とんでもスキルで異世界放浪メシ【イレギュラーな少年を添えて】 作:一般通過炎竜
「キャ──ッ!?」
「うわぁぁぁーっ!?」
「狼!狼の魔物が!?」
「あの……違くて……私の従魔で……」
「熱烈な歓迎だねぇ、フェル」
「ふん、狼狽えすぎだ」
ムコーダの魔法訓練から数日、一行は次の街に辿り着いていた。しかしフェルの圧倒的存在感のせいで民衆は大混乱に陥ってしまった。
「どけどけ!道を開けろ!」
兵士待ちの3人の前に、槍を携えた兵士達が立ち塞がる。全員槍を3人に向けて強ばった表情だ。
「グルルル……」
「唸るなアホタレ」
ムコーダによる決死の説明はどうにか兵士達の耳に入り、隊長がムコーダのギルドカードを確認する。
「商人が従魔とは、珍しいな…それに【グレートウルフ】とは。Aランクの魔物だぞ、よく従魔に出来たな」
「う、運が良かったので……」
グレートウルフと呼ばれる魔物とは、フェルと同じくらいの体格の群れを作る狼の魔物。もちろん強さは比べるべくもないが、ムコーダはフェルのことをフェンリルではなくグレートウルフとして扱い余計なトラブルを回避する方針で進めていきたいらしい。
「え、なにフェル」
「?」
「どうかしたのか?」
「ああいえ!なんでもありません!」
なにやらムコーダがフェルの方を見ているが、兵士とカエデはそれがなぜか分からなかった。
その後、兵士から街で従魔を暴れさせたら死罪か奴隷落ちだぞと脅され再びムコーダはフェルをグレートウルフとして飼い慣らすことを決意した。
3人は街へ入り、カエデはグレートウルフのフェルが注目されている事に気付き、フェルの頭を撫でた。
「良い子だねぇ〜フェルちゃん。かのフェンリル様の名前を模しただけはあるねぇ〜」
「貴様っ…」
「そうだよなーフェル!!おい頼むぞ、せっかくグレートウルフって事で街に入れたんだから!喋ってるところ見られたらおじゃんだぞ!!」
「ぬぅ……」
「まあ今のうちに煽り耐性でも付けるべきだよフェルは」
フェルは竜すら射殺す勢いの眼光でカエデを睨むが、本人は何処吹く風だ。
「とりあえず今回の目的は買い物かな。地図と…あと雑貨見たいな」
「ボクは魔導書見たいな」
「じゃあこれね」
「わぁい」
カエデはムコーダからお小遣いを貰う。そこでカエデは、普段より量が多い事に気が付いた。
「多くない?」
「前回沢山稼いでくれたから、ちょっとくらい贅沢しないとさ」
「太っ腹〜」
「いやまぁフェルとカエデくんが稼いだんだけどさ」
そして効率的に行動するため、ムコーダとフェル、そしてカエデ単独で街を散策する事に。そして昼食時、もしくは用事を済ませたら広場に集合という手筈となった。
「大丈夫?前みたいに…」
「約束するよ、絶対戻るからさ」
カエデは背を向けて手をひらひらさせながらこの場を立ち去る。そして、フェルはムコーダに
『なに、我が匂いで追える。そう心配するな』
『うおっ、ああ念話か…。まぁ、フェルが追えるなら安心か』
つい先程フェルは念話という存在を思い出しムコーダに伝えていた。そしてカエデに共有するのを忘れていたというのも思い出した。
「よ、よし!とりあえず最優先目標の地図を探すぞ!」
気合いを入れたムコーダだった、その気合いが悲劇を生むとも知らずに。
◻︎
「さてと、魔導具店はどこかな…」
カエデは路地裏を歩いていた。ラモン曰く、穴場の魔導具店はこういう路地裏に店を構えていることが多いんだとか。それを覚えていたカエデは薄暗い路地裏を独りで歩いている。
通りは物乞いで溢れており、控えめに言っても治安は最悪と言えるだろう。カエデは少し歩き、物乞いの1人である俯いた獣人の老人を見つけた。
