とんでもスキルで異世界放浪メシ【イレギュラーな少年を添えて】   作:一般通過炎竜

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第21章『異世界驚異の保存方法』

 

「トカゲがいる山というのはあれか?」

「ギルマスさんから聞いた話だとね。フェル、匂いで分かったりしない?」

「ふむ…………こっちだ」

「さすが」

 

マリーによるカエデの尊厳破壊が起こった翌日の早朝、カエデとフェルはギルドマスターから提示された依頼、メタルリザード討伐の為にパスクアル山に訪れていた。

 

カエデは最初ムコーダを連れていこうとしたが、なにやらマリーとの商談で色々と準備をしなければいけない事が出来てしまったらしく、スイが護衛として残り別行動することに。

 

フェルの鼻を頼りにパスクアル山の麓、メタルリザードの住処である洞窟を発見。カエデは杖に乗ったまま、フェルは走って洞窟へ。

 

洞窟内は意外にも明るく、照明を作る魔法を使うことなくふたりはどんどん洞窟の奥へ進んでいく。

 

「鉱石が発光してる。微量だけど、魔力が宿ってるね」

「ここら一帯は魔素が豊富なのであろうな」

 

何気ない会話をしつつも警戒しながら進む。そして一際、光が強い開けた場所へでる。そこにはボリボリとなにかを貪っているトカゲの魔物がいた。

 

「あれがメタルリザード?…なんか随分と光ってるね」

 

カエデは鑑定をすると、そのトカゲがメタルリザードではなく【ミスリルリザード】であるということが判明する。

 

「依頼内容はあくまでメタルリザードなんだけど、あれでいいのかな」

「この辺に他にそれらしき気配も匂いもしない。おそらく討伐対象のメタルリザードが変異したのがアレだろう」

「ならそう説明すればいっか…」

 

カエデは鑑定で表示されたミスリルリザードのステータスを見る。そこには高い値の魔法防御力が記されていた。

 

「ミスリルってそういう特徴でもあるの?」

「ある。ミスリルは軽く、硬く、そしてなにより魔力の通りが良い」

「つまり上手い具合に拡散されて効き辛いんだ。…じゃあ念の為、これを使うか」

 

カエデは前々から考えていたある戦法を実行することに。手のひらに魔力を集中させ、青白い雷が形成される。

 

「それは?」

「氷魔法と雷魔法の複合魔法。氷の拘束力、雷による気絶に特化させたボクのオリジナル魔法。名前は……そうだなぁ、アイスタイム……だとパクリか。『アイス・ストップ』とかにしようかな?」

「前々から思っていたが、貴様ネーミングセンスが無いな」

「うっせ」

 

カエデが考えていたのは、魔物の討伐の際にどうしても発生してしまう素材としての劣化。先日ランベルトにレッドサーペントの皮を渡した際、所々魔法による損傷が見受けられ使える部分が限られてしまったのだ。

 

ならばと、カエデは魔法を開発。夜なべして作った現状カエデが扱える一番拘束力が高いのがこの魔法である。

 

「オルムルとかのサイズになるとどうしても暴れられて結局キズはつくだろうけど…あれぐらいなら簡単かな」

 

カエデは食事に夢中になっているところに魔法を発動。射出された雷の様な魔法は見事命中し、驚異的なスピードでミスリルリザードを氷で覆う。突然の不自由にミスリルリザードはもちろん抵抗するが、自慢の魔法防御力を上回る生成スピードと雷魔法による電撃のショックに抵抗出来ずあっという間に拘束された。

 

「ざっとこんなもんよ」

 

カエデはカチカチに凍りついたミスリルリザードに近付き、風魔法による斬撃魔法を発動。女神の加護により底上げされた斬撃はミスリルリザードの首を一瞬にして断ち切った。

 

「拘束魔法いらんだろう。最初から斬撃を撃てば話は早かった」

「まあ念の為?魔法に耐える可能性もあったし」

 

