とんでもスキルで異世界放浪メシ【イレギュラーな少年を添えて】 作:一般通過炎竜
久々の入浴を楽しんだ一行は、身支度を済ませ次の冒険に備えていた。そこで、フェルが何かを見つけた。
「おい、ちょっと来てみろ」
「なに?」
フェルに案内された場所へ着いていくと、そこには淡く光るキノコがあった。というより、その群生地だ。薄暗い森の中に淡く光るキノコ達がまるで星々の様に輝いている。
「なんだか久々に異世界に来たのを実感するね」
「ここ最近移動ばっかりだったしな」
俺達は?とモンスター達の抗議の声が聞こえた気がするが、もちろん彼らには聞こえていない。
「ここら一帯に生えている光るキノコは、『ヒーリングマッシュルーム』と呼ばれるキノコだ。薬の材料にもなるが、そのまま食ってもそれなりの回復効果がある」
「具体的には?」
「深い切り傷や骨折が治る」
「それなりとは言わないでしょそれ」
いつくか取っていくことにした一行。その際、カエデとムコーダは鑑定を駆使して食べられるキノコも採取した。
「キノコの炊き込みご飯とか」
「お吸いものもいいなぁ」
「いっそのことそのまま焼くとか」
「お刺身だっていい」
「……なぜ奴らはたかがキノコであれだけ興奮出来るのだ」
『フェルおじちゃん、キノコたべていいー?』
「いいぞ」
『わぁい』
二人はキノコ採り、スイはヒーリングマッシュルームのビュッフェを楽しんだ。フェルは興味なさげにウトウトしている。
「よーし、これだけあればいいでしょ」
「そうだな…………ん?」
そこで、急にスイが発光し始める。その光はヒーリングマッシュルームが放つ淡い光を強くしたもののようだ。
「スイ!?」
「なんだなんだ?」
その光が収まると、そこにはケロッとしたスイがいた。カエデはスイに対して鑑定を発動させると分かったことがある。
スキルに【回復薬生成】というものがある。これはその名の通り、ポーションなどで呼ばれる回復薬を作ることが出来るスキルだ。
「我も長いこと生きてきたが、回復薬を作ることが出来るスライムは初めて聞いたな」
「特殊な個体かもって前にいってたもんね、スイってスライムにある学習能力が特に秀でている個体だったりするのかな」
『どういうことー?』
「スイは特別で最高にいい子って事だ!」
ムコーダはスイを抱き抱えてまるで自分の事のように喜ぶ。主が喜べばスイも喜ぶ。幸福の循環が出来上がっていた。
「スイ、試しにこの水筒に回復薬作って入れてみて」
カエデがスイに届きやすい様に地面に置いた水筒の飲み口に、スイは触手的な腕をちょろっと伸ばす。スイは、うーんうーん、と唸っている。暫く待つと先端からチョロチョロとヒーリングマッシュルームと同じ淡い光を放つ液体が流れ出てきた。
「おー…本当に回復薬だ。鑑定でも間違いないよ」
「スイ凄いぞ!お手柄だ!」
『えへへ〜』
「回復薬なら魔導具店でいくつか見た事あるけど、置いてあったどの回復薬よりも高品質だね。ムコーダ印の商品が増えたってことでいいんじゃない?」
「スイ、回復薬作るのに負担があったりしないか?」
『ふたん?』
「疲れたり、気持ち悪くなったりしないかって事だよ」
その言葉に、スイは否定する。試しにカエデがステータスを見ながら回復薬を作ってみせると、スイの魔力が僅かに減少したのが分かる。
「あくまでスキルだからね、使えば使うほど魔力を消費していく……けど、スイめちゃくちゃ燃費いいね。回復薬三本作ったところで大して減ってないどころか、魔力の自然回復の方が早いから生成程度で魔力切れってとこにはならなさそう」
「凄いぞ〜スイ〜」
『えへえへえへ』
すっかり蕩けた顔でスイを撫でくりまわすムコーダであった。
◻︎
それから数日、オルトロスのナワバリを抜けた一行はグリフォンのナワバリ…の手前にある大きな湖に辿り着いた。
「迂回しなきゃだなぁ」
「お主が乗っていなければひとっ飛びで渡れたのだがな」
「それを言うなよ…」
そう言って迂回しようとする二人に、カエデが待ったをかける。
「お二人さん、ここにウルトラ天才魔法使いがいることをお忘れで?」
「ウルトラと天才は余計だろう」
「必要なんだよなぁこれが」
カエデは湖に向けて杖を構える。すると杖の先端から冷気が溢れ出し、杖を中心に極低温の環境が出来上がっていく。
「さ、寒っ!?」
カエデは杖の先端を湖の水面に近付け、魔法を発動。するとみるみるうちに水面が凍っていき、その氷は自立し始める。結果、アーチ状の氷の橋が出来上がった。
「さ、これで渡れるよ」
「ご苦労」
「カエデくん凄い!」
『カエデおにいちゃんすごーい!』
「はっはっはどんどん褒めたまえよ」
