とんでもスキルで異世界放浪メシ【イレギュラーな少年を添えて】   作:一般通過炎竜

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第24章『ナレ死が確定した魔物』

 

ワイバーン討伐の翌日、カエデは宿の洗面所で朝の支度中に宿屋の店主に声をかけられる。

 

「ああ、いたいた。お嬢ちゃんにお客さんだよ」

「ボクに?」

 

もはや女扱いされても何も気にしなくなったどころか、一々訂正することすら億劫になったカエデは支度を済ませてから宿の受付へ向かう。

 

そこには、カエデより小さい男の子が緊張した佇まいで待っていた。

 

「キミ、ランベルトさんのとこの…」

「あ、えと…ランベルト様が、カエデ様が予約していた物が出来上がったのでその旨を伝えてこい…と」

「そっか、ありがと」

 

そこで、カエデは獣舎の方から食欲を誘う良い匂いがすることに気が付いた。

 

「キミ、朝ごはんは食べた?」

「い、いえ。まだです」

「じゃあ食べていきなよ、ムコーダさんの料理は美味しいよ」

「い、いえ!ランベルト様のお客様にそこまでお世話になる訳には…」

「メンドクサイなー、ほら行くよ」

「わわっ!?」

 

カエデは少年を脇で抱えて強制的に獣舎まで運ぶ。獣舎に着くと、ムコーダはいつも通り料理の支度を終えていた。既にフェルとスイは食べ終わったのか、少し離れたところでゆったりとしている。

 

「カエデくん、その子は?」

「ランベルトさんのところの子。この子にもご飯いいかな」

「もちろん」

「あ、ありがとうございます…」

 

ムコーダは全員分の皿に料理を盛り付けていく。それはサンドイッチなのだが、少年からすれば未知の食べ物だ。だがひとつ分かることがあるとすれば、それは確実に美味しいということだ。

 

「さぁ、召し上がれ」

「いただきまーす」

「い、いただきます!」

 

少年はサンドイッチを一口食べる。味わったことのない食材、考えたこともない程にふわふわのパン、いつも食べている食事とはあまりにもレベルが違うことを少年は理解した。

 

「うん、いつも通り美味しいね。キミもそう思うでしょ?」

「お、美味しいです」

「それは良かった」

 

少年、頑張るんやで。とウンウンと頷きながら今後の少年の人生を想うムコーダだった。カエデは先に食べ終わり、少年が食べ終わるのを身支度を整えながら待つ。

 

「俺も後で行くよ、追加の石鹸を持っていかなきゃ」

「わかった」

 

少しして少年は食べ終わり、案内されて商店へ辿り着く。少年が扉を開けてそれにカエデが続くと、中には既にランベルトが待機していたのか笑顔でカエデを出迎える。

 

「お待ちしておりましたカエデさん!出来ましたよ、職人達の渾身の出来です!」

 

それは、カエデの男の子心を擽るにはうってつけ過ぎる装備だった。

 

「カエデ様の茶髪を映えさせる為に黒を基調をしたデザインとなっておりまして、その細部にカエデ様の夕日の様な瞳の色を……」

 

と、ランベルトの説明を聞きながら手に取ってみる。小柄なカエデの為か、全体的に軽い。しかしブーツや手袋など消耗し易いところは頑丈に作られているのが分かる。

 

外套はフード付きでゆったりと着れる物であり、魔法使いを彷彿とさせる見た目だ。背中には見たことの無い紋章の様なものが刻まれている。

 

「それは旅人に安全祈願を願うおまじないでして、女神の祝福が施されるのですよ」

「へぇ、それはありがたいね」

 

鑑定が使えるカエデにはこれに女神の加護など施されていない事は理解出来るが、それを言うのはあまりにも野暮である。それに、たとえ女神の加護が無くともランベルトやこれを編んだ職人の想いは籠っていることだろう。

 

カエデは早速別室にて着替えようとする。しかし、着替え室には先客が。

 

「カエデ様、初めての着付けは我々にお任せを」

「えぇ……」

 

それはマリーや他女性従業員だった。しかし、今回は下心は無いようだ。

 

「それ前回は下心あったってことだよね」

「いいえ?我々は誠心誠意業務に務めております」

 

カエデは疑いながらも女性従業員に任せることにし、下着のみになる。新品特有のパリッとした感覚を味わいながら、次々と装備を整えていく。あらかた着替えが済み、腕を回したりブーツの底を慣らしていると、マリーから声がかかる。

 

「カエデ様、こちらを」

 

マリーが小さい箱から出したのは、紫色に近い赤の宝石が施されている髪留めだった。カエデは癖で鑑定をすると、それはアレキサンドライトという宝石だった。

 

(確か、前の世界だと世界三大希少石なんて呼ばれてたっけ。こっちにも同名で存在してるんだ)

 

宝石は人工の物や天然の物によって値段は左右するが、鑑定通りならこれは天然の物だ。色の移り具合、大きさ、光の反射率などを鑑みるに相当の値打ち品ということが分かる。

 

(……あれ?でもアレキサンドライトって昔実在した皇帝の名前が由来だったりしなかったっけ?……同名の王様とかがいたのかな?)