絶命したミスリルリザードをアイテムボックスにしまって、カエデはミスリルリザードが食べていたミスリルを拾い上げる。青色に淡く発光しているそれは鑑定するまでもなく希少な鉱石と見受けられる。

 

「いくつかもらっていこうかな」

 

カエデはミスリルリザードが食べる為に鉱脈から崩したミスリルを全てアイテムボックスに仕舞う。すると、フェルが足で地面をバンバン叩いて催促する。

 

「おいっ、まだか。我はさっさとブラッディホーンブルを狩りたいのだが」

「我慢が出来ないワンちゃんだなぁ、もう終わったよ」

 

カエデとフェルは洞窟を脱出。パスクアル山とブラッディホーンブルが生息するというカレーリナから西の草原へ。実は山から草原までかなりの距離があり、徒歩ならば二日程は掛かってしまうがそこはこのふたりならば問題ない。

 

酷なこというがムコーダが乗っていない場合のフェルと最大出力で飛行魔法を使用したカエデはほぼ同速であり、そのスピードは並の人間なら耐えきれず気絶してしまう程である。

 

お陰で二時間程で西の草原に到着したふたりは、遠方に見えるブラッディホーンブルの群れを発見。かなりの数の群れであり、緑豊かな草原がブラッディホーンブルの体毛である黒に染まっているかの様だった。

 

「話には聞いてたけど、すごい数だね」

「おそらく繁殖期なのだろう、奴らには子供を守る為に他の群れと合流する習性がある」

「まぁ実害が出てる以上、同情はしないよ。全部纏めて倒して美味しく頂くとしよう」

「うぅむ……なにを作らせるか。そのまま焼いてあのタレをかけるも良し、唐揚げやコロッケ……」

「よだれ、よだれ」

 

あることを思いついたカエデは、フェルに提案する。

 

「じゃあさ、どっちがより多く狩れるか勝負しようか。幸い今回は肉が採れればいいし、加減はそんなにしなくていいからね」

「ほう、我に勝てる算段があるのか?」

「まぁね。それじゃあ…ボクは群れの左から攻めるから、フェルは右からね。合図はこっちから出すから」

「あぁ」

 

カエデは宣言した通り群れの左方向に待機、火魔法による照明弾を空に打ち上げた。それが破裂、大きい音がした途端に群れが一斉に嘶き出す。

 

《ブモォオォォォオオオオ!!!》

 

「スタートだ!」

 

カエデは雷魔法を最大出力で展開。出力先を威力ではなく範囲に傾け、群れ全体に電撃が行き渡る様にした。結果、群れのほぼ半数がカエデの雷魔法により絶命。

 

「よっし、あとは……あっ!?」

 

残りの群れに向けて魔法を発動しようと構えた瞬間、突風が吹き荒び群れが文字通り吹き飛んだ。風魔法による魔法力と自然落下によるダメージはブラッディホーンブルを絶命に追いやるには十分過ぎる威力だった。

 

「惜しかったな」

 

風の中からフェルが現れ、得意気にカエデを見下す。カエデは杖を肩に預け不満気な表情で出迎える。

 

「少しくらい手加減してくれたっていいんじゃないのー?」

「したさ、していなければ肉ごと木っ端微塵だからな」

「それはそっか」

 

フェルの魔法を食らって原型を保っている時点で手加減は出来ているのだ。カエデは群れの死体を次々とアイテムボックスに仕舞う。しかしあまりの量にいくら魔法で身体を強化しているカエデとは言え疲労が隠しきれなくなる。

 

「なんならこっちの方が時間掛かる…」

「ほれ、キビキビ働かんか」

「アイテムボックス使えないヤツが偉そうにしないでくれる?」

「ふはは、敗者の戯言ほど笑えるものはないな」

「お昼までに帰らないとご飯食べれないよ」

「なにっ。……仕方あるまい」

 

カエデの言葉にフェルも運ぶのを手伝い、あれほどの数だった群れはあっという間に草原から姿を消した。カエデは伸びをした後、懐中時計で時間を確認する。

 

