とんでもスキルで異世界放浪メシ【イレギュラーな少年を添えて】 作:一般通過炎竜
異世界生活五日目、夜。
「うむ。美味い、もっと寄越せ」
「は、はいぃ!」
ムコーダさんは今、突如として現れた謎の魔獣に一心不乱で生姜焼きを振舞いまくっている。
ヴェルナーさん曰く、奴の個体名は【フェンリル】。
伝説の魔獣であり、単騎で一国をも滅ぼす力を秘めているらしい。
……メシの匂いに釣られてきたという事実に目を瞑れば、とんでもない存在だ。先程試しに鑑定したところ、そのステータスは伝説の名に恥じないものだった。
【レベル】906
【体力】9843
【魔力】9481
【攻撃力】9036
【防御力】9765
【俊敏性】9684
【スキル】
・風魔法 ・火魔法・水魔法・土魔法・氷魔法・雷魔法・神聖魔法・結界魔法・爪斬撃・身体強化・物理攻撃耐性・魔法攻撃耐性・魔力消費軽減・鑑定
【加護】
・女神ニンリルの加護
……なんだこの中二拗らせた成人男性が5分くらいで考えた設定みたいなステータス。これレベルカンスト1000でステータスは9999なのか?
というかなんで『鑑定』持ってるんだ?召喚勇者の特権みたいな話じゃなかったっけ?
「ふむ、美味かったぞ。それにしてもこれっぽっちの量で我を満足させるとは、お主中々やりおるな」
「ど、どうも…」
あれだけあったレッドボアの肉はあっという間に無くなり、そこには満足気に座っているフェンリルと疲労困憊なムコーダさんがいた。
「うむ、お主と契約してやろう」
「……は?」
契約──。ラモンさんから教わった知識の中にあった、従魔契約!
「聞こえなかったのか?我がお主と従魔の契約を結んでやろうと言っているのだ」
ムコーダさん的には、十中八九断るだろう。ただでさえ固有スキルなんてものがあるのに、伝説の魔獣と契約だなんて面倒事待ったナシだ。
「あ、あの、お断り「ぬ?」」
「ですので、おこと「あぁ?」」
こいつ断らせる気無いな?ていうかなんで主になるムコーダさんが下手に出なきゃならんのだ。
「まさかとは思うがお主、風の女神ニンリル様の眷属であるフェンリルたる我の契約を断ろうというのか?そんな大それたことをするような人間では無い様に見えるが…」
「どうなのだ?ん?」
ボクは尻もちをついているムコーダさんの隣に行き、膝を付いた。もちろんただ膝を付いただけ、パワハラ食いしん坊フェンリルに下げる頭なんてボクは持ち合わせていない。
「ムコーダさん、とりあえず受けちゃえば?」
「カ、カエデくん……」
「見た感じ話は通じないけど会話は可能だし、伝説の魔獣なんて入れば面談事は起きるだろうけど…フェンリル程の力の持ち主なら面倒事なんて全部ぶっ飛ばしてくれるんじゃない?」
「ほう……お主か、妙な魔力の出処は」
「はじめまして、フェンリル。ボクはカエデ。ムコーダさんの仲間だよ」
ボクがそう言うと、フェンリルは鼻を鳴らし上から見下ろす。
「ふん、初めてだな。我を見てそこまで不遜な態度を貫く愚か者は」
「愚か者はどっちかな。ムコーダさんの従魔ってことは、実質ボクの下だよ?その程度理解出来る脳みそしてるんでしょ、その辺の魔物とはちょっと違うらしいし」
ボクがそう言うとムコーダさんと鉄の意志のメンバー全員が驚愕する。
「ほう……斬新な遺言だ。墓にはなんと刻む?墓前にて貴様を嗤わねばならんのでな」
「へぇ、墓を作ってくれる上にお墓参りまでしてくれるんだ?ちゃんと頭を下げて住職さんにお願いするんだよ?」
ボクとフェンリルが売り言葉に買い言葉をしていると、ムコーダさんがボク達の間に全身で潜り込んできた。
「わーっ!待った待ったやりますやります!従魔契約!」
「当然だ」
「…ちぇっ」
いけない、つい嫌な事を思い出してフェンリルに喧嘩ふっかけてムコーダさんに迷惑かけちゃった。喧嘩ふっかけるのはさておき、ムコーダさんに迷惑かけるのは気を付けなきゃ…。
フェンリルはムコーダさんを自分の傍に置き、額と額同士をくっつけた。すると眩い光が溢れ、夜中なのに一瞬昼間になったかのようだった。
「これで契約は完了だ。……む?お主鑑定のスキルがあるな、もしや召喚ゆ「わーーっ!?」もごがっなにをする!?」
ボク達の秘密を口走ろうとしたフェンリルをムコーダさんが身体で体当たりして止める。そしてなにやら小声で話しを始めた。多分鑑定スキルの秘匿についてだろう。それにしてもムコーダさんあの巨大に体当たり出来るの凄いな。
「それではステータスを確認してみろ」
ムコーダさんは言われた通り自分のステータスを確認する。ボクも横からそれを見た。そこには、ちゃんとスキル欄に【契約魔獣フェンリル】と書かれていた。
「これで我はお主の契約魔獣となった。そうなったからには主であるお主には、契約魔獣たる我の面倒を見なければならない」
「え?」
「三度の食事、期待しているぞ」
フェンリルはそう言ってふんぞり返った。
「ほらムコーダさん、こいつメシに釣られただけだって。そんなにビビる必要無いよ」
「不敬が過ぎるぞ貴様」
クワッと睨んでくるフェンリルだが、初対面の時の方が万倍怖かった。今はもう腹ぺこ狼にしか見えない。
「まあいい、忘れていたがお主、従魔契約を結んだ証として我に名を付けよ」
「え、えぇ?イキナリ言われても…」
「ポチとコロとシロとわたあめ、どれが良い?」
「貴様には聞いとらんわ、咬み殺すぞ」
ムコーダさんは少し悩んだ後ほど、口を開いた。
「じゃあ、フェンリルだから…【フェル】?」
「うむ……フェル、フェルか。いいな。それでは我は今日からフェルだ」
「フェルト生地…フェルの毛量なら作れそう」
「なにか言ったか貴様」
そこで、すっかり蚊帳の外だったヴェルナーさんがよろめきながら近付いて来た。大丈夫?なんかやつれてない?
