とんでもスキルで異世界放浪メシ【イレギュラーな少年を添えて】 作:一般通過炎竜
「ね?ムコーダさんの料理、美味しいでしょ」
「うむ、美味い!高級食材で一瞬面食らったが、やはり魔物の肉は美味い!」
「あ、あはは……まだまだありますので、よければ…」
「おい、我のおかわりを寄越せ」
冒険者ギルドの悶着から少し経った後、カエデはムコーダに用事があるというギルドマスターを宿へ招いていた。
『ムコーダさんただいまー、あ、これギルマスね』
『お主がムコーダか!』
『なんでギルドマスターさんがここに!?』
多少悶着はあったものの、とりあえず昼食を食べたいというカエデ達の為に食べてから話を進めることに。
「ところで、これはなんという料理だ?」
「これはカオマンガイという料理で……」
カオマンガイとは早い話がタイ風のチキンライスなのだが、本場の人にチキンライスというと怒られるので、カオマンガイとキチンと覚える必要がある。
鶏のゆで汁、今回はロックバードのゆで汁を使ってご飯を炊き、その上に蒸しロックバード肉を乗せている。それだけでも美味いが少々シンプル過ぎるので、ムコーダ特製ピリ辛ソースのお陰で食欲は更に増していく。
カオマンガイのルーツは古くは中国海南島からの移民によって伝えられた、
「ご馳走さまでした」
「うむ、美味かった!」
「それは良かった」
昼食も終わり、ひと息ついたところでギルドマスターは本題へと入る。
「さて、ここまで来たのには大事な用件があるものでな」
ギルドマスターは懐から貴重な羊皮紙で作られた手紙を取り出す。
「これは我がレオンハルト王宮からの至急の伝達だ」
「お、王宮から…!?」
「そうだ、伝説の魔獣フェンリル。ひいてはその主であるお主にな」
ムコーダがごくりと唾を飲み込むと、ギルドマスターは書かれている内容を読み上げていく。それにはこのように書かれていた。
『この国では自由に過ごして構わない、こちらから無理強いすることは決して無い』
『王族はもちろん、貴族にも伝達済み』
『ただし、有事の際には力添えを願う』
……とのこと。それを聞いたカエデはつまらなさそうに頬杖を着く。
「よーするに、自由を与える代わりに戦争の時は力貸せってことでしょ」
「まぁそうなるな、お主らがこの国にいるのは冒険者ギルドにとっても有難い」
「なんだ貴様、我の力を妬んでおるのか?ん?」
「は?妬んでないが?」
ボケコラフェル。雑魚魔法使いがイキがるなよ。というカエデとフェルのじゃれあいをギルドマスターはおっかなびっくり見ていると、咳払いをしてから話を進める。
「ところでカエデよ、お主あれだけの依頼を熟したということはランクアップを目指しているのだろう?」
「そうだけど。期限めんどくさいし」
「そこで、ギルドマスターの権限によりお主をAランクまで上げてやろう。相応の実力もあると先程分かったしな」
破格過ぎる条件に、もちろんカエデは訝しげにギルドマスターに問いかける。
「なにが条件?」
「話が早いな。お主にはいくつかの依頼を受けて欲しい」
「あ、危ない仕事ならお断りですよ!」
「なに、心配するな。保護者として特別に冒険者ギルドに属していないフェンリルの同行を許可する。正直な話、これは元々フェンリルへの依頼だったからな」
ギルドマスターの言葉に、カエデは分かりやすく機嫌を悪くする。
「なら最初からフェルに頼めばいいじゃん」
「ムコーダの従魔としてフェンリルが商人ギルドに登録されているのだから仕方なかろう。冒険者ギルドが商人ギルドに討伐依頼を出すか?普通逆だぞ!」
ガッハッハと快活に笑うギルドマスターに、カエデはフェルを出すために自分をダシに使われて相変わらず不貞腐れている。
「僻むでないぞ、貴様は弱いと遠回しに言われてもな」
「ぜってぇその顔歪ませるから覚悟しとけよ」
再び睨み合うふたりに、思わずため息がでるムコーダとギルドマスター。ギルドマスターはクエストが書かれた紙を取り出し、説明を続ける。
「頼みたい依頼は2つだ」
Aランク・メタルリザードの討伐。
パスクアル山の麓に住み着き、鉱山労働者を困らせている。しかしメタルリザードは物理攻撃も魔法攻撃も効果が低い為、並の冒険者では太刀打ち出来ない。
Aランク・ブラッディホーンブルの討伐
カレーリナから西の草原にて群れの討伐。とにかく気性が荒く、基本的に群れで行動するため大変危険。通常は手練の冒険者パーティを4つ以上構成させ討伐する。
「ブラッディホーンブルか、あの肉は美味いぞ」
「牛肉か、いいね」
