とんでもスキルで異世界放浪メシ【イレギュラーな少年を添えて】 作:一般通過炎竜
「はーっ、サッパリした!」
『あったかいお水、気持ちよかったねー』
フェルとカエデが狩りに出掛けてから、ムコーダとスイは風呂に入っていた。存分に旅の疲れを癒したムコーダは、風呂上がりの牛乳をスイと飲みながら未だに帰らない二人のことを思う。
「二人とも、遅いなぁ…」
『ねー』
「仕方ない、先に飯の仕込みをしますか」
『わーい、ごはんー!』
ムコーダは調理場を整え、まな板の上にワイバーン肉をアイテムボックスから取り出した。
「フェルが美味いって言ってたし、楽しみにしてたんだ。素材の味を活かしたステーキもいいけど…ここはビーフシチュー、いやワイバーンシチューにするか!」
『やったー!』
ムコーダはワイバーン肉以外にも、野菜なども切り分けていく。そこで、料理をしながら物思いに耽ることとした。
(そういえば、カエデくん苦手なものとかあるのかな…。フェルは無いだろうけど)
玉ねぎをくし切り、じゃがいもとにんじんは皮を剥いてから一口大に切っていく。別の思考をしながらも手先が止まらない、ムコーダの器用さをこれでもかと発揮していた。
(そういえば、最初こそカエデくんはちょっと怖かったっけ…。女の子だと勘違いしてたのもそうだけど、なんというか、時々目から光が消えているというか…闇が出ているというか。いや、それは今もそうか)
肉と野菜を切り終わり、コンロの火を付けて鍋を温める。
(多分、カエデくんは裕福な家庭に生まれたんだろうな。時々そういうのを感じる時があるし、なによりあの綺麗好きは正直異常だ)
小分けにされているバターを包み紙から鍋へ落とし、溶かしながら広げていく。バターがフツフツと膨れ始めたらそこにワイバーン肉を投下。表面に焼き色が付くまで炒める。
(でも…あまり家庭的では無かったのかもしれない。カエデくんはお母さんの話しは時々するけれど、お父さんの話しは聞いたことがない)
焼き色が付いたら、玉ねぎとじゃがいもとにんじんを入れて軽く炒めてから、赤ワインと水をひたひたになるくらいまで入れる。そこにコンソメも入れてアクをとりつつ煮込む。
(それに、これは俺にもだったけど…。カエデくんは初対面の大人を非常に警戒する。もしかしたら本人は気付いていないかもしれないが、目付きが露骨に変わるんだよな)
鍋にデミグラスソースとケチャップを混ぜ入れて味見をしながら更に煮込む。スイが良い匂いに釣られて跳ねながら近付いてくる。
(だから、これはただの予想だけど…。お父さんが何かしらの職業で上の立場にいて、カエデくんは度々お父さん絡みで嫌な目に遭ってきたんじゃないかな…)
「ムコーダさん、ただいまー」
(フェルを囲もうと貴族の使いの人が来た時、とても不機嫌になってたし。もう結構長いこと一緒に旅をしてるけど、あそこまで不機嫌になってるカエデくんは見たことが無い)
「あれ?ムコーダさーん?」
(お父さんに近付きたくて、カエデくんから懐柔しようとした大人が多かった……とか。うーん、いかんな変な妄想が止まらない)
「おーい、ムコーダさんってばー」
ムコーダは完成したワイバーンシチューの鍋に蓋をして、空を見上げる。満天の星空だ、しかし今のムコーダにはそれが不安の象徴として映ってしまう。
「これからも旅を続けるなら、一回は腰を据えてお互いのことを話すべきだよなぁ…」
「ムコーダさん大丈夫?」
「ぬわーっ!?」
急に背後から話しかけられたムコーダは飛び上がって驚く。ずっこけたムコーダをカエデは心配そうに声をかける。その背後では呆れた顔でフェルが立っていた。
「ご、ごめんムコーダさん!返事が無かったからどうしたのかと思って…」
「か、帰ってきてたんだ?」
「うむ、中々良い狩りだった」
「ほら、手を取って」
ムコーダはカエデに差し出された手から順々に顔まで見ていく。細く白い指、スラッとした腕、細い首、生まれる性別を間違えた容姿。確かにカエデはムコーダに語っていないことが殆どだ。しかし、それはムコーダとて同じこと。
「カエデくん」
「ん?」
ムコーダはカエデの手を取り、体重をかけないように起き上がる。魔法によって大人顔負けの身体能力を持っているカエデには要らない気遣いだが、そうするべきだと思ったのだ。
ムコーダは小さい手を大きい手で握って改めて思う。彼は子供で、自分は大人。ならば少しでも彼が間違った道を歩まないようにするべきだと。
「おかえり」
「……うん、ただいま」
「おい、腹が減ったぞメシにしろ」
そんなこと欠片も考えていない伝説の魔獣は、しんみりしているムコーダに冷水をかける。ジトーっとフェルを見てから、ムコーダはため息を吐く。
「はぁ……フェルはいいよな」
「む?」