「ねぇおじいさん、起きてる?」
「……あぁ?」
カエデが声をかけると、老人は顔を上げた。そしてカエデは老人の前に置いてある木皿に銀貨を1枚入れる。
「この路地で魔導具店やってるとこ、ある?」
「……次の道を左に行って、そこの突き当たりを右」
老人は銀貨を回収し、再び俯いた。
「ありがと」
カエデは老人に言われた通りの道を歩いていく。すると、いかにもな雰囲気を放つ古風な店を発見。看板には何も書かれておらず、しかし店内の光が僅かに漏れている。
「こんにちはー」
カエデは臆することなく扉を開く。中には誰もおらず、返事こそ帰っては来なかったが店内は魔法使いには一目でここが魔導具店だと分かる商品と内装だった。
「さてどんなのがあるのかな…」
カエデは棚の商品を見ていく。銀で出来た鎖、怪しい液体が入った小瓶、種族不明の髑髏、くすんだ色の杖、表紙に何も書かれていない本。
カエデはこれらを『鑑定』していく。銀で出来た鎖は杖や魔導手甲と同じ発動補助の道具。小瓶は麻痺毒。髑髏はオークのもの。杖は足腰が悪い人向けのただの杖。本は生活に便利な魔法陣が書かれている魔導書だった。
(あれ、案外普通だな)
肩透かしを食らったカエデだったが、そこである事に気が付いた。
「ふふふ……」
(あのおばあちゃん、いつからいた?)
カウンターに老婆が座っている。先程までいなかったのにも関わらずだ。
「……ねぇおばあちゃん、なにかオススメってある?」
「これなんてどうだい?ちょーっと垂らしてやれば骨まで溶けるよイッヒッヒ」
(いかにもなおばあちゃんだなー…)
仕方がないので銀の鎖と魔導書を購入。なにか良い物と期待したが、あまり期待し過ぎるのも良くないらしい。
「……ぼうや、魔法使い初めてどれほどだい?」
「え?……2週間くらいかな」
老婆は片目を見開いてカエデをジッと見つめる。カエデも負けじと視線を合わせ、老婆に対して『鑑定』を行った。
(別に、職業は魔法使いだし。レベルは30…。特出した魔法は無し。スキルにアイテムボックスがあるくらいの普通の魔法使いおばあちゃんだ)
すると、老婆は立ち上がりカエデの傍へ。そしてアイテムボックスからとある魔導書を取り出した。カエデは、それに見覚えがあった。
「その魔導書…!」
「イヒヒ、やはり見覚えがあるね」
カエデが偶然手に入れたあの魔導書だ、細部は違えどその怪しい雰囲気は同じだった。カエデは自然と指に力が入る。
「これを金貨10枚で売ってあげる」
「へぇ、それじゃあ遠慮なく…」
「ただし」
老婆のその異様な雰囲気に気圧されたカエデは、額に冷や汗を流しながら伸ばした手を止めた。
「これはまだぼうやには読めん、それでも買うかい?」
老婆の試す様な視線に、カエデはなんとか耐え切った。
「もちろん」
カエデがそう言うと、老婆は異様な雰囲気を収めてにっこりと笑顔を浮かべる。そして魔導書をカエデへ手渡し、カエデも金貨を老婆へ渡す。
「まいどあり」
足早にカエデは店を出た。扉を閉め、空を見上げる。そこで背後から冷たい風が吹き、思わず振り返る。
「……はは」
そこには、ただの壁しかなかった。
◻︎
一方、ムコーダは地図をぼったくられていた。
「ぬぉぉぉぉっ騙されたぁーっ!!!?」
ムコーダは焦っていた。伝説の魔獣フェンリル、魔法使いとして才あるカエデ。自分もパーティメンバーとしてなにか出来ることはないか、と。
そこで地図を手に入れてカエデの想像する交渉が得意な自分としての面目躍如を目指したが、それは詐欺被害という形で終わってしまった。
冒険者ギルドで銀貨1枚で購入出来る地図を、悪徳冒険者に銀貨8枚で売られてしまったのだ。
「まあ、勉強代ってことで諦めな」
