先回りして付近の高台から砦の様子を覗く。
「城門前に展開した弓兵&歩兵混成部隊と内部に歩兵部隊……っと、やっぱりゴドウィン将軍もいるな」
まぁ、あの人はガウル殿下の直属だから、いない方が逆に不自然なわけで。
「この感じだと、門を突破してからが本番って感じだな」
『『うおおおぉぉぉっ!!』』
おっと、どうやらビスコッティの先駆けが来たようだ。
……ふむ、勇者と親衛隊長か。まぁ、当然の人選だな。
となれば、俺がまず始めにすべきは――
「アイツらの進む道、開けてもらうぞ!」
行く手を阻む邪魔な障害を消し飛ばすこと!
「雷符『轟雷烈破』!」
――ズガァァンッ!
『『『ぎゃあぁぁぁっ!?』』』
――ポンッ、ポンッ、ポンッ
突然空から落ちてきた雷に撃たれてオーバーキルとなり、次々にだま化していく兵士達。
『な、なんか雷落ちてきたよ!?大丈夫!?』
『ん?何か転がって……って、ねこだま?……おい勇者、どうやら我々には他にも協力者がいるらしい。このまま砦に乗り込むぞ!』
『え?そうなの?う~ん……ま、いっか。了解!思いっきり暴れるよ!』
キレイに掃除された門前を駆け抜けて、勇者と親衛隊長が砦内に突撃していった。
『あう~、自分の出番がなくなったであります~(涙)』
どこかでチビッ子主席殿がしょんぼりしているような気がした。……きっと気のせいだろう。
「さて、この後は――」
――ガサガサッ
「!?」
ヤベ、誰か来た!?
俺は慌ててその場を離脱して身を隠した。
―Side Out
―Side ???
「おや、誰もいないでござるな」
「はい。ここに人がいたことは間違いなさそうですが……」
森を抜けた私とお館様は、誰もいない高台の上に出ていた。
ビスコッティへの帰路の途中で行われていた戦に故あって参戦することになった矢先に、
「何やら懐かしい気配を感じるでござる」
と言って森へ入ってしまったお館様を追ってきた結果が今の状況だった。
「お館様、先程おっしゃっていた“懐かしい気配”というのはいったい?」
「拙者の古馴染みの気配によく似ていたのでござるよ」
「そうだったのですか」
お館様の古い知り合い。果たしてどんな人なのだろう。
「まぁ、いないのであれば長居は無用。気を取り直して戦場へ参るとしようか、ユキカゼ」
「はい、お館様」
そうして私達はその場を離れ、戦場である砦へと急ぎ向かうのだった。
―Side Out
――ガサッ
「ふぅ……危ないところだったぜ」
2人の姿が完全に見えなくなったのを確認して、俺は隠れていた茂みから出て来る。
「しかし、誰かと思えばアイツだったのか」
少し前に聞いた話では諸国を巡る旅に出たということだったが、同じタイミングで戻っていたとは少々予想外だった。
「それに、アイツの隣にいたあの娘は……まさか、な」
自分のよく
かなり気にはなるが、とりあえず今は脇に置いておくことにする。
「戦の方はアイツがいればもう大丈夫だろう」
一応『大陸最強の剣士』って呼ばれている人物ではあるし。
「後は問題があるとすれば姫ちゃんだけど……って、そうだ」
時間はまだありそうだし、今から会いに行こう。
「よし、そうと決まれば実行あるのみ!」
俺は気配を消しつつ、砦の中へと潜入を試みた。
―Side Out