とんでもスキルで異世界放浪メシ【イレギュラーな少年を添えて】   作:一般通過炎竜

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第12章『風の女神ニンリルの大いなる加護』

 

【神界】────。

 

神々が住まう人の手が届かぬ領域。今カエデ達がいる異世界には神々が存在しており、それぞれがあらゆるものを司っている。

 

本来であれば神々は下界にあまり干渉せず、時折強者や運の良い者は神の加護を授かることはあるが、声を聞く者は限りなく少なく、姿を見たものはほぼ皆無である。

 

そしてそんな神界のとある区画にある下界を見渡す事が出来る水盆に、とある女神が一柱──【風の女神ニンリル】である。

 

なにやら水盆を覗きながらプルプルと震えている様だが。

 

「うう……」

 

なんと慈悲深き女神なのだろう。下界の様子を憂い、嘆いている。

 

「あんぱん……メロンパン……食べてみたいのじゃあ…」

 

……嘆いているのは間違ってはいない。それが例え菓子パンに対してだろうと、きっと。

 

「妾の眷属の様子を覗いてみれば、あのフェンリル……今はフェルだったか?人間と従魔契約を結ぶのは良いが、あの黒髪の人間…」

 

「なんと…なんと羨ましい食生活をしておるのじゃあの犬っころは…!」

 

もはや完全に私利私欲の匂いがするが、彼女の名誉の為にもここは下界を憂いているということにしておこう。

 

「しかし直接干渉することなぞ他の神にも示しがつかんし………でもあんぱん……メロンパン……パンケーキ……」

 

「というかあの茶髪の小僧、羨ましすぎんか?ほぼ毎日おやつに甘いものをあの黒髪に出してもらっておるではないか」

 

女神ニンリルは数秒俯いて黙り込んだ後、頭にプラズマでも走ったかの様な閃きをした。

 

「妾の眷属の主とあらば、妾を信仰してもおかしくないのではないか?それにあの茶髪の小僧に加護を与えて信仰させれば彼奴の甘味知識を妾に遺憾無く供物という形で発揮するのでは……?」

 

なにやら良からぬ暴走を始めた女神、しかし彼女を止められる存在など殆ど存在しないのが現実である。

 

「よし!そうじゃそうじゃそうに決まっとる!では早速フェルに神託をば…」

 

神託を使い勝手の良い通信手段程度と思っているところと、女神の加護を甘味引き換え券と思っているところに目を瞑れば、旅人に女神の加護を与える女神の鑑に見えるだろう、そう思いたい。そう思うのじゃ。

 

 

◻︎

 

 

スイという新たな仲魔が加わってから数日、一行は当初の目的通りに東へと進んでいた。

 

その道中の休憩の間に相変わらずカエデは例の魔導書を読み進めていた。書かれているのは攻撃魔法が主だが、魔導書の最後に近いページに興味深い記述があった。

 

「この魔導書は全てで七冊存在している…。今二冊だから、あと五冊か」

 

作者すら不明の魔導書。一体どこの誰がこんなものを書いて、そして名前を隠して残したのか。今考えても仕方がないと思ったカエデは、魔導書を閉じた。そろそろ移動の時間である。

 

「ん?スイ、どうかした?」

 

気付けばスイがカエデの足元に近付いて来ていた。カエデはスイを抱えると、その感触を楽しんだ。

 

「うーんこのひんやりぷにぷに感…枕にしたら気持ち良さそうだね」

 

スイがそれを聞いて理解したかは不明だが、スイはカエデの腕から肩へよじ登り、最終的にカエデの頭頂部へ移動した。なにやら満足そうな表情をしている気がする。

 

「ボクの頭、気に入った?」

 

カエデは身体強化魔法を習得してから、その出力を3段階に分ける事にも成功していた。常にレベル1を発動させて子供の弱い身体を運動している成人男性レベルまで強化している。

 

故に、スイ程度が頭に乗っても何の負担にもならないのだ。

 

「おーい、そろそろ移動するよー」

「はーい」

 

カエデはスイをムコーダに手渡し、受け取ったムコーダはカバンの中にスイを仕舞う。スイお気に入りポイントは2つあるのだ。

 

ムコーダはフェルの背中に乗り、カエデは杖に跨った。

 