「よっし、クエスト完了!そろそろお昼だし、帰ろっか」

「うむ。メシにするぞ!」

「クエスト報告が先だけどね」

「なんだと」

「牛肉はお昼ご飯で食べたいでしょ?じゃあ解体が先だよ」

「それもそうか」

 

メシの事となると途端に聞き分けが良くなるフェルに、カエデは笑うしか無かった。なにがおかしい!とフェルに怒鳴られカエデは杖で逃げる様に街へ戻るのであった。

 

 

◻︎

 

 

「ギルマスさーん、ただいまー」

「も、もう終わったのか?」

 

カエデが冒険者ギルドへ着くと、少し引き気味のギルドマスターに出迎えられる。ちなみにフェルは解体に興味がなく先に帰った。

 

「そりゃ、なるはやで飛ばしたからねー。魔力で風やらなんやらは殆ど無効化してたけど、それでも髪が乱れちゃったよ」

 

カエデが手櫛で髪を梳いているのを見て、苦笑いするしか無いギルドマスターだった。ふたりはギルドマスターに案内され工房へ。そこには解体の職人も準備を終えてやって来た。

 

「では、さっそく報告を受けようか」

「それなんだけどさ、メタルリザードがね?」

「おう」

「メタルが変異してミスリルになってたんだけど、これでもクエストとしてはセーフ?」

 

カエデは解凍したミスリルリザードを作業机の上に出した。その輝きにギルドマスターと職人は大声を出して驚愕する。思わずカエデは両手で耳を塞いだ

 

「「ミスリルリザードだとぉ!?」」

「うっさ」

 

職人は大慌てで奥の倉庫から埃を被った文献を持ち出してきてミスリルリザードの死体と照らし合わせる。金属質、皮の特徴から判断を下した。

 

「本物……か?」

「え、えぇ。これは間違いなく…」

 

ギルドマスターと職人の話し合いを退屈そうに椅子に座って聞いていたカエデは職人が持ってきた文献を拝借する。

 

そこに記述されていたのは、約四百年前を最後に実物が確認されたというもの。カエデはミスリルリザードの希少性よりそんな大昔の文献が正確に残っていることに驚いた。

 

「こいつは大事になりますぜ」

「そんなに?」

「当たり前だ。ミスリルリザードがいるということはメタルリザードがミスリルに変異するほどまで潤沢にミスリル鉱脈がある証。ミスリル鉱山はこの国にはまだ一つしか確認されていない、それだけで分かるだろう?」

「領主さんがウハウハだぁ。まぁ鉱山の警護とか政で胃を痛めそうでもあるけど」

「儂も領主様のとこに話をつけに行かなきゃならんな…。悪いが、このミスリルリザードはギルドに卸させてもらうぞ」

「別にいいよ、フェルもリザード種はあんまり美味しくないから要らないって言ってたし」

「それは助かる…。なに、もちろんタダとは言わん。報酬は上乗せ、討伐から鉱山の発見諸々含めて……金貨五千は下らんだろうな」

「一生遊んで暮らせるじゃねぇか!羨ましい限りだぜ全く」

 

職人が快活に笑うのを他所に、カエデは懐中時計で時間を確認する。

 

「ごめん、盛り上がってるところ悪いんだけどウチの大食らいがご立腹になりそうだからブラッディホーンブルの解体だけ先にお願いしていい?」

「おお、もちろんだ。どれだけ捕れた?」

「とりあえずここじゃ収まらないから裏に行こっか」

「……どれだけ捕れた?」

 

もはや聞くのが怖くなってきたふたりは色々と諦めた。

 

 

◻︎

 

 

「ムコーダさん、ただいまー」

「おかえり、カエデくん」

 

宿、その獣舎前にて昼食の準備を整えていたムコーダの元にカエデは戻った。

 

「あれ、もう下準備万端って感じ?」

「おう、フェルから牛肉が沢山捕れたって聞いたからさ」

 