 

考えても分からないことなので、切り替えることに。カエデはマリーにすっとぼけてこの髪留めについて聞く。

 

「これは?」

「私共、というよりランベルト商会からの親睦の証と受け取ってくださいまし。カエデ様とムコーダ様は我々に多大な利益を齎してくださった親愛なる殿方達ですわ」

 

こちらはムコーダ様に、とマリーは別の小箱を渡してくる。

 

「よろしければ、付けさせていただくことをお許しください」

「別に、いいけど」

 

カエデは椅子に座る。その後ろにマリーは立ち、カエデの髪を纏めていく。細く、滑らかな髪質だ。異世界でロクなケアも出来なかったマリーからすれば、女神の髪の様に思える。

 

「さ、出来ましたわ」

「これは……」

 

(なんというか、お母さん感が凄い…)

 

纏めた髪は前に垂らしており、漫画でよく見る主人公の母親みたいな髪型になった。*1流石に変えようかと思ったが、マリー曰くフードを被る可能性があるのならこの髪型が良いと言われた。

 

まぁ確かに。と、そう納得したカエデだった。

 

着替え終わり、沢山の女性従業員に見送られてマリーと共にランベルトの元へ行く。そこには、商談を終えたムコーダの姿があった。

 

「おお!それがカエデくんが頼んでたやつ?」

「うん。どうかな?」

「超魔法使いっぽい!」

「ふふ、そうでしょ?」

 

そういえば、とカエデはマリーから渡された小箱を渡す。マリーから説明を受けたムコーダは震えた手で小箱を開ける。そこには青い宝石、サファイアを施された腕輪が入っていた。

 

ムコーダはこんな高価な物を受け取れないと駄々を捏ねるも、カエデに痛いところを突かれる。

 

「それは、ランベルトさん達の好意を無下にするんじゃない?」

「うぐっ……そ、そんなつもりは……」

 

図星を突かれたムコーダをケラケラ笑うカエデに、つられて笑うランベルト夫婦。仕方なく、ムコーダは着用することにした。

 

(怖いから、旅の途中とかではアイテムボックスに仕舞うことにしよう…)

 

「そういえばムコーダさん、今日は買い物するんだっけ?」

「へ?ああ、うん。お金も沢山入ったしカエデくんと相談しながら必要な物をと…」

「ランベルトさん、なにかオススメある?」

 

「そうですな……旅で欠かせないものと言ったら、やはり寝具や調理器具…それに…」

 

ランベルトに必要な物、そしてそれらを売っているオススメの商店を教えてもらった。

 

「それじゃあ、今日はありがとうございました」

「んじゃね」

 

「はい、またのお越しをお待ちしております」

「ごきげんよう、カエデ様、ムコーダ様」

 

ランベルトとマリーに見送られ、ふたりは商店が揃う通りへ向かう。そこで旅に必要な物を新調していくことに。

 

「この寝袋、結構暖かいよ」

「そっちかぁ、俺はこの軽めの方が……」

 

「フライパンとか鍋はどうするの?」

「フライパンとかはネットで買えるから、どちらかと言うと大きめの寸胴鍋とかがもっと欲しいかな。ウチには大食らいもいることだしさ」

「言えてる」

 

暫く買い物を続けていると、ムコーダは気になる物を見つけた様だ。

 

「カエデくん、アレって…」

「なにあれ。……浴槽?」

 

かなりの大店で、店先には様々な種類の見本の浴槽が飾られている。ムコーダはカエデでですら追えない素早い動きで店先に向かう。

 

(なんだ今のスライド移動…!?)

「カエデくん、ちょっと入っていいかな!?」

「う、うん」

 

ムコーダに圧されながらお店に入る。すると、店主と思わしき老紳士がふたりに近付いていく。

 

「いらっしゃいませ、今日はどの様なご用向きで?」

「あ、えと…どんな種類があるのかなって」

「左様でごさいましたか。では、ご案内させていただきます」

 

こちらへ。と老紳士はふたりを奥へ案内する。そこには少、中、大とサイズがあり、素材もそれぞれ違う大量の浴槽があった。

 

「うおおおお!これ全部風呂か!!」

「過去一テンション高いねムコーダさん」

 

ふたりは老紳士の説明を聞いていくことにする。

 

「一番お手頃なのはこの茶色のものですね。こちらは金貨三百枚からになります」

(それでも結構するなぁ)

 

「少し値は張りますが、深緑色のものもオススメですよ。これだけの大きさのものに均一に色付けするのは難しい技術が必要になります。ここまでムラのない仕上がりはウチだけですよ!」

「ホントだ、肌触りもいいね。しっとりしてるというか」

 

「そして最近売り出し始めた新商品がこちらでございます!」

 

老紳士が被さった布を取り上げると、それは純白の浴槽だった。

 

「うおおお!真っ白!」

「綺麗だねぇ」

 

(…白いと普通の風呂だね)

(ま、まぁ異世界だと作るの難しいんじゃない?)

