なろう系と呼ぶには、冒涜的すぎる 作:おさわHSM
朝。
カーテンの隙間から差し込む柔らかな光で目が覚めた。
静かで、穏やかで、どこか人工的な“朝”。
遠くで聞こえる電子音と、廊下を走る生徒たちの声が混じり合って、
――あぁ、本当に俺はブルーアーカイブの世界に来たんだなって、実感する。
「……はは、やっぱ夢じゃねぇんだな」
白衣のままの俺は、ベッドから身体を起こす。
筋肉痛。昨日の戦闘の反動がまだ残ってる。
でもそれすら、少し懐かしい“現実感”だ。
服を整えて食堂に向かうと、
もう先生が座っていた。いつも通りの穏やかな笑みを浮かべて、
コーヒーを片手に書類をめくっている。
“おはよう、アイン。眠れた?”
「おはよう先生。まぁ、久しぶりにぐっすりって感じっすね」
“良かった。キヴォトスの夜は静かだからね。地球と少し違うでしょ?”
「えぇ、空がやけに“綺麗すぎる”のが逆に落ち着かないですけど」
テーブルには、先生が用意した朝食が並んでいた。
パン、スクランブルエッグ、サラダ、そして……ずっと食いたかったクソデカベーコン
(ジ〇リとかに出てたこのクソデカベーコン一度食って見たかったんだよね)
“今日の予定なんだけどね――”
先生が話し出す。
内容は、今後のシャーレでの活動方針、
そしてアインの“正式な部長登録”の件だ。
俺は頷きながらも、視線を窓の外にやる。
青空の下、登校中の生徒たちが走っている。
ロボット、獣人、車や戦車も――
それぞれが“この世界の当たり前”として生きてる。
(……いいな。平和って、こういう感じなんだ)
戦いのない朝。
血の匂いも、狂気の気配もない。
ただ、パンの焼ける匂いと、先生の柔らかい声。
(こんな日常が、もう少し続いてくれれば――)
“アイン?どうかした?”
「あ、いや。ちょっと……“幸せだな”って思っただけです」
“ふふっ、それは良いことだね”
先生は笑って、コーヒーを一口飲んだ。
その笑顔を見ながら、俺は心の中で思う。
――俺、たぶん、この人にだけは“嘘”つけねぇな。
───だから私は今日もミレニアムに行くけど、アインはどうする?
先生の言葉に、俺はトーストをくわえながら軽く首をかしげた。
(訂正。全然嘘つきまーす!)
「えーっとねぇ、特に予定は……」
わざと間を置いて、にへっと笑う。
「キヴォトス見て回ろっかなーって思います。はい」
“見て回る?観光ってこと?”
「そーそー!観光!いやーこの世界、学園だらけじゃん?せっかくだし文化の違いを見てみようかなーって」
(これは嘘じゃ無いよ。だって自分がプレイしてたゲームの世界なんて気になるやんけ)
“……また何か考えてる顔してる”
「気のせい気のせい!純粋に観光!」
“アインは“純粋”の使い方を誤ってると思う”
「……ぐう」
"ぐうの音を出さないで?"
