DOG DAYS 土地神軍師奔走譚 ※凍結   作:天御柱

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EPISODE:08

――トントントントン

 

 

あれから皆でユキの引越しを手伝い、それが終わる頃にはすっかり日も暮れていた。

 

そんなところで誰か(あえて名前は伏せよう)の腹の虫が鳴れば、

 

「今日はここで食べていってもいいですか?」

 

という方向に話が進むのは、自然な流れと言えなくもない。

 

ここまでは、まぁ特に文句もないので、俺としても了承するのは吝かではなかった。

 

しかし、ここで1つ問題が発生した。

 

今日この場に集まったメンバーが、

 

姫ちゃん → 料理経験なし

 

リコちゃん → 実験の薬品調合なら完璧

 

エクレール → 野外料理ならそれなり

 

ヒナ → やればできないこともない(面倒くさい)

 

シンク → 目玉焼きくらいなら……

 

ユキ → 一通りの調理技術はマスター済み

 

俺 → 自炊生活だったので、料理には自信アリ

 

とくれば――

 

「ま、こうなるわけだ」

 

「私はお兄ちゃんと料理ができて嬉しいよ?」

 

「そこは俺も否定しない」

 

「えへへ……」

 

我が家の台所では、俺とユキが2人で夕飯を作っていた。

 

「でも、これからは毎日こうしていられるんだよね?」

 

「ああ。ユキを見つけるって目的は果たせたし、ここらで根を下ろすのも悪くないかなと思ってる」

 

「そっか。うん、よかった」

 

安心したように柔らかく笑うユキ。この笑顔は失いたくないよな。

 

「ユキはどうなんだ?」

 

「うーん……わかんない」

 

「ヒナの『お役目』次第ってところか」

 

「うん……ん?お兄ちゃん、知ってるの?」

 

驚いた顔をして、ユキが問い掛けてくる。

 

「本人から話を聞いたことがあるからな」

 

「そうなんだ。……そういえば、お館様も古馴染みって言ってたっけ」

 

「かなり前の話だけど、一緒に行動してた時期があったんだよ」

 

「ふーん……」

 

何か考え事をしているのか、ユキはそれきり黙ってしまった。

 

 

――グツグツ

 

 

――ジュージュー

 

 

料理の音だけが聞こえる中、

 

「「……………………」」

 

俺達は何を喋るでもなく、手だけを動かし続けた。

 

しばらくして、

 

「よし、完成っと」「うん、できた」

 

料理の完成を告げる俺とユキの声がハモった。

 

「ナイスタイミングだな」

 

「お兄ちゃんこそ」

 

そんな何でもないことで笑いあう俺達。

 

と、そこに横から声が飛んでくる。

 

「オウカー、もうお腹ペコペコだよー」

 

「自分もでありますー」

 

空腹の限界を訴えているのは、シンクとリコちゃん。

 

「お2人が仲良しなのは、とてもよくわかりましたが……」

 

「まるで長年連れ添った夫婦のようでござったなぁ」

 

「まったく、見せつけられるこちらの身にもなってほしいものだ」

 

姫ちゃんはちょっと困ったように、ヒナは面白そうに、エクレールは呆れた様子で、こちらを見ていた。

 

「うっ……」

 

「あぅ……」

 

3人の言葉に思わず視線を逸らす俺と、真っ赤になって俯くユキ。

 

「オウカー」「ユッキー」

 

「お、おう、待たせたな!今持っていくから!」

 

「す、すぐに用意するね!」

 

シンクとリコちゃんの訴えにこれ幸いと乗っかり、強引に仕切り直す俺達。

 

完成した料理を、次々に皆の待つ居間へと運んでいく。

 

『『『おおーっ!!』』』

 

全ての料理が食卓に並ぶと、待っていた皆から感嘆の声が上がる。

 

「ご馳走だ!」

 

「とっても豪華なのであります!」

 

「美味しそうですね」

 

「はい。見ているだけで食欲を刺激されます」

 

「これは酒が欲しくなるでござるなぁ」

 

とりあえず、見た目からは高評価をもらえた模様。

 

「せっかく人が集まってるからな。秘蔵の酒を出してやろう。飲みたいヤツは?」

 

「当然、いただくでござるよ」

 

「私もいただいていいですか?」

 

「お兄ちゃん、私も飲む!」

 

ヒナは当然として、ユキも想定内。姫ちゃんは……まぁ、いいか。

 

「オッケー。シンクとリコちゃん、エクレールは?」

 

「いやぁ、まだ年齢的にお酒はちょっと……」

 

「自分も今日はいいであります」

 

