なろう系と呼ぶには、冒涜的すぎる 作:おさわHSM
十三話・オタク君って好きな話題は早口になるよね
「た、助け――」
ザシュ。
血の音と、鉄の臭い。
地面に崩れた“人間の皮を被った何か”を見下ろしながら、俺は肩を回した。
「ベルゼブブ〜、これでラスト?」
『はい。残りのシャッガイ個体は全て無力化しました。お疲れ様です、アイン様♡』
「おーけ、んじゃ撤収〜」
周囲に散らばる肉片と異形の殻を踏みつけながら、俺は崩れかけた研究施設を歩く。壁の一部は蟲の巣みたいに歪んでて、空気がまだぬるい。焦げた金属と神経繊維の匂いが混ざって、頭が痛くなる。
「……やっぱこいつらの拠点って、毎回気持ち悪いな」
ユウゴが前方の残骸をスキャンし、低い電子音を鳴らす。
『待ってください、アイン。反応があります。中心部……これ、魔力波形がアザトースのものに酷似しています』
「アザトース? ……えアザトース!?」
足元に転がっていたのは、黒曜石のように艶めく球体。
中では微細な光がうねり、渦を巻いていた。まるで、宇宙の中心を切り取って閉じ込めたみたいだ。
ブレージュが一歩前に出て、低く息を呑む。
『……間違いありません。“アザトースの種子”です。こんな完全な状態、久しく見ておりません』
俺はそれを拾い上げ、掌の上で転がした。
軽いのに、異様に重たい。見た目だけで胃の奥がざらつく。
「へぇ……これが“混沌”の断片、か」
ほんの一瞬だけ――種子の中の光が、呼吸をするみたいに脈打った。
「...なぁユウゴ」
『はい。これがあれば"アレ"が完全するかもしれません』
「けっけっけ...楽しみだなぁ」
玄関の扉を勢いよく開ける。
「たっだいまーーッ!」
リビングにいた全員の視線がこっちを向いた。
ユウゴがエプロン姿で眉をひそめる。
『……そんな声を出さなくても聞こえてぜぇ?アイン様』
「いや、今日は特別なんだって!」
俺は鞄の中から、小さな黒い球体を丁寧に取り出した。
掌の上でそれは淡く光り、まるで心臓みたいに脈を打っている。
ユウゴが目を丸くした。
『それ、まさか……!』
「アザトースの種子!」
ニヤリと笑って机の上に置く。
「ヤバくない? 超高エネルギー体の断片だぜ? あの“混沌の中心”のな!」
ブレージュがカップを落としかける。
『……アイン様、それ、そんな軽率に扱っていい代物では――』
「大丈夫だって! ユウゴとベルゼブブと一緒にちゃんと制御式組むから!」
「え、えぇ...ま、まぁ。理論的には封印兼抽出式として運用可能です。ええ、理論的には」
「確かに安全に加工する技術はありますよ♡理論的には」
「そう、理論的には!」
ベルゼブブはこめかみを押さえて溜息。
『あの……“理論的には”って、だいたい破滅の前触れなんですけど』
エイがカウンターの隅から顔を覗かせる。
「……あの、それ……すごいの?」
「すっごい!」
俺は親指を立てて笑った。
「この種を媒介にして“次元門”を作れる。今までの門じゃ見れなかった世界に、行けるかもしれない!」
ロウドが後ろからのそのそ近づいて、ぐにゃりと首を傾げる。
「んじゃ、どの世界に行くとかちゃんと考えてあるのかぁ?」
「――さて、と」
俺は机の上の黒い球体を見下ろして、顎に手を当てる。
「次元門が完成したら、どの世界に行くか決めなきゃだなぁ……」
「決めてなかったんかよぉ」
ユウゴが椅子を回転させてこっちを見た。
『アイン様。まさかランダム座標で突入とか、言わないですよね?』
「まさか! ちゃんと考えてるって」
俺は胸を張る。
「第一候補はキヴォトスだなぁ。あそこ神秘も多いし、何より生徒が可愛い。
