久しぶりに開催された姫ちゃんのコンサートの熱気が覚めやらぬまま、迎えた翌日。
今のでおわかりと思うが、あの後姫ちゃんは無事に間に合い、コンサートはつつがなく開催された。
転移術式の発動が確認されなかったので、どうやら勇者くんが頑張ってくれた模様。
「うーん、ここに来るのも本当に久しぶりだ」
俺は今、フィリアンノ城内にある来客用の応接室にいる。
昨夜の予告通り、姫ちゃんに会いに来たのだ。
どうやら昨夜のうちに姫ちゃんから各所に通達がなされていたようで、俺は城に着くとここまですんなり通されていた。
「すいません。お茶のおかわりをいただけますか?」
「はい、ただいま」
部屋に待機しているメイドさんに何度目かのおかわりを注文したところで、
――コンコン
「お客様、謁見の間までお越し下さい。姫様がお待ちです」
ようやくお呼びがかかった。
「それじゃ、行くとしますか。お茶、どうもでした。美味しかったです」
「ありがとうございます。それでは、いってらっしゃいませ」
「はい」
部屋を出たところで待っていたメイドさんに連れられて、謁見の間へ。
「中で姫様がお待ちです。どうぞお進み下さい」
扉の前まで来ると、案内役のメイドさんはそれだけ言って立ち去ってしまった。
他に人影のなくなった廊下で、深呼吸を1回。
「すぅ…はぁ……よし」
――ギィィ
俺は目の前の扉を開いて中へと足を踏み入れた。
広い空間の突き当たりに玉座があり、そこに目的の人物が座っているのを確認。
しかし、
「(他にも人がいるとか、聞いてねぇ……)」
玉座の手前、まるで俺の行く手を遮るかのように8つの人影が横一列に並んでいた。
「(しかもほぼ全員俺と面識があるじゃん!)」
それぞれの表情を見れば、左から順に、ニコニコ、苦々しげ、目が笑ってない、怒ってる、困惑、誰あれ?、ニヤニヤ、驚きと――
「お兄ちゃん!」
――タッ
『『『お兄ちゃん!?』』』
「へ?」
一番右にいた少女が、目に涙を浮かべながら俺に向かって飛び込んできた。
「会いたかった……会いたかったよ、お兄ちゃん!」
「え、えっと……?」
『『『………………』』』
いきなりの出来事に困惑する俺+その他8……いや、1人だけ笑いを堪えてるヤツがいた。
「ヒナ、お前後で覚えとけよ」
「そんなっ!?」
その約1名にはとりあえず報復を誓いつつ、俺は飛び込んできた少女に改めて目を向けた。
俺のことを『お兄ちゃん』と呼んだ少女。
そう呼ばれるような関係にあった人物に、俺はたった1人だけ心当たりがあった。
「お前……ユキ、なのか……?」
「うん、そうだよ。お兄ちゃん」
俺の問い掛けに、少女は涙を拭いながら頷いた。
今は遠い昔のこと。流れの身だった俺を迎えてくれた夫婦がいた。
彼らには「ユキカゼ」という名の娘がいて、俺達は実の兄妹のように仲良くなった。
あの『悲劇』が起きるまでは。
あの後、各地を放浪していた目的の1つは、離れ離れになった彼女を探すことだった。
しかし、どこでも手掛かりを得ることは出来ず、半ば再会を諦めていたのだが――
「そっか……大きくなったな、ユキ」
「うん、うん……」
ここでこうして再び巡り会えた。この幸運に、今は心から感謝したい。
「え、えっと…………コホン!」
「「っ!?」」
わざとらしい咳払いが場の静寂を破り、そこでようやく俺達は周囲の状況を認識した。
『『『………………』』』
「あ、あの、これはえっと、その、だから……」
皆の視線に耐えられなくなったユキが、あたふたし始める。
「あー、まぁ、簡単に事情を説明すると―かくかくしかじか―という感じだ」
仕方なく、彼女の代わりに俺が話をして皆には納得してもらうことに。
「あの~」
事情の説明が終わったところで、1人が挙手した。勇者くんだ。
「何かな?」
「えっと、その……結局、貴方は誰なのかなぁ、と思ったんですが……」
……そういえば、まだ名乗ってなかったか。
「これは失礼。……コホン、では改めて自己紹介を。俺の名前はオウカ。オウカ・フローネイトだ。年は18」
『『『(はい、ダウト)』』』
何やら一斉にツッコまれたような気が。
「今日から
『『『……え?』』』
「ついでにネタ晴らししておくと、白ローブの軍師ってアレ、俺のことだから」
『『『えええぇぇぇぇっ!?』』』
皆の想定以上の驚きように満足しつつ、俺は話を先に進める。
「差しあたっては明日からの仕事が欲しいんだけど、何かないか?」
「では、騎士団に力を貸してはもらえないだろうか。皆に稽古をつけてやってほしいのだが」
いち早く声をあげたのは騎士団長のロランだった。
「ふむ……」
先の戦で2連敗を喫したガレットの連中は一旦自国へ引き揚げたものの、次への準備はしておいて損はないか。
「わかった。協力しよう」
「あのー、すみません。私からもいいですか?」
と、今度は玉座に座る彼女から声が掛かった。
「もちろんだ。何でも言ってくれ」