「姫様が飲まれるのなら、送る人間が飲んではマズイだろう?」

 

「了解。なら、3人は果実ジュースでいいか」

 

全員分の注文を取り、蔵から目当てのものを出してくる。

 

「飲み物は行き渡ったか?」

 

『『『はーい!』』』

 

「それじゃ、乾杯!」

 

『『『乾杯!!』』』

 

そうして、小さな宴が始まった。

 

「うわっ!これ美味しい!」

 

「こっちも美味しいでありますよ、勇者様!」

 

「どれどれ……ホントだ!」

 

ご飯片手に色とりどりのおかずに箸を伸ばしているのは、シンクとリコちゃん。

 

「美味しいお料理に美味しいお酒。幸せですね~」

 

「姫様。明日も公務がありますから、程々でお願いしますね?」

 

「大丈夫ですよ~、エクレール」

 

「……既に酔っていらっしゃいますね、姫様」

 

ほんのり頬を朱に染めて、いつも以上にぽわぽわしている姫ちゃんと、それを見て溜息を吐いているエクレール。

 

「ささ、お館様」

 

「おお、すまぬでござるなぁ」

 

「いえいえ。あ、お兄ちゃん!またなくなっちゃったんだけど……」

 

「あー、はいはい。持ってくからちょっと待ってろ」

 

まるで水を飲んでいるかの如く酒を飲み干していくヒナと、その相手をしているユキ、そして酒を用意する俺。

 

「……何かが間違っている気がする」

 

「オウカー、酒ー!」

 

「黙れ、酔っ払い!」

 

蔵から出してきた酒樽も、既に半分がなくなっていた。

 

「少しは遠慮しろってんだ」

 

新しく作った燗を持って食卓に戻る。

 

「美味い肴があって、美味い酒がある。これで飲まないのは、罰当たりでござるよ」

 

「そうかい。ほれ、注いでやるよ」

 

「これはかたじけない」

 

ヒナに酒を注ぎながら、俺は聞きたかったことを尋ねる。

 

「ヒナ、お前いつユキを拾った?」

 

「ん~、いつでござったかなぁ……」

 

「まさかとは思うが、アイツら(・・・・)とつるんでた頃じゃないよな?」

 

「そういえば、お主が拙者達と別れてから割合すぐの頃だったような……?」

 

「マジで!?」

 

「うむ、思い出した。間違いないでござるよ」

 

「うあー、あの頃の俺のバカ……」

 

思わず頭を抱えてその場に蹲る俺。

 

「まぁ、こうして再び出会えたのだからよかったではござらんか」

 

「……そうだな」

 

「(ユキカゼから『兄』の話を聞いた時に、お主に連絡することも考えなかったわけではないでござるが、な)」

 

「おい、何か言ったか?」

 

「何でもないでござるよ」

 

何か重大な真実を隠されたような気もするが、まぁいいか。

 

 

 

 

 

そんなこんなで宴も終わり、それぞれが帰路に着いた後。

 

「……静かだな」

 

「……うん」

 

月明かりの差す縁側で、互いの肩が触れるか触れないかの距離に並んで座る俺とユキ。

 

「ユキ。改めて、今まで見つけられなくてすまなかったな」

 

「ううん。もう謝らないで、お兄ちゃん」

 

ユキは首を振ると、俺の手を取って自らの両手で包んだ。

 

「こうしてまた会えた。それだけで私は嬉しかったから」

 

「そっか」

 

そうして、しばし静寂が訪れる。

 

互いの存在を感じながら、穏やかな時間が流れていく。

 

「……そういえば、これも言い忘れてたんだが」

 

「ん?」

 

「綺麗になったな、ユキ」

 

「……ふえっ!?なっ、え、えぇっ!?」

 

何の脈絡もなく発せられた俺の言葉に、ユキが顔を真っ赤にして慌てふためく。

 

「いや、これは別にお世辞じゃないぞ?本心からそう思ってる」

 

「あぅあぅ……」

 

「昔の可愛かったユキを知ってるだけに、感慨も一入って――」

 

「す、ストップ!ストーップ!」

 

俺の言葉を遮るように静止を叫ぶユキ。

 

「お兄ちゃん、それ以上のコメントは禁止!私、もう寝るから!おやすみなさい!」

 

「おう、おやすみ」

 

 

――ガタッ、パタパタ……

 

 

「……やれやれ、ちょいと性急過ぎたか」

 

慌しく縁側から去るユキを見送りながら、頭を掻く。

 

「まぁ、脈はある、かな?」

 

視界から遠ざかっていくユキの後ろ姿。

 

その中で大きく揺れる尻尾を見ながら、俺は呟くのだった。

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