とんでもスキルで異世界放浪メシ【イレギュラーな少年を添えて】   作:一般通過炎竜

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第23章『この世の真理、その禁忌』

 

フェルとカエデの手合わせが終わってから、ムコーダ一行はミスリルリザードの一件で領主の元へ向かったギルドマスターを待つ為に暫くカレーリナに滞在することに。

 

あの手合わせ以降、フェルはカエデの近接戦闘の指南に力を入れている様で……。

 

「何度言えば分かる!右から来たらズバッと風で切りババーッと風で吹き飛ばすのだ!」

「教え方が雑過ぎるってのも何度言えば分かるかなぁ!」

 

『あるじー、フェルおじちゃんとカエデおにいちゃんなにしてるのー?』

「一応、鍛錬らしいけど…」

 

人間に戦い方を教えたことのないフェルが教え方に苦戦したり…。

 

ムコーダがランベルトの商店に卸した石鹸類。シャンプーやリンス、ボディソープなどが貴族や商会のご婦人などの女性客に爆発的人気を生んだりした。

 

「いやぁムコーダさん!貴方のおかげで私の店も随分繁盛しておりますよ!本当に感謝しかありません!」

「カエデくんが化粧品もどうかなと言ってくれたので、それも人気です。後で彼にも声を掛けて上げてください」

「それは勿論!…ところで、彼は?」

「あそこに……」

 

ムコーダが指さす方へランベルトが目をやると、そこには沢山の女性客に囲まれて女装させられて目が死んでいるカエデの姿があった。

 

「ほら!このお洋服も似合うわよ」

「次、こっちのアクセサリーも試してみましょ」

「ずるいわよ、次はわたし!」

「待ちなさい、カエデ様には昨日予約を入れた私が優先ですわ!」

「予約ってなんですかマリーさん」

 

「タスケテ……タスケテ……」

 

ムコーダとランベルトは咄嗟に目を逸らした。

 

「……あの輪に入ったら、死ぬ自信がありますな」

「奇遇ですね、私もです」

 

『カエデのやつ、生まれる性別間違えとらんか?』

『今からでも性別変えちゃいましょっか』

『やめてやれ、自殺されるぞ』

『アグニが珍しく正論言ってる…』

 

しっかり女神ズにも見られており、後々キシャールとルサールカに女装を要求されるとは露ほども思っていないカエデであった。

 

そんなこんなで数日が経ち、ギルドマスターが領主の元から帰ってきたと職員から連絡をもらい全員で冒険者ギルドへ向かうことに。

 

フェルとスイは1階で待機。カエデとムコーダで上階にあるギルドマスターの部屋の前に向かった。

 

「ギルマスさん入るよー」

「カエデくん軽いって…!」

 

「おう、来たか」

 

扉を開けると、そこには大量の金貨が入った袋を積み上げているギルドマスターの姿があった。その数およそ6450枚。ミスリルリザードの一件とカエデとフェルが捕ってきた魔物をできる限り買い取った結果らしい。

 

「なんっだこりゃ……」

 

大量過ぎる金を前に、ムコーダは呆然と立ち尽くすしかなかった。

 

「悪いな、本当なら白金貨とかで纏めるんだが銀行で色々あったらしくて在庫が少ないらしい。お前らアイテムボックスあるから平気だろ?」

「別にいいよ」

 

カエデはギルドマスターから買取内容を聞き流しながらザザーッと金貨をアイテムボックスに仕舞う。

 

そこで、カエデとギルドマスターはなにやら下の階が騒々しいことに気が付いた。ギルドマスターが外窓を覗くと、そこには数人の負傷した冒険者が担ぎ込まれていた。

 

その様子を見たギルドマスターはすぐさま部屋を出ようとするも、扉から現れた女性職員を見て足を止める。

 

「大変です!ワイバーンの群れが現れました!」

「なんだと!?」

 

ワイバーン。空を自在に飛ぶ下級の竜種。群れで行動し非常に凶暴であり、尾に毒針を持つ危険な魔物。普段は山岳地域に生息しており、カレーリナ周辺には現れない筈だが…。

 

ギルドマスターは女性職員からの報告を受けながら下の階へ。カエデとムコーダも後に続いた。

 

「群れだと、どういうことだ!?」

「西の草原にて突如出現したとかで…!」

「被害は!」

「冒険者パーティ6名!何とか全員逃げ帰ってきたのですが、重傷の上に毒のまわりが早いです!」

「命があるだけまだマシだ!クソッ、西の草原……ブラッディホーンブル狙いだったか…っ」

 