鼻高々に胸を張るカエデを他所に、フェルはスタスタと橋を渡っていった。
湖を渡り初めてから数分後、氷の橋の影響か霧が出始めた。辺り一面霧で覆われ、カエデは見えやすい様に火魔法と氷魔法の応用で冷たい青い炎を作り出し照明代わりにする。
「凄い霧だね…」
「貴様の魔法の影響もあるが、それにしても異常なまでの霧だ。……これは、もしや……」
フェルの予想は的中。湖の中心に差し掛かったあたりで、地響きが起こり始める。ムコーダが滑りそうになったので服の襟元を咥えて持ち上げた。
「た、助かった。フェル」
「構えろ、来るぞ」
湖の中心の水面がどんどん黒くなっていく。水位も上がっていき、とてつもない大きさのモンスターが姿を表した。
《クォォォ──ッ!!》
恐竜で言えば首長竜の様に長く強靭な首、鋭い牙、ムコーダはその姿に見覚えがあった。かつてUMAとして世界中で知れ渡ったあの怪物──。
「ネッシーだぁぁぁっ!?」
「いや、あれは【オルムル】だ。気を付けろ、奴は貴様らにとってはそこそこ手強いぞ」
「ホントだ、レベル358…オルトロスが可愛く見えるね」
興奮気味のムコーダは頭に冷水でもかけられたかの様に冷静になった。
「まぁ、ボク達に襲いかかるのはよした方が良かったけどね」
カエデは氷の橋から飛び降りた。ムコーダの焦った様な声が聞こえた気がしたが、カエデには届かない。
カエデは杖に乗り水面を杖で撫で斬りながらオルムルへ接近。オルムルはカエデに向かってその巨大な顎を食らわせようとするも、杖の高速移動により回避される。
カエデはオルムルの周りをぐるっと一周し、オルムルの目の前でサーフィンの様に杖の上に立ち、両腕に付けた魔導篭手を前に構える。
「『フリーズプリズン』」
オルムルの周りからカエデが仕掛けた魔法陣が展開。巨大な氷の柱が形成され、柱から水魔法で噴出した水で柱同士を繋げ、どんどん凍らせていく。あっという間に氷の檻に閉じ込められたオルムルは潜って回避しようとするも、檻は水中にまで伸ばされていた。
オルムルは檻にその巨体で突進を繰り返すも、檻はビクともしない。
カエデは理解していた。遠隔で発動した魔法では強度と生成速度がオルムルの巨体に負けてしまう。故に杖で移動し水面に直に魔法陣による魔法を発動。魔法陣で発動する魔法は強固な魔法となり、オルムルの巨体とそこから繰り出される質量攻撃に耐えられる様になったのだ。
「水中に逃げ込まれたら面倒だったからね」
カエデは最後に、指を鳴らす。オルムルの頭上から目も眩む様な閃光が溢れ出し、その光は稲妻の嵐となって降り注ぐ。
「『ライジングレイン』」
逃げ場の無いオルムルは豪雨の様に降り注ぐ落雷に為す術なくその身を焼き焦がしていく。しかしさすがは高レベルのモンスター。落雷にどんどん耐えうる魔力を身体に巡らせていき、更に自然回復を早めて傷を癒していく。
「悪いけど、もう勝負は決まってるんだよね」
それを見たカエデは焦りも緊張もせず、最後の魔法を繰り出した。
「『メテオストライク』」
頭上の閃光を砕く様に現れたのは、土魔法で生成した巨大な岩石。更にその岩石を火魔法で溶解させ熱石爆弾として作り上げた。それをオルムルの頭上へ落下、その巨大な質量は自然落下と魔力ブーストによって威力とスピードを増し、落雷で瀕死気味のオルムルへ致命的なトドメとなった。
爆発の風圧で檻は壊れ、霧が一瞬にして晴れる。氷の檻に閉じ込められ絶命したモンスターと、穏やかで綺麗な湖が太陽の下に晒された。爆発によって砕け散った氷が太陽の光を反射し、破壊的で美しい光景を作り出している。
「う、うわぁ……」
「ほう……中々やりおる」
もうそろそろ良いかも知れんな、と思ったフェルは不敵な笑みを浮かべていた。カエデはオルムルの死体を回収後、何事も無かったかの様に氷の橋まで飛んで戻ってきた。
「レベル358ってこんなもんか」
「おそらく外敵が殆どいない湖で長年過ごしたせいであろうな。奴からは敵意こそ感じても殺意があまり感じられなかった」
「そうなの?」
「まさに井の中の蛙…いや、竜か。死ぬ直前まで貴様のことを餌としか思っていなかったのであろうよ」
「だからフェルがいたのに襲いかかって来たんだ……まぁ反撃らしい反撃も無かったし、ぶっちゃけただのデカイ的だったかな」
「……話についていけないや」
『あるじ、だいじょうぶー?』
「大丈夫だぞ〜」
ムコーダがスイを甘やかしていると、カエデが話しかけてくる。
「ところでムコーダさん」
「ん?」
「ネッシーってなに?」
【今回の戦績】
水竜オルムル(レベル358)
・死因はメテオストライクによる圧死
ムコーダ(レベル7)
・死因はジェネレーションギャップ