「内務のお手伝いをお願いしたいのですが、よろしいですか?」
「姫ちゃんのお願いなら、喜んで」
『『『……イラッ』』』
芝居がかった調子で一礼してみせる。
約3名のこめかみがピクピクしていたが、そこは華麗にスルー。
「オウカ様、学術院にも来てほしいのであります!」
「ん?君は確か……」
「自分は学術院で主席研究士をしているリコッタ・エルマールであります!」
「やっぱり。君がかの有名な『発明王』だね?」
「『輝力運用学の祖』に知っていただけているなんて、光栄であります!」
「オーケー、リコちゃん。時間があるときには顔を出そう」
「ありがとうございます!」
パタパタと大きく尻尾を振って本当に嬉しそうだ。
「勇者のお守りを――」
「だが断る。はい、次の人ー」
「せめて最後まで言わせろ!」
「いいけど、返事は変わらんからな」
「くっ……どうして私は扱いがぞんざいなんだ!」
「だって、エクレールはイジると楽しいから」
「そこへなおれ!その性根、今度こそ叩き直して――」
「だが断る」
「うがぁぁぁっ!」
うん、いい感じに壊れたね。相変わらず真面目ちゃんだ。
「さて、後は……まずヒナ!」
「ここでその名を呼ばれるのは、少々恥ずかしいのでござるよ……」
「知らん。お前、明日は暇か?暇だよな?暇って言え」
「さらっと脅迫してるでござるよ。まぁ、これといって予定はござらんが……」
「よし、じゃあ模擬戦に付き合え。これ、決定事項」
「……拙者、やはり明日は用事があったでござる」
「もう遅い」
ズーン、と明らかに気落ちした様子のヒナ。そんなに俺と戦うのはイヤか?
「それから、勇者くん」
「は、はい。何でしょう?」
「確か名前はシンク・イズミ、で合ってたかな?」
「はい。合ってます」
「じゃあこれからはシンクと呼ばせてもらうよ。俺のことはオウカでいい。それと、敬語もいらないから」
「うん、了解。よろしく、オウカ」
2人で握手を交わす。シンクはノリがいいから、気が合いそうだ。
「で、だ。シンクには
「もちろん。代わりにオウカには
「ああ、いいぜ。交渉成立だな」
「うん」
そう言って2人で笑う。俺達はずっと前から友人同士だったみたいに通じ合っていた。
「最後にユキ」
「何でござるか?」
「うん。まずはその『ござる口調』禁止な」
「ど、どうして!?」
「ヒナに憧れて真似してるんだろうが、俺としては違和感がハンパない」
「そ、そんなぁ……」
俺に指摘されて、露骨に落ち込むユキ。そんなに気に入ってたのか。
「まぁ、俺が昔みたいなユキの方が好きってだけなんだけどな」
「わかった。じゃあ私、昔の喋り方に戻す」
『『『(心変わり早っ!?)』』』
「お、おう……」
別に今のユキを否定したわけじゃなかったんだが、よかったのだろうか?
……まぁ、本人が戻すって言ってるんだし、気にし過ぎるのもよくないか。
「で、次。さっき言い忘れてたんだが……『ただいま』、ユキ」
「っ!……『おかえりなさい』、お兄ちゃん」
「『あれ』からずっとあちこちを探して回ったんだが、結局今の今まで見つけられなかった。ごめんな」
「ううん。今日こうして会えたし、お兄ちゃんも無事だったからいいよ」
「そっか」
「うん」
短い言葉のやりとりだったが、お互いの気持ちはちゃんと伝わっていた。
「そういえば、今は風月庵で暮らしてるのか?」
「そうだけど?」
「ユキさえよければ、また一緒に暮らさないか?」
「うん!私、お兄ちゃんと一緒がいい!」
『『『(即答!?)』』』
今回は皆の心の声が聞こえた。
「ただし、明日からだけどな」
「うん……ん?」
「いや、掃除とかしないといけないし」
『『『……は?』』』
シンク以外の全員が驚きの声をあげていた。
「オウカ、ビスコッティにお家があったんですか?」
『『『コクコク』』』
姫ちゃんが皆を代表して質問してきたので、素直に答えることにする。
「ああ。風月庵のすぐ近くに」
「なんと!?」
「まぁ、簡単には見つからないように今まで隠してたからな」
「そうでござったか……」
風月庵の主であるヒナは、明かされた事実に驚きを隠せない様子。
「で、今日の寝床なんだけど……姫ちゃん、城に泊めてくれないか?」
「いいですよ。メイド隊の皆さんにお部屋の準備をしてもらいますね」
「助かる」
「それじゃあ、私も――」
「ユキは明日の引越しの荷造りをしておくこと」
「……はーい」
やや不満げな様子のユキだったが、ここは譲れないところだ。
「今日1日くらいは我慢してくれ。その代わり、明日からは一緒だから」
「……わかった。我慢する」
「よしよし、いい子だ」
ワシワシと少し乱暴にユキの頭を撫でる。
「えへへ……」
「こうしてやるのも久しぶりだな」
「うん!」
先程の不機嫌が嘘だったかのようにご機嫌なユキ。
「それじゃ、今日はこれで解散!」
「おー!!」
『『『お、おー……?』』』
約1名を除いて、イマイチ気合の入らない返事だった。