とんでもスキルで異世界放浪メシ【イレギュラーな少年を添えて】 作:一般通過炎竜
「土の女神『キシャール』様」
『はぁい』
妖艶な雰囲気を漂わせる女神の声は、カエデの呼びかけに答える。
「火の女神『アグニ』様」
『おうっ』
快活な雰囲気を漂わせる女神の声は、カエデの呼びかけに答える。
「水の女神『ルサールカ』様」
『うん』
閑静だがどこかあどけない雰囲気を漂わせる女神の声は、カエデの呼びかけに答える。
「いやぁ、なんだか加護も大所帯になってきたねぇ」
「いやいやいや!これ以上加護はいらないからね!?」
駄女神……風の女神ニンリルの慟哭から少し経った跡、カエデとムコーダは突如として聴こえてきた謎の声、新たな三女神と神託と言う名の通信を続けていた。
『それにしても、まさかニンリルちゃんが大いなる加護を授けてたなんてねぇ。こんなの創造神様が知ったら怒るわよぉ?』
『大目玉間違い無しだな』
『ええぃうるさいうるさいっ!バレなきゃいいのじゃバレなきゃ!』
『開き直った…』
「女神様も上司的な存在には勝てないんだね」
「前の世界を思い出して鬱になってきた…」
「どうどう」
カエデが落ち込み始めたムコーダの頭を撫でていると、女神キシャールがカエデに声をかける。
『それじゃあ私達は加護(小)でもいいかしら?大いなる加護に加えて普通の加護を与えちゃったらとんだおーぴーよ』
「前々から思ってたけどどこからそんな言葉覚えてくるんですか…?」
『にしてもよぉ、お前…カエデだっけ?お前結構凄いな』
「なにが?」
『魔法の適正だよ。俺達のどれかの加護を与えて供物をカツア……貰おうかと思ってたんだけどよ』
「今カツアゲって」
『お前の適正は全属性あるんだぜ?そんなやつここ数百年見てねぇから、これなら安心して俺達全員の加護を付けれるな!』
その言葉の終わりと共に、カエデの身体が淡い光に包まれる。ステータスを確認してみると、そこには土の女神の加護(小)、火の女神の加護(小)、そして水の女神の加護が追加されていた。
『もう一人の異世界人はどうする?お前の適正は土と火だ』
「あ、追加しちゃって〜」
「なんでカエデくんが許可するの!?」
『よしきた!』
「なんで女神様はそんなにノリいいの!?」
ムコーダの身体も淡く光り、ステータスに土の女神の加護(小)と火の女神の加護(小)が追加された。ムコーダの慟哭が宿中に響き渡る。
『お前んトコのフェンリルはどうする?』
『フェンリルは妾の眷属じゃ!手出しするな!』
「あ、じゃあスイにちょうだい。いざと言う時安心だろうし」
『じゃあ私の加護をあげる』
『なになに、なんの話し〜?』
スイの身体も淡く光り、ステータスに水の女神の加護が追加された。
『なんか強くなった〜?』
「スイ、わかるのか?」
『わかんな〜い』
「そっか〜」
「そういえば、ルサールカ様の加護は(小)じゃないんだ?」
『私が最後に加護を与えたのは大体百年前。こっちの三人は十年に一度くらい。間隔を空けてるから私は創造神様に怒られずに済む筈』
「基準そこなんだ?」
カエデが各ステータスを確認していると、とあることを思い至り女神ニンリルに問い掛ける。
「そういえばニンリル様」
『なんじゃ?』
「大いなる加護に対する供物なんだけどさ、流石に四人分のお菓子となるとムコーダさんが大変だから三日に一回のやつを普通のお菓子、週一の方を手作りお菓子にしちゃダメ?大いなる加護は(小)にしてもいいからさ」
『女神が一度付与した加護を簡単に撤回出来るか。供物は控えめで良いが加護は継続するぞ』
『あら、ニンリルちゃん太っ腹』
『まぁ、ここ最近随分と良い思いをしてきたからの』
「それは良かった、ボクも正直ムコーダさんにお菓子作り丸投げしてるのちょっとどうかと思ってたところなんだよね」
「作るの自体は面白いから別にいいのに」
カエデはさっそくムコーダのネットスーパーでお菓子を購入。チョコレート、ポテトチップス、ドーナツ、煎餅、その他の甘いものとしょっぱいものを交互に食べられる組み合わせでダンボールに詰め、祈りを捧げる。
『おほーっ!チョコじゃチョコじゃ!ぐっじょぶじゃ!』
『へぇ〜、面白いわねぇこのお菓子』
『この菓子、固くて美味ぇぞ!』
『このお菓子、フワフワしてて美味しい…』
女神達のお菓子レビューを最後に、神託は途絶える。急に四人分の声が聞こえなくなった部屋は、途端に寂しくなってしまう。
「ドッと疲れた……」
「おつかれ〜」
ムコーダはベッドに突っ伏し、スイはその背中に。カエデはステータスを確認しながらベッドに寝転がった。
「今日はもうなにもする気起きないや…」
『あるじ、おつかれ〜』
