とんでもスキルで異世界放浪メシ【イレギュラーな少年を添えて】 作:一般通過炎竜
午前中に繰り広げられたカエデとスイのクエスト攻略という名の通り魔的銃弾爆撃が終わり、そのお昼。クエスト報告をしに冒険者ギルドへふたりは戻ってきていた。
しかしカエデが受付にて報告証拠であるゴブリンの耳やその他魔物の一部を提出した途端、冒険者ギルドはひっくり返って大忙し。カエデは受付にてスイを抱えながらポツンと椅子に座って待っていた。
「なんか…忙しそうだねぇ」
『みんな走ってる〜』
原因であるふたりは呑気にポケーっとしていた。そこに、汗をかいた受付嬢がやってくる。受付嬢は息も絶え絶えにふたりに話しかける。
「あ、あのっ、カエデさま!ギルドマスターがお呼びですので、ご一緒に来ていただけませんか?というか来てください!」
「お腹空いたんだけどなぁ…」
『あるじのごはん食べた〜い』
ふたりは渋々受付嬢に着いていく。呑気に歩くふたりに若干イラつきながらも受付嬢はギルドマスターがいる奥の部屋に案内した。
受付嬢が扉を開けると、そこには初老の男性が座っていた。彼こそカレーリナ冒険者ギルドのギルドマスターである。
「ギルドマスター、お連れしました」
「おう、下がっていいぞ」
受付嬢はカエデとスイが入室したのを見送り、扉を閉める。
「お主がカエデだな?」
「うん」
「報告によると、大量の魔物を狩ってきたそうだが」
「ゴブリンの集落とか、その辺にいた目標、あと鉱山でね」
ギルドマスターはカエデの報告が腑に落ちないそうで、質問を続ける。
「とてもじゃないがGランク冒険者とは思えん。そこで噂なんだが、お主はムコーダという商人、そして伝説の魔獣であるフェンリルと共に行動しておるそうだな?」
「あ、フェルのことバレてるんだ?」
「ギルド間では転送魔法による連絡手段があるからな、そういう噂や情報はすぐに伝達されるのよ」
転送魔法、という単語を聞いた瞬間カエデの目付きが鋭くなる。それを見たギルドマスターはくつくつと笑う。
「なに笑ってんの?」
「いやなに、やはり、と思ってな」
「お主、フェンリルが狩った魔物を持ってきたのだろう?それならこの大量の報告も納得がいく。駄目だぞ?そのようなズルは。ムコーダが冒険者ギルドに属している冒険者ならともかく、実質無関係の従魔を使ってはな」
「……は?」
そう聞いた途端、カエデの機嫌が悪くなる。ギルドマスターの判断は無理もない、なにせカエデが持ってきた魔物の遺骸はどれもがGランク冒険者単騎では返り討ちが必定の魔物ばかりだからだ。
これが、例えば別の冒険者を使った、などならカエデは冷静にいられただろう。しかしフェルをダシに煽られてはカエデのプライドはズタズタである。なにせカエデにとってフェルは乗り越えるべき壁であり、本人は認めないが師でもあるからだ。
「なに、そう怒るな。だがクエスト報告を詐称するのは結構な重罪でな。そこでお主には証拠を示してもらいたいのだ」
「証拠?」
「そうだ、お主には今この冒険者ギルドにいるとある魔法使いと模擬戦をしてもらう。その冒険者のランクはE、お主が持ってきた魔物の中での最高ランクだ。魔物と冒険者の実力はそう簡単には比べられないが……お主なら余裕だろう?」
ギルドマスターはカエデを焚き付ける。なぜなら冒険者という存在は国を超越した存在、簡単に詐称されてはメンツに泥を塗りたくられるのと同じだからである。
それはカエデも理解していた。目の前のギルドマスターは仕事をしているだけだと。しかし、それでも、分かっていても腹ただしいものは腹ただしいのだ。
「いいよ。いつやる?今からでもいいけど」
「その意気やよし!ならば始めよう、おい!ノースを呼んでこい!」
「た、ただいま!」
部屋外で待機していた受付嬢がパタパタと足音を立てて遠ざかっていく。ギルドマスターは立ち上がり、窓から見える訓練場を指差す。
「模擬戦はあそこでやる、お主も行け」
「はいはい」
カエデは窓に近付き、魔力を操作して窓を開ける。ヒョイっと窓枠に乗ると、ギルドマスターは慌ててカエデを止める。
「お、おいおい!ここは四階だぞ、威勢が良いのは認めるが扉から…」
カエデはギルドマスターの言葉を無視し窓から飛び降りる。ギルドマスターは手を伸ばしてカエデを掴もうとするが、カエデは杖に立ち乗りしながら訝しげにギルドマスターを見る。
「なにしてんの?」
「な、が、…!?お、お主、飛んで……!?」
「?……早く呼んでよね、ノースだかムースだかをさ」
そう言って、カエデはスイを抱えたまま訓練場まで飛んでいく。それを、ギルドマスターは驚愕した表情のまま見送った。
「飛行魔法、だと……!?」
◻︎
カエデが訓練場に着いてから数分後、ギルドマスターと何人かの冒険者。そして魔法使いが良く使用するローブを着込んだ化粧濃いめの女性が現れる。
「貴方がカエデ?」
「そうだけど、あんたがムース?」
「ノースよ!貴方に恨みはないけど、ギルドマスターの命令じゃあね。悪いけど、怪我してもらうわよ」
「こわ〜、お姉さん彼氏いないでしょ。なんかキツそうだし」
「こ、この小娘……っ!」
図星をつかれて苛立ったノースは杖をカエデに向けて挑発する、それをカエデは杖すら構えず棒立ちで見据えていた。ついでに言うと、スイは近くのベンチで受付嬢の膝上でのんびりしている。
ギルドマスターは両者の間に入る。
「では、俺が審判をやらせてもらう。両者構え!」
お互い距離を取り、ノースは杖を構える。カエデは何も構えない、未だに棒立ちを維持し続けている。
「調子に乗って…!」
プライドを傷付けられたノースは、杖を握る力を強くする。そして、ギルドマスターは上げた手を下げる。
「始め!!」
合図を聞いた瞬間、ノースは杖に魔力を集中。唱える魔法は、彼女が扱える中で最も信頼がある魔法。
「『ストーンバレット』!!」
土属性を得意とする彼女が放つストーンバレットは、ムコーダの石礫とは訳が違う。大量に展開された石礫はカエデに回避の余地を与えることなく襲いかかる。それを見たギルドマスターや冒険者はノースに待ったの声をかける。
ギルドマスターはノースに調子ついている若者に厳しさを教えるようにと頼んでいた。なぜならそういう冒険者ほど早死するからだ、ギルドマスターはカエデの実力は最初から疑ってはいなかった。
しかし年齢的に世間知らずの子供魔法使い。ギルドマスターはカエデを説き伏せる手段としてこの模擬戦を選んだのだ。
「待てノース!冒険者というものを教えるだけで良いと言った筈だ!!」
「お前のストーンバレットはオークすら仕留めるんだぞ!?」
挑発されたノースは、それでも冷静だった。カエデに放ったストーンバレットは急所には当たらないように調整されている。いくら人としての彼女の図星をつかれようとも、冒険者として矜恃が彼女にはあった。
それを、カエデは木っ端微塵に踏み砕く。
「『アイシクルウォール』」
カエデが唱えたのは、氷魔法による防壁展開。分厚い氷に石礫は阻まれ、ストーンバレットは完全に無駄打ちに終わる。更に付け加えるなら、防壁には傷ひとつすらない。
「なんだ、今の展開速度は…!?」
他の冒険者達は本当に目の前にいる子供はGランク冒険者なのかと疑い始めた。それは、カエデを目の前にしているノースも同じ。
突然、目の前の防壁が砕け散る。カエデが魔法を解除したのだ。ノースは杖を構えるも、既に遅かった。既にカエデはノースに向けて人差し指を向けていた。
「『アイススパイク』」
それは、氷の杭を相手に飛ばす魔法。特徴となるのはその弾速と貫通力。熟達の魔法使いなら岩すら貫通してみせる。
土魔法には『ストーンウォール』と呼ばれる防壁を展開する魔法がある。しかし、彼女の実力ではアイススパイクを防ぐには展開速度が足りない。
誰もが彼女の重傷を覚悟し目を細める。回避する手段すら持ち合わせていないノースも、顔の前で腕を組んで頼りの無い防御をするしかない。
「……?」
しかし、いつまで経ってもノースは無傷だ。それもそのはず、アイススパイクはノースの目の前で冷気を放ちながら静止していた。
「魔法の、軌道制御…」
通常、発射した魔法による投射物はなにかにぶつかるまで止まることは無い。しかし現にカエデは制御してみせている。
「あ、あら?」
気付けば、ノースの前からカエデが消えていた。
「はい、おしまい」
「───っ!?」
飛行魔法による高速移動でノースの背後に回ったカエデは、その冷気を放つ杖の先端をノースのうなじ付近に触れさせていた。ひんやりとした殺気に、ノースの戦闘の意思は完全に砕かれていた。
(見間違いなどでは無かった。やはりあの小娘、『失われた魔法』を…)
ギルドマスターは冷や汗をかきながら、それでも審判としての役割をこやす。
「勝負あり!双方魔力と杖を収めよ!」
そう言われたカエデは杖を下げる。腰が抜けたノースは地面にぺたりと座り込んだ。それを見たカエデは心配そうに声をかける。
「……大丈夫?当ててない筈だけど」
立てる?とカエデはノースに手を差し伸べる。ノースは震えた手でカエデの手を掴むと、その冷たさに恐怖しながらも無事立ち上がる。
「ごめんね、イラついてたとは言え変なこと言っちゃって」
「い、いえ……私こそ小娘なんて言っちゃって」
「別にいいよ、ボク男だし」
「えっ」
「「えっ」」
いい加減女の子扱いされることに諦めを覚え始めてきたカエデはため息を付きながら呆然としているギルドマスターの元へ向かう。
「これでボクの実力は分かった?」
「あ、ああ。……すまなかった。お主を試す様な真似をして」
「別に、それがアンタの仕事でしょ」
『おにいちゃんつよ〜い』
受付嬢からスイをもらうカエデに、ギルドマスターは声をかける。
「お主……その、飛行魔法は…どこで知り、習った?」
「え、魔導書だけど」
コレ。とカエデはアイテムボックスから魔導書を取り出す。それを見たギルドマスターは絶句してしまう。
「『大罪の魔導書』、実在していたというのか!?」
「ギルマスさん、これ知ってるの?」
「うそ、そんなのってアリ!?」
ギルドマスターは冷や汗を流しながらもカエデに説明してくれる。
「大罪の魔導書は、かつて一国すら滅ぼした伝説の魔法使いがその生涯の魔法を書き記したといわれる魔導書だ。フェンリルと同じく、実在すらあやふやな伝承だったが……」
ノースはカエデに魔導書を見せてと懇願し、カエデは魔導書を手渡した。
「お主、先程飛行魔法を行使していたであろう?その時点で、只者では無いと思っていた」
「飛行魔法って、そんなレアなの?」
「そもそも飛行魔法は大罪の魔導書に記されていると云われる『失われた魔法』と呼ばれるものだ。不思議に思わなかったか?自分だけが飛行魔法を扱えることに」
「……まぁ、未だに交通手段が馬車の時点で変だなぁとは思ってたけどさ。なんで飛ばないんだろって」
カエデは頬を掻きながら、ギルドマスターへ質問する。
「もしかして、この魔導書読むのって犯罪?」
「……いや、魔法自体に罪は無い。大罪を犯したのはあくまでかつての伝説の魔法使いだ。だが……」
「だが?」
「大罪の魔導書にはこんな逸話がある。大罪に触れる者は、その罪の代償を背負う。……と」
「なんで知らん人の罪を背負わなきゃいけないのさ」
「俺が知るか!」
ギルドマスターは咳払いをした。そして、ノースの様子がおかしいことに気付く。
「お、おい。ノース?どうしたボケっとして…」
カエデに大罪の魔導書を受け取り、中を見ていたノースは呆然としていた。それを見たカエデは、ノースから魔導書を取り上げて眼前にて火花を散らす。本来であれば目くらましの魔法だが、カエデはこれを使いノースの意識を取り戻した。
「キャッ!?」
「大丈夫?」
カエデはノースの眼前で手のひらをヒラヒラさせる。意識を取り戻したノースは冷や汗をかきながら口を開く。
「どうしたというのだ?」
「はい、その……この魔導書には、秘匿の儀が掛かっていまして…見た者の意識を奪うものです。おそらく一瞬程度なら平気ですが、文章を読み続けると…」
「え、なにそれ知らないんだけど」
何回も見ているカエデはそんな症状にかかったことなど一度も無い。
「おそらく、一定以上の魔力を保有する者なら効かないと思うの。この手の秘匿儀式は往々にしてそういう傾向にあるから。ヘタに素人が触らないようにって」
「へぇ……そりゃ効かない訳だ」
「どういうわけだ?」
「え?あー……ボクって天才ってことだよ」
忘れがちだが、カエデやムコーダの固有スキルはムコーダの提案により秘密となっている。
「ふむ、ならば解読は厳しいか……あぁ、いや。お主に翻訳してもらえばよいのか」
「たしかにそうよ!カエデちゃん、どういう内容だったの?」
「ちゃん付けはやめてね」
カエデはうーんと唸ると、魔導書に書かれた式を説明し始める。
「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎」
「え?」
「ん?」
「いや、だから⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎だよ。簡単でしょ?」
カエデの発言に、ギルドマスターとノースはザワりと背中に嫌な汗をかく。
「まさか、発言にすら秘匿の儀が…?」
「うわまって、怖くなってきた。帰ってもよくって?」
「……これ書いた人、とんでもないんだなぁ」
カエデは魔導書を見る。ジトリ、とカエデも嫌な汗をかいた。そして思った。
我ながら、とんでもない物に手を出したな、と。
因みに大罪云々は投稿者のオリジナルなので、とんスキ本編にこんなのはありません。なんかこういうのがあったらオモロいよなぁ程度で書きました。