「はぁ……」
「?」
カエデとフェルはなんのこっちゃと首を傾げる。それを見て、ムコーダは一息入れてから冷めたシチューを再度温める為に火を付ける。
「それじゃあシチューあっためるから、二人は……お風呂入れば?」
見ればフェルはかなり土埃を被っており、恐らく自分である程度落としたであろうカエデもそこそこ土埃を被っていた。
「そだねー、よっしゃフェル、お風呂の時間だよ!」
「我はいらん」
「はーきったねうっわクッサオッエー」
「そんなに噛み殺されたいか!」
「きたねぇのが悪いんだよバーカ!」
ギャイギャイ騒ぎ始めた二人を見て、ムコーダは足元に来ていたスイを抱え上げて撫で始める。
「相変わらずだねー、二人とも」
『そうだねー』
◻︎
晩飯が終わり、狩りの成果を見せることにしたカエデはバカでかい大トカゲの顔面をアイテムボックスから覗かせて戦果報告をする。名前は『
『おっきぃ〜』
「ど、どうすんの…?この前のワイバーンといい、今回のドラゴンといい…これ以上はまずくない?」
「それもあるんだけどさ、前に倒したオルムルと言い忘れてたけどドラゴンもう一体あるんだよね。グランドドラゴンっていうんだけど、どっちもギルマスに報告するの忘れてた」*1
「ほう?」
カエデはアイテムボックスからオルムルとグランドドラゴンの頭を覗かせる。フェルはグランドドラゴンの顔をジロジロ見る。
「久方ぶりに見たな。此奴は地中から滅多に顔を出さんから中々に珍しいぞ」
「フェルが言う珍しいってどんだけだよ…」
「まぁ話してみようよ。なにかあったらボクとフェルがなんとかするからさ」
「それは暴力装置を起動させるってことでいい?」
無言で顔を逸らすカエデに、思わずムコーダはため息をついた。
「とりあえず、話だけはしてみるか……」
◻︎
「「流石に無理だ!!」」
「ですよねー!」
翌日、ギルドマスターと解体屋にドラゴン三体の解体を申し出た一行だったが、無言で解体所まで連れていかれてこの有様である。
「ミスリルリザード、ワイバーン。それだけでギルドが動くというのに、
「しょーがないじゃんいたんだから」
「いたら倒すものでは無い!!というかなぜ倒せる!?」
てへ☆と舌を出しておどけてみせるカエデにギルドマスターは大きい溜息をついた。
「じゃあ、解体も無理そう?」
「そもそもだな…ドラゴンというのは直近の討伐記録が確認されているのが二百年以上前の物になるんだぞ。今や文献でしかその存在を言い伝えられておらん」
「じゃあなんでボクらはこんなに出会うのさ」
「さぁなぁ…なにか惹きつけるものがあるんじゃないか?」
「そんな人を餌かなにかみたいに…」
「ドラゴンの肉は美味いのだがな……」
食えないと分かるとしょんぼりするフェルに、ギルドマスターと解体屋はドラゴンの肉が美味いという情報を得て脳内に宇宙が巡った。
そして、ギルドマスターはうーんと唸ると、とある事を思い出した。そして苦虫を噛み潰したような表情になる。
「ドラゴンの解体…出来るやつはいるにはいるが…」
「いるんだ?」
「いや……しかし……」
「ああ……あの人ですか……」
ギルドマスターと解体屋は二人揃って、あの人かぁ…。と項垂れている。
「そんなヤバい人なの?」
「ヤバいというか、なんというか…」
「その人はここから少し遠い街、ドランというダンジョンを生業としている街でギルドマスターをやっているんだが……」
「ギルドマスターなら話は早いじゃん、行こうよムコーダさん」
そう言って部屋を出ようとするカエデを、ギルドマスターは呼び止める。
「待て!その前に、ひとつ相談したいことがある」
「な、なんでしょう?」
「お主ら、このままこの街に滞在するつもりなのか?」
「……というと?」
ギルドマスターは近くの椅子にドカッと座り、腕を組む。大事な話の様だ、カエデとムコーダは姿勢を正す。
「お主らには、大変世話になった。ブラッディホーンブル、ミスリルリザード。果てには我らの街をワイバーンという危機から救ってくれた」
「お主達がこのままこの街に居てくれると、冒険者ギルドとして、そしてこの街の一市民としてありがたいのだが……どうだ?」
「それは……」
ムコーダがなにか言おうとするのを、カエデとフェルがムコーダの肩に手を置いて止める。
「ドラゴンも良いがな、我は海に行きたいのだ。クラーケンやシーサーペントを食いたくてな」
「ゴメンね、ギルドマスター。ボクも世界中の魔法を知りたいし、強い魔物や人と戦ってみたいんだ」
「……またどえらい名前が出てきたな」
「すみません、このふたりは一度決めたらテコでも動かないんで…」
「それに、冒険者は冒険してこそじゃない?」
保護者の苦悩と冒険者としてカエデの素質を垣間見たギルドマスターは、快活に笑い出す。