「加護の効果は、明日確かめに行こっか」
◻︎
「お、こんだけ高純度の水球も作れる様になった」
『おにいちゃん、お水の魔法ってどうやるの〜?』
「術式に魔素と魔力…って言ってもわかんないか。えっとね、まず流れる水をイメージして……」
「まさか土の女神キシャール様、火の女神アグニ様、そして水の女神ルサールカ様の加護を与えられるとは……」
「俺は断ったんだけどなぁ…」
女神による加護の当たり屋が起こった翌日、街から遠く離れた草原にてムコーダ一行はピクニックに訪れていた。と言っても、その殆どを魔法の実験などに時間を割いた物騒なピクニックだが。
「ふむ……やはり、今日か」
「なにが?」
「なんでもない」
フェルとムコーダはしばらくカエデとスイの魔法実験を眺めていると、カエデがフェルに声を掛ける。
「フェル」
「ああ」
そう返事を返すと、フェルは立ち上がる。カエデはローブと杖、そして魔導手甲を付けてなにやら準備を始める。
「え、え?どうしたのふたり共」
「四柱の女神による加護を授かったのだ。これを試さずいつ試す」
「フェル、ムコーダさんとスイに結界忘れずにね」
フェルは結界をふたりに付与した。そして、ようやく察したムコーダはふたりを止めにかかる。
「いや、いやいや!ふたり共もしかして戦う気か!?」
「戦うと言っても手合わせだ。安心しろ、加減はする」
「そ、それなら…?」
フェルの言葉に、やはりむかっ腹が立つカエデだった。
「言っとくけど、殺す気でいくから」
「それは楽しみだ」
「やっぱ加減しないじゃん!?」
カエデとフェルは結界から離れ、お互い見合う。伝説を前にしたカエデは、それでもまだ不敵な笑みを崩さない。
「花火を上げよう。それがゴングだ」
「よかろう」
ゴング……?となっているフェルを置いて、カエデは空高くに風と火魔法の応用である音と光の魔法を発動、光の球は空高くヒュルヒュルと打ち上がった。
カエデは杖を握る力を強くする。
まだ、破裂しない。
フェルは足に篭める力を強くする。
まだ、破裂しない。
カエデはフェルの瞳を見続ける。その鮮やかな青緑色は、自分をどこまで見通しているのか。
フェルはカエデの瞳を見続ける。夕焼けを思わせる茜色の瞳、果たして自分をどこまで楽しませてくれるか。
花が、咲き誇る。
カエデは身体強化を最大レベルまで引き上げる。正直これでもフェル相手には心許ない。故に、自分の周りに氷魔法で作り上げた霧を発生させる。並の人間や魔物ならば触れただけで氷で火傷を負い、死に至る。
フェルはそんな死の霧を意に介さず、カエデに突進。事実、フェルにその霧はあまり効果が無いようだ。毛先がちょっと濡れる程度である。
カエデはフェルの突進を強化された反射神経を駆使して回避。そのまま杖で高速軌道、遠方から雷魔法である『ライジングレイン』という雷を雨の様に降らす魔法を発動。
降り注ぐ雷を、それでもフェルは華麗に回避。雷はフェルの毛先にすら触れることなくその効力を無くしてしまう。
速さがダメなら範囲攻撃で。次に発動したのは水魔法、水の女神の加護により強化された魔法は災害の様に無慈悲にフェルに襲いかかる。
「『アクセルウェーブ』!」
魔力を帯びた高純度の津波を、フェルは風魔法で完璧に消し飛ばした。
「まだまだ」
(やっぱり、遠距離魔法じゃ当たる前に避けられるか、こうやって魔法で相殺される)
ならば、とカエデは地面に降り立って杖を放り投げる。投げられた杖はカエデの近くで滞空し、カエデはフェルに対して正しい意味で斜に構える。足を開き、腰を落とす。右手を腰近くで握り、左手はフェルに対してまっすぐに向ける。
「当てに行こうか」
「それでこそだ」
カエデは地面に魔力を流す。加護により強化された土魔法で足場を生成。高速生成される足場と共にフェルに突撃。足場から生成の勢いと強化された身体能力で跳躍し、岩すらも粉砕する拳を思い切りフェルに叩きつける。しかし、それは阻まれてしまう。
鋼鉄を殴った様な音がした。どうやら結界を殴ってしまったらしい。
「まずコレをどうにかするところからだぞ」
「フェル、ボクがその結界を見るの、何度目だと思う?」
「なに?」
不敵な笑みのままカエデは結界に手のひらを当てると、とある魔法を発動。赤い雷の様な光が迸ると、カエデは思い切り結界を
「なにっ!?」
「やっとその顔歪んだなぁ!」
結界は粉々に砕け散り、その効力を失う。カエデが使用した魔法は言うならば結界特攻魔法。魔力で構成された物質に対して縄を紐解くようにその物質を構成している魔力を分解、破壊に至る。
しかしまだ開発段階である為、発動するのには条件がある。それがその対象に直接手のひらで触れるということ。その条件をクリアして初めて物質の解析、分解に移行する。
