なろう系と呼ぶには、冒涜的すぎる   作:おさわHSM

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主人公が調子乗ってるので最終回です


十二話・無双って楽しいよね

俺は海風に晒されながら、ポケットの中の印をぎゅっと握りしめた。掌に伝わる冷たさが、今はやけに生々しい。周囲の暗闇がざわつくのを感じて、俺は一声だけ低く吐いた。

 

「茶番は終わりにするか」

 

空気が一瞬歪んで、居場所の概念が引き伸ばされるような感覚が来た。次の瞬間、家の中で見慣れた顔ぶれが、まるで約束どおりの時間に現れたかのように潮風の向こうに揃っていた。ベルゼブブは相変わらず俺の隣に立ち、ユウゴは変な銃と装備を携えて仁王立ち。ロイノスは背中の羽を震わせ、ブレージュは紅茶の杯を持ったまま、ロウドはその緩慢な動きで存在感を示している。グロスは例によって別の姿で現れて、すぐにこっちに気づいて変わった。

 

「随分計画とは違うんですね?」ユウゴが呟く。返事は要らない。こいつらは理解してる。俺が何をするつもりかを。

 

俺は印を取り出して、皆の方へと視線を走らせた。

「聞け。今、俺がこの印に魔力を流せば――お前らがここにいるのも、祭壇で騒いでた連中が自ら刻んだ印に反応してるのも関係ない。全員、焼け焦げる。生きてるやつなんか、ひとりも残らない」

 

言葉を投げつけると、空気が一瞬止まった。奉仕種族たちは表情を変えないが、微かな動揺が指先の震えに現れる。誰もが分かっている。俺の印は「加速」と「消去」を同時に行える。対象が多ければ多いほど、燃え方は残酷になる。

 

インスマスの混血は目を伏せ、口元が震えている。こいつは一瞬、何かを言おうとしたが、俺が先に続ける。

 

「つまりお前の努力は無駄なんだよ。お前は、自分を殺すとしてた奴を助けようとしたんだ。本当にバカだな」

 

言葉は冷たく、吐き捨てるように重い。海の向こうの波音がそれをかき消す。ベルゼブブは、醜悪な笑みをにやにやと浮かべている。 ブレージュの紅茶の杯が震える。ユウゴは顔を少し逸らして、グロスはぽかんと、ロウドは呆れたような顔を、ロイノスが首をかしげ、いつもの「?」が浮かんでいる。

 

インスマスの混血種が震える声でぽつりと言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――そうなんですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しぬのがわたしだけで...よかったです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その言葉が、俺の胸の中で何かを揺らした。吐き捨てたはずの笑顔が、ひび割れる。助かったことを喜ぶ、純粋で幼い声だ。それは、自分を逃がした側の、期待しない感謝の形だった。俺は一瞬、世界がとても遠くなるのを感じた。

 

 

「……」

俺の中で、刃と人間性がぶつかる。理屈の自分は冷酷に締め上げを選べばいいと言う。だが、どこかで小さな声が囁く──お前は本当に、全員灰にするつもりか、と。

 

揺れ動く理性が脳を刺激し、風が俺の顔を撫でる。海は無慈悲に広がっている。決断はまだ、指先の熱を確かめるだけで下せる状態だ。だが、インスマスの混血種の一言が、確実に俺の内側に小さな揺らぎを作った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

インスマスの混血種の声が、ほとんど震えた囁きみたいに漏れた。

 

「ごはん、はじめてあんなにたべられました。うれしかった…です」

 

 

 

 

言葉の切れ方がくぐもってて聞き取りにくい。だけど意味は伝わった。――あいつにとって、あの魚だの湿ったパンだのが「初めて大事にされた瞬間」だったんだ。ちっぽけで、でも確かな何かがそこにある。

 

胸の中の刃が一瞬だけ痙攣した。理性の自分は「印を流せば一網打尽で片付く」と冷たく計算していた。環境美化だ、合理的だ、とかクソみたいな理由で自分を納得させてた。でも、その言葉──しょぼくて下手くそな「うれしかった」という一語が、なんか深く刺さった。