先生は軽く笑って紅茶を口にした。
“まぁ、気をつけてね。キヴォトスは平和に見えるけど、案外変なトラブルも多いから”
「了解でーす。先生も仕事頑張って」
“ありがとう。じゃ、ミレニアムに行ってくるね”
玄関のドアが閉まる音。
シャーレの空気が静まり返った。
「……ふぅ。危ねぇ危ねぇ」
テーブルの上でパンの欠片を指先で払う。
「“観光”ね……まぁ、あながち嘘じゃないし。観るのは間違いなく街だし」
そう呟いて、アインは立ち上がった。
カーテンの隙間から差し込む朝日が、ほんの少し眩しい。
「さて、早めに終わるといいけどなぁ……胃がもう限界なんだよ俺」
先生から貰ったシャーレの制服を羽織って、軽く伸びをして──羽織るだけなのがお洒落ポイント──外に出る
キヴォトスの街は、想像していたよりもずっと――“生きていた”。
建物の一つ一つがきらびやかで、道端では学生たちが笑い合っている。
空を見上げれば、流線型の乗り物が静かに滑っていき、遠くでは教師らしき大人が生徒を叱っている声が聞こえる。
(……本当に、ここに来たんだな)
スマホ越しにしか見たことのなかった街。
指先でタップして操作していた“キャラクター”たちが、今は当たり前のように道を歩いてる。
風が頬を撫でる。日差しが眩しい。
――どこからどう見ても現実だ。
「……うわ、すげぇ」
思わず声が漏れる。
トリニティの白い制服姿の生徒が集団で歩いていく。その背後をゲヘナの赤い制服がすれ違う。
その混在が“この世界の普通”だなんて、なんか笑っちゃう。
歩いていると、遠くで「ドンッ!」という爆発音が響いた。
振り返ると、角の洋菓子店の窓ガラスが粉々になり、砂煙の中から黒いスプラッシュが舞う。
「あ、美食研究会だ。 またフウカさらわれとる」
通りの人々がざわつく。制服の子がスマホを取り出して実況し、向こう側では某サークルが慌てて飛び出してくる。
給食部のバンの中にはフウカが( 눈_눈)←この顔で縛られている
次の瞬間、別の路地で二度目の衝撃。歩道のベンチが宙に浮き、周囲のタイルが波打つ。
「温泉開発部だ! あ、ヒナに鎮圧された」
ツルハシとドリルを持つ温泉開発部の一群が、蒸気とともに現れて即座にデストロイヤーをぶっぱなしたヒナにチャチャっと事態を収められる。ヒナは涼しい顔で蒸気を扇いでいる。周りの観衆からはため息混じりの安心感が漏れる。
(ゲーム画面で見たときは、ここまで綺麗じゃなかったな)
空気の温度も、香りも、遠くの喧騒も――全部が“生”の情報だ。人の数だけの物語があって、今、俺はその真ん中を歩いてる。)
「……なんか、普通に平和だな」
神話だの異界だのに浸かってた俺にとって、この“日常”はまぶしすぎる。
殺し合いも、狂気も、死もない。
それだけで、こんなにも尊い。
(でも――俺はもう、これを“平和”だと信じきれないんだよな)
心の奥底で、微かにざわめく感覚がある。
昨日の夜からずっと、頭の片隅にこびりついて離れない違和感。
この街のどこかに、“異物”がある。
でもそれを探しに行くとは、口が裂けても言えない。
せっかくの“学生ライフ”に泥を塗るみたいで、な。
俺はポケットに手を突っ込み、深呼吸した。
「さて、とりあえず街の見学っと。観光だ観光」
崩れたコンクリートの破片を踏むたびに、細かい粉塵が舞い上がった。
割れた窓ガラス、朽ちたネオン、焦げついた看板。
昼間なのに、建物の中は夜みたいに暗い。
人の気配は無い――けれど、“何か”の気配だけがある。
(D.U.シラトリ区。確かこの辺りは、ブルアカ内でもブラックマーケット扱いだったはず。我らがファウスト様とアビドス対策委員会の初会合を思い出すね)
壁のひび割れを指でなぞる。
魔力の残滓がある。微かに、だが確実に――“人外のそれ”だ。
胸の奥がチクリと疼く。
それは、懐かしさでもあり、恐怖でもあり、そして――
ほんの少しの、期待。
「……さて。何が出るかな」
深呼吸し、靴底で瓦礫を踏み鳴らす。
その音が、ひどくよく響いた。
壊れかけた階段を登りながら、心の中で苦笑する。
空気が変わる。粘度が増し、匂いが深く落ちる。視界の縁が冷たい膜で覆われ、光が鋭くなる。息が浅くなるのを感じるだけで、理由なんて要らない。
ただ、やることは一つだ。ゴミを掃除する。この世界に紛れ込んだ不純物を取り除くだけ。環境美化だ。説明も言い訳もいらない。ただ、そこにあるべきでないものを消す。
思考は無駄を削ぎ落とす。手順だけが残り、身体がそれに従う。瞳が細くなる。筋肉が固まって、掌に冷たい力が集まる。声は出さない。言葉は刃にならない。行為だけが真実だ。
影が動く。窓に移るは猫と思わしき姿と3人の人影
「消せ」
念じるというより、命令を下す。掌から魔力が粒になって弾け、指先で冷たく震える。手順が頭の中で踊り、最短で確実な動作が組み上がる。
一歩。床が軋む。二歩。靴底に伝わる感触が確かだ。胸の奥の鼓動は速いが、それは怒りではない。整然とした律動だ。仕事のリズム。
階段をさらに一段踏み出すと、世界の色が少しだけ薄くなった。標的だけがより濃く、より醜く浮かぶ。俺はその醜さを消すために、手を伸ばす。
バリン!
