とんでもスキルで異世界放浪メシ【イレギュラーな少年を添えて】   作:一般通過炎竜

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第14章『命の洗濯、心の洗濯』

 

「コイツを…ちょいちょいっとやって…あとはこっちに引っ張れば…」

『なにしてるのー?』

「お、スイ。丁度いい時に来たね」

 

スイが喋れる様になってから数日、薄暗い森の中でムコーダ一行は休憩を取っていた。ムコーダが女神への供物を作っている最中、暇にさせられたカエデはとあることを試していた。

 

「この魔力を、スイに引っつけて…」

『なになにー?』

 

魔力が宿っている人差し指を、カエデはスイにぷにっとくっつけた。その後、その人差し指を自分の耳に持っていく。

 

『あー、あー、スイ、聞こえる?」

『えー?きこえるよー?』

「よっし成功!スイの可愛い声がちゃんと聞こえる!」

 

カエデはスイを持ち上げてぷにぷに頬らしきところをこねくり回す。それを見ていたフェルが口を開いた。

 

「貴様、スイの声が聞こえる様になったのか?」

「女神様の神託に念話。女神様の方はともかく、魔獣契約の念話は常に主へ繋がっていて、かつどっちも魔力が使われてる事は分かってたからね。魔力が繋がってるところをちょいっとボクの魔力に繋げて回線に入り込んでるって感じ。改善点を上げるとすれば、これは回線侵入だから念話じゃなくて直に話さないといけないところかな」

『カエデおにいちゃんすごーい』

「そうでしょ?ボクって実は天才なんだよ?」

 

わーいとカエデはスイを持ち上げて自分を中心にくるくる回る。

 

「ふむ、念話に対しての侵入か…確かに聞いた事はないな」

「なになに、なんの話?」

 

カエデは調理を終えたムコーダにもスイの声が聞こえる様になったことを告げ、それを聞いたムコーダは素直に感心した。

 

「へえ、凄いなカエデくん!」

「ふふーん!」

 

渾身のドヤ顔をかますカエデに、フェルは呆れた顔になる。

 

「全く、貴様はもう少し慎ましく喜ぶことが出来んのか」

「そんなことしたってなんの特にもならないしね〜」

「さようか」

 

フェルは興味無さげに立ち上がる。ムコーダの後片付けが終わったのを確認したのだ。

 

「よし、休憩は終わりだ。さっさとこの森を抜けるぞ」

「お〜」

『おー!』

「俺そんなに休憩してないんだけど…まぁいいか、走るのはフェルだし」

 

フェルの背中にムコーダ、杖に乗ったカエデ。この定番となった配置に、今回スイはムコーダの鞄の中に入った。今日はそっちの気分らしい。

 

「では出発だ」

「今日は気分良いし、飛ばすか〜」

「俺はゆっくりでいいからな?フェル、わかってるな?」

 

ムコーダの言葉を無視していつもより少し早めに走行するフェルだった。

 

「も〜〜!!速いから怖いんだって〜〜!!」

「アハハ、たまにはコッチに乗る?」

「杖の方が怖い〜!!」

 

ムコーダの絶叫は森中に響き渡るのであった。

 

 

◻︎

 

 

しばらく走行して、だんまりになっていたフェルが口を開いた。

 

「現れたか」

「え、なにが?」

 

フェルは足を止め、ムコーダを引きずり降ろした。

 

「ぐえっ!?な、なにすんだ……よ?」

「これは……」

 

一行の前には、二つの頭を付けた巨大な犬のモンスター。【オルトロス】達の姿があった。口からは涎を垂らし、その眼光はただただ獲物を見据えていた。

 

「イヤーッ!?」

「文献で見たモンスター!オルトロスってこの辺ナワバリなの?」

「そうだ。説明が面倒で言わなかったが、ここら一帯はオルトロスとグリフォンのナワバリだ」

「グリフォンもいるんだ」

 

オルトロスの群れから一際大きいオルトロスが現れ、フェルの前に立ち塞がる。まるでフェンリルを恐れていないかの様だ。カエデは冷静にオルトロス達を鑑定していく。

 

「でも…レベルは47、固有スキルも無さそう。フェルに挑むにはちょっと無謀じゃない?」

「ふん、恐らく若いボスなのだろう。我に挑む事でその格を上げる腹積もりであろうが…」

 

「愚か者が」

 

フェルの威嚇は、ボス以外のオルトロスに強く効果を発揮した。それでもボスのオルトロスは血気盛んにフェルに飛び掛る。恐れ知らずなのか、それともただの蛮勇か。

 

「ふん」

 

それに答えるようにフェルは前足を軽く振るう。すると、ボスのオルトロスはなにか鋭い物に切り裂かれた様に三枚おろしにされた。悲鳴を上げる暇も無い速さの絶命であった。

 