「ハッハッハ!そうだな!冒険しない冒険者なぞいないか!」
「いやいや、引き止めて悪かった。そして実は相談というのが他にあってな。今のはその確認だ」
儂の部屋に行こう。と、ギルドマスターに連れられて部屋に入る。ギルドマスターはテーブルに大きい地図を広げた。
「これはこの国の地図だ。そして、海に行くのならば三つの主要都市を通るルートが良い」
ひとつは、紡績の街クレール。今いるカレーリナほど大きくは無いが、糸や布、衣服の質が上質で主な交易品となっている。
もうひとつが、ダンジョン都市ドラン。ダンジョンを攻略する冒険者、その冒険者に商売をする商人と言った感じで、ダンジョンを中心に発展した街。
次に焼き物の街ネイホフ。陶器工房とその商店が栄えており、美術品や釜や水瓶など、その種類は多種多様だ。どうやら浴槽も高級品として置いてあるらしい。
最後に、漁港の街ベルレアン。新鮮な魚介といえば、と言われる程海産物などで栄えている。しかし、海には魔物がいる。ベルレアンの漁師は魔物に屈しない強い精神力と魔物に対抗できる力を求められる。元冒険者の漁師も多いんだとか。
「風呂かぁ……」
「クレールの布製品気になるなぁ。それ、ドランも面白そうだね」
「人の街にダンジョンとはな」
『ダンジョン〜!』
風呂で高揚した気分を、既にダンジョンに行く気満々の三人を見て台無しにされるムコーダだった。
「うぅ……行くんだよなぁ、何言っても聞かないんだから」
「わはは」
「ふはは」
「この似た者同士め……」
「それで相談なんだが、都市を通る際にそこの冒険者ギルドから依頼を受けてほしいのだ。冒険者ギルドは常に人手不足でな、高ランクの依頼が溜まりがちなのだ」
「いいよ。さっさとSランクにもなりたいし、ギルドに恩を売るってのも悪くなさそうだしね」
「助かる…。各都市のギルドマスターには儂から話を通しておこう」
「それじゃあ、カレーリナのみんなに挨拶に行かなきゃね」
「そうだな。随分世話になったもんなぁ……」
カエデとムコーダは立ち上がり、ギルドマスターに頭を下げてから退室する。そして、様々な場所へ赴いた。
ランベルト商会にて。
「おお、いよいよ旅立たれるのですか」
「ええ、海まで行くことになりまして。今日は挨拶回りに」
ムコーダはアイテムボックスから石鹸等の納品を済まし、カエデはランベルトとマリーにあるものを差し出した。それは、装飾が施された魔石だった。
「これは?」
「お手製のお守り。女神様の祝福が宿ってるかもね?」
「はっはっは。これはこれは、ありがとうございます」
「綺麗な魔石ですわね」
これに女神の祝福はもちろん宿ってはいない。しかしカエデは市販品の魔石に自分の魔力と、とある魔法を仕込んでいた。ささやかなものではあるが、それは結界魔法。まだフェルの様な堅牢な結界はカエデには扱えないがこの程度のものなら用意出来た。
「海まで行ったら、また戻ってくるよ」
「ええ、お気をつけて!」
商会の前にて手を振るランベルト、スカートの裾を少し持ち上げて頭を下げるマリー。カエデはそれを真似てローブの裾を持ち上げて頭を下げた。
「それ、女の人がやるやつじゃないか?」
「でもサマになってるでしょ?」
「それはそうかも」
そしてその晩、ここに目的の人物がいると聞いて二人はとある酒場へ訪れていた。そこにいたのはカレーリナに来る際に同行した不死鳥のメンバー達だった。
「そうか、街を出るのか」
「うん、ラーシュさん達にも挨拶しておこうかと思ってさ」
ラーシュは豪快に酒を呑み、大きく息を吐いた。
「ワイバーン討伐の時は加勢出来ず、すまなかったな」
「別にいいよ、いても邪魔だし」
「言ってくれるなコイツ!」
「ひゃめろ〜」
うりうり、とラーシュはカエデのほっぺを指でつつく。ムコーダは他メンバーに頭を下げていたが、誰も気にしてなどいなかった。
「それじゃあまたね。お酒、控えないと内臓やられるよ?そろそろヤバそうな感じがするし」
「ハハッ、回復術師が言うと冗談に聞こえないぞ!」
「………………」
「……冗談だよな!?」
無言で顔を逸らしたカエデに思わず泣きついたラーシュと、それを見て大笑いするムコーダと不死鳥のメンバー達だった。
翌朝、カエデは冒険者ギルドにてギルドマスターから紹介状と国の地図を受け取った。
「各街のギルドに話は通しておいたから、必ず寄ってくれよ」
「分かってるよ。じゃあまたね、ギルマスさん」
「色々と、お世話になりました」
「おう!いつでも来てくれ!」
ムコーダ一行は冒険者ギルドを出て、カレーリナの街を出た。次に向かうは紡績の街クレール。カエデは杖に、ムコーダはフェルに乗って旅に出る。
「さて、久々の旅を楽しみますか!」
「おー!」
『おー!』
「騒がしい連中だ」