「うーん…なんか、絶妙にカッコよくない気がするんだよね」

「杖に跨るのが?」

 

カエデは浮いている杖に立って乗ってみる。飛行魔法は杖と本人を魔力で覆い力場を確保しているので転落の心配は無いが…

 

「なんかアレだね、桃〇白みたいになってる」

「ボクも今そう思った」

「くだらぬ事をしている暇があるのならさっさと出発するぞ」

「今だけ四足歩行が羨ましいよ、今だけね」

 

カエデは軽口を叩きながら渋々杖に跨る。そしてフェルの疾走を合図にカエデもそれに着いていく。その道中、レベル上げと資金調達を兼ねた魔物の鏖殺&回収をしていく。もはや作業であった。

 

「そろそろ日が暮れる、晩飯にして今日はもう休むぞ」

「わ、分かった……」

「さんせーい」

 

フェルに掴まって疲労困憊のムコーダは震えながら手を挙げ、長距離の杖による移動をしたにも関わらず余裕そうなカエデは軽々と手を挙げ、スイも跳ねている。おそらく肯定しているのだろう。

 

その日の晩は最近疲労続きのムコーダに代わり、カエデが料理をすることに。

 

「ムコーダさん、ネットスーパー借りるね」

「いいよ〜…」

 

カエデはネットスーパーの画面でとあるものを購入していく。そして火魔法で焚火を作り、火の勢いを魔法で調節しつつ網の上にやかんを置いた。

 

暫し待ち、お湯が出来上がったのでそれを例の物に注いでいく。そして三分後、調理は完了する。フェルもいるので多めに作ったその料理は…、

 

「出来たよ〜、やっぱりカップ麺と言えば〇清だよねー」

 

日〇のカップ麺であった。醤油味、シーフード味、カレー味、トムヤムクン味、味噌味……色々ある。

 

「なんだ?この前食べたスパゲッティとやらに似ているが…」

「あれの麺をスープにぶち込んだ料理だと思えばいいよ」

 

カエデは料理が出来なかった。いや、正確には努力はした。したのだが…

 

「まさか鍋が爆発して暗黒物質が出来上がるとはね」

「料理下手キャラのお約束全部やるとは思わなかった」

 

もはや努力のしよう無しと判断したカエデは、料理をする時は大人しく出来合いの物か誰でも作れるものにしか手をつけないと決めたのであった。

 

早速フェルはカップ麺を一口、器用にカップを咥えて口に流し込んだ。常人がやれば火傷不可避だが、伝説の魔獣にカップ麺の熱湯程度効くはずも無い。

 

「うむ…美味い。美味いは美味いが…塩っ気と味付けが濃すぎではないか?」

「ボク達散々ムコーダさんの料理食べてるからね〜。それに比べたら、もうカップ麺じゃ満足出来ないよ」

「それは嬉しいけど、カップ麺もたまに食べると美味いよな」

 

ほらスイもお食べ、と言ってからカエデはスイの口?に麺を近付ける。害のないものと理解しているスイは麺を食べ進めていく。

 

「あはは、おもしれ〜。どんどん消えてく」

「なんとなく不満気な顔をしている気がするけど…」

「好みじゃ無かったか〜……スイって味覚あるの…?」

 

やはり料理はムコーダがするべき。従魔達(約一名人間)は満場一致の答えを導き出した。

 

 

◻︎

 

 

次の日の朝、ムコーダとカエデは目を醒ます。なにやらフェルが真剣な表情をしていた。

 

「なんだ、早いなフェル…」

「なに珍しく真剣な表情してんの?」

「やっと起きたか」

 

「お主らに大事な話がある。身なりを整えてからそこに座れ」

 

寝ぼけた顔を水魔法のミニ水球で洗っていく2人。さっぱりした2人はフェルの前に正座した。なおスイはまだすやすや眠っている。

 

「な、なんだよ改まって。腹でも壊したか?」

「そんなわけがあるか」

「ダニでも付いた?」

「黙ってきかんか、たわけが」

 

「昨夜、女神ニンリル様から神託が下った」

 

フェルの言葉にきょとんとするムコーダに、眼を細めたカエデ。

 