「騙される方が悪い」
ゲラゲラと他の冒険者達に笑われ涙目でギルドを出ようとするムコーダ、しかしギルドの扉から現れた少年を見て足を止めてしまう。
「何言ってんのさ」
その少年の背後には、先程の悪徳冒険者達を氷漬けにされていた。
「騙す方が悪いに決まってるでしょ」
「カエデくん…!」
カエデは悪徳冒険者達の財布からムコーダがボッタクられた金額を抜き取り、残りは自分のアイテムボックスへ仕舞った。
「冒険者は自己責任、だっけ?いやぁ良い言葉だね全く」
「ありがとうカエデくん…。そういえば用事終わったの?」
「……まーね」
先刻、魔導具店で異様な目に遭いちょっと怖くなったカエデがムコーダを探している途中、冒険者達の会話が耳に入ったのだ。
『いやぁ、あいつバカだったなぁ!』
『今どきこんな手にひっかかるかねフツー』
『まぁどう見ても初心者だったもんな』
カエデは最初こそ自分には無関係だと無視するところだったが、次のセリフは聞き捨てならなかった。
『ただの地図を銀貨8枚とは、常識知らずの商人見習いだ。あの
地図、商人見習い、黒髪のしょぼくれた顔。最初の2つはともかく最後の情報で確信に至るあたりカエデも大概だが、とにかくこいつらはムコーダに詐欺を働いたというのは理解出来た。もし勘違いでもどこかの誰かに詐欺をしたのは間違い無いのだ。
「ねぇ、おじさん達」
「あぁ?」
「んだこのガキ」
「半殺しと冷凍保存、どっちが良い?」
そこから先は、語るまでもない。
◻︎
「くっそーまさかボッタクリにあうとは…カエデくんが来てくれなかったらどうなってたことか」
「お礼は今日の晩御飯ってことで」
「お安いごようだよ」
3人は街を出て旅を再開していた。因みにフェルはムコーダが詐欺にあってる最中ギルドの外で寝こけていた。
「伝説の魔獣さんさぁ……」
「あの程度の連中の害意なぞ気にも止めんわ」
「でも実際ムコーダさんが詐欺被害にあってるんだからもうちょい警戒心強めた方がいいんじゃないの」
「ぬぅ……」
「ま、まぁまぁ!カエデくんのお陰でなにもなかった訳だし!お金も戻ってきて地図も手に入ったんだから次の目的地決めよう!」
ムコーダは地図を広げる。そして東のとある場所へ指さした。
「どういうところなの?」
「『エルマン王国』か『レオンハルト王国』にしようかなって。ここは獣人差別も無くて情勢が安定してる良い国なんだって」
「東の海近くか。あそこは良いぞ、『シーサーペント』や『クラーケン』といった海の魔物達が跋扈している。あれはあれで中々美味いのだ」
「海鮮かぁ、貝が食べたいな」
「では決まりだな」
そこで、フェルはムコーダの首根っこを掴み自分の背へ。それを見て何かを察したカエデも杖に跨った。
「え、ちょ、フェル?」
「飛行魔法、ものにしたのだな」
「速さの方はフェルにパス繋ぐから心配いらないよ」
「え、何のはなし?」
話しに着いていけないムコーダは混乱しっぱなしだ。
「海鮮の話をしたら魚が食いたくなってきた。森を突っ切れば東へ近いし途中に湖もある」
「森を突っ切る!?そ、それ大丈夫なのか!?魔物とか色々ヤバそうじゃん!?」
「ボクとフェルもいるし、問題無いよ」
「それはそうかもしれないけど…!」
「ええい、相変わらず矮小だなお主は。口を閉じておれ、舌を噛んでも知らんぞ」
フェルは初速でムコーダが耐えられるギリギリの速さで移動し始める。カエデもそれに続き杖の飛行を満喫していた。
「アアアアアアアアアアアア!!??」
再び、ムコーダの絶叫が森へ響き渡ったのであった。
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