 

俺はポケットの中の印に、もう一度だけ視線を落とした。冷たい金属と紋様。これを動かせば、全部終わる。安楽だ。合理的だ。楽だ。だが同時に、俺が一番嫌いな「簡単な答え」でもある。

 

掌で印をぎゅっと握りしめる。魔力が微かに指先を疼かせるのを感じる。その熱が、今までの殺意を呼び戻しもする。だが同時に、俺の内側で別の感情が膨れ上がる──守る、というよりは、面倒くさいから放っておけない、みたいな不器用な優しさだ。

 

一呼吸置いて、印を掌の上でひらりと放った。音はしない。砂のように冷たい紋様が地面に転がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「要らん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

短く言った。ユウゴの目が一瞬だけ鋭くなる。ロイノスは羽を震わせ、ブレージュの表情がほんの僅かに固まる。ベルゼブブはつまらなさそうに、ロウドは黙ってこっちを見ている。グロスは知ってるって顔、誰も止めようとしない。実行するべきかって? 考える余地はあったが、もう答えは出てた。

 

印を温めて一撃で焼き尽くすのは簡単だ。だがそれは――俺が望んでる答えじゃない。

 

「おい、インスマスの混血種。名前は?」

 

「なまえ...わかんない」

 

「ならお前の事はエイって呼ぶ。深江 エイだ」

 

「エイ...」

 

「死にたくなければ下がれ。返事は要らん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神話生物は嫌い。

 

それは変わらない。見るだけで吐き気がするし、殺したくなる。それに組みする魔術師や協力者には反吐が出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だけど

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「人間の情まで捨てた訳じゃない」

俺はコルヴァスの剣を握り直し、比叡山炎上の構えを取る。昔の武人の動きを体に流し込み、体が勝手に覚えている一連の流れを呼び出す。胸の奥の痛みも恐怖も、全部刃の振りに変える。

 

"エイ"が目を見開き、かすかに頷いた。あいつの手がまだ震えてるのを感じる。ユウゴが軽く頷き、 電気銃と外骨格を準備をする。ロウドが触手を伸ばし、自分の体積を広げる。ベルゼブブは少しつまらなさそうに微細振動する剣を取り出し、ブレージュは静かに魔力の流れを整え、ロイノスは上空で音の粒をこしらえ、グロスが拳銃を取り出す。

 

「そもそも、アイン君かっこよく無双プランは元々あったから。当然準備してる」

 

「ネーミングセンス以外はなぁ」

 

 

 

魔術式が一斉に点火された。

比叡山炎上:神速

神域に踏み入れる瞬間のように、世界の時間が少し遅れて感じられる。視界の中で光が伸び、風が止まり、アインの体だけが滑るように動く。

 

ゴルゴロスの肉体湾曲

筋肉が軋み、骨格が軋んで再構築される。人間の限界値を超える強度をもつ“何か”の体へ。血管が赤黒く光り、皮膚の下で肉が蠢く。

「うぇ、相変わらず気持ち悪ぃ感覚だな」

笑いながら、アインは苦痛すら燃料に変えていく。

 

肉体の保護

薄い膜が全身を包み、空気の抵抗すら滑らせる透明の防壁となる。

 

邪眼

黒曜石のような瞳孔が淡く光を放ち、周囲のインスマス達の動きが鈍る。生理的な恐怖反応、あるいは理屈を超えた“拒絶”が敵の神経を縛る。

 

アインの体は、もはや「人間」ではなく、「機能」で出来た武器と化していた。

指を鳴らすと同時に、背後で奉仕種族たちが動く。

 

 

 

「最新開発の武器を試すいい機会ですね」

ユウゴが外骨格の脚部を展開し、銃口を滑らかに回転させる。

「発射準備完了。標的、三十六体」

乾いた電子音が響いた瞬間、雷撃弾が一斉射出。水面が爆ぜ、飛沫の中で魚のような悲鳴が弾ける。

 

 

 

 

 

 