「カエデくん、ブラッディホーンブルって…」

「ボクとフェルが全滅させた魔物。狙ってた獲物がいなくなって気が立ってるんじゃないかな」

 

受付がある下の階に着くと、そこは大勢の冒険者達で埋め尽くされていた。誰も彼もがワイバーンを恐れ、ギルドへやってきたという。

 

そして件の冒険者パーティは目や腕を欠損している者までおり、猛毒が全身を蝕んでいるのか皮膚が爛れている者までいる。回復術師の懸命な治療も効果が乏しいようだ。

 

「毒消しポーション、これが最後です!」

「近くのギルドや商会から取り寄せろ!それまでは回復ポーションで凌げ!!」

 

「え、えらいこっちゃ…」

「……」

 

普段あまり見ない人の生死に関わる光景にムコーダは冷や汗を流し、目が据わっているカエデは他の冒険者達の会話を耳にしていた。

 

「この辺じゃ毒のある魔物なんて出ないからな…」

「ポーションもこの調子じゃ備蓄も足りんだろうし…」

 

それを聞いたカエデは、冒険者パーティに近付いた。医者と思わしき男性がカエデの前に出る。

 

「キミ!重傷患者なんだ、近付かないでくれ!」

 

「ゴメン邪魔」

 

カエデは医者を退かし、冒険者達の側へ。そして片手で持った杖を冒険者達のすぐ近くの床に軽く小突いた。すると杖から淡い緑色の波の様な光が溢れ冒険者達を包み込む。

 

すると、冒険者達の欠損した部位は凄まじいスピードでみるみるウチに再生され、毒まで浄化された。とんでもない光景を目の当たりにしたギルドマスターや他冒険者達は唖然とした表情でカエデを見る。

 

カエデは冒険者達の傍で片膝を付き、様子を伺う。

 

「違和感があったり、痺れるところは?」

 

冒険者達は自分の手を握りったり足を動かしたりして確認する。

 

「な、無い…!」

「なら全部治ったよ」

 

カエデは立ち上がり、ムコーダ達の元へ。傷が治った冒険者達はカエデの後ろ姿を惚けた表情で見上げる。そして治ったという言葉にハッとなったギルドマスターは他の冒険者達に大声で話しかける。

 

「よく聞けお前ら!知ってのとおりワイバーンの群れが現れた、Cランク以上の冒険者には拒否権なしで出てもらうぞ!これはこのギルドからの緊急クエストだ!」

 

ギルドマスターの言葉に居合わせていた冒険者達に緊張が走る。

 

「怯むな!腹を空かせたワイバーンどもがこの街を襲うのも時間の問題だぞ!奴らに友、恋人、家族を食わせる気か!?違うだろう!!」

 

「奴らに食わせる物なぞ何も無い!団結し、この街を救うのだ!!」

 

ギルドマスターの言葉に鼓舞された冒険者達はそれぞれの武器を掲げ、一斉に返事する。

 

「「「応!!」」」

 

「ちょっと待ってもらっていい?」

「人間どもよ、待て」

 

熱気が有り余る部屋に、何故か透き通るカエデとフェルの声。全員が一斉にふたりの方を向く。

 

「今回の一件、ボク達に預けてくれる?」

「人間どもでは精々奴らの餌になるのがオチだ。ここは我らに任せよ」

「言い方は悪いけど、フェンリル(・・・・・)の言う通り。邪魔だからここにいて」

 

ワザとフェルを種族名で言うカエデに、冒険者達とついでにムコーダが狼狽える。

 

「あれが、例のフェンリル…?」

「グレートウルフって話しじゃ?」

「てか、横の嬢ちゃんも何者だよ…」

 

「カエデくん、フェル!何を言い出すんだよ!?」

「いいではないか、ちょうどいい運動になる」

「ならんわ!」

 

狼狽えるムコーダに、フェルは念話でこっそり伝える。

 

『それに、ワイバーンの肉は美味いぞ』

 

それを聞いたムコーダはついよだれが出る。それはなんだかんだ言ってこの世界に順応している証拠でもあった。

 

ギルドマスターはそんな三人を見て、拳を握りしめる。

 

「フェンリル殿、カエデ殿。どうか、この街を守っていただきたい!」

「ギルドマスターさん…」

 

頭を下げるギルドマスターを見て、ムコーダに緊張が走る。そして、カエデ、フェル、ギルドマスターはムコーダの肩に手を置いた。

 