メシの話となると急に機嫌が良くなる二人にまたため息がでるムコーダとギルドマスター。
「で、では頼んだぞ」
「おっけー」
帰るギルドマスターを手をひらひらと降って見送ったカエデは、立ち上がってローブを羽織る。
「ブラッディホーンブルはともかく、メタルリザードがいるパスクアル山は結構遠いし、折角大きい街にいるんだから今日は色々買い物しちゃおうよ。ランベルトさんの店にも行きたいし」
「いいなぁそれ!よし、今日は奮発しちゃうぞぉ!」
張り切るムコーダに、わぁい、と手を叩くカエデ。フェルはつまらなさそうに座り込んだ。
「行くならお主達だけで行ってこい。我は寝る」
「お土産にフェルの首輪とリードでも買ってくるね〜」
「縊り殺すぞ」
カエデとムコーダ、そして昼食を食べて眠たげなスイはそれでもムコーダの鞄に入り一緒に買い物へ。街を歩き雑貨屋で日常品を購入してから、三人はランベルトが営む商店へ辿り着いた。建物は他商店に比べてもかなり大きく、これだけでランベルトの商人としての実力が伺える。
「お、思ったより立派だな…」
『おっきいねぇ〜』
「んね」
カエデが扉を開けると、ランベルトが笑顔で出迎える。
「おお、カエデさんにムコーダさん!それにスイさんも、ようこそ我が商店へ!よく来てくださいました!」
どうぞこちらへ、とランベルトの案内で店内へ入る三人。店内には革製品を中心としたラインナップに、少々高価な日用品が置かれている。
「本日はどういったご用事でしょうか?」
「あ、鞄とか靴とか新調しようと思ってまして…」
「さようでしたか、ではこちらなどいかがでしょうか?」
ムコーダがランベルトのビジネストークに翻弄されている間、カエデは店内を見て回る。目に付いたのは日用品である石鹸、そして髪油だ。
「へー、植物由来のヘアオイルかぁ」
『ヘアオイルってなにー?』
「髪の質を滑らかにする物だけど……スイはいらないかなぁ」
そう言ってスイを持ち上げてぶにぶにもてあそんでいると、近くの扉が開かれる。扉からは高価そうなドレスに身を包んだいかにも貴婦人といった美女が現れた。
「…あら、失礼をお客様」
そう言った少し不機嫌そうな貴婦人は頭を下げた後、商品棚の方へ向かう…が、ここで貴婦人の様子が急変。
一度、二度、三度とカエデを見ては信じ難いものを見たかの様な表情になる。ワナワナと震え、今にも叫び出しそうだ。
「……なに?ボクになにか用?」
貴婦人はカエデにゆったりと近付き、カエデの手を取る。あまりにも気配の無い動きにスイはぬるっと床に落ち、カエデはびっくりし過ぎて背筋を伸ばした。
「お、お客様。大変、大変失礼なのですが…」
「な、なに」
「髪を、触ってもよろしいですか?」
「…………髪?髪って、頭の?」
「はい!!」
「わ、分かったよ、触ればいいじゃん」
貴婦人のド迫力に怯んだカエデは思わず返答してしまった。貴婦人はその細い指をカエデの髪に通していき、その質感と手触りを確かめる。そして、じわじわとその表情を驚愕に染めていく。
「なに、この質感……そこらの薬剤や石鹸では到底出ない髪艶、そしてなにより良い香り……これは、果実?」
「う、うん。そういうヘアオイルだけど……」
カエデは毎日起床時と就寝時に風呂(水魔法を火魔法で温めたもの)に入っており、更に形見の髪を美しく、かつ際立たせる為に男子にしては珍しい程に女性の様な手入れをしている。
「というか、お肌ももちもち…年若いとは言え、こうはならない…」
ス──ッとカエデの頭皮に鼻をおし付けて匂いを堪能しつつカエデの頬をもにもに揉む貴婦人。美女だからこそ許された行為である。
「……はっ!?た、大変失礼致しましたお客様!我を失ってしまい…」
「うん、本当に失礼ではあるけど。…どうしたの?」
「私、この商店の会頭であるランベルトの妻、『マリー』と申します」
マリーが言うには、長年パサついたりごわついたりしている悩みの種である髪より遥かに質が良いカエデの髪を見て我慢が効かなくなったという。母が好きだった髪を褒められて少々ご機嫌なカエデは、貴婦人の髪を触る。
「確かに、結構水分持ってかれてるね。せっかくの綺麗な髪が台無しだ」
「あらお上手。それにしても本当に羨ましいくらい滑らかで…」
カエデとマリーがお互いの髪を触り合うという奇天烈な光景が生まれ、スイは頭に宇宙が巡っていた。
「一回、一回だけ髪をファサッとなびかせていただいても?」
「こう?」
カエデが自分のうなじ辺りから髪を広げる様に靡かせる。その香りを嗅いだ瞬間、マリーは膝から崩れ落ちる。スイは咄嗟に怪我しないようにマリーの下敷きになる。ボヨンっとスイは変形するも、もちろん無傷である。