ロイノスは空中で音波を圧縮し、指先の一振りで衝撃波を散弾のように撒き散らす。

「破壊します?お手伝いするでしょう?」

軽い調子とは裏腹に、その一撃は建物の地面とインスマス達を容易く吹き飛ばす。

 

ブレージュの姿が消える。ただ、美しい鮮血が辺りに飛び散る

「あぁ、やはり魚顔の血は不味いですね」

びちゃり。血に濡れた後ろ姿には、血管のような細くて気味の悪い触手が何本も生えていた

 

ベルゼブブはため息混じりに微笑み、指先で微細に超振動する剣を構える。

「はぁ……あの混血種の絶望する顔が見れると思ったのに」

剣がひと振りされるたび、触れたインスマスの体が泡立ち、内部から崩壊していく。

 

ロウドは液状化した体を地面に広げ、黒い水銀のように触手を伸ばした。

「……はい。こっちは終わったぜぇ」

触れたもの全てを呑み込み、溶解させながら進む。

 

グロスは姿を変え、銀髪の狙撃手となって拳銃を構える。

「 ごめんね?君達の動き、全部知ってるんだ」

数発の乾いた銃声。銃弾は風を裂き、逃げる敵の眉間を正確に貫く。

 

そして、中心で指揮を執るアイン。

比叡山炎上の魔力を全身に巡らせ、爆発的な速度で突っ込む。

手にしたコルヴァスの剣が紅く閃き、インスマスの集団を縦に薙ぎ払う。

「はは!どうした!?魚顔共!」

剣が唸りを上げ、魔力の余波が海面を割る。

 

敵の祈祷者が詠唱を開始するが、邪眼の一瞥で言葉を詰まらせ、ロウドの触手に飲まれる。

背後ではユウゴの雷撃とロイノスの音波が重なり、周囲が光と衝撃に満たされる。

 

海上の儀式場は、もはや戦場と化していた。

インスマスの断末魔、砕けた祭壇、そして狂気の旋律。

その中心でアインは、笑っていた。

 

「ははは!次だ!死にたい奴は前に出ろ!」

 

 

そうだよ!俺が求めてたのはこういうものだよ!この前みたいに防御に魔力の9割を割かないと行けないような戦闘じゃなくて、神速とか肉体湾曲とかこう言うバトル物みたいなさぁ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼の声に呼応するように、奉仕種族たちが一斉に動く。

緑の女の人の触手が地を這い、ハエのような人の剣が音速で唸りを上げ、透明化する人の詠唱が空気を歪ませる。

私はその背中を見つめながら、心の奥で何かが燃え上がるのを感じていた。

 

――あぁ、やっぱり、あなたは……。

 

目の前の男の人の動きはもはや人間ではなかった。

比叡山炎上と呼ぶものが発動し、燃え盛る朱の軌跡が海上を走る。

異様な肉体の変容により筋繊維は螺旋を描き、ひと振りで三人の魚顔の化け物が骨ごと砕け散った。

目を合わせた者は、赤く光る眼に囚われて動きを奪われ、次の瞬間には灼けた風に呑まれて消える。

 

「……すごい、すごい……っ!」

私は息を呑んだ。

恐怖でも驚愕でもない。

それは、きっと――崇拝に近いものだった。

 

あの人は、破壊の只中でなお笑っている。

仲間たちを率いて、絶望を踏み潰しながら進んでいく。

それがどれほど歪でも、狂っていようと――。

 

「……アイン、さま......」

思わず漏れた声に、自分でも驚く。

 

"アイン"彼の仲間が、言っていた彼の名前。

胸の奥が痛い。だが目を逸らせない。

 

轟音。

空が裂けた。

 

深海の闇が、海面の底から泡立つように広がっていく。

黒く、重く、鈍い鼓動が響く。

魚顔の化け物の生き残りたちが、祈るように、泣くようにその名を呼んだ。

 

「――我らが父、ダゴンよ……」

 

波間から、巨大な影が姿を現す。

海そのものが盛り上がり、形を得るように蠢く。

腕のような水柱、眼のような光の渦。

見上げるだけで精神が軋む。

 

私が震えながら彼を見る。

しかし彼は――微笑んでいた。

 