ムコーダはカエデからブラッディホーンブルの肉を受け取ると、さっそく調理開始。カエデが手伝うと大惨事待ったなしなので、大人しく魔導書でも読み進めることに。

 

(あ……読み終わっちゃった)

 

大罪の魔導書、その解読が終わったカエデは、なにか違和感を覚えた。途方もない寒気、暗闇を覗いた様な背中がゾワリとする感覚。そしてなにより感じたのが…。

 

(なんだ、今の……声が、見えた?(・・・・・・)

 

不思議な現象に言いようの無い不安を覚えたカエデは、思わずスイを抱き締めた。

 

『おにいちゃん、どうしたの?』

「……ううん、なんでもないよ」

 

カエデはあの感覚をどこかで味わった気がした。それは人間ならば一度は絶対に考えてしまう、あれ。

 

(自分が死んだらどうなるんだろうという…あの途方も無い不安感。それに似てた)

 

死恐怖症(タナトフォビア)と呼ばれる専門用語。ギリシャ語で死を意味するタナトスと、恐怖症のフォビアを組み合わせたもの。

 

なぜ魔導書を読み終わりそれを感じたか分からないカエデは、料理が出来上がるまでスイを抱き締め続けた。まるで自分は確かに存在していると言い聞かせているように。

 

「出来たよー!ブラッディホーンブルステーキだ!」

「でかした!」

「待ってました!」

『わぁい!』

 

全員が一斉にムコーダの元へ集まり、出来上がった料理を見て楽しみ、匂いを堪能する。

 

「うわぁ、いかにも肉!って感じのステーキ!」

「もう我は辛抱たまらんぞ!」

「分かった、分かった!今渡すから!」

 

カエデはフォークで肉を抑え、ナイフで切る。断面からこれでもかと溢れる肉汁に思わず生唾を飲み込んだ。そしていざ実食。噛めば噛む程に肉汁が溢れ、赤身特有の旨みが口いっぱいに広がる。

 

「──っ!美味い!」

「うめーっ!肉食ってる感すごい!」

 

暫く食べ進めると、フェルがムコーダにおかわりと、ある提案を持ちかける。

 

「おい、そろそろアレを出せ」

「アレ?」

「アレだな!」

『アレ?』

 

それはフェルの好きな味付けであるステーキ醤油だった。ニンニク風味、玉ねぎ風味、そしておろし醤油である。

 

「うむうむ!やはりこれだ!」

「ムコーダさん、因みに白米って…」

「あるに決まってるだろう?」

「流石だぁ……」

 

全員で大満足の食事はあっという間に終わり、カエデとムコーダはお腹を落ち着かせる為に宿の部屋にて休むことに。

 

「あ、そういやニンリル様へのお供えしなきゃ」

「在庫まだある?」

「あとちょっとかも。またお願いね」

「任せて」

 

ふたりが祭壇を作ってお供えをしようとすると、いつもの神託がかかってくる。

 

『足りないのじゃ!甘味なんてなんぼあってもいいんじゃからな!』

「ワガママだなー、そんなに言うと出来合いのもので済ませちゃうよ?」

『全然構わんが?甘くて美味しいことに変わらんし』

「契約内容忘れた?いや、別にニンリル様がいいならいいんだけど」

 

カエデはチョコアソートやクッキー缶を購入し供え、正座して祈りを捧げる。そしてお供えが消えたことを確認してから正座を崩した。

 

『おほほっ、良いぞ良いぞ〜。ではさっそく……んなっ!?』

「?」

 

突如うろたえ出した女神ニンリルにふたりは疑問符を頭に浮かべる。

 

『な、なぜお主らがここにいるのじゃーっ!?』

 

慌てた女神ニンリルの声のあとに、聞いた事のない女性の声がふたりの脳内に響き渡った。

 

『異世界人クン達はじめまして〜』

『ようっ!異世界人!』

 

『ぬぉぉぉぉぉぉ!!』

 

「誰?」

「さぁ…?」

 

聞いた事のない声と、女神の慟哭に困惑するしか無いふたりだった。

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