なろう系と呼ぶには、冒涜的すぎる 作:おさわHSM
バイトを終え、制服の上着を脱ぎながら心の中で考える。
――PLだった記憶がある俺には、これから起こることの大まかな流れが見えている。
でも、今はまだ誰にも言わない。見てる読者向けのささやきだけだ。
「ここから先は、ちょっと面白くなるぞ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「兄ちゃん、この街にある廃墟の話、知ってるか?」
俺は軽く肩をすくめて、「いや、名前だけなら」と答えると、おっさんは目を細め、顔を近づけて囁くように話し始めた。
「数年前からさ、人が消えるんだよ、あの廃墟の近くで」
「最初は酔っぱらいかと思ったけど、ちゃんと調べた奴もいた」
「化け物を見たって奴もいる。いや、化け物って言っても、形容しづらい奴だ。人じゃない、でも人みたいな…」
――普通の高校生だったら、この話だけで足がすくむところだろう。
でも俺は違う。知ってるから。PLとしての記憶があるから、こういう怪しい場所の匂いはすぐに分かる。
人型。次元を彷徨う物だろうか?いや、悪霊の家ならコービットの可能性もある。この世界で悪霊の家が誰かに攻略されてなかったらの話だが。
「へぇ。そんなヤバい所があるんスね!」
俺は小さく笑いながらグラスを戻す。
おっさんは笑いながら軽く肩をすくめる。
「帰り道気をつけろよぉ、兄ちゃん」
俺は軽く手を挙げて返す。
「あはは、友達と帰るんで大丈夫ッスよ」
居酒屋を出ると、街は夜の帳に包まれつつある。
風が頬を撫で、路地の匂いが鼻をくすぐる。
あの廃墟――誰も近寄らない、朽ち果てた建物。
化け物が出ると噂される...シナリオの舞台が、目の前にある。
靴を履き直し、懐中電灯をポケットに忍ばせる。
街灯の影が長く伸び、路地の暗がりに入り込む。
「さて、行くか……」
軽く肩をすくめ、俺は歩き出す。
――普通の高校生男子の帰り道、ではない。今夜はこの家の秘密を解き明かす、ちょっと危険な探検の始まりだ。
路地を曲がると、廃墟が見えた。壁は崩れ、窓ガラスは割れ、草が建物を呑み込んでいる。
息を整えながら近づくと、空気が一変した。湿った土と古い鉄の匂い。
――あ、ここだ。俺の感覚がざわつく。
PLの記憶が、ここで何かが起こることを告げている。
でも、俺は知っている。ここからが本番だってことを。
懐中電灯の光を建物の中に差し込み、ゆっくりと足を踏み入れる。
木の床はきしみ、埃が舞い上がる。
――ああ、神話生物か、ただのイタズラか。違いはすぐにわかる。
俺は手にした小ナイフをぎゅっと握る。
――いや、今のところはまだ神話的事象はない。人間の事件の可能性が先だ。
暗がりの中、微かに何かが動いた。
――来たか。シナリオの第一歩。
俺はゆっくり、でも確実に、その気配に向かって進む。
「さて、どう動くか……お前ら(読者)も見てるだろう?」
心の中で小さくつぶやきながら、廃墟の奥へ足を踏み入れた。