「ようやくお出ましか。寝坊だぜ?」

 

彼の掌の中では、印がまだ赤く光を放っていた。

その輝きの奥に、冷たい計算と、確信めいた余裕が宿っている。

 

――そうだ。この人には、秘策がある。

この化け物すらも焼き尽くす、最後の一手が。

 

私はその横顔を見上げながら、心のどこかで理解していた。

この人は、たとえ神すら相手でも――決して怯まない。

 

「  -  -     -    -  -   -     -  - -  -     -  -     -  -  -  -     - -   -  」

 

彼がくぐもったような、人間に出来ないような言葉を紡ぐ。

次の瞬間、彼の手が動いた。指先から流れる光が、空気に触れると――世界が切り裂かれるように、ぽっかりと開いた。

 

光の門。

それは祭壇の狂気とも海の深淵とも違う、純粋に強い光の輪郭を持っていた。中心が蒼く、周縁が赤く振動する。波間の闇に、まるで異なる「穴」が開いたように見えた。門の縁からは微かな歌のような振動が漏れ、髪の先がざわつく。

 

私は思わず一歩、後ろへ下がった。心臓が跳ね、手のひらが冷たくなる。周りの喧騒が急に遠のき、目の前にあるのはただ――彼と、彼が開いた「それ」だけになった。

 

彼は門を見据え、低く、だけど確信に満ちた声で詠唱を始めた。言葉は馴染みのある古い符号めいた響きで、波の音と混ざり合って奇妙な和音を作る。私には全部聞き取れない。だが、ひとつだけ確かなことがあった。あの声には怯えがない。全く、微塵もない

 

「  - -  -  」

 

私はただ、彼の唇の動きを見つめる。胸のなかの恐怖と期待が混ざって、身体の芯が熱くなる。あの門が開いた瞬間、私は理解した。彼はここで「終わらせる」つもりなのだ。もっと正確に言えば、終わらせるための道具を、今、呼んだのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は息を呑んだ。

これが、彼の「秘策」――。

きっと、ここで終わる。そう信じたその瞬間

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...よし!逃げるぞ!」

 

「え、えぇ!?」

 

 

 

 

 

 

あまりに軽い声に、思考が吹っ飛んだ。

彼は満面の笑みで俺の手を掴むと、勢いよく引っ張る。

その顔はまるで、悪戯が成功した子供のようだった。

 

「誰が海上でまともにダゴンとやり合うだバーか!!」

 

「え、えええぇ!?!?」

言いながら私は引きずられる。門の向こうは、なおも光と熱の渦。

振り返ると、海上が沸騰していた。水面が膨張し、泡立ち、熱の奔流が空気を裂く。

空間そのものが「音」を立てて溶けていくようだ。

 

「ま、待って!アイン様!あれ、どうす――」

 

「どうすんのもクソもねぇ!あんなのやってられるか!」

アイン様は笑いながら怒鳴った。額に汗を浮かべながらも、その目だけは真っ直ぐに前を見ている。

熱風が吹き荒れ、海水が蒸気となって身体を叩く。

門の向こうからは、黒く巨大な影――人の形をしていない“何か”が、這い出そうとしていた。

 

「どうせここら一体は火の海になる!さっさと逃げたいと俺らまで死ぬぞ!」

 

「――っ!」

 

私は言葉を失いながらも、アイン様に手を引かれ、門の中へ飛び込む。

背後で、インスマスの誰かが叫んだ。

「待てぇぇッ!!お前ら逃げるのかッ!? こ、ここで奴を――!」

 

だがその声は、次の瞬間、轟音に呑まれた。

蒸発した海が白い霧を撒き散らし、祭壇も信者も、すべてがその光に溶けていく。

 

門の中に飛び込む直前、アイン様が肩越しに吐き捨てる。

 

「勝手に信じて勝手に沈め、魚共。俺たちは帰る!」

 

その声の直後、世界が裏返るような衝撃が走った。

熱、光、そして絶叫。

全てが一瞬で遠ざかって――私たちは、門の内側へと、呑まれていった。

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