壊れた窓ガラスを踏み抜き、割れた音が小さく跳ね返る。
その瞬間、静かに指を鳴らす
「!?」
「敵襲!?」
「だ、誰ですか?!」
「アルちゃん下がって!」
「ゴルゴロスの肉体湾曲」
微かな振動とともに、空気が歪む。
古い埃の匂いに紛れて、確かに感じる――
“何か”がここにいる。
(……やっぱりだ。あの不純な波動、この世界のものじゃない)
風が揺れ、瓦礫の影から一匹の茶トラの猫が姿を見せる。
普通の猫なら、こんな場所にいるはずがない。
瞳の奥で蠢くものが、神話のそれを思い出させる。
「キヴォトスに来てんじゃねぇよクソ猫がァァァ!」
猫が身を震わせた瞬間、空気が爆ぜた。
アインの手のひらから放たれた魔術が、蛇のように地面を這う。
「ニョグタの鷲掴み」
黒い触手が虚空から伸び、猫を掠める。
緊張感のない鳴き声が、狭い廃墟に響く。
「ちょ、止まりなさいよ!?ていうか貴方誰なの!?」
「その猫に何か用?」
「う、動かないでください!」
「随分派手な登場じゃーん?」
銃の金属音が、薄暗い室内に散った。
四方向。間違いない。
呼吸のリズム、足音の間隔、銃口の向き――訓練されてる。
アサルトライフル、ショットガン、スナイパーライフル、拳銃...か中々バランスがいいじゃないか。
(……気配が人のソレじゃ無い。奉仕種族か)
喉の奥が、ざらつく。
空気がひどく濁って見えた。
神話の気配が染みついてる。血に混じって、腐った蛆の臭いがする。
この都市の“異物”――俺が掃除するべき“ゴミ”。
「その猫に何かされたの?」
女の声が響く。少し高い。
背後からの風圧で、照準の熱線が俺の頬を掠めた。
(警告、ね。優しいじゃん)
手のひらの魔術刻印が、淡く光る。
熱が走り、筋肉が膨張する感覚――
ただ、掃除をするだけだ。邪魔者を、世界から消すだけ。
「……ゴミは、燃やすのが一番手っ取り早い」
呟いた瞬間、部屋の空気が弾けた。
「被害を逸らす」を展開、床下の魔力を撫でて歪める。
風がうねり、瓦礫が舞い上がる。
構えていたアサルトライフルの銃口がわずかに逸れ、弾丸が壁を砕いた。
誰かが叫んだ。「し、死んでください死んでください!」
閃光、爆音、硝煙。
――でも、俺の意識はただ一点。
(どいつだ。“あの臭い”の元は)
猫が、煙の中でゆっくりと尻尾を立てた。
茶色の毛並みが波打ち、瞳が琥珀に光る。
その瞬間、脳裏で、世界が切り替わった。
(いた。やっぱりお前か――“バースト”)
瓦礫の上で、銃の照準が一斉に俺に向いた。
アサルト、ショットガン、スナイパー、あと一人はハンドガン――
隊列の崩れがない。呼吸の間隔、戦場慣れしてる。
けど、その瞳の奥に“殺意”はない。
「なんでそんな猫に殺意高いのよ!?貴方猫嫌いなの!?」
「社長。絶対そう言うのじゃないでしょ」
「あれ?ヘイローが無いし、よく見たら制服もシャーレのじゃない?」
声が飛ぶ。
焦りと困惑が入り混じった、あの“生者の声”。
でも、俺の耳にはもう雑音にしか聞こえない。
その言葉の一つ一つが、遠い世界の泡みたいに弾けて消える。
(関係ない。目の前に“汚れ”がある。それだけだ)
左手に流れる魔力が蠢く。指先が焼けるほど熱い。
瞳の奥が軋んで、視界の端が赤く染まる。
理性が、スイッチみたいにパチンと切り替わる。
ただ“掃除”をするだけ――
この世界に混ざった、異物を消す。
「ちょ!それ以上来たら本当に撃つわよ!」
女の声。
リーダー格だろう。
彼女はバーストの前に立ち、スナイパーライフルを構えた。