「神託?それも女神の加護ってやつなのか?」

「うむ、時折夢という形をとって下さるのだ。お主は以前から神の加護が欲しいと切望していたであろう?」

「そりゃ、まぁ…」

「此度はお主のその思いを汲み、ニンリル様のお慈悲によりお主に加護を与えてもよいと、そう仰った」

「まじか!?」

 

驚愕するムコーダを他所に、なにやら訝しげな表情を浮かべるカエデ。

 

「……ふぅん、女神様がねぇ…」

「貴様にもあるぞ」

「ボクにも?……まぁ、タダって訳じゃないんでしょ?」

「ああ、条件がある」

 

週に一度、魔法使いカエデが吟味した異世界の甘味を祭壇に供え、祈りを捧げよ………そう、ニンリル様は仰っていた」

 

「…………何故に異世界の甘味?」

「…………なんでボク名指しなの?」

 

疑惑が一気に困惑へ移り変ったカエデは、腕を組んで頭を傾けた。

 

「さすがに我の様な大いなる加護は与えられぬとのことだが、神の加護(小)ならば可能であるとのことだ」

「(小)!?」

「神の加護にレベルあるんだ…」

「(小)とは言ってもその効果は絶大だ。即死効果や余程強い呪術でもない限り状態異常は無効化され、風魔法の発動も良くなるのだ」

 

「それは凄いけどさぁ…」

「そして最後に、くれぐれも週に一度の供えを忘れぬ様に。そう仰っていた」

 

ムコーダとカエデは顔を合わせ、お互い同じことを考えていると察した。

 

((…………甘味食いたいだけでは?))

 

「ニンリル様のお慈悲だ、心して受けよ」

「は、ははーっ」

「わぁい」

 

話が終わり、足を崩したカエデはフェルに問いかける。

 

「で、祭壇ってなに?祈りとかボク達知らないよ?」

「祭壇などは何でも構わん、極端な話、そこにある石を祭壇に見立てても良いのだ」

「条件緩いねぇ…いや、だからこそ信仰が途絶えないのかな」

「そうだ。祈りの言葉も形式も何でも良い。とにかく一番大事なことは気持ちを込めて祈ることのみだ」

 

「じゃあボクは供物を選別するから…祭壇はムコーダさんにお願いしていい?」

「任された」

 

カエデはネットスーパーを借り、甘味コーナーを見ていく。

 

「うーん、甘味と言ってもなぁ…」

 

指で画面をスクロールしていくと、甘味コーナーを終えて材料などの欄に移った。砂糖、牛乳、卵にバター………。

 

「最初だし、豪勢にしちゃうか?まぁ、作るのはムコーダさんなんですけど」

 

カエデはムコーダに相談し、今回の供物はシンプルかつもっとも親しまれているショートケーキにすることに。

 

「ボクは手伝うのやめとくよ…」

「お、おう……」

 

哀愁漂う背中を見せて立ち去るカエデに、苦笑いするしかないムコーダであった。

 

ムコーダがケーキを作っている最中、カエデは魔導書を読みつつ考え事をしていた。

 

「神の加護(小)かぁ……せっかくなら大いなる加護とやらが欲しかったなぁ……」

「贅沢を言うでない、我の様な存在だからこそ与えられるものだ」

「フェルって意外と信心深いよねぇ〜……………あ」

 

なにかを思い付いたカエデは、フェルの方に振り向く。

 

「フェル、供物ってさ、やっぱり直接食べるんだよね?」

「まあ、そうであろうな」

「てことは、こっちにある食べ物は消えて、女神様の所へ行くんだよね?」

「そうであろうな」

 

「てことは……ワンチャンあるぞこれ」

 

カエデは魔導書を閉じ、紙とペンを取り出してなにかを書いていく。そして書き終わったメモをムコーダの元に持っていく。

 

「ムコーダさん、ショートケーキ乗せるお皿ってこれ?」

「え?そうだけど」

「おっけ、ありがとう」

 

カエデはメモを皿の裏にセロテープでくっ付けた。もちろんこのセロテープもなにかに使えるかと思ったカエデがネットスーパーで購入したものである。しかし今まで出番が無かったセロテープが、まさかの活躍を見せる。

 