「な、なんてフローラルな…!」
(だいぶ面白いなこの人)
スイにお礼を言うマリーを見て、カエデは合点がいったようだ。
(そうか、この石鹸コーナーはこの人の…)
カエデは革製品を中心に商売しているランベルトの店にしては合わない商品と思っていたのだ。そしてランベルトが奥さんに頭が上がらないということも。
そこで、カエデの目の前にプラズマがぶち抜いた様な衝撃が走る。
「マリーさん、こっち来て」
「?」
カエデはマリーを連れて商談し終わって新しい革製品に身を包んだムコーダとランベルトの元へ向かう。
「え、カエデくんその美女は一体!?」
「おやマリー、どうしたというのです」
「マリーさん、こちらボクの仲間であり商人ギルドに所属しているムコーダさん」
「マリーと申します。こちらのランベルトの妻でして…」
突然の美女に狼狽えながらも、どうも、とムコーダも頭を下げる。
「実はねマリーさん、ボクの髪質を維持している石鹸やら薬剤はムコーダさんの商品を使ってるんだ」
「本当でございますか!?」
「わわわっ!?」
マリーに突然迫られたムコーダは顔を赤くしながらカエデに問いかける。
「カ、カエデくんどういうことっ!?」
「ムコーダさーん、自分の職業思い出して〜」
カエデにそう言われハッとなったムコーダは必死に表情を取り繕う。
「え、えぇ。実はそうなんですよ」
「素晴らしいですわ!!ぜひ、ウチに商品を…」
突然始まった商談を他所に、ランベルトはあからさまにホッとした態度をとる。
「どうかしたの?」
「ああ、いえ実は……」
ランベルトが言うには、どうやら二週間後にマリーとの結婚記念日を控えているらしい。しかし繰り返される記念日に贈り物のレパートリーが底を尽き何を送れば良いか胃を痛めながら考えていたという。
「わがままな奥さんだねぇ」
「そこが可愛いんですがね」
「お、言うねぇ」
カエデは、このこの〜。とふくよかなお腹を肘でつき、その持ち主であるランベルトは誇らしげに笑う。
「とにかく、あんなに上機嫌なマリーを見るのは久しぶりです。これなら多少プレゼントが期待外れでも無視される日々が続くことは無くなる筈…」
「が、がんばって……」
暗くなったランベルトの肩に手を置き、カエデは自分にもなにか出来ることはないか、そう思った。
「ところでランベルトさん」
「はい?なんでしょう」
「前に話した素材をここに直接卸したら云々って、覚えてる?」
「ええ、覚えておりますとも」
「アレさ、素材の方はタダでいいからボクに格安でオーダーメイド品を作ってくれたりしない?」
因みに素材はこのレッドサーペントなんだけど。とアイテムボックスからヌルッと蛇の皮を出すカエデにランベルトは大慌てだ。
「い、いえいえいえ!?その様な高級品をタダで受け取るワケにはいきませんよ!?」
「え、でもオーダーメイドって高いじゃん?」
「レッドサーペントなんて、ウチのオーダーメイド何十回分になるか分かりませんぞ!?」
「あ、そうなの?」
オーダーメイドという高額受注に身構えていたカエデは肩透かしをくらうも、皮を強引に押し付ける。
「まぁまぁ、同じ釜の飯を食べた仲ってことで。レッドなんて直ぐ狩れるからさ」
「う、ううむ……では!我が商会に属している職人の総力を上げてお作り致しますぞ!」
「その調子その調子〜」
「では、作る物の相談と寸法を取りますので、奥の部屋へどうぞ」
という言葉に、いつの間にか商談が終わっていたマリーがカエデをひったくる様に持ち上げる。なお、ムコーダは力尽きてスイを椅子代わりに真っ白になっている。
「なにを言うのあなた!こんっな見目麗しいレディの寸法ですって!?私がやるからあなたは引っ込んでなさい!」
「え、いやマリーその子は…」
「マリーさん、ボク男ね」
「は?」
マリーは抱き抱えている少年を見据える。ツヤッツヤの髪。プルップルの肌。控えめに言って整いすぎている容姿。抱き抱えていることで分かるローブに隠れた全体的に細身の身体。
「貴方の様な男がいるものですかっ!!認めません、認めませんわよ!!」
「いや認めるもなにもれっきとした男…」
「認めませんわ〜!!」
男に女として色々と負けたことを認めなくないマリーはむぎゅうっと自分にカエデを押し付ける。その勢いとド迫力に遂にカエデは……
「モウオンナデイイデス……」
(カエデくんが折れた……!?)
珍しい光景を見たムコーダはバッチリ脳内フォルダに納めるのであった。