金属のスライドが光を弾く。
(邪魔だ)
コイツは、もう人間じゃない。
その姿は“神話の穢れ”と同じ色に見える。
皮膚の奥に潜む不純物、血管の中を這う闇。
焼き尽くさなきゃ、駄目だ。
「……仲良く殺してやるよ」
声が低く漏れた。
喉の奥で擦れるようにして、言葉が形になる。
彼らが言葉を返すより早く、
俺の
足が、前へ踏み込んだ。
「――はい。ちょっとストップ」
軽やかで、どこか面倒くさそうな声。
その瞬間、世界の“熱”がスッと引いた。
掌の魔力が霧散する。
空間を歪めていた紅い光が、砂のように崩れ落ちた。
視界の中で、猫が立っていた場所に――
オレンジの髪に翠翼の瞳を宿した女が立っていた。
細身の身体に、金属と布を縫い合わせたような装束。
背中には、しなやかな尻尾のような光のライン。
「死ね」
自分でも驚くほど低い声が漏れる。
「アンタ私殺したら契約途切れるって知ってるでしょ」
女は片手を腰に当て、もう片方の手で銃口を押し下げた。
「ごめんね〜。この子熱くなっちゃうと周りが見えなくなるの」
集団のリーダー格が息を呑む。
「……あなた、何者?」
バーストは薄く笑った。
「ただの猫だよ。コイツとはただの知り合い」
「誰が...このクソ猫がぁ...!」
アインは舌打ちをして、腕を下ろした。
魔力の流れが、少しずつ穏やかに戻っていく。
「アンタまた神話生物感知して呑まれてるよ。その癖辞めなよ」
「……」
「神話の“匂い”に過敏になりすぎ。片っぱしから喧嘩を売るなって訳じゃない。ただ良い神と悪い神の区別を付けないと、いつか何が何だか分からなくなるよ」
......だから、なんだ。分からなくなったらなんだ
「……それが手を止める理由になると?」
「ならないだろうね。だからよく見な」
バーストは軽く笑いながら、肩を指で突いた。
「ここ、便利屋の事務所だよ」
その一言で、俺の中の時間が止まった。
「……は?」
反射的に振り返ると、壁の奥には割れた看板が半分埋まっていた。
そこにうっすらと見える文字――
《便利屋68》
「……嘘だろ」
瞬間、全身の血の気が引く。
頭の中で、過去のブルアカイベントの断片がフラッシュバックする。
小型オフィス、古びた机、散らかった工具、壁に立てかけられた一日一悪。
――全部、知ってる光景だ。
「え、じゃあお前ら……」
バーストが静かに笑う。
「そう。彼女たちは便利屋68。君が“排除対象”と見なした相手は、ここの住人」
「……俺、何やってんだよ……」
胸の奥がひどく冷たくなった。
息を吸うたびに胃がねじれるような感覚。
指先には、さっきまで放たれていた殺意の残滓がまだ残っている。
(マジかよ……生徒相手に、俺……)
便利屋のメンバー...カヨコが戸惑いながら銃を下げる。
「アンタ、本気で殺す気だったの?」
「違う……違うんだ。俺は……」
言葉が喉で止まる。
何を言い訳しても、“殺すつもりだった”という事実は消えない。
バーストがその肩に軽く手を置く。
「ねぇアイン。言ったでしょ?
“神話の匂い”がある場所には、必ず人間も居る。
嗅ぎ分けを間違えると、君が一番危ないって」
「……分かってる、分かってるけど……」
「なら、次は気をつけなさい」
「……あぁ」
その場に腰を下ろす。
足元には、安い買い物のレシートが転がっている。
いつもはゲームの中で見ていた世界が、
今は自分の失態で汚れているように見えた。
「あの...落ち着いたら説明して頂戴?私何がなんだか分からないのだけど」