その技の名を『爪斬撃』。フェルが600年以上前に編み出した技であり、魔力を込めた爪による飛ぶ斬撃である。今回はその簡易版といったところか。

 

子分のオルトロスはフェルの凄まじさに完全に戦意喪失し、尻込みしている。中には涙目になっている個体までいる始末だ。

 

「散れ」

 

フェルの威嚇に、今度こそオルトロス達は走り去っていった。

 

「……殺さないの?」

「たわけ。ああすればこのことは群れ全体に伝わる。余計な喧嘩を売られずに済むという訳だ」

「へぇ、なんか意外。フェルの事だから戦いバッチコイかと思ってた」

「普段であればな、しかし今は森を抜けるのが先決。腹も減ったしな」

「結局それかい…」

 

何事も無かったかの様に振る舞う二人に、ムコーダはスイを抱えて口角をヒクヒクとさせている。

 

「なぁスイ、俺の感覚がおかしいのか?普通こうなったら助かった〜ってならない?なるよね?」

『スイ、びゅっびゅしたかった〜』

「そっかそっか!…………俺に味方はいないのか?」

 

釈然としていないムコーダを再び背に乗せ、一行は森の更に奥地へ。そこで、フェルがなにかに気が付いた様だ。

 

「……臭うな」

「臭う?……俺、そんなに臭うかな?」

「ムコーダさん、やっぱりお風呂入ったらはスキンケアとか体臭ケアとか大事だって。男だからそういうのいらない訳じゃ全く無いんだよ?」

「でもめんどくさくてさぁ……カエデくん、良くあんなの毎回出来るよね」

「こちとら今をときめく現役男子高校生だったんだぜ?まあ異世界来て中退扱いだけど、身だしなみには女の子レベルでうるさい自覚あるよ?ボク」

 

「貴様らのことでは無いわ。気付かぬか、このにおい」

「んー……?すんすん……っ!ムコーダさん、これって!」

「ああ、もしかするとだ!フェル、このにおいの元に行ってくれ!」

「なに?断る、こんなにおい鼻が曲がって仕方がな…」

「今日のフェルの分の肉、増やすから!」

「分かった、しっかり掴まっておれ」

 

一行はにおいの元へ急接近。近付く度にそのにおいはどんどん強さを増し、心做しか周囲が暖かく感じる様になってきた。

 

そして、一行の前に姿を現したのは…

 

「「温泉だー!!」」

『わぁーい!』

「やはりか……」

 

しかめっ面のフェルを差し置いて、大手を振って喜ぶ二人。よく分かっていないスイも一緒になって喜んだ。何故なら二人と一緒に喜びを感じたいからだ。

 

「やっぱり硫黄の匂いだったんだ!」

「こりゃ入るっきゃないねー!水質も鑑定で見た限り問題無いし、いい加減、ほんっっっっとにいい加減お風呂入りたかったし!!!」

「カエデくんここ最近毎日それでイラついてた時あったしね…」

 

現代っ子のカエデに野宿&風呂無しはかなり堪えるものがあった。水魔法と火魔法の組み合わせによるシャワー擬きは出来たが、魔法を維持するのには神経を使う。それに対して風呂はゆっくり全身を湯に浸かり思考を停止させるので、身体にも美容にもどちらが良いか明白であった。

 

「ま、それはそれとして髪を洗うお湯作んなきゃね〜、あ!ムコーダさんネットスーパー開いて!シャンプーとリンス新調するから!良い機会だし高くても良いやつ買うよ!リンスインシャンプーとか論外だからね!」

「はいはい……」

 

言われるがままにネットスーパーで要望の物を購入していくムコーダ。それを見ていたフェルはため息を付いて立ち上がる。

 

「我は必要無い。結界は貼っておくから好きにし…」

「は?フェルも洗うに決まってんじゃん。別に湯に浸かれとは言わないけどさ」

「なにを言うか、これでも毎日毛繕いは…」

「うるせぇ入れ」

「ぐぬ……」

 

実際問題フェルはそこまで臭わない。むしろこんなに外で活動している割にここまで臭くならないのはひとえにフェルの日頃の毛繕いのお陰だろう。しかし清潔魔人には言い訳は通用しない。

 

「とりあえずボク達の前にフェルを洗っちゃおう。その方が色々手間が省けるし」

「あ、じゃあこのシャンプーとか使って良いよ」

「おっけー。……(これ犬用シャンプーだよね)」

「(しーっ)」

 

無言で目配せしあって察したカエデは水魔法の応用で温泉のお湯を球体として持ち上げ、フェルの頭上に維持。シャワーの様に流し始めようとするもフェルに止められる。

 

「分かった!大人しく洗われてやるから、その温泉でやるのは勘弁してくれ!普通のお湯を使うのだ!匂いがうつったらたまらん!」

「えー?せっかくの温泉なのに……しょうがないなぁ」

 

