平常心の渾名は場数
44号線沿いのアメリカンなピザ屋で一組の男女が密談をしている。珈琲を飲みながら。
この店では注文した商品が運ばれるまで店員が厨房から出てくることはない。
レジで注文し、事前に会計を済ましてから商品が運ばれてくるからだ。
「害虫駆除の依頼です」
「町内会は“青虫”で頭の中が一杯なようですね」
男は写真(おそらくは隠し撮りだろう)の人物をじっくりと見つめながら呆れている。
「雑居ビルの三階で違法賭博が開かれています。大暴れしても人はやってきません。怖がられていますから、あと賄賂」
「フフッ、処でこの写真の人物は“打音奏者”ですか?」
「はい、もう一度逮捕のご協力をお願いします」
「根なしの児戯ですが、励みます」
男は席から立ち一礼してから店から立ち去る。
雑居ビルにて
男は階段を上っている。だが、立て看板を見つけて立ち止まる。
三階へ繋がる階段の前には「危険!フローリングワックス塗立て!階段使用禁止!」の注意書き。欺瞞!
無視をして歩みを進める。出迎えに大柄な男が出て来た。
「いらっしゃいませ、歓迎します。念のためですが、誰のご紹介かお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「飛び入り参加です」
賭博ビルの戦いが始まった。
男は門番に向けて前蹴り、続けて蹲った門番の顔面へサッカーボールキック。口から血と歯の欠片を吐き出して意識を失う。
「好みですよ。丁半博打と花札、BGMに競馬ラジオ。実に日木風で」
男は悠々と賭場へ足を踏み入れる。
歩みを進めるなか立ち止まり、振り向く。壁に背をつけて、メタル○○のように出口へ移動していたビール腹に向かって突進!ショルダータックルだ!
倒れ伏すビール腹にマウントポジションからの鉄鎚打ち連打。無力化を確信したのち再度歩き出す。筋肉達磨に向かって……
「お久しぶりです。お元気そうで何よりです」
「闇パートなるケチな小悪党に門番を任せるんじゃなかったなぁ」
「懲りずに悪事に手を染めているようですね?どうして平和な生活を乱すのですか?」
「こんな商い、平和じゃないと成り立たねぇ」
「言いも言ったり、あきれてものが言えません」
唾を吐き捨ててから奏者が両腕を振り上げる。男はガードを固めて待ち受ける。奏者が大きく一歩踏み込み鉄鎚打ちの連打が始まった。
鉄鎚打ちの一打一打に体重が乗っている。“打音奏者”の異名はこの和太鼓闘争術から来たものだ。只管殴り続ける愚直な闘争スタイル!
それを、男はサイドステップで足を運びながら弾いていく。男は分かっていた。最初っからクライマックスで流れを握り、そのまま勝利も握るやり口だと。
だから持久戦に持っていく。持っていけないと負ける。ステップを踏みながら膝を蹴った反動で距離を開け、壁を使った三角蹴りで移動しながら攻撃をし、兎に角立ち止まらなかった。
そう、男を追いかける形になった奏者も立ち止まれなかった。次第に男の攻撃の数が多くなる。バラ手で目潰し。掌底ジャブで耳打ち。
臆病者がおっかなびっくり手を出して突っつくような攻撃だが、カウンター気味の急所攻撃は精神的疲労が溜まる。(因みに、人間の疲労の九割は精神的な疲れだ)
最後の一撃は唐突にやって来た。偶然カウンターが顎に入った。奏者は意識を失った。
「まあ、私自身武術そのものと同等かそれ以上に、武術がもたらす利益を愛しているので似た者同士かもしれません」
汗だくで奏者を捕縛しながら呟いた……
本日の成果 1顧客リストは無し 2利用客も巻き添え逮捕(中には政治家もいた)
政治家殴っちゃったよ……
せめて前向きに地獄に行きます よしなに