でもテラに行ってアーツの理論をもらうのもアリだよな。原石を俺が使えるのか不安だけど……あーテイワットで元素能力も面白そう!」
ブレージュが困ったように笑う。
『……アイン様、まるで旅行先を選ぶみたいに言ってますが』
「こんなんワクワクするに決まってるだろ!ずーっとゲームの中で見てきた世界に直接行けるんだぜ!?」
目を輝かせながら、次々に候補を挙げる。
「都市の特異点も気になるし……あ、でも頭のルールに引っかかってたら面倒くさいしなぁ……ああもう迷うー!」
グロスが頬をつねるように言った。
「ガキみたいなのだ!」
「ガキだよ。高校生だからね!」
軽く笑いながら言うけど、その目の奥には本気の光が宿ってる。
「でも、どこに行っても、俺が“プレイヤー”じゃないってことは、もう分かってる。
だからこそ、自分の好きな世界に行っとかないと勿体ねぇだろ?」
ユウゴが軽く息を吐く。
『……ま、一先ず術式の完成からやりましょう。その間に考えて置いてください』
「はーいはーい。まかせなって」
そこからの数時間は、久しぶりに“本気で楽しい時間”だった。
机の上に魔法陣を展開し、床には保護結界を三重で刻む。
ユウゴは空中に回路図を浮かべ、ベルゼブブは背後で金属のフレームを組み立てていく。
「これ、絶対爆発するよね?」
『大丈夫です、確率は──三割程度です』
「え待って結構高くない????」
そんな軽口を交わしながら、俺たちはひたすら構築を続けた。
術式を刻む音、魔力の共鳴、空気のわずかな焦げる匂い。
気づけば、窓の外は夜になっていた。
「……時間が経つのって早いなぁ」
俺は工具を置き、掌に魔力を集める。
「完成しちゃったよ、次元門」
部屋の中央には、光を纏った巨大な円環が浮かんでいた。
古代文字と魔術式が組み合わさり、幾重にも重なる術式がゆっくりと回転する。
外側にはユウゴとベルゼブブが持ってきた金属パーツや魔石が埋め込まれ、まるで科学と神秘を無理やり融合させたような“終わってる”見た目だ。
でも――性能は、本物。
……のはず。
「なぁユウゴ。これ、本当に動くよな?」
『理論上は、はい。実験段階ですが』
「“理論上”って便利な言葉だよなぁ……」
俺は苦笑しながら、煌々と光る次元門を見つめた。
あの奥には、まだ見ぬ世界がある。
神も、知恵も、そして――俺が探している“何か”も。
部屋の中央で、光輪が低く唸るような音を立てていた。
魔力の風が吹き、床の術式がちらつく。
俺たちはその前に、ずらりと勢揃いしていた。
ユウゴは腕を組み、ベルゼブブは腰に手を当て、ブレージュは落ち着いた笑みを浮かべている。グロスはなんか顔色が悪い。
ロイノスはふよふよ浮かびながら「どきどき、するね?」とか言ってるし、ロウドは相変わらず何を考えてるか分からない顔で立っている。
エイは緊張で手を握りしめ、少し後ろに隠れるようにしていた。
「……じゃ、行くか!」
勢いよく手を上げてみたものの、門の奥で渦巻く光の圧力に思わず足が止まる。
「……やっぱ、明日にしない?」
ベルゼブブが額を押さえ、呆れたようにため息をついた。
『出た、アイン様の腰抜けタイムです!』
「腰抜けじゃねーし! 明日でもいいだろ、だって寝不足だし!」
『転移に眠気は関係無いのでは?』ブレージュの冷静なツッコミ。
その瞬間だった。
「はよ行け」
背後からロウドの低い声が聞こえたかと思うと、ドン、と背中を押され――
「おわッ!?バカロウドおまっ、押すなぁぁぁぁ!!!」
光の中に吸い込まれる瞬間、視界が白く弾けた。
音も、匂いも、空気の重さも、全部が裏返る。
ん?裏返る?