カエデは温泉を戻し、水魔法で清潔な真水の球体を生成、火魔法でお湯にしてフェルの頭上に展開。シャワーの様に流していく。

 

「毛が多いから大変だなこりゃ…」

 

流し終えたカエデはシャンプーをフェルの身体全体に勢い良くかけていく。フェルは巨体な為、合計で三本も使い切った。

 

「じゃあボクはこっち側やるから、そっち側はムコーダさんがお願い」

「よっし、任せろ!」

「早く終わってくれ……」

 

びしょびしょになりすっかりしょぼくれているフェルの全身を二人はくまなく洗っていく。泡まみれになれば水魔法の球体から的確にお湯が流れ出て洗い流していく。

 

「お痒いところ御座いませんかお客さま〜?」

「はよおわれ……」

「フェルがスイみたいになった……」

 

カエデは全身モコモコになったフェルを、顔以外をお湯の球体で包み込み、風魔法の応用で球体内を洗濯機の様に洗い流していく。

 

「お、おお?これは中々面白い…」

「でしょ?いやぁ思いついたんだけど先にフェルで実験出来て良かった良かった」

「貴様いまなんと言った?」

「気の所為ですよお客さま〜?」

「わぷっ!?貴様、顔をやるなら先に言え…!」

 

フェルの顔に向かって優しくシャワーで洗い流していく。洗濯も終わり、びしょびしょのフェルを火魔法と風魔法の応用でドライヤーの様にフェルを乾かしていく。

 

「おお……初めて貴様と行動を共にして良かったと思っているぞ」

「そりゃどういたしましてー」

 

不機嫌気味に口を尖らせてジト目になるカエデだったが、ムコーダにはそれが照れている顔だとバレていた。

 

ドライヤーも終わり、フェルの全身の毛がふわっふわになった。本人は洗い流された身体に何処か落ち着きが無いが、スッキリしたのは確かであった。

 

「ふむ、これならば週一でやっても良いな」

「あ、言ったね?じゃあ明日もやろっか」

「毎日とは言ってない!」

「聞こえませーん」

 

カエデは騒いでいるフェルを置いて自分の装備や服を脱ぎ、すっぽんぽんになった後に長い茶髪をタオルで纏める。女性の様なスラッとした身体に一瞬ビックリしたムコーダだったが、カエデが男であると再び自分に言い聞かせたのであった。

 

「行くぞ〜スイー!」

『きゃ〜!』

 

スイを抱えて温泉に飛び込むカエデ。底が石や砂利だらけだったら大怪我するが、事前に土魔法で軽くならしたので問題は無かった。

 

「は〜〜〜〜………………さいこう」

 

思わず表情まで蕩けるカエデ、続いてムコーダも温泉に浸かった。

 

「あ゛〜……確かに、これは最高だ…」

「ムコーダさんおじさんくさ〜い」

『おじさんくさ〜い』

「うぐっ!?カエデくんはともかくスイまで…!?」

「たぶんスイはいみわかってないよ〜ボクのことばくりかえしたただけで〜…」

「溶けすぎ溶けすぎ、読みにくいから」

「へへへ」

 

ゆったり浸かっていると、カエデは立ち上がりタオルでくるんでいた髪が蒸されてきたので解いて外気に晒す。その長く綺麗な髪を見てムコーダは問いかけた。

 

「カエデくん、なんでそんなに髪を伸ばしてるの?オシャレ?」

 

その言葉に、カエデは振り向かず髪を弄りながら答える。

 

「んー?…それもあるけど」

 

その指は愛おしげに、しかし確かな意思がある様に。表情は儚げに、しかし確かな決意がある様だった。

 

「母さんの形見だから、かな」

「──…そっか」

 

ムコーダはそれ以上何も聞かなかった。言いたくなれば自分から言うだろうし、それ以上聞くのは野暮だと思ったからだ。

 

しばらく温泉を堪能した三人は湯から上がり、魔法ドライヤーで全身を乾かした。着替えも済み、事前に敷いていたシートと毛布の上でカエデとスイは牛乳を、ムコーダはビールを呑む。

 

「っかー!風呂上がりはビールに限る!」

「やっぱりおじさん臭いよそれは」

『ぎゅーにゅーおいしいねぇ』

「そうだな〜スイ〜……カエデくんは、お風呂上がりのケア?」

「ムコーダさんもちゃんとやりな〜?じゃないと顔とか身体シミだらけになるよ〜?モテないよ〜?一生未婚だよ〜?孤独死だよ〜?床のシミになるよ〜?」

「飛躍し過ぎでしょ!……………し過ぎだよね?」

「……………………」

「なんとか言って!?」

 

その後、カエデに一通りのケアを教わったムコーダであった。





とりあえず漫画版最新話当たりまで書けたらいいなと思ってます
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