「ま、まさかこの目で伝説の魔獣を見る日が来るとは…300年ほど前に目撃したという伝説が残っているが、そのフェンリルと従魔契約を結ぶなんて聞いたこともないぞ…」
「我らフェンリルは数える程度にしかおらんからな。我も1000年ほど生きているが、従魔契約は初めてだ」
「大丈夫?フェル、子孫残せそう?」
「貴様に言われずとも同族から我はモテるに決まっておろうが」
「その謎の自信はなに」
その後、疲労困憊のムコーダさんと鉄の意志のメンバーは先に休み、ボクとフェルは夜通し色々話しをした。と言っても、好みとか戦い方とかの話しだけど。意外と仲良くなれそう、そんな気がした。
◻︎
次の日の昼、ボク達はフェーネン王国への残り僅かな道を歩いていた。
しかし、どうやらヴェルナーさんは浮かないご様子。
「ヴェルナーさん、どうかしたの?」
「いや…もうすぐ国境だが、どうしたものかと思ってな…」
「あー、フェルデカイもんね。フェル、もう少し縮んだら?」
「出来るか戯け」
「大きさの問題じゃない。相手は伝説の魔獣だ、国境警備隊が総出で来るだろう。害意が無いと分かれば引くと思うが…」
「仮に入国出来たとしても、今度は間違いなく国が出てくるだろう。ムコーダさんを囲みにな」
「うわぁ……めんどくさそう」
そういうのホント嫌い、マジで嫌い。嫌でも昔を思い出す。
「心配には及ばん、我と此奴に害するならば滅ぼすのみよ。それが嫌ならば大人しくしていればいいだけのこと。簡単なことだ」
「さっすが伝説の魔獣、頼もしい。でもそれやったらムコーダさんの料理食えなくなるからね」
「何故」
「国は疎か町に入れなくなったらムコーダさんはぜっっったいフェルに料理作んないよ。ね、ムコーダさん?」
「あ、ああ。それはやめてくれ、フェル」
「……チッ、あいわかった、大人しくしといてやろう」
今舌打ちしたぞ伝説の魔獣。
「そんなことより、そろそろメシの時間ではないか?」
フェルの言う通り、丁度お日様もてっぺんに登った頃だ。
ヴェルナーさん達は火の準備を、ボクは今日こそムコーダさんの料理を手伝おうとこっそりムコーダさんの背後に立っていた。
「あーヤバい……どうしよう」
「なにがヤバいの?」
「うわぁっ!?いつからいたの!?」
「さっきから。で、どうかした?」
「フェルが朝ご飯に肉を食いまくったから、もうレッドボアの肉が無いんだよ……」
「あー……朝も生姜焼きだったもんね」
最終手段はネットスーパーだが、肉高いしなぁ、今のボク達収入ゼロだから、下手な出費は禁物だ。
「おい、我は肉を所望するぞ」
「なんか言ってるし伝説の魔獣様…しょうがない、フェル。肉取りに行こう」
「む?そういうことなら貴様の手なぞいらぬが」
ボクは不敵に笑いながら、フェルの背中に乗った。案外すんなり乗らせてくれたことに若干驚きつつも、話しを続ける。
「ボク自身、魔法を覚えてどれくらい戦えるか試したくてさ」
「ハッ、小僧っ子が抜かしよるわ。いいだろう」
「怪我はしないようにね!?」
心配してくれるムコーダさんを他所に、フェルは一気に加速した。思わず振り落とさそうになったがなんとか耐えた。おそらく加減はしてくれているのだろう。だってこいつ俊敏性4桁あるし。
少し走った後、前方にドデカイ鳥……鳥?七面鳥の羽が無い版というか、ドードーの超デカイ版がいた。あ、ドードーってポケ〇ンじゃなくて実在する方のね。
「【ロックバード】か、やつは少々筋肉質だが美味いぞ」
ボクはフェルから飛び降りてロックバードの眼前に立つ。というか立たされた。さすがの大きさにボクは怯んでしまった。
「フェル!こいつの弱点ってなに!?」
「氷魔法が良く効くぞ」
「氷魔法知らねーわ!なんか無いの!?」
フェルは欠伸をしながらその場に座り込んだ。ロックバードの方も、ボクというよりフェンリルを警戒して動けずにいる。
「簡単な氷魔法なら『ブリジストーム』だな。氷嵐を相手に放つ魔法だ」
「オッケー、そこまで言ってくれれば十分」
ボクはロックバードに片手を向けて、人差し指と中指をピストルに見立て構える。無限魔力を集中させ、術式を構築。まあ大体こんなもんでしょ!