「じゃあ、一緒に頑張ろうね、『リーダー』♪」

「うむ、運動後はメシを食わねばならんからな」

「頼むぞ、ムコーダ殿」

 

「だからなんで俺がリーダーなの!?」

 

 

◻︎

 

 

「いやぁ、めちゃくちゃいるね」

「い、いすぎでしょ……」

「ワイバーンの群れならこれくらいだ」

『いっぱい飛んでるね〜』

 

西の草原に着いたカエデ達は、空にいる大量に群れを形成しているワイバーン達を見上げる。どの個体も耳障りな鳴き声で威嚇しており、やはり相当気が立っているらしい。

 

「しかしワイバーンというより、映画とか博物館で見るプテラノドンにそっくりだね」

「そうだ……ね!」

「うわぁ!?」

 

ムコーダが呑気なセリフを言っている時に上空からワイバーンが滑空、奇襲しようとするもカエデの杖を媒体とした雷魔法の斧槍で叩き落とされる。叩き落とされたワイバーンはのたうち回るが、カエデが首を落として絶命する。

 

「こう見るとまあまあデカイね」

「良い反応だ。まぁ良い機会だ、飛んでいる獲物の狩りというのを教えてやる。来い、小僧、スイ」

「スイに変なこと教えんなよー!」

「やかましい奴だ、ここで待っておれ」

 

結界を貼られたムコーダを放置し、三人は狩場へ向かう。

 

「よいか、飛んでいる獲物というのはまず頭か翼を狙う。頭は即死だが的が小さい、そこで翼だ。そこを傷つければ大抵のものは落ちる」

「放電して落とせるけど?」

「あまり肉を傷つけたくない、広域魔法はやめておけ。それに今回は小僧にとって良い修行になる、遠距離魔法は禁止だ」

「めんどくさ……」

 

渋々カエデは杖に跨り、空へ。ワイバーンのすぐ側まで近付き斧槍で叩っ斬る。当然飛行手段を失ったカエデは地面に落下し始めるが、すぐさま飛行状態に切り替える。いちいち攻撃から飛行に切り替えるのを面倒くさがったカエデは、杖に立ち乗りした状態で魔導書を開く。

 

「うーん、近距離の魔法…近距離の魔法…。ああ、こういうのもあったか」

 

魔導書を仕舞い、立ち乗りで飛行する。そしてワイバーンに近付いて魔法を発動。両手の肘から手にかけて雷が迸り、それは剣の様に長く鋭くなる。

 

「『ライトニングソード』…。近距離魔法とか使わないだろと思って読み飛ばしてたけど、意外と出番もあるもんだね」

 

上空でカエデが雷の剣でズバズバとワイバーン達を倒しているのを見て、スイは目を輝かせる。

 

『スイもやるー!』

 

スイは触手から酸弾をワイバーンに良く狙いを定めて発射。見事頭部に直撃したワイバーンは地面に墜落する。

 

「負けていられんな」

 

フェルも上空にいるワイバーン達に向けて跳躍。跳躍を繰り返し次々とワイバーン達の首を正確に切断していく。

 

「……よし、本でも読も」

 

そんな一方的な蹂躙を土魔法で自作したシェルターに閉じこもりながら見ていたムコーダは、なにも見なかったことにして読書を始めた。

 

 

◻︎

 

 

「スイ達〜、血抜き頑張って〜」

『『『『はーい』』』』

 

分裂したスイはワイバーン達の血や地面に付着している血を吸い取る。ワイバーンの解体の際に楽ができるらしいし、地面の血は他の魔物が寄り付かない様にするためである。

 

スイが血抜きしたワイバーンを、ムコーダとカエデは次々と仕舞っていく。そして、あることに気が付いた。ある意味ではもっとも気が付いてはいないこの世の理ともいえることに。

 

「ねぇ、ムコーダさん」

「なに?」

 

「ワイバーンを生け捕りにしてさ、死なない様に肉を取ってさ、それを無限の魔力を持つボクが回復魔法で治したら無限に肉が取れるんじゃ…」

 

………………………………。

 

「なんかダメ!!」

 

「う、うん。ボクも正直どうかと思った。でも思いついちゃったから言わないとなんか気が治まらなくて…」

 

「なんか、ね。うん、倫理というか人道というか、あれね」

「あれね」

 

あれあれ、と言いながら無事ワイバーンを全て回収し終わった。そしていつも通りフェルがムコーダにメシを要求し、調理になって暇になったカエデはフェルと軽い運動をする事に。

 

「先程のライトニングソード、それだけで我に挑んでこい」

「上等」

 