ムコーダの料理が終わり、ダンボールで作った祭壇の上にショートケーキとついでに紅茶を乗せる。その祭壇の前に二人は正座し、手を合わせる。

 

「風の女神ニンリル様、ご希望のものをお供えしました。これに合う紅茶もどうぞ、つきましてはどうか私達に神の加護をお与えください…」

「さーい」

「マジメにやらんかど阿呆」

 

すると瞬く間にケーキと紅茶は光となり消えた。どうやら転送されたらしい。

 

そして……二人の身体が発光する。

 

「うおっ!?な、なんか凄そうじゃない!?」

「こ、これは……!?」

「……どうやら上手くいったみたいだね」

 

カエデは自分のステータスを確認する。そしてそのスキル欄には、【風の女神ニンリルの大いなる加護】と、フェルと同等の加護が授けられていた。

 

「あ、あれ!?(小)って話じゃなかったっけ!?」

「ど、どういうことだ…!?」

 

これには流石のフェルも慌てふためくも、仕込んだ本人であるカエデはしたり顔でステータス画面を見ていた。

 

「ふふっ、女神様のお慈悲なんじゃない?」

 

 

◻︎

 

 

そして神界へ。水盆の近くに置いてあるテーブルにお皿に乗ったケーキと紅茶が光と共に現れ、それに怒涛の勢いで食いつく女神。

 

「おおっ!これが話しておったショートケーキか!なんと神々しい…そしてなんと甘い匂いなのじゃ…!」

 

女神が神々しいとはこれ如何に。しかしそんなことは一切気にせず早速フォークを取り出した女神ニンリルはケーキを一口。

 

「……ああっ……」

 

思わず涙を流し、項垂れる女神ニンリル。ショートケーキ、その甘美なるデザートに心の底からこう思った。

 

「女神やってて良かった……」

 

そこからは止まるはずも無く、ケーキを一口、甘さ控えめの紅茶も交えてたその無限ループは女神に時を忘れさせる程だった。

 

「ああ……もう無くなってしもうた……しかし、しかし……なんと素晴らしき時であったか……」

 

女神ニンリルは思わず皿を天に向けて捧げた、今いる場所が天であることを忘れて。

 

「……む?皿の裏になにかある…?」

 

そしてカエデが仕掛けた細工に気が付いた女神ニンリルは、そのメモを読んでいく。読んでいくにつれて、プルプル震え出す女神。

 

「な、なんじゃと……!?」

 

メモには、こう書かれていた。

 

 

拝啓、風の女神ニンリル様。堅苦しいのは嫌いなので挨拶だけにするけど、ケーキは美味しかった?異世界にはこれ以上にもっと甘くて美味しいものが沢山あるよ。そこで相談なんだけど、週に一度の供物を三日に一度にするし、内容もケーキ以上の豪華なものにするから【大いなる加護】とやらをボク達にくれない?くれないってんなら供物は週に一度だし、内容もまぁそれ相応のものにするけどね。考えてみて。あ、そういえば今日はガトーショコラというケーキより甘いものをおやつに食べます。羨ましかろう?

 

 

「な、ななななななんじゃとぉ!?め、女神である妾に取引とな……!?」

 

不敬が過ぎる手紙に思わずメモをビリビリに引き裂いたあとカエデ本人もビリビリに引き裂いてやろうかと一瞬思考した女神ニンリルであったが、ハッとなりケーキが乗っていた皿に目を向ける。

 

「ケ、ケーキ以上…?こ、これ以上があるというのか…?」

 

女神は今までの女神生の中でもっとも集中して思考した。大いなる加護なぞ与えれば()にバレる可能性がある。それは避けたい。しかし、しかし…………と。

 

「………………バレなければ良いのでは?」

 

神は死んだ。甘味に屈した女神はちょちょいと細工をして【大いなる加護】を2人に授けたのだ。

 

「これがバレれば妾は折檻間違いなし……だが……だが……!それもこれも!!」

 

女神ニンリルはお皿を抱きしめ、天に向かって叫んだ。

 

 

「異世界の甘味が美味し過ぎるのがいけないのじゃーっ!!」

 

 

かくしてカエデの策略により無事?加護を授かった2人……しかし、そんな女神ニンリルを見る影が三つあることに、女神ニンリルは気付かなかった……。





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