「『ブリジストーム』!」
放たれた氷嵐は大小様々な雹も一緒に大風となって吹きすさび、ロックバードをあっという間に覆った。…様に見えたが、すんでのところで回避したのか、氷嵐からロックバードが飛び出してくる。
「まぁ避けるよね」
それを予測していたボクはもう一度魔法を発動。氷嵐で動きが鈍くなっているロックバードにファイヤーボールを放ち、ロックバードの目の前で破裂させて怯ませることに成功した。
そこに再び、ボクは指をロックバードに向けた。
「『ブリジストーム』」
再び放たれた氷嵐はロックバードを完璧に包み込んだ、ブリジストームの音がデカすぎて断末魔すら聞こえない。
「やったか!?」
「何故自ら言うのか」
少しして収まった氷嵐からズタボロになっているロックバードが出てきた。全身が低温火傷に蝕まれており、見るも無残な姿だ。
「……これ、食べれる?」
「まぁ……いけん事はないだろう」
一応アイテムボックスにロックバードの亡骸を仕舞った。その後、フェルが瞬殺した別のロックバードも咥えてムコーダさん達の元へ戻った。
「獲って来たぞ、早く作れ」
「ムコーダさんただいまー」
「そ、そのデカイ鳥なに?」
「ロックバード……!?Bランクの魔物だぞ!?」
「どれくらい強いんですか…?」
「俺達全員が全力で戦って勝てるかどうかってくらいだな…」
引き気味のムコーダさん達の前に、ボクは得意気に前へ躍り出た。
「ふふーん、てことはボクはヴェルナーさん達より強くなれたのかな?」
そう言って、アイテムボックスから先程のロックバードを取り出した。
「な、まさかカエデ殿1人で倒したのか…!?」
「まーね。フェルの助言はあったけどサ」
「それに、どうやら全身に凍傷を負っている様子…氷魔法は教えていないし、渡した魔導書にも書かれていない筈だが…」
「フェルが教えてくれたから、やってみたら出来たよ」
「初見の魔法をその場で術式を構築したというのか!?」
ボクは全力のドヤ顔でロックバードの亡骸に腰掛ける。お尻つめたい。
「はは……本当にとんでもない弟子を持ったものだな」
「またボクなにかやっちゃいました?」
「それはやめよう?」
キラキラエフェクトが付いたドヤ顔もムコーダさんに一蹴されてしまった。かなしみ。
ひとまずロックバードの解体は鉄の意志のみなさんにお願いし、ロックバードは物の見事に売却用と食料用に分けられた。なんでも羽根や嘴が色々使えるらしい。しかしボクのロックバードは損傷が激し過ぎてあまり使える部位が残っていたなかった。
フェルがドヤ顔してきてあまりにウザかったので足を蹴った。全然こっちの足の方がダメージデカかった。
そんなこんなであっという間にムコーダさんの料理は終わり、フェル以外に料理が配られていく。今回のメニューは『ロックバードの照り焼き』とオマケの『オニオンスープ』だ。
「おい、我の分は?」
「フェルは沢山食べるんだから先にみんなの分だよ、すぐ作るから待ってて」
「む、分かった」
「へへーお先にいただきまーす」
「こいつを締めてからでも良いか」
「ダメ」
ボクはまずオニオンスープを1口。うん、やっぱりムコーダさん凝り性だ。インスタントでも良いだろうにちゃんと作ってる。
そしてメインの照り焼きをガブリといただく。うん、皮もパリパリでタレとよく合う。フェルが言ってた通りちょっと筋肉質だけど、それが逆に良いアクセントになってる気がする。
お昼休憩も終わり、ボク達は再び歩みを進める。
ボクはフェルの背中に乗りながらラモンさんから貰った魔導書を読んでいた。因みにフェルタクシーの料金は肉10kgとのこと。高いんだか安いんだか分かんないね。
「見えてきたぞ、あれがフェーネン王国の国境だ」
「フェル?ちゃんと約束守ってよね。じゃなきゃ飯抜きだよ?」
「分かっておるわやかましい」
「ほんと頼むぞフェル?なにかあったら俺の責任なんだからな?」
「本当にやかましいな貴様ら!!」
いざ、フェーネン王国へ。
感想、お待ちしております。