簡素な一室にデバイスの着信音が鳴り響いた。だがしかし、独身貴族は反応しない。アクティブストレッチで汗を流し続けている。
直ぐに録音音声が聞こえてくる。
「どーも、十時にお客様がお見えになります。失礼いたしました」
息を荒げながらストレッチを切り上げた男はシャワールームへ歩き出した。
タクシー車内にて
「潰れた遊園地で血液泥棒をしている奴らがいる。やぶ医者は黄金の血を探している」
「売血病院に高く売れるみたいですね?」
「如何やら“青虫”の追い込みは順調なようで」
「町内会の執念勝ちですねぇ」
「まだ終わってませんが、勝つでしょうね」
書類が入った封筒を持って男はタクシーを出ていく。
深夜の(小さな)廃遊園地にて
キッチンバスが廃れた夜の遊園地へと入っていく。
園内はメリーゴーランドとスクールバス以外を除いて一切が撤去されている。
林の中から独身貴族の愛称で呼ばれる男がバスのライトを見つめている。
男は懐から暗視ゴーグルを取り出し装着する。あなや、キッチンバスには献血装置が隠されているではないか!
敵がライトを背負わない様に回り込み、せめて五分と五分に持ち込むのだ。
匍匐前進でバレないように最大限近づくことに男は成功した。されどその後の行動に難がある。
男はおもむろに走り出したのだ!想像してみてください。夜中の寂れた誰もいない遊園地。足音に気が付き振り向くと男が全力疾走で此方に向かって来るのだ。パニック!
「来んな!オラッ!」
「全部知ってますよぉぉ!!」
「シャオラ!」
開幕は。やぶ医者と男のクロスカウンターから始まった。男の左掌底とやぶ医者の右ストレートが互いの顔面にめり込んどる。
「此れは提案なのですが、顧客情報を売ってもらえないでしょうか?」
「あんた誰ぇ?」
「資金源を潰しながら辿っていってるんです“青虫”に」
「察した」
やぶ医者の精神的動揺はすでに収まっている。想定外は想定済みなのだ。あぁ……恐ろしい。このような事態に慣れているとは……
やぶ医者は堅実にジャブで間合いを測る。男はエルボーブロックを二発目のジャブに合わせて牽制。やぶ医者は笑いながら左手を振ってジャブを繰り出してくる。
……と思わせて、股関節に這う片足タックル。男はやぶ医者の頭と肩を自身から遠ざけ、一気に飛びついて三角締めをかける。決まった!
やぶ医者は地面に伏してもなお、殴る蹴るの抵抗を継続するが、段々と酔っ払いの駄々になった。そして動かなくなった。
時間が経過した……
「このような失態、祖先に申し訳が立たない、ふさぎの虫に障る故暇乞いを……」
「はっはっはっはっ(*^▽^*)」
「まぁ、逃がしませんよね。“青虫”の情報ね!オッケ!買い取って頂戴!」
良々呵々々、しっぽ掴んだよい。
時間一杯使い切り、完璧に仕上げる。そんなこと考えてたら動けません。