―Side ミルヒオーレ
――コン
ガウル殿下が部屋を後にしてから、またバノンの子供達と遊んでいた時、窓の方で小さな物音がしました。
「……?何でしょう?」
不思議に思って首を傾げていると、
――コン
今度ははっきりと聞こえました。窓に何かが当たったような音でした。
少し気味悪く感じましたが、とにかく様子を見てみようと窓へ近づいていったところ、
――キィ
突然そのうちの1つが勝手に開いて、
「こんばんは~」
男性が1人、部屋の中へと入ってきました。
「えぇっと、あのぅ、どちら様でしょうか……?」
「いやいやいや、この場合その反応はおかしいだろう!?」
「はぅっ!?すみません……」
かと思えば、その人にいきなりツッコミを入れられてしまいました。
「まぁ、最後に会ったのはかれこれ10年くらい前だから忘れられてるかもなぁ、とは思ってたけど……」
男性は苦笑いを浮かべて一度言葉を切ると、
「久しぶりだね、姫ちゃん」
そう言って今度は明るい笑顔を見せてくれました。
彼の言葉を聞いて、私は目の前にいるのが誰なのかを思い出しました。
「その呼び方……もしかしてオウカ、オウカ・フローネイトですか!?」
「正解。思い出してくれたようで何より」
うんうん、と頷いて彼が私の答えを肯定してくれます。
「うわぁ、本当にお久しぶりです。今まではどちらにいらしたんですか?」
「あぁ、諸国を巡って気ままな1人旅をしてたよ」
「なるほど。……ところで、どうしてここに?」
「実は、しばらくビスコッティで世話になろうかと思って。姫ちゃんに挨拶しに来たんだ」
「挨拶に、ってその……外は戦の最中だったと思うのですが……?」
「うん、知ってる。だからこっそり潜入してきたんだけど」
「あ、あはは……」
昔と変わっていない彼に、私は苦笑するしかありませんでした。
ちょうどその時、
――ズガァァン
砦を震わせるような、一際大きな音が聞こえてきました。
「な、なんでしょう?」
「えーっと……あ、こりゃまずい。レオが来たみたいだ」
部屋で放映されている戦の中継を見て、オウカが顔を顰めました。
「えっ!?レオ様が?」
「大方、勝手な戦を始めた
そのままブツブツと何かを呟きながら、オウカは考え事を始めてしまいました。
「よし!」
と思えば、すぐに顔を上げて、
「ごめん、姫ちゃん。今日のところはこれで帰るよ。詳しい話は明日城でするから」
「え、えっ!?」
矢継ぎ早にそれだけを喋ると部屋を去ろうとします。
あまりに自然で素早い彼の行動に、私はただ翻弄されるばかり。
「……あ、忘れるところだった。姫ちゃん、君にコレをあげよう」
「あ、ありがとうございます……」
窓に足をかけたところで何かを思い出したのか、オウカは私の下へ戻ってくると1枚の紙を手渡してきました。
「一応、姫ちゃんのことは勇者くんが何とかしてくれると期待してるけど、コレは万が一の保険ってことで。コンサートにどうしても間に合わないって時に使ってね」
「あの、これはいったい……?」
「それは転移の術式を編み込んだ護符だよ。輝力を流して、行きたい場所を思い浮かべれば発動するから」
「あの、本当にいただいてしまってもいいのですか?」
「他ならぬ姫ちゃんの為だからね。コレくらいならお安いご用さ」
そんな風に言ってくれるから、困った時にはつい貴方に頼りたくなってしまうというのに。
「わかりました。それでは、もしもの時には遠慮なく使わせていただきます」
「そうしてくれ。それじゃ……」
今度こそ用件は全て済んだ、とオウカが窓へ歩み寄ります。
「明日、お城に来てくださるんですよね?」
「ああ。午前中からお邪魔しても平気かな?」
「はい。お待ちしています」
「この後のコンサートも頑張ってな。俺も会場で聞いてるから」
「はい!楽しみに待っていて下さい!」
私の最後の言葉に頷きで返すと、彼は音も立てずに部屋を飛び出し、そのまま闇の中へと姿を消してしまいます。
「きっと、素敵な歌をお届けしますから……」
1人残された私は、誰にともなくそう呟いていました。
―Side Out