流石に驚いたフェルは、カエデが放つ蹴りに反応出来ず…なんてことはなく、その身をくねらせて回避する。思わず舌打ちをしたカエデは回避したフェルが去り際に残した風魔法の斬撃を回避。
(どうする、いくら近接に付き合ってくれているとはいえ、雷魔法に反応出来るフェルに攻撃を当てるには…)
そこで、カエデはとっておきの技法を実行に移す。
(出来ればこれは、もっと完成度を高めてから使いたかったけど)
カエデは身体強化魔法を、更に強く発動。赤い雷の様な光がカエデを中心に迸しり、フェルはそれを止めようとする。
「待てっ!それ以上魔法を強くすると貴様の身体が消し飛ぶぞ!」
身体強化魔法はその術者の身体能力を強化してくれる一方、使い過ぎるとその強力な魔力に自分の身体を壊されるというリスクがある。だから、カエデは身体強化魔法に段階を設けたのだ。
しかし、何時まで経ってもカエデの身体は赤く光り続けている。フェルは、カエデの身体の至る所にあるひび割れているところから漏れてる光を見る。そして、それが緑色に淡く光っていることにも気が付いた。
「まさか、貴様…!」
「その、まさかさ!」
カエデは身体強化魔法を普段の五段階から大幅に増幅された五十段階まで強化。そして、その代償である身体の自壊を
(理屈は簡単だ、しかしそれには身体が壊れるスピードに大きく上回る様に回復魔法を使わなければいけない。二つの高位魔法の並行使用。奴の頭はパンク寸前の筈)
しかし、カエデは不敵な笑みを崩さない。
(いくら小僧でもあの高位魔法の並行使用は相当神経を削る筈。致し方あるまい、早々に決着を付けてやる)
後でムコーダにネチネチ言われるのを面倒がったフェルは、その爪に魔力を集中させる。
「なぁに仕込んでやがる!!」
カエデは雷を上回るスピードでフェルに突撃。そしてその拳には雷魔法と火魔法の複合魔法をいつでも発動出来る様にしていた。
「『ボルテックスボルケーノ』!!」
フェルは目の前に迫る極大の炎雷に対し、魔力を篭めた爪を振り下ろす。
「『爪斬撃』!!」
両者が放った二つの技がぶつかりあった衝撃は大気を揺るがし、その中心にいたふたりは大きく弾き飛ばされた。
フェルは吹き飛んだ先で綺麗に着地。一方、カエデは地面に高速で落下。とてつもない破壊音と共に出来たクレーターの中心にカエデは大の字で寝転がった。
「カエデくん、大丈夫!?」
先程まで繰り広げられていた余りにも壮絶過ぎる戦いにボケっとしてたムコーダだったが、吹き飛んだカエデがいるクレーターによろめきながらも下っていく。
どうやら身体強化を解除しているらしく、回復し終えたカエデは大の字から動かない。どこか悪くしたのか、そう思ったムコーダは必死に声を掛け続ける。
「カエデくん、カエデくんっ!」
「………た」
「え?」
「負けたーっ!!」
ぬがーっ!ぬおーっ!と悔しさのあまり暴れ出すカエデに、ムコーダは心底安堵した。
「手加減されまくって負けた……はぁ、流石にヘコむ」
「え、フェルあれで手加減してたの?」
「そりゃね。そもそもトドメ以外向こうから攻撃が殆ど無かったし、風魔法以外使ってないし……ああっ、クソ、ムカつく!」
「小僧、貴様なぜ絡め手を使わない?」
クレーターに降りてきたフェルがカエデを見下しながら言う。それにカエデは不満気に答える。
「拘束魔法が魔法防御力高いフェルに効くかよ」
「やはり分かっていなかったか」
「え?」
「絡め手といっても拘束魔法や毒などではない。岩魔法で足場を生成したのは良かったが、岩で相手の視界を塞ぐ。火魔法の光で目を眩ませる。雷魔法を纏わせながら攻撃する。バカ正直に我に正面から挑んで勝てる訳がなかろう」
「あー……確かに、それはそうかなぁ」
「貴様、魔法センスは多少はあるが戦闘センスは並以下だな」
「うるせーっ」
カエデにとっての悪癖は、今までの戦闘とは呼べない遠距離魔法による一方的な蹂躙にあった。あれではステータスはレベルアップしても、戦闘技術は上達しない。
「今日から毎日稽古を付けてやる、遠距離魔法は勿論禁止。近接戦闘の心得を叩き込んでやる」
「うぇー……」
そう言って、フェルはカエデに背を向けてクレーターを抜け出そうとするが、足を止めた。
「…まぁ、我の結界を破壊したことだけは褒めてやる」
フェルはそう言うと、メシにするぞ!とムコーダに言ってからクレーターを脱出した。そんなフェルに、カエデは手を向けながらポツリと呟いた。
「……遠いなぁ」
「あ、おいっ!それは我の肉だぞ!!」
「早い者勝ちですーっ!」
「またやってら……」
『あるじー、おかわりちょーだい』