 

老紳士は如何にこの浴槽が素晴らしいか語るも、ふたりはそんな感想しか抱けなかった。

 

「俺とカエデくんが入るし……フェルのことを考えると大きい方がいいかな」

「中くらいのと大きいの買えば良くない?大きいのひとつだとフェル入っただけで溢れるよ、きっと」

 

それを聞いた老紳士は驚愕するも、ムコーダは話を続ける。

 

「そうだね。じゃあ深緑色の中と、その大をください」

「も、もう決められたのですか?それも二つも…。ああいえ!なんでもございません!」

 

(そっか、高額商品だし普通は即決しないか…それも二つも)

(図らずもお金持ちムーブをしちゃったね?)

 

老紳士が見積もり書を手渡すと、いつもなら目玉が飛び出る金額が書かれていたが風呂を前にテンションが高いムコーダは一括現金払いで支払うことに。

 

ふたりは少し待つことに。なにしろ大量の金貨だ、複数人の店員で金貨の重さを計り計算していく。

 

「なんか歴史の教科書で見たような計りだね」

「ああやって金貨を確認するんだなぁ…」

 

数分後、計り終わったのか店員から確認の合図が出る。それを見た老紳士は少し疲労した顔でふたりに振り返る。

 

「は、はい確かに。こちらはご自宅までお運びしますか?設置工事の手配もうちでご紹介出来ますが…」

「アイテムボックスあるんでいいでーす」

 

カエデはムコーダのアイテムボックスに浴槽を詰めていく。それを見た店員達はまたもや驚愕することに。

 

「に、荷車要らずとは羨ましいですねぇ」

「サイズは小さめで、もうギリギリなんですけどね?」

 

(ムコーダさん、浴槽二個丸々入るアイテムボックスが小さいは大分無理あると思う)

(やっぱり?)

 

小声であったため老紳士に聞かれなかったことだけが救いであった。

 

「「ありがとうございました!」」

 

恐らく今店にいる全店員で見送られ、カエデとムコーダは清々しい気持ちで店を後にする。

 

「いやぁ、買ったねぇ」

「まさか風呂が手に入るとは…!カエデくん、フェル達誘って森に行こう!いつもの獣舎じゃちょっと目立つし早く入りたいし!」

「テンションたか…。でも、風呂に入るってのは賛成かな」

 

ふたりは宿でうたた寝していたフェルとスイを連れてカレーリナから離れた人気の無い森まで向かう。

 

「何をしているのかと思えば、水浴び用の釜を買っていたのか」

「フェルも入るんだよ」

「我には必要無い。そんなことより面白い気配がする。小僧、付き合え」

「えー……?しょうがないなぁ、ごめんムコーダさん。フェルの用事が済んでからでもいいかな?」

「いいよ。それじゃあご飯でも作っておくから、風呂はその後にしようか」

『スイ、あるじ守る〜』

 

偉いぞ〜、とカエデとムコーダでスイを撫で回す。そして、カエデは杖に乗ってフェルの後を着いていくことに。

 

「フェル、面白そうな気配って?」

「まぁ待っておれ」

 

暫く移動して森を抜けると、そこは岩石地帯。大きい岩や鉱山と思わしき山が見える場所だった。そして、それをナワバリとする存在も。

 

「面白そうな気配って、アレかぁ」

「そうだ」

 

カエデは見えている巨大な魔物を鑑定する。名を『地竜』。アースドラゴンとも呼ばれるそれは、まるでティラノサウルスの様な姿だった。巨大な身体に大きい後ろ足、小さい前足、そして見るからに強靭そうな顎。

 

「アレを貴様は身体強化と近接魔法のみ。我も同じ条件で挑むぞ」

「簡単に言っちゃってくれるよね…」

 

そう言いながらも、カエデは不敵な笑みを零す。

 

「では、往くぞ!」

「おう!」

 

カエデとフェルは同時に地竜に襲いかかる。それはさながら、二匹の狼の様だった。

*1
最近だったら『宇崎ちゃんは遊びたい!』の『宇崎月』とか。

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