──世界が裂けた。
門の光が暴走し、空間がぐにゃりと歪む。
俺の体の線が、何本もに引き裂かれていく感覚。
肉が、骨が、魔力ごと別々の方向に引き伸ばされて──
「っぐ……ぅおおおおおおおっ!!!」
叫ぶしかない。
これ、やばい。完全に失敗だ。
「理論上動く」って言ったユウゴの顔が脳裏に浮かぶ。ぶん殴る。後で絶対ぶん殴る。
視界の端で、ベルゼブブの翅が千切れ、ブレージュの機関が薄くなり、ロウドの体が液状に砕けては再生していく。
それでも全員、治療と再構成の魔術を同時に展開して、どうにか肉体を維持していた。
「……!アイン様、エイ様が!」
ブレージュの声。振り返ると、エイの腕が途中で切れて――消えていた。
「おいおいおいおい、マジかよッ!」
俺は反射的にエイを抱きしめ、片手で治療術式を展開。
同時に、肉体修復用の詠唱をねじ込む。
「痛ぇぞ我慢しろ……治癒ッ!!」
光が迸り、焦げた肉と骨が再生を始める。
血の匂いと、鉄の味。
俺の腕も千切れかけているが、構ってられない。
治療魔術は同時に二人分を処理するように出来ていないんだ。なら、俺が痛みを肩代わりするしかねぇ。
「っあ、ぁああっ……!」
エイの悲鳴が胸の中で震える。
体がびくびく痙攣して、涙がこぼれて落ちた。
その頬に伝わる熱が、かえって現実を突きつけてくる。
「いいから……黙ってろ。死ぬな。俺が、治す」
歯を食いしばりながら、魔力をさらに押し込む。
視界が真っ赤になる。
筋肉が引き裂けるたびに、意識が飛びそうになる。
それでも手を離さない。
俺の中にある“支える”って言葉が、ようやく本当の意味を持っていた。
──次の瞬間、門の中の光が弾けた。
重力が戻り、全員が空へと放り出される。
──ベチャッ。
鈍い音とともに、俺は地面に叩きつけられた。
背中が痛ぇ。てか、血が……多すぎじゃね?
空気が湿ってて、甘ったるい鉄の匂いが鼻を刺す。
「……っ、が……あ?」
喉が焼けたように痛む。声が出ねぇ。
……いや、まて。これ、地球じゃないな?
視界の端で何かが動く。
振り向くと、そこには服を着ていない女の子が立っていた。
白い肌に薄く血が滲んでいて、首のあたりからは――声を出そうとしても出ないような、潰れた喉の痕。
目が合った瞬間、女の子の唇がかすかに震えた。
「……っ、……ぁ……」
音にならない声。
怖いというより、痛々しい。
俺は手を伸ばしかけて――止めた。
周囲に光。空気が裂けるような、カチリとした電子音。
目の前の“扉”が、唐突に開いた。
いや、扉って言っても無機質なパネル。
そこから誰かが覗き込む。
現実感が一気に壊れる。
声の主たちは、制服姿の少女たち。銃火器や端末を手に、こっちを囲むように立っている。
“普通の人間じゃない”って直感で分かった。
でも――目の奥に宿ってる光が、俺の知る“狂信者”たちのそれとは違ってた。
(……なるほど、ここがキヴォトスか)
ほんの数秒で理解する。
落下地点は未知の世界。喉は潰れて声も出ない。目の前には“未来”みたいな少女たち。
あまりにも唐突で、現実味がないのに……なぜか懐かしさがあった。
俺はかすかに笑いそうになって――喉が焼ける痛みで、それをやめた。
「そんな深いところまで落ちたわけじゃないみたいだけど・・・ん?」
遠くから声がする。耳の奥に柔らかく響く少女の声。
霞む視界を上げると、扉の向こう側に“誰か”が立っていた。
髪が揺れる。ピンク……のはずなんだけど、
血が目に入って、赤く滲んで見える。
ぼやけた輪郭が光に溶けて、まるで炎のように揺らいでいた。
(あぁ……これは、モモイか)
名前が自然に浮かぶ。
画面越しに見てた彼女が、今、目の前で生きてる。
「・・・えっ!?」
「ん・・・・・・?どうしたのお姉ちゃん・・・・・・?」
「えっ・・・・・・!?」
もう一人。
横から覗き込むようにして、緑色の髪――ミドリ。
こっちは逆に、光の加減で色が薄く抜けて、ほとんど白に見えた。
「お、女の子?」
「この子・・・・・・眠っているのかな?」
視界の端で、光の粒子が踊っていた。
現実の埃とは違う、情報の残滓みたいなきらめき。
たぶん――ここが“俺の知ってるキヴォトス”なんだろう。
血が滲む目に映る世界は、今まで見た何よりも透き通っているように見えた。
忘れさられた神々の楽園に、ほんの少し、神話の匂いが混ざった
ここから暫くはブルーアーカイブの世界で物語が進みます。一話にも書いてありますが生徒とアイン君が恋に恋したりします。先生と生徒Love勢はごめんね