なろう系と呼ぶには、冒涜的すぎる   作:おさわHSM

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最近物価が高騰してきたので最終回です


独白【神話と日常】
独白・100円で甘いものを食べれたらいいのに


インスマス誘拐事件から、数週間が経った。

 

 

崩壊した街はようやく片づけが始まり、死臭も薄れてきた。俺たちは政府の計らいだとか(めっちゃワガママ言ったら)で、やたら広い家に引っ越した。やけに設備が整ってて、やけに静かで──やけに退屈だ。

 

 

 奉仕種族たちは相変わらず自由にやっている。

 

ユウゴは一日中パソコンの前から離れないし、ロイノスは風呂の残響音をサンプリングして遊んでる。なんで?ブレージュはエイに紅茶の淹れ方を教えて、ロウドはなぜか掃除にハマっていた。

あの混血種のエイは、少しずつ人間社会に馴染んでいるように見える。最初は言葉もたどたどしかったが、今ではユウゴやロイノスの軽口に笑うこともある。

 

俺? 俺は相変わらず。

仕事も学校もない。特別手当はまだ振り込まれてるし、食料は定期的に届く。昼寝して、報告書読んで、飯食って──終わり。

……つまり、暇だ。てか半分ニートだ。流石に健全な男子高校生たるものこうもやる事が無いと暇に殺されるぞ。

 

「おーい、アイン。ちょっとはエイに優しくしてあげろよぉ」

ロウドが掃除機を止めて言う。

「別に冷たくしてねぇよ。コイツが仲良くしてくださいなんて言ったか?」

 

 エイはこっちを見て、小さく笑った。

「……だいじょうぶ、わたし、うれしいです」

その笑顔が、なんか妙に胸の奥に引っかかる。俺は目を逸らして、窓の外を見た。

 

 

遠くでは、人間たちが普通の生活を取り戻そうとしている。

通学路を歩く学生、洗濯物を干す主婦、壊れた道路を直す作業員。

──そういう「日常」が、もう俺の手の届かないところにあるような気がした。

 

 神話と切り離された日々。血も、魔術も、戦いもない。

 けれど、この静けさのなかでこそ、妙に怖くなる。

 俺は、いったい何なんだろうなって。

 

心臓は別の場所にある。脳幹は移植済み。肉体は湾曲と修復の繰り返し。

それでも「アイン」と呼ばれてるこの存在は、果たして本当に“俺”なんだろうか。俺が話しかけている読者って奴らはそもそも本当に存在するのか?

 

 

 もしかしたら、誰かの記録に書かれた情報体。

 どこかのKPが、シナリオのために作り出したデータ。

 そう考えると、皮膚の下がざわつく。

 

──俺が俺を証明するには、誰を信じればいい?

心臓? 脳? それとも、あの戦いの記憶?

 

わからない。

けど、どれだけ混ざり物だろうと、俺は“俺”として笑うしかない。

誰かにとっての虚構でも、俺にとっては現実なんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あー……ダメだな。ナイーブになってる。

外、出るか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鞄を掴んで部屋を出る。夕暮れの空気が肌を撫でた。少し冷たくて、ちょうどいい。

街は金色に染まっていて、どこにでもある夕方の匂いがした。排気ガスと焼き鳥と、どこかの家のカレーの香り。

 

 

「今日はカレーにするか」

 

 

スーパーに寄って、夕飯の買い出し。

肉と野菜をカゴに入れて、ついでにスイーツの棚を覗く。苺の乗ったショートケーキが美味しそうだったけど、値札を見てやめた。手にしていたカゴが妙に重く感じる。

 

 

「320円は...フ〇ットチーネ二個買えるやん...」

 

 

外に出ると、空はもう群青色に変わっていた。

帰るにはまだ早い気がして、ゲーセンの灯りに吸い寄せられる。太鼓の達人の音が外まで響いていた。

 

 

 

 

 

 

「あれ千〇桜の鬼ってこんなむずかったっけ!?」

 

 

 

 

 

 

久しぶりにプレイしてみた。昔より下手になってて、リズムを外すたびに笑えてくる。

隣の台で小学生くらいの子がフルコンボを出して歓声を上げていた。今の子供ってこんな太達上手いの?

俺は負けた気がして、でもなんか楽しかった。

 

帰ろうと出口に向かった時、声をかけられた。

「……あれ、アインじゃん」

 

振り向くと、中学の時の友達がいた。制服の上にパーカーを羽織って、あの頃と同じ笑い方をしてる。

「久しぶり。元気してた?」

「まぁ、ぼちぼち。お前は?」

「俺もー。てか、なんか顔色悪くね? 大丈夫か?」

「……ああ、平気。ちょっと寝不足なだけだべ」

 

そんな他愛もない会話。

でも、その「大丈夫か?」の一言が妙に胸に刺さった。

 

夜風が吹いた。ネオンの光が滲んで見える。

人の声、笑い声、車の音。世界はちゃんと動いている。

俺もその中のひとり。

――そう思い込もうとする。

 

 

 

 

 

 

 

気がつくと、もうすっかり夜になっていた。

 

 

街の明かりが強くなり、ネオンの下に自分の影が伸びる。

手に提げた買い物袋が少し重い。

スイーツは諦めた。ゲーセンの太鼓はフルコンボできなかった。

中学の友達に「なんか痩せた?大丈夫かよ」って笑われて、

その笑顔にうまく笑い返せなかった。

 

足が勝手に家の方向を選んで歩いていた。

この道はもう、何度も歩いているのに、

さっきまで「作られた景色かも」なんて考えていた自分が、

少しだけ恥ずかしく思える。

 

マンションの階段を上がる。

ドアの前に立って、鍵を回す音がやけに大きく響く。

 

 

 

 

出迎えてくる問題児共を軽くあしらってから部屋に入ると、いつもの空気がふわっと迎えてくれた。

買い物袋をテーブルに置いて、靴を脱ぎながら小さく息を吐く。

 

「はぁ……今日も、なんも無かったな。平和とニート生活が一番だぜ」

 

わざと口角を上げて、軽い調子でそう呟いた。

口の奥で苦笑いがひっかかる。

ゲーセンの音、コンビニの匂い、中学の友達の笑顔――

どれも普通の風景だ。

でも、自分の中では“あの場所”の景色と同時に重なっている。

 

窓際に歩いて、外の星を見上げる。

頬を指でかきながら、わざと軽い声でつぶやいた。

 

「……まぁいいや。強くなるしかないしな。俺が立ってる場所がどこでも、やることは変わらない」

 

胸の奥では、あの戦場の匂いがまだ残っている。

あの時、初めて自分の中で生まれた感情。

それを裏切らないために――強くなるしかない。

 

指先に力をこめる。

その瞬間、自分の中の“日常”と“非日常”が、ひとつの線に繋がった気がした。

 

「よし、風呂入って飯食って、明日も鍛えるか」

 

そう言って、テーブルの袋を開ける。

そこには、スーパーの割引シールが貼られた肉と、いつもの調味料が並んでいた。

なんだかんだで、ここが自分の場所だ

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