調理している背景で、ブォンぶおんと剣を振るう音とそれを弾く音だったり、着地や回避に地面を蹴り上げたりなんだりしてとてもやかましくなったふたりを見て、ムコーダはふたりを正座させて一言。

 

「静かにしてなさい」

「はい」

「ふん」

 

仕方ないのでフェルは伏せ寝。カエデはその背中で魔導書を読み、スイはその背中で日向ぼっこをする。

 

暫くして良い匂いが漂ってきたところでフェルは立ち上がり、ふたりを乗せたままムコーダの元へ。テーブルには五つほどの皿が並んでおり、そこにはカラッカラに揚がったメンチカツが並んでいた。

 

「さぁ、召し上がれ!」

「いただきます!」

「これは美味そうだ…!」

『いただきまーす!』

 

カエデは早速メンチカツを一口、ザクッとした食感と共に中から肉汁が溢れ出す。そして口の中の油をムコーダが用意していた炭酸水で流し込んだ。

 

「ぷはぁっ!ジューシーで美味しい!ムコーダさん、これなんのお肉?」

「こっちがブラッディホーンブルで、こっちはオークの。カエデくんが今食べたのはそれの合い挽き肉だね」

「へぇ、通りでお肉の味が濃い訳だ」

 

しばらくメンチカツを食べ進め、そういえばとムコーダがアイテムボックスからある物を取り出す。それは超が着くほど低温で熟成させたあのパンだった。

 

「これに挟んで食べてもいいね」

「天才じゃったか……」

「おい、我にも寄越せ」

『スイもー』

 

先程まで戦場だったとは思えないほど爽やかな風が吹く草原にて、穏やかな昼食を過ごした一行であった。

 

 

◻︎

 

 

昼食も終わり、すっかりのんびりした一行はカレーリナの街へ。そしてワイバーンのことを報告するために冒険者ギルドへ向かう。

 

道中、なにやら兵士が行き交ったり市民が心落ちかない様子で辺りを歩き回っていたりと、普段のカレーリナとは違う雰囲気なのを尻目に冒険者ギルドの扉を開ける。

 

「ギルマスさんただいまー」

「た、ただいま戻りました」

 

「おぉ!戻ったか!!」

 

ギルドマスターは慌てて四人の側までよる。

 

「そ、それでどうだった」

 

「ワイバーンなら全滅。ボクは空から見渡したし」

「我が気配を探った。しかしいないということはあれが全てだろう」

 

ふたりの言葉に、一瞬静まり返った冒険者達は大声で喜びだす。恐怖からの開放感、街に危機が訪れなくなったという開放感。それら全てからくる慟哭であった。

 

「「「うおおおおお!!!」」」

 

「うるさっ」

「そ、そんなに喜ぶの…?」

 

「当たり前だろう、ワイバーンの群れともなればここの冒険者連中全て集めてかかっても半数は死ぬ。中々帰ってこないからさすがのフェンリル殿でも敵わなかったのかと皆心配していたのだ」

 

ギルドマスターの言葉に、絶対討伐自体大して時間かかんなかったけどメシ食ってのんびりしてましたなんて口が裂けても言えないな…とムコーダが思ったところで。

 

「ご飯食べてたから遅れちゃったんだよね。ごめんギルマスさん、報告遅れて。あとフェルだけじゃなくてボクも倒したからそこを忘れずに」

「我がワイバーン程度に遅れをとるはずがなかろう」

 

「カエフェルー!!」

「混ざってるまざってる」

 

ムコーダの絶叫とふたりの言葉に絶句し、なんならドン引きしているギルドマスターと他冒険者達。その中から、何人かの冒険者がカエデの傍による。

 

「カエデさん、貴方のおかげですっかり治りました」

「むしろ怪我する前より調子いいもんな!」

「本当に、ありがとうございました」

 

頭を下げる冒険者達に、カエデは頭を掻きながらため息をつく。

 

「別にいいよ、他者に施す回復魔法の実験がしたかっただけだし」

 

そう言うも、顔が若干赤くなっているのをこの場にいるほとんどの人間にバレているカエデだった。

 

「まぁまぁ、感謝は素直に受け取りなよ」

「そうだぞ、貴様なんぞ滅多に感謝されることなぞないのだからな」

 

「うっせーわ!特にそこの駄犬!!」

「誰が駄犬だ小僧!!」

 

ギャイギャイ喧嘩し始めるふたりを見て、ムコーダは一周まわってむしろ安心すら覚えるのであった。

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