とんでもスキルで異世界放浪メシ【イレギュラーな少年を添えて】 作:一般通過炎竜
異世界生活二日目、ボクとムコーダさんは早朝に乗合馬車の乗り場にやってきていた。ムコーダさん曰く、今ボク達がいるレイセヘル王国との境にあるキールスと呼ばれる町に早く行きたいんだとか。
なんでもきな臭いこの国から一刻も早く脱出したい、との事。
まぁそれにはボクも大賛成。きな臭い、というより、武器やら鎧を着込んでる連中が多く、尚且つそれらの人達が全員ピリピリしてるのは分かる。
「キールス!キールス行きだよ!」
「あ、乗ります乗りまーす!」
二人でいそいそと馬車へ乗り込む。ここでもムコーダさんは支払いを二人分済ませようとしたので、いっその事ボクのお金は全てムコーダさんに預けることにした。これから長い付き合いになるだろうし、一応信頼の証ということでね。
なぜか感動しているムコーダさんはおいといて、ボクは馬車からの景色を楽しむことにした。
色鮮やかな植物達、生い茂る木々、遠くに見える山々、小鳥は囀り蝶々が花畑を優雅に泳いでいる。
なんというか、上手く言えないけど…。
「世界が澄んでるよね。空が遠い気がする」
「うん。景色も綺麗だし、なんというか、自然の力強さってやつ?」
「わかるわかる」
元いた世界も、ボクが生まれるずっと昔はこういう景色だったのかな。
「失礼、旅のお方達ですかな?」
ボク達が景色を楽しんでいると、ちょっと太り気味の気の良さそうなおじさんが話しかけてきた。ムコーダさんが素早く対応する。
「はい、そうです。貴方は…行商の方ですか?」
「ええ、そうです。キールスへ石鹸を売りに行こうかと思っておりまして」
「石鹸、ですか。荷物はアイテムボックスに?」
「いえいえ!私はこの背負子だけですよ」
行商おじさん曰く、アイテムボックスは千人に一人しか持っていないレアスキルで、アイテムボックスの大きさは人それぞれらしい。
千人に一人……まぁまぁいるな。町に行けば一人はいるんじゃない?
しかしどうやら鑑定は別の様子。
鑑定をスキルとして持つのはボク達みたいな異世界からの召喚者ぐらいらしく、鑑定を行える魔導具は国かギルドとやらで管理してるらしい。
そんなに貴重なスキルだったんだ鑑定って。
……ん?じゃあなんで鑑定持ちのボク達はすんなり解放されたんだろう。人間鑑定機として飼い殺されそうなもんだけど。
あれかな。鑑定の魔導具を語ってたおじさんテンション高かったし、自分が作ったものの方が優れているor良いからって感じで、異世界勇者とはいえぽっと出の鑑定スキル持ちが気に食わなかった可能性があるね。
「ところで、ここだけの話……」
そこから先を行商おじさんは小声でボク達にしか聞こえない様に喋りだす。どうやらレイセヘル王国は魔族相手への領地争いで外と内で物理的にも政治的にもバチバチしていて物騒になっており、状況が最悪ならば国境封鎖もありえるらしい。
「さっさと離れた方が良さそうだ」
「だね」
そこからしばらく馬車に揺られ、目的地であるキールスへ辿り着いた。
印象としては、牧歌的?って感じ。王都に比べるともちろん見劣りはするものの、のどかな雰囲気を感じる事が出来る。
「どうしようか、これ……」
「ねー……」
ボク達は運行予定表の前で立ち尽くす。看板には【運行停止中】の文字が。
「もう国境封鎖されたのかな」
「うーん…ひとまず腹ごしらえも兼ねて、情報収集をしようか」
という訳でキールスにある人気が多い大衆食堂へ。お昼ご飯を食べながらムコーダさんは色んな人から話を聞いていく。
…それにしても、ムコーダさん凄いな。コミュ力高いというか、怖気が無いというか、これも営業の仕事の賜物なんだろうか。
ボクも見習うべきか?
…………………………………………。
別に、どうでもいいか。
「カエデくん?」
「っ、なに?ムコーダさん」
「ちょっと今後の方針について話があるんだけど、いいかな?」
「うん」
情報収集の結果、ムコーダさんは国境封鎖をされる前に隣国へ辿り着きたい。しかし道中危険な事が多いので冒険者を雇って護衛をしてもらいながら移動するとのこと。
まぁそれがベストだとはボクも思う。今のボク達はレベル1。実戦経験なんてもちろん無いし、頼れるものはどんどん使ってしまおう。
それと、どうやらムコーダさんはボク達のスキルについて秘匿したいらしい。アイテムボックス、鑑定、異世界勇者固有のスキル。いずれもバレたら厄介事の種にしかならないものばかり。
余計な敵を作らない為にも、秘密にした方が良い。
それも確かに。面倒事は避けるに限るよね。
という訳でボク達は護衛してくれる冒険者を探しに冒険者ギルドへ。受付の綺麗なお姉さんに話しかけ説明を受ける。
「フェーネン王国までの護衛依頼、ですか。徒歩ですし、乗り合い馬車の停止で護衛依頼が殺到しておりまして…ですから、多く見繕って金貨8枚が妥当かと思われます」
金貨8枚……結構痛手だと思うけど、背に腹はかえられない。というか財布はムコーダさんが握っているので結局はムコーダさんが判断することになるんだけど。
「う〜ん……分かりました。金貨8枚で依頼します。それと、道中の食事をこちら持ちということでお願いできますか?」
メシで釣る作戦と見た。三食付いてくる仕事と思えば結構良さげなクエストだと思う。
「承りました。手配が整いましたらご連絡致しますね」
「あ、お姉さん。ボクも質問良いですか?」
「はい、もちろん」
「ボク、冒険者になりたいんだけど、どうすればなれますか?」
「冒険者志望の方ですね?では、まずは冒険者についての説明をいたしましょうか?」
「お願いします」
冒険者とは───。
冒険者ギルドと呼ばれる国を超えた組織に所属する人達の総称。
……国境なきギルド団……的な?
まぁそれはともかく、冒険者にはランクが定められており、そのランクは一番下のGから一番上はSまである。G、F、E、D、C、B、AからのS。
そして冒険者が依頼を熟すにあたって受注可能な依頼は、自分と同じランクか一つ上のランクのみ。下のランクの依頼が出来ないのは、おそらくただでさえ多い低ランク冒険者の食い扶持を減らさない様にする為だろう。
何故なら冒険者は定期的に依頼を熟さないといけないらしく、定められた期限内に依頼を受けなければギルドの登録も抹消されるらしい。
再登録は可能だが、どれだけランクが高かろうが再登録はGランクからの再スタート。Gランクの期限は1ヶ月、EとFは3ヶ月、BとCとDは6ヶ月、SとAランクは1年だそうだ。
更に殺人及び略奪を働いた場合はギルドから除名処分からの永久追放、そして冒険者が行った行為、ケガ、死亡についてはギルドは一切責任は負いかねる、とのこと。
つまりは、冒険者は全てが自己責任ということだ。
「登録料は銀貨5枚となります、よろしいでしょうか?」
ボクはチラリとムコーダさんを見るも、ムコーダさんは無言で親指を立てていた。
「ムコーダさんならなくていいの?」
「俺は……もうちょっと考えようかなって」
「そっか」
「ではこちらの書類に記入をお願いいたします。書けないところは空欄で結構ですので」
ボクは書類にどんどん名前など各項目の穴を埋めていく。
名前……カエデ。
武器……短剣。
みたいな感じで全て書き終わり、書類をお姉さんへ手渡した。
「はい、ではこちらの冒険者カードへこの針を使って血を一滴垂らしてください。怪我は私が治せますのでご安心を」
手渡されたカードと針を見る。針はなんてことはない裁縫などに使うであろう針だが、カードは特別製だ。
おそらくだけど、カードに仕込まれている魔法で血、個人の情報を登録して記憶する仕組みだと思う。多分本人確認するときも血が必要なんじゃないかな?
ボクは針を自分の人差し指に突き刺す。鮮血はカードの一部分を赤く染めた。すると僅かにカードが光った。多分今のが登録完了のサインなんだろう。
「はい、たしかに登録致しました」
「ありがとうございました」
「はい、またのお越しをお待ちしております」
ボクとムコーダさんは冒険者ギルドを出る。
「それじゃあ、旅に必要そうなもの買い出しに行こうか」
「賛成」
まずは二人でマントを買いに雑貨屋へ。防寒具にもなり寝袋代わりにもなるからムコーダさんが欲しがったのだ。ムコーダさんは白、ボクは黒のマントを買った。前が閉められて、かつフード付きのものだ。
ボクはさっそくマントを着用。……うん、服が黒だしボクもマントは白で良かったかもしれない。まぁもう遅いし良いか。
「あとはナイフに、マッチ、ランタン、ペットボトルを人前では出せないから水入れの革袋…」
「なんか楽しくなってきたね」
「わかる」
色々買い漁っていると、ムコーダさんが気になる商品を見つけたようだ。
「カエデくん、これ……」
「どれ?……あぁ、これは…多分ガスの代わりに魔力を使うコンロじゃない?ほら、魔法陣が書いてあるし」
「なるほどなるほど……」
「でもムコーダさん、ネットスーパーにカセットコンロあるんじゃない?」
「……たしかに」
ロマンを感じられたものの実用性を考えた瞬間べつにいらねーやとなるのは異世界でも変わらなかった。ロマンも大事だがロマンだけでは胸焼けしてしまうからね。
このあと食料やらをネットスーパーで購入し、あとは宿で過ごすこととした。護衛してくれる冒険者が見つかる事を願いながら、ボク達は眠りについた。
次の日、案外すんなり見つかった護衛してくれる冒険者達と合流した。鎧を着込んで大きな盾を持ったイケおじがムコーダさんと握手する。
「どうも。
「ムコーダです、今回はよろしくお願いします」
「お願いします」
「ああ、メンバーを紹介しよう」
「ヴィンセントっス。剣士やってます」
「リタでーす!斥候担当してます!」
「ラモンだ。魔法使いをしている」
「回復担当の魔法使いで、フランカです」
上から、ヴィンセントさん。いかにも好青年って感じ。軽量の鎧に身を包み長い剣を腰に据えている。
リタさんは、褐色の小柄な女性。活発な女性という印象も受けた。
ラモンさんは、初老の魔法使い。……魔法使いか、後で魔法教えてもらおうかな。
フランカさんは、なんというか…リタさんをバカにしてる訳じゃないけど、パーティの中の一輪の花というか……RPGとかでパーティに1人はいる綺麗なお姉さん枠って感じ。
「よし、それじゃあフェーネン王国へ出発!」
「「おぉ!!」」
いざ、冒険の始まり───。
◻︎
「はぁ……っ、ぐ、はぁ……」
「だ、大丈夫ですか?」
ボクは冒険早々にグロッキーになっていた。
アカン、ダメだ……異世界、というか徒歩での移動ナメてた……!
舗装された道路を歩くのとは訳が違う、街道とは言え足場はコンクリートに比べれば不安定だしジメジメしてるし虫の声は煩いし……!
「フ、フランカさんは平気なの…?」
「私?私は慣れてるから平気よ」
「そりゃ、そう、だよね…」
昨今の情勢からこんな発言はしたくないけど、女の人に負けてられるか……っ!
ボクは気合いを入れ直して歩を進めるも、すぐにダウンしてしまった。
「だ、大丈夫っすか?あんまり女の子が無茶するもんじゃないよ」
「…………は?」
ヴィンセントくんキミ今なんて言った?
「ボクが一言でも自分が女なんて言ったぁ……?」
「えっあっ違うの!?ごめん髪長くて綺麗だし背も低いし華奢だし…!」
「髪はありがとう、しかし後半は聞き捨てならねぇなぁ…!」
人が気にしてることをツラツラと……!*1
「あーヴィンセント依頼者怒らせたー」
「うっせ!リタだってさっき小声でキレイな女の子だなーって言ってたの聞き逃してねぇからな!」
「…さーて斥候しなきゃー」
「逃げんなリタぁ!」
追いかけっこを始めた2人はさておき、ボクは他メンバーの様子を伺う。
ヴェルナーさんはボクが目線を向けた瞬間顔を逸らし、ラモンさんは目線だけズラし、フランカさんはにっこりと微笑んだ。いや誤魔化すの上手いなフランカさん……。
あ、ムコーダさんは?
「……」←顔を逸らして目は泳ぎまくってて滝汗を流している。
「ムコーダさん?」
「ごめんてぇ!絶対女の子だと思ってましたぁ!」
「なんでよ!大体ムコーダさんボクのこと君付けで呼んでるじゃん!」
「一人称ボクだしそういう年頃かなって…」
「営業サラリーマンの社交力こんなところに発揮しなくていいから…」
言い争っているボク達の間に、気まずそうにヴェルナーさんが割り込んできた。
「ま、まあまあ2人共、こんなところで喧嘩はマズイ。もう少し進んだら休憩するからそこで頼むよ」
「ご、ごめんなさいヴェルナーさん」
「……ゴメンナサイ」
釈然としないまま、ボク達は再び歩みを進めるのだった。
励みになるので